日本東洋医学雑誌
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68 巻, 2 号
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原著
  • 柳澤 貴子
    2017 年 68 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    背景:四逆散は芍薬,枳実,甘草,柴胡4つの生薬からなる漢方薬で胆嚢炎,胃炎,不安神経症や不眠症に対して効果を示す。
    方法:主要組織適合抗原完全不一致マウス心臓移植モデルを使い四逆散の移植免疫効果を検討した。C57BL/6マウス心臓を移植されたCBA マウスに四逆散や各構成生薬を7日目まで投与し,移植心の病理評価やサイトカイン分析,フローサイトメーター分析を行った。
    結果:無治療群CBA レシピエントはC57BL/6マウスの心臓を生存中間値(MST)7日で拒絶した。四逆散投与群のMST は22.5日で生着延長効果を認め,各構成生薬(芍薬,枳実,甘草,柴胡)のMSTは11,9.5,18.5,8 日となった。フローサイトメトリーでは,四逆散投与群のCD4 CD25 Foxp3 細胞の比率が増加した。
    結論:四逆散は主要組織適合抗原完全不一致マウス心臓移植片に対する拒絶反応を抑制し,免疫制御細胞の比率を増加させた。

臨床報告
  • 中山 毅, 西原 富次郎, 深田 せり乃
    2017 年 68 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    食欲不振や嘔吐の症状を伴った妊娠悪阻の患者を対象とし,六君子湯による悪阻への治療の可能性についての後方視的検討を行った。方法は,北川らの提唱するEmesis index(EI)を用い,小半夏加茯苓湯内服,メトクロプラミドを投与した群を比較対照とした。すべての群において,内服後のEI 合計値の低下を認めたが,特に六君子湯群7日後のEI 合計値が,他群より有意に低下していた。また項目別の検討では,六君子湯群における悪心,嘔吐,食欲低下のスコア値が,小半夏加茯苓湯,メトクロプラミド投与群と比較し有意に低値であった。六君子湯が妊娠悪阻に対して,小半夏加茯苓湯やメトクロプラミド投与と同等に効果があり,特に悪心嘔吐や食欲低下といった症状の強い妊娠悪阻を軽快させる可能性が示唆された。また奏功しない症例の多くは気滞スコアが高い傾向にあり,随証療法の必要性,ならびに理気剤への変方を考慮することが必要であろう。

  • 山本 昇伯, 大田 静香, 薗田 将樹, 高田 敦子, 香取 理絵, 伊藤 隆
    2017 年 68 巻 2 号 p. 111-116
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    便秘は高齢者の主訴の中でも最も多い症状で,治療に苦慮する場合がある。大建中湯のイレウス症状に対する効果は知られているが,大建中湯の効果の乏しかった症例に厚朴生姜半夏人参甘草湯が有効であったので報告する。 症例は81歳の女性で,大腿骨骨折の保存的加療目的で入院中であった。もともと便秘傾向であったが増悪したため,下部内視鏡検査,腹部CT などを行ったが器質的病変は指摘されなかった。大建中湯を投与したところ一時的に改善したが,食事を再開すると腹痛,腹満が再燃した。そこで厚朴生姜半夏人参甘草湯を投与したところ,消化器症状の再燃なく復食ができ,便秘も改善した。8日目より人参湯と半夏厚朴湯二エキス剤併用としたが経過は良好で17日後転院となった。虚証のイレウスには大建中湯だけでなく,厚朴生姜半夏人参甘草湯の使用が検討されるべきであり,簡便方として人参湯,半夏厚朴湯の組合せに効果が期待される。

  • 山本 昇伯, 薗田 将樹, 大田 静香, 高田 敦子, 菅生 昌高, 伊藤 隆
    2017 年 68 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    後期高齢者の心不全2症例に真武湯を投与した。症例1は84歳の男性。重症大動脈弁狭窄症と肝細胞癌を有した例で,心不全の充分な改善がえられず,増悪による入院を繰り返してきたが,真武湯投与後,胸水の減少,心胸郭比の縮小を認めることができた。症例2は84歳の男性で肺癌手術後,心不全と誤嚥性肺炎で入院し,心不全状態が回復しえなかった。投与後,尿量の増加とともに心不全の改善を認めた。2例とも真武湯による副作用は認めなかった。真武湯は甘草を含まないことが利水作用を発揮するポイントであり,他の補剤との安易な併用は控えるべきである。後期高齢者の心不全の終末期医療において重要な役割を担う薬剤と考えられた。

