日本東洋医学雑誌
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66 巻, 2 号
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臨床報告
  • 中山 毅
    2015 年 66 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は生殖年齢女性の5-8%に発症し,月経異常や不妊症などの主要な原因の一つである。PCOS の治療は受診年齢や背景,特に挙児希望の有無により異なる。挙児希望のある女性のPCOS に対する治療の第一選択はクロミフェン療法である。ただし抗エストロゲン作用に伴う,子宮内膜の菲薄化や頸管粘液の減少も伴うことや,クロミフェン療法が無効な患者もいる。そこでクロミフェン療法が無効なPCOS 患者に柴苓湯を併用し,排卵周期が回復した6症例を経験した。柴苓湯が有効であった症例の多くは,東洋医学的に瘀血や水滞スコア値が高く,また投与後の血中LH 値,LH/FSH 比が無効群よりも低下した。さらに柴苓湯有効群はテストストロン値もより低下していた。ゴナドトロピン療法や腹腔鏡手術などの第2選択が行われる前に,証に応じて試みる価値があると推察した。
  • 山本 修平, 西森(佐藤) 婦美子, 大前 隆仁, 武原 弘典, 松川 義純
    2015 年 66 巻 2 号 p. 89-92
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    芎帰調血飲は,気血両虚から来る様々な症状,特に出産後に用いられる処方であるが,代表的な補気剤である人参,黄耆は含まれていない。万病回春には様々な加減法の記載があり,人参,黄耆を加える方法も述べられている。 今回,無月経加療中の労作時呼吸困難,全身倦怠感の33歳女性の1例と出産後の全身倦怠感,月経不順,頭痛の39 歳女性の1例を報告する。いずれも気虚の症状が強く前者では芎帰調血飲エキスに補中益気湯エキスを,後者では停飲の所見も伴ったため,芎帰調血飲エキスに六君子湯エキスを併用し短期間で症状改善を得ることができた。芎帰調血飲を使用する際は,気虚の要素が多くみられる場合,補気剤の併用が有効である可能性が示唆された。
  • 寺澤 捷年, 隅越 誠, 來村 昌紀, 小林 亨, 地野 充時
    2015 年 66 巻 2 号 p. 93-98
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    最近,著者らは小建中湯が奏効した小児一次性頭痛の5症例を経験したので文献的考察と共に報告した。5症例に共通した症候は腹診において腹力がやや軟弱で両側の腹直筋が攣急していたことであり,このことを根拠に小建中湯証と診断した。小児の一次性頭痛に小建中湯が有効であったとの報告は過去に1症例のみであったが,我々の今回の報告によって小建中湯が一次性頭痛の治療において考慮されて良い方剤であることを明らかにしたと考える。さらに,片頭痛の関連物質とされている脳内Orexin(オレキシン)と消化管由来のGhrelin(グレリン)との関連について考察し,小建中湯を初めとする諸種の漢方方剤が片頭痛に有効性を発揮する機序について推論した。
  • 矢野 博美, 田原 英一, 田中 祐子, 村上 純滋, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 吉永 亮, 上田 晃三, 土倉 潤一郎, 井上 博喜, ...
    2015 年 66 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    54歳女性。左大腿ヘルニアが,整復不可能となり,外科で1ヵ月後に左大腿ヘルニア根治術を受けたが,イレウスのため入退院を2度繰り返した。小腸壁の浮腫はあるが,諸検査で器質的な閉塞機転を認めなかった。しかし腹痛が持続するため,当科に転科した。腹痛のために食事が摂れず47kg から37.5kg まで減少したので中心静脈栄養管理を行った。陣痛のような激しい腹痛により額に冷汗を認め,倦怠感のため臥床がちであった。皮膚は枯燥し,脈候は浮,大,弱,濇であった。腹候は腹力弱で,下腹部優位の腹直筋緊張を認め,腹壁から腸の蠕動が観察された。附子粳米湯で治療を開始したが無効で,腸管の蠕動が腹壁から見えることから大建中湯,皮膚枯燥と腹直筋の緊張を認めることから当帰建中湯の証があると考え,中建中湯加当帰に転方したところ,転方5日目から腹痛は消失した。大腿ヘルニア術後の偽性腸閉塞症に漢方治療が有効で試験開腹を免れた。
  • 磯部 哲也
    2015 年 66 巻 2 号 p. 107-111
