日本東洋医学雑誌
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64 巻, 2 号
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総説
  • 寺林 進
    2013 年 64 巻 2 号 p. 67-77
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    生薬の基原は,生薬の品質確保において最も重要な項目の一つである。本稿では生薬の薬用部位,特にそのラテン語表記,基原植物の学名に関する課題について考察した。
    『日本薬局方』の生薬のラテン語表記には議論の余地を残すものがある。例えば,麦門冬は根なのでOphiopogo nis Tuber ではなくOphiopogonis Radix とすべきである。日本薬局方収載生薬の基原植物の学名表記は分類学で用いているものとは異なる場合がある。その違いがわかるように比較対照を示した。生薬の流通品の調査にもとづいて,『第十六改正日本薬局方』に基原植物を追加収載した生薬の例を示した。また,日中薬局方での基原に関して異なる例を示した。
原著
  • 本田 豊, 砂川 正隆, 米山 早苗, 池本 英志, 中西 孝子, 岩波 弘明, 須賀 大樹, 石川 慎太郎, 石野 尚吾, 久光 正
    2013 年 64 巻 2 号 p. 78-85
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    抑肝散は,神経症,不眠症,小児の夜泣き,小児疳症など虚弱体質で神経高ぶるものの症状などに適用されている。近年,頭痛や神経障害性疼痛などの疼痛性疾患に対する有効性も報告されているが,これらの作用機序は十分に解明されてはいない。本研究では,アジュバント関節炎(AA)モデルラットを作製し,慢性炎症性疼痛ならびに疼痛に伴うストレスに対する有効性を検証した。AA モデルラットでは,疼痛閾値の低下と精神的ストレスマーカーの1つである唾液中クロモグラニンA(CgA)濃度の上昇がみられたが,抑肝散の投与により,慢性痛の発現に関与する脊髄ミクログリアの活性化が抑制され,疼痛閾値の低下が有意に抑制された。また,唾液中 CgA 濃度の上昇も有意に抑制された。これらの結果より,抑肝散の慢性炎症性疼痛ならびに疼痛に伴うストレスに対する有効性が示唆された。
  • 猪 健志, 小田口 浩, 若杉 安希乃, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2013 年 64 巻 2 号 p. 86-92
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    耳鳴は現代医学ではしばしば治療に難渋する。漢方薬の有効例の報告がいくつかあり,漢方薬が耳鳴の治療法として期待される。今回我々は,慢性耳鳴患者に対する漢方随証治療の有用性についてカルテを後ろ向きに検討した。対象は331例(男性114例,女性217例)であり,平均年齢は57.8歳であった。耳鳴に対する有効率は38.4%であり,随伴症状(めまい,不眠,頭痛等)に対する効果も含めると有効率は64.6%であった。半夏厚朴湯が最も多く処方されており,耳鳴に対する有効率は32.1%であった。また,釣藤鈎を加味することで有意に有効率が高くなった(p < 0.05, Fisher's exact test)。釣藤鈎は,その効能や現代薬理作用から考えて,耳鳴に有効である可能性がある。対象の84%が当院受診前に治療を受けており,前治療に効果のない難治例が多かったと考えると,漢方治療は相当程度有効である可能性がある。
臨床報告
  • 木村 容子, 佐藤 弘
    2013 年 64 巻 2 号 p. 93-98
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    異なる症状・疾患に対して,同じ漢方薬を使用して経過が良好であった母娘患者の異病同治と考えられる3組の症例を経験したので報告する。症例1は,胃癌と大腸癌術後の体力低下を主訴とした母と片頭痛と更年期障害を訴える娘に加味逍遙散を中心とした処方を投与した症例である。症例2は,月経不順の母と手湿疹の娘に半夏厚朴湯を使用した症例である。症例3は,腰痛の母と背中の痛みを訴える娘に桂枝加竜骨牡蛎湯を処方した症例である。これら3処方(加味逍遙散,半夏厚朴湯,桂枝加竜骨牡蛎湯)は,いずれも「気」の巡りを整える処方である。