  • —大建中湯の適正使用と副作用に対する適切な対応について—
    糸賀 知子, 千葉 浩輝, 高橋 浩子, 奈良 和彦, 田中 耕一郎
    2017 年 68 巻 2 号 p. 123-126
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    54歳介護士 26歳,29歳時腹式帝王切開術,31歳時左卵巣嚢腫に対し,腹式左付属器切除術,41歳時,子宮筋腫に対し,腹式単純子宮全摘術の既往がある。腹式単純子宮全摘術後より,腸閉塞による入退院を繰り返しており,約10年間大建中湯を内服していた。X 年5月,大建中湯を内服しても便秘,腹痛が改善せず,首から上の熱感が出現したため来院。舌診では,舌は淡紅色,黄苔,裂紋を認め,舌下静脈は怒張していた。診察所見より,瘀血証,熱証と考え,桂枝茯苓丸2.5g/日を開始し,内服1週間後には症状の改善を認めた。昨今,大建中湯はイレウスに対して広く使用されているが,長期投与することによって,熱症をきたすということはほとんど知られていない。 漢方を処方する医師に対し,病名処方一辺倒になることに警告を鳴らし,一定の東洋医学的な知識の習得の重要性や副作用を未然に防ぐための注意喚起していく必要があると考えた。

  • 鈴木 朋子, 斎藤 拓朗, 添田 暢俊, 金子 明代, 伊関 千書, 佐橋 佳郎, 小宮 ひろみ, 鈴木 雅雄, 古田 大河, 三潴 忠道
    2017 年 68 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    腹壁—小腸瘻に対し,肛門疾患の処方として有名な乙字湯を使用し瘻孔閉鎖に至った症例を経験した。症例は81 歳女性。12年前に虚血によるS 状結腸穿孔で腹膜炎を起こし他院で緊急手術を受けた。術直後から腹壁—小腸瘻を発症し2年後小腸瘻を切除,メッシュによる腹壁補強を行った。8年後メッシュ感染による腹膜炎を発症,以後頻回にイレウスを繰り返していた。当院転院後外科的に腹腔内ドレナージ,メッシュ除去術などの局所手術を繰り返したが創傷治癒が進まず漢方治療が開始された。約1年間帰耆建中湯加附子を継続し,瘻孔は1ヵ所に限局されたが腸液の漏出を止めることはできなかった。その後随証治療を通じ乙字湯の合方次いで乙字湯単方に切り替え瘻孔閉鎖に至った。乙字湯の構成生薬のうち当帰による抗炎症作用,升麻による升提作用などが瘻孔閉鎖に寄与したものと示唆され,乙字湯は腹壁—小腸瘻に対しても考慮すべき方剤と考えられた。

  • 越田 全彦, 山崎 武俊
    2017 年 68 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は特記すべき既往のない19歳男子大学生。16歳の時に明らかな誘因なく1日に10回以上嘔吐を繰り返し,経口摂取不能のため近医入院の上,点滴加療を受けた。発作間欠期にはほぼ無症状だが,以後年に2~3回,激しい嘔吐のために1週間程度入院するようになった。その都度精査を受けたが,脱水を認めるのみで他に明らかな異常を認めなかった。19歳を過ぎた頃より毎月入院するようになったため,精査目的に当院紹介受診となった。西洋医学的には特記すべき異常を認めず,周期性嘔吐症候群と診断した。漢方医学的には,気鬱・気逆と診断した。半夏厚朴湯を処方したところ,自覚症状は著明に改善し,内服開始から半年が経過したが嘔吐発作は出現していない。 気鬱・気逆を伴う強い嘔吐症状を半夏厚朴湯が予防する可能性があり,機能性消化管障害に対する漢方薬の有効性が示唆された。