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    多のう胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome : PCOS)は日常診療において月経不順や不妊を訴えて受診する患者の多くが有する病態である。著者はPCOS 症例に対して1週間に1回の頻度で独自の鍼治療を施して約60%の有効率を認めたが,1週間に1回の施術では卵胞の発育を認めなかった3症例に対して1週間に2回の施術を行なってその有効性を検討した。3症例ともに施術なしでは卵胞の発育を認めず,1週間に2回の頻度で施術することによって3症例の全施術周期のうち86.7%(13/15)で卵胞の発育が認められた。約4日おきに平均4~5回の施術をすることによって平均月経周期18.7日目で卵胞が成熟することがわかった。今回,週一回から週二回のパターン取穴浅刺鍼療法に変更して3週間以内に卵胞の発育を認めたPCOS の3症例を報告した。
  • 韓 哲舜, 平崎 能郎, 岡本 英輝, 植田 圭吾, 八木 明男, 島田 博文, 王子 剛, 永嶺 宏一, 並木 隆雄
    2015 年 66 巻 2 号 p. 112-118
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    71歳女性。腰部脊柱管狭窄症の診断の下,長引く腰痛に対して神経・椎間板ブロックや投薬治療が行われていたが改善しないため,漢方治療目的に当科を受診した。身体所見では腰痛の他に頑固な便秘とこむら返り,間欠的な胸痛ならびに全身の強い冷えを認めた。また漢方的所見として強い瘀血と血虚を認めた。当帰四逆加呉茱萸生美湯エキスや通導散エキスにて加療するも改善が得られず入院加療となった。慢性的な瘀血と血虚に対して血府逐瘀湯加減,また間欠的な胸痛に対して烏頭赤石脂丸料をほぼ同時期に開始した所,冷えと腰痛の改善が得られた。本症例は慢性的な冷えと瘀血,血虚を改善する事で血行が促進されたため,冷えと腰痛の改善が得られた可能性が示唆された。
  • 植田 圭吾, 八木 明男, 王子 剛, 韓 哲舜, 岡本 英輝, 平崎 能郎, 並木 隆雄
    2015 年 66 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    腸膣瘻は膣からの排ガス,排便,会陰部のびらんや膣炎などをきたす病態である。腸膣瘻に漢方治療が有効であった症例を経験したので報告する。
    症例は62歳女性。潰瘍性大腸炎(UC)に対して大腸亜全摘術,回腸嚢肛門管吻合術を施行された。その後腸膣瘻によると考えられる膣からのガス・便排出を生じ,残存直腸におけるUC 再燃を考慮した内科的治療で軽快した。この7年後に同様の症状を生じたが,同様の内科的治療は効果なく回腸嚢炎はあるものの瘻孔が同定されないなどの理由のため手術による閉鎖の適応もなかった。内科的治療の継続による症状の軽快はなく漢方治療を行うこととなった。胃風湯加黄耆の投与で若干の改善がみられたが,五苓散料に転方したところ症状の消失を得た。
    五苓散による腸膣瘻の治験例は近年見られないため貴重な症例と考えた。また,今回のように西洋医学的な治療が難しい腸膣瘻に対し,漢方治療は試みる価値があると考えた。
  • 坂本 篤彦, 栗山 一道, 木下 義晃, 日高 孝子, 貝沼 茂三郎
    2015 年 66 巻 2 号 p. 124-130
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    症例は肺小細胞癌に併発した低ナトリウム血症(低Na 血症)の74歳男性。化学療法中に水制限下でも低Na 血症が悪化し,悪心嘔吐のため食塩内服も困難であった。水分貯留の病態,ならびに口渇・小便不利を伴う水毒を目標に,五苓散エキス7.5g/日を投与したところ,低Na 血症が改善した。その後,癌性疼痛に対してシクロオキシゲナーゼ2選択性阻害薬であるメロキシカムを五苓散に併用して投与したところ,低Na 血症が悪化し,メロキシカム中止にて改善した。既存の報告を考慮すると,五苓散による低Na 血症の改善機序として,プロスタグランジン産生促進を介した,抗利尿ホルモンによる腎集合管での水再吸収抑制が示唆された。
  • 伊関 千書, 鈴木 雅雄, 古田 大河, 佐橋 佳郎, 鈴木 朋子, 金子 明代, 上野 孝治, 三潴 忠道
    2015 年 66 巻 2 号 p. 131-139
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    症例は45歳女性で,X-2年4月より全身性疼痛,発熱,倦怠感,冷え,下痢,食欲不振,めまい,頭痛,不眠などを発症し,X-1年5月に当センターにて線維筋痛症と診断された。X 年5月に入院時,慢性疲労症候群も合併していると診断された。手の少陰経と太陽経に発汗と血管攣縮を伴う疼痛発作が毎日出現しており,複合局所疼痛症候群(CRPS)と診断された。通脈四逆湯(乾姜9g,甘草4g,烏頭6g)を処方後,ほとんどの症状の軽減がみられ,CRPS 発作には大烏頭煎(烏頭1g,蜂蜜10g)の頓服が有効であった。鍼灸治療では,心気血両虚証と心庳証に対し,神門,内関,三陰交,太衝,足三里,陰陵泉,心兪,肩中兪,風池へ配穴し低周波鍼通電治療(1~4Hz)を併用し,手の少陰経と少陽経へは子午流注経絡弁証も用いたところCRPS 発作頻度が減少した。湯液と鍼灸の併用は,難治性の疼痛症候群合併症例に有効であった。