    女性に対する漢方治療では,「気」の巡りを整えることが大切である場合が多い。また,親子間では,遺伝素因に基づく体質を考慮すると,異病同治が起こりうる可能性が高いことが推測された。主訴の背後にある漢方医学的な病態(証)が重要であり,今回は母娘といった同性の親子関係から遺伝的体質の関与が示唆された。
  • 八木 宏, 西尾 浩二郎, 佐藤 両, 小堀 善友, 芦沢 好夫, 宋 成浩, 新井 学, 岡田 弘, 土佐 寛順
    2013 年 64 巻 2 号 p. 99-103
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    抗コリン剤抵抗性の過活動膀胱に八味地黄丸およびその加味方を処方した11症例を対象として,治療前後のIPSS,QOL スコア,影響度スコア,UFM,尿中8-OHdG を調査して補腎剤のQOL,排尿機能,酸化ストレスに与える改善効果を評価した。結果はUFM 以外の評価項目において統計学的に有意に改善した。本研究では抗コリン剤に抵抗性を示す過活動膀胱に対して,補腎剤と行動療法が排尿症状,QOL を短期間の評価ながら改善する事を示した。今後,補腎剤の長期投与の治療効果を排尿障害治療薬,ならびに抗加齢薬としての側面から評価する必要が有ると考えられた。
  • 中江 啓晴, 熊谷 由紀絵, 小菅 孝明
    2013 年 64 巻 2 号 p. 104-107
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー型認知症は認知症の半数を占め,認知機能障害が徐々に進行する。半夏白朮天麻湯をアルツハイマー型認知症患者に投与し,その有効性を検討したので報告する。対象はアルツハイマー型認知症患者72例。初診時に全例に改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)を実施した。同日から半夏白朮天麻湯エキスの内服を開始し,4週間後にHDS-R で再評価を行なった。評価可能であった患者は72例中64例であった。64例の内訳は年齢79.9±6.0歳(63-89歳),性別は男性33例,女性31例であった。半夏白朮天麻湯エキス投与前のHDS-R は15.5±5.2点であり,投与4週間後のHDS-R は16.9±6.2点と有意に改善を認めた(p < 0.01)。家族の目から見て認知機能が改善したものは13例(20.3%)であった。半夏白朮天麻湯のアルツハイマー型認知症の認知機能障害に対する有効性が示唆された。
  • 川鍋 伊晃, 及川 哲郎, 志村 秀樹, 花輪 壽彦
    2013 年 64 巻 2 号 p. 108-114
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    今回我々は,抗パーキンソン病薬であるレボドパ・カルビドパ配合剤による治療経過中に,レボドパ誘発性の幻覚の訴えおよびレボドパの薬効時間の短縮に伴う運動症状の日内変動(wearing-off 現象)を認めた2例のパーキンソン病症例に対し,レボドパ・カルビドパ配合剤の内服治療と並行して漢方随証治療として抑肝散料を投与した。その後,幻覚の訴えの消失と共に,wearing-off現象も顕著に改善し,西洋薬と漢方薬の併用治療が患者QOL (quality of life) の改善に有効であった。抑肝散は,レボドパ誘発性の精神症状を改善させるのみならず,レボドパによる治療効果を高め運動合併症を改善させる可能性が示唆された。
  • 桒谷 圭二, 貝沼 茂三郎, 久保田 正樹, 古庄 憲浩
    2013 年 64 巻 2 号 p. 115-118
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/13
    ジャーナル フリー
    肺非結核性抗酸菌症は,西洋医学的治療に抵抗を示す難治性の呼吸器疾患である。今回Mycobacterium avium complex を起炎菌とする肺非結核性抗酸菌症の繰り返す血痰に炙甘草湯と薏苡仁の併用が有効であった症例を経験した。症例は86歳女性。X-4年6月発症の肺非定型抗酸菌症にて呼吸器科で治療中,血痰を繰り返し,その都度止血剤にて対処されていた。X 年春頃から血痰悪化。呼吸器科にて止血剤投与されるも改善しないため当院受診。他の内服薬を変更することなく炙甘草湯と薏苡仁の投与により血痰は速やかに消失した。これまで炙甘草湯は,不整脈や心臓神経症など循環器疾患に頻用されているが,呼吸器疾患への報告は少ない。しかし古典にも呼吸器疾患への使用の記載があり,特に脈結代を伴っている呼吸器疾患にはもっと広く使用される方剤ではないかと考えられた。
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