  • 福原 慎也, 千福 貞博
    2017 年 68 巻 2 号 p. 140-147
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    血液透析患者は末梢動脈疾患を高率に合併し,重症虚血肢に至ると著しく予後は不良である。重症虚血肢の長期間の治療により気血両虚や瘀血の病態を認めることがある。今回,重症虚血肢の下肢切断後の難治性皮膚潰瘍に対して,十全大補湯と桂枝茯苓丸の併用治療が奏功した3症例を経験した。症例1は68歳男性。右第2,3,5趾潰瘍を認め,第3趾は切断。両方剤を開始後,良質な肉芽形成を認めた。症例2は67歳男性。左足底の骨髄炎のため,左第4,5趾広範囲切断。切断部の皮膚潰瘍が治癒せず,両方剤を開始後に良質な肉芽形成を認めた。症例3は76 歳男性。左足趾潰瘍から広範囲感染が併発し左下腿大切断。切断部の肉芽不良であったが,両方剤を開始後に良質な肉芽形成を認めた。重症虚血肢の外科治療後には速やかなADL の改善が望ましく,西洋治療に適切な漢方治療を重ねることにより,難治性の慢性創傷を治癒させる有効性が示唆された。

  • 米満 亨
    2017 年 68 巻 2 号 p. 148-151
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    81歳の女性,打撲後の左季肋部痛が2ヵ月続いたが,西洋医学的には局所に異常所見を認めなかった。肋間神経ブロックによって軽減したが残存する痛みに対して,東洋医学的に陽明病期,瘀血と判断し,打撲と腰痛をキーワードに治打撲一方合疎経活血湯を投与した。投与後17日目から2日続けて黒色便あり,それを契機に残存する左季肋部痛が緩和した。駆瘀血剤投与の著効例では黒色便とともに病変の劇的改善を認めることがある。

  • 地野 充時, 辻 正徳, 隅越 誠, 小林 亨, 山本 昇伯, 寺澤 捷年
    2017 年 68 巻 2 号 p. 152-156
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    中建中湯は便秘に使用されることが多いと報告されている方剤である。今回,下痢,軟便に有効であった症例を経験した。有効5症例のうち,便秘を呈さなかった症例は4例であった。中建中湯は下痢・軟便症例にも有効であり,便秘に拘る必要はない。有効例においては,(1)腹鳴・腹満,(2)腹直筋攣急,(3)冷え,が多く認められ,これらの臨床症状が本方を処方する時の目標になりうると考えられた。

調査報告
  • 佐藤 泉, 間宮 敬子, 加藤 育民, 島野 敏司, 大滝 康一, 粟屋 敏雄, 田﨑 嘉一, 国沢 卓之, 岩崎 寛
    2017 年 68 巻 2 号 p. 157-164
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    地域医療の現場では地域の特性に合わせた診療が必要である。北海道の東部に位置する根釧地域には高齢者が多く,医療機関が少ないため総合的な診療が求められる。複数の疾患を抱えることが多い高齢者には漢方診療が有用であり,需要が高まっている。そこで我々は根釧地域にある地域中核病院である町立中標津病院での平成22年度から25年度における漢方製剤の処方状況を調べた。さらに根釧地域の中核都市である釧路市の釧路赤十字病院,北海道の中心に位置する旭川市の旭川医科大学病院でも同様の調査を行い,地域や病院の規模による違いを比較した。 処方の需要が多い漢方薬の使用法に習熟することは地域医療の遂行において有用であると思われる。地域医療の現場においては診療に携わる医師の処方傾向が与える影響は大きく,今後どのような形で漢方教育を行っていくかが大きな課題である。

短報
論説
  • —医学思想の観点から—
    舘野 正美
    2017 年 68 巻 2 号 p. 168-178
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    恵美三白(1707-1781),吉益東洞と並ぶ,広島出身の古医方の一方の雄である。三白と言えば,即,峻剤の使い手,と思われがちであるが,それは決して真の姿ではないように思われる。上記の如き誤解は,偏に三白の医学思想についての研究の不足によるものであると思われる。そこで小稿は,この恵美三白の医術と医論を伝えるとされる『恵美君医事談』・『恵美寧固先生遺言』・『恵美先生医方略説』・『吐方私録』の4書の内容を分析し,その医術と医論を概観し,以てその医学思想の本質を解明してゆこうとするものである。
    検討の結果,三白が,その〈親試実験〉の積み重ねに基づく的確な判断によって,時に穏当な処方を用い,また時に峻剤のみよる吐方や下方を処していたことが明らかとなった。三白はその正確な見立てによって,用いるべき時に“峻剤”を果断に用いていただけのことだったのである。三白は“見える”人だったのである。

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