日本東洋医学雑誌
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58 巻, 4 号
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特別シンポジウム
学会シンポジウム
第19回伝統医学臨床セミナー
教育講演・基礎漢方講座
  • 三谷 和男
    2007 年 58 巻 4 号 p. 673-685
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    漢方医学の四診は「望・聞・問・切」であり, 舌診は「望診」の中核をなす。「望」という文字は人の跂立遠視の象形であり, 「古ク霊気ヲ望ンデソノ妖祥ヲミル」が本来の義とされる (白川静・字統より)。つまり「分析」的な見方ではなく, あくまで「全体を大づかみにする」という発想で行わねばならない。患者が診察室に入った瞬間から診療は始まり, その上で「大づかみ」ができるかがカギとなる。聴診器を創作したランネック (1781-1826) が「医学はすべて観察からはじまる」と述べているが, 「望診」のもつ意味は更に深い。舌診は, 神・色・形・態に分けて観察するが, この「神」は「神気」であり, 患者の全身状態を総合的にまとめ, 疾病の予後, 軽重を推察する上で意義がある。黄帝内経・霊枢に「神ヲ得ルモノハ昌ヘ, 神ヲ失フ者ハ亡