調査報告
  • ─モグサ製造業者へのアンケート調査─
    松本 毅, 形井 秀一
    2015 年 66 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    日本では,他の国にはない,精製度の高いモグサが作られている。しかし,近年,中国産ヨモギが輸入され,それを原料とした製品も販売されているが,それらの現状は,詳しく報告されていない。そこで,日本国内のモグサ製造,加工,国内卸業を行っている14社に対して,2011年11月16日に郵送で,製造の現状と問題点など15領域29項目について,アンケート調査を実施した。その結果,有効回答は,14社中12社(85.7%)で,仕入れについては,ヨモギの葉が,国内産88t,外国産45t,モグサが,国内産13t,外国産50t だった。製造時期は,11月下旬から3月下旬頃までであった。製造用機器は,石臼,長通し,唐箕などで,多くは職人により手作りで製作されていた。今回の調査では,ヨモギやモグサの納入や輸出に関する事柄,製造や製造機器に関する現状,また,製造業者の抱えている問題点や今後の展望などについて検討することができた。
  • ―戦前期 経絡治療における理論の体系化と臨床の具体化―
    周防 一平
    2015 年 66 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    岡部素道は昭和の日本鍼灸界における第一人者であった。その功績は,経絡治療の樹立,GHQ 旋風時のGHQ との直接交渉,北里研究所東洋医学総合研究所設立への貢献など数知れない。そこで筆者は昭和鍼灸史の見直しを目的とし,戦前における岡部の治療方法とその成立過程についての調査を行うこととした。岡部晩年の内弟子であった相澤良氏に対する岡部本人の談話の聞き取り調査,岡部最初の論文「古典に於ける補瀉論に就て」を中心とした岡部の著作,論文等の調査を行ったところ以下のことが判明した。
    戦前の岡部の治療は,晩年の比較脈診による69難本治法とは異なり,六部定位による脈位脈状診に基づき診断を行い,単刺による一経補瀉を行っていた。
    現在一般にいわれている昭和14年(1939)3月3日の新人弥生会結成が経絡治療の始まりではなく,昭和11年(1936)の段階で経絡治療の理論・臨床体系が出来上がっていた。
  • 渥美 聡孝, 上原 直子, 河崎 亮一, 大塚 功, 垣内 信子
    2015 年 66 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    漢方薬は医師の7割以上が日常的に処方しており,日本の医療の中で重要な要素となっているが,薬学の分野における漢方教育は確立の途上である。薬学生の漢方に対する認識を把握し,卒後も自主学習できる実践的な漢方教育のあり方を考えるため,本学薬学生を対象にアンケート調査を行った。その結果,漢方に関心のある学生は80.8%,大学で漢方を勉強する価値があると答えた学生は91.1%であり,学生は漢方に対して高い関心を持っていた。しかし漢方を「患者に紹介する自信はない(60.2%)」という,関心の高さに反して漢方の知識が身についていないことも明らかとなった。自由回答からは,1~4年までは生薬に実際に触れる体験型の講義を,5~6年生は症例検討会や西洋薬との薬物相互作用などの臨床に関する講義を希望していることが明らかとなった。変化する学生の興味を認識し,授業を行うことで,学生の学習意欲を向上させることができると考えられた。
フリーコミュニケーション
  • 伊藤 亜希, 宗形 佳織, 今津 嘉宏, 渡辺 賢治
    2015 年 66 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/12
    ジャーナル フリー
    がん診療連携拠点病院の医師を中心に漢方医学の実態を調査した。医師900名のうち92.4%が漢方薬を処方しており,がん患者に対しても73.4%の医師が漢方薬を処方していた。しかし,漢方医学を学習したことのある医師は28.7%であった。一方,漢方医学を学習する意志のない医師は43.8%であった。年代別にみても各年代とも4割以上の医師が漢方医学を学習する意志がないことが分かった。がん患者に対する漢方薬の期待度は「期待する」「どちらともいえない」「期待しない」がそれぞれ3割ずつおり意見が分かれた。しかし,学習実態で比較すると,漢方医学の学習経験のある医師の方が漢方薬への期待度が大きく,予防医学に対しても効果があるとしていた。この差は患者にとって不利益になると考えられ,早急に漢方医学を学習できる環境を整えるとともに,漢方専門医とがん診療に従事する医師が連携できるようなシステム作りが必要と考える。
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