日本東洋医学雑誌
Online ISSN : 1882-756X
Print ISSN : 0287-4857
ISSN-L : 0287-4857
70 巻, 1 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
原著
  • 溝井 令一, 植田 真一郎, 田中 耕一郎, 千葉 浩輝, 奈良 和彦, 山元 敏正
    原稿種別: 原著
    2019 年 70 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    神経変性疾患の連続74例について気血水スコアを用い気虚,気鬱,気逆,血虚,瘀血,水滞の有無(証の病態6項目)を評価し,同年代のその他神経疾患の連続149例を比較対照として比較検討した。年齢,性別,重症度も共変量とした多変量解析の結果,神経変性疾患ではその他の神経疾患と比較して血虚,水滞,気鬱の順で関連性が高く,調整済みオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ3.02(1.43-6.48),2.37(1.13-5.11),2.33(1.01-5.44)だった。神経変性疾患と最も関連性が高い証は血虚であった。四物湯類(四物湯加減)の処方を考慮することは,患者の苦痛軽減に寄与できる可能性がある。自覚症状に加え脈候,舌候,腹候など東洋医学的な尺度を用いた治療効果の判定が必要である。

基礎報告
  • 大野 泰一郎, 永田 豊, 長坂 和彦
    原稿種別: 基礎報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 8-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    煎じ薬を保管中に生じる生薬の色調変化は,服薬コンプライアンスを妨げる要因の一つとなる。滑石を含む煎じ薬に五苓散料を合方した後に,滑石が鮮やかな青色(鮮青色)を呈した例を経験し,気密容器を用いた原因生薬検討とTLC による成分分析を実施した。
    その結果,桂皮と白朮共存下,滑石は数時間で鮮青色を呈し,この呈色には,桂皮・白朮・滑石の3生薬に由来するcinnamaldehyde とatractylon,ケイ酸アルミニウムが関与していた。
    今回確認された桂皮と白朮共存下における滑石の鮮青色への呈色は,発色が顕著で数時間で生じる鋭敏な反応であり,服薬コンプライアンス維持の観点から,桂皮・白朮・滑石を含む煎じ薬投薬時には,滑石の呈色について患者に十分に説明し,呈色を避けるには滑石を別包とし他生薬と隔離保管,煎じる際に混合する方法が有効と考えられた。

臨床報告
  • 西川 仁, 高山 真, 菊地 章子, 沼田 健裕, 池野 由佳, 金子 聡一郎, 神谷 哲治, 有田 龍太郎, 齊藤 奈津美, 大澤 稔, ...
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    耳鼻咽喉科領域の症状を主訴に紹介された症例の背景と漢方治療経過を明らかにする目的で,2013年4月から2016年3月までに,東北大学病院漢方内科へ紹介され治療を行った全39症例を後ろ向きに検討した。漢方治療を行い自覚症状が改善したのは28例で全体の71%であった。治療対象となった主な自覚症状は,舌痛(7例),後鼻漏(4例),口腔内異常感(4例),めまい(3例),味覚異常(3例),咽喉頭異常感(3例)等であった。治療方針の一助とした気血津液弁証では,気滞の証を伴う症例における自覚症状改善が18例中15例で最も高かった。改善例の効果発現時期から漢方治療の効果は6週間程度で判断できる可能性が高いと考えた。不変例の検討では,うつ病 ・家庭内での重大なストレス事項が治療無効の要因の一つとして挙げられた。本研究から,難渋する耳鼻咽喉科領域の症状に対し,漢方治療は一定の効果を期待できることが示唆された。

  • 福田 功, 中田 英之, 石山 ひなこ, 小菅 孝明
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    インスリン療法中(SII : subcutaneous insulin infusion)の患者への漢方治療では,甘草の副作用である偽アルドステロン症の発症には注意を要するとされているが具体的な臨床報告は少ない。今回,桃核承気湯にて偽アルドステロン症を呈したので報告する。
    51歳女性。主訴は肩こり。10年前よりSII 療法(施行)中。
    便秘の合併があり桃核承気湯7.5g/日開始したが症状改善しないため,3日目より同方剤10g/日とした所,頭痛,全身倦怠感,顔面と上下肢の浮腫,体重増加,血圧上昇,尿量と回数の低下を認めた。偽アルドステロン症と診断,同日にて投薬を中止し症状は改善。
    SII 患者はグリチルリチンによりK+排泄が促進され,一方インスリンによりK+が細胞内に取込まれるため低K+血症をきたし,偽アルドステロン症が発症し易いと考えられた。SII 患者への甘草含有製剤の処方では注意が必要である。

  • 村井 政史, 堀 雄, 森 康明, 古明地 克英, 八重樫 稔, 今井 純生, 大塚 吉則, 本間 行彦
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    症例1は72歳男性で,重たいものを持ち上げるなどの重労働を約半年間行い,全身に痛みを自覚するようになった。肩の凝りと痛みが著明なことから葛根湯を,瘀血が存在すると考え桂枝茯苓丸料を合方して治療を開始した。 尿の出が悪化し麻黄の副作用と考え減量し,治療効果を高める目的で蒼朮と附子を加味したところ,体の痛みはほぼ消失した。
    症例2は53歳男性で,頚椎捻挫受傷や外科的手術歴があり,全身に痛みを自覚するようになった。左右の胸脇苦満が著明なことから大柴胡湯を,瘀血が存在すると考え桂枝茯苓丸料を合方して治療を開始した。便が出過ぎて日常生活に支障を来すため大黄を減量し,肩凝りが著明なことから葛根を加味したところ,体の痛みは消失した。
    線維筋痛症は治療に難渋することが多いが,煎じ薬ならではのさじ加減により,副作用を軽減し治療効果を発揮させることができた。

  • 福嶋 裕造, 藤田 良介, 上野 力敏, 山下 和彦, 内海 康生, 清水 知己, 戸田 稔子, 大森 あさみ
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    当院では整形外科領域の炎症を伴った症例について霊仙除痛飲の方意で越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯を併用して治療を行っている。代表症例を提示して原文による文献的考察を行った。また,整形外科疾患に於いて非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs : non-steroidal anti-inflammatory drugs) が使用しにくいまたは無効であった症例に対しても同処方は有効であり,文献的考察を加えて報告する。

  • 上田 晃三, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 権藤 寿昭, 吉永 亮, 土倉 潤一郎, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 42-46
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    症例は13歳男児,小学5年生頃より発熱頻度が増え,中学2年生になり毎月発熱・腹痛・嘔吐を生じ,1~2週間に1度は学校を早退・欠席するようになった。近医にて種々の漢方エキス製剤の処方を受けたが症状が改善しなかったため,当科を紹介された。茯苓四逆湯や小建中湯にて全身倦怠感の軽減は得られたが,発熱は抑制できなかった。「百合病,変じて発熱」と捉えて百合滑石散料を開始したところ,発熱を認めなくなった。金匱要略・百合狐惑陰陽毒病篇では,傷寒の治療の後に壊病として発病するものの論治を述べている。小児期,特に思春期は二次性徴を含めた急激な体の変化による体調不良を生じやすく,さらにその病態が成長と成熟に伴い修飾されるため,一見すると陰陽虚実が錯雑とし,治療の手がかりが得がたいことがある。本症例のように,思春期の体調不良の中には壊病と同様の病態を自ら呈し,百合病となっている症例が隠れているものと考えられる。

  • 佐藤 佳浩
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    慢性膿皮症は難治性の化膿性皮膚疾患である。症例は20歳男性。当院受診の6ヵ月前に頭部慢性膿皮症を発症し,頭皮に3cm 大の膿瘍と脱毛を生じた。皮膚科にて穿刺排膿や抗生剤の内服,テトラサイクリンの局注療法を繰り返し行うも改善せず,病変が頭部や顔面に多発してきたため漢方治療目的に当院を受診した。腹診にて腹皮拘急と腹壁過敏が著明であるため小建中湯証と診断し,標治薬として排膿散及湯も併用して治療を行ったところ,内服後徐々に症状が改善しはじめ,数ヵ月の経過で頭部,顔面の病変が完全治癒し,以後も再発なく現在に至っている。 慢性膿皮症に小建中湯を投与した報告例は見当たらず,証に従って治療すれば漢方薬は有効な治療手段になると思われた。

  • 谷村 史子
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    「欲求南風,須開北牖」(南風を求めんとすれば,須く北牖を開くべし)は,便通改善により嘔吐を含む身体上部の症候を治す「下を通じて上を治す」法として知られる漢方の箴言である。今回,慢性便秘症を合併した末梢性めまい症例で,めまいと便通の改善が相関した症例を報告する。症例は69歳女性の良性発作性頭位めまい症で,桃核承気湯エキス剤単独投与にてめまいと便秘症状が同時に消失した。本箴言は呉又可著『温疫論』を典拠とし,朱丹溪が提示した提壺掲蓋法の「上を通じて下を治す」法の原理も含むと考えられる治療理論である。末梢性めまい症においては末梢前庭の評価に止まらず,上焦から下焦に至る病態に留意した全身的観点からの治療が必要である。

  • 川原 隆道, 千葉 浩輝, 高橋 浩子, 奈良 和彦, 田中 耕一郎, 阿多 智之, 橋冨 裕, 堂前 洋
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    心不全に対する西洋医学的治療のエビデンスは確立されつつあるが,慢性腎臓病(CKD)合併心不全患者の治療に関してのエビデンスは確立されていない。このような CKD 合併心不全患者に対して標準治療への漢方薬の追加治療の安全性と有用性は明らかにされていない。今回,当院において過去2年間に,標準治療の効果が不十分であり五苓散7.5g/日を追加投与したstageⅢ以上の CKD 合併心不全患者20名を後ろ向きに検討した。11名で,息切れや浮腫などの症状,胸部レントゲンでのうっ血や胸水は改善し,血清 BNP も低下し心不全の改善を認め,腎機能,血漿浸透圧の悪化は認めず,臨床的に問題となる電解質悪化も認めなかった。 CKD 合併心不全患者に対する標準治療に加えた五苓散投与は安全かつ有用である可能性が示唆された。

調査報告
  • —当院での5年間の患者調査—
    古田 誠
    原稿種別: 調査報告
    2019 年 70 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    “めまい”は日常よく遭遇する疾患の一つである。当院での5年間の診療で漢方治療が効果的であった“めまい”症例40例につき検討を行い,その代表4例の報告と検討結果を提示する。
    “浮動性めまい”で女性の割合が多く,35%は7日以内,50%は14日以内に改善をみた。
    苓桂朮甘湯(45%)・真武湯(55%)を含む処方が多く,単独処方だけでなく陰陽錯雑のため併用処方も必要であった。
    神経学的異常はないが“浮動性めまい”を訴えるような治療に難渋する症例であっても漢方医学によって速やかに症状改善できるものがあると考えられた。

短報
  • 地野 充時, 辻 正徳, 八木 明男, 寺澤 捷年
    原稿種別: 短報
    2019 年 70 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル フリー

    高齢社会に伴い,臨床現場においてはポリファーマシーが問題となっている。今まで漢方薬は西洋薬によるポリファーマシーに有用であるという報告はあったが,今回,漢方薬がポリファーマシーの原因となるということが明らかとなった。一人の患者が複数の医療機関で漢方薬を処方される「漢方薬ポリファーマシー」が,我が国の医療現場で実際に起きている。漢方薬の適正使用という観点から,「漢方薬ポリファーマシー」の現状を把握した上で,漢方薬に関わる医療関係者や業界関係者が早急に対策を講じる必要があると考えられた。

論説
feedback
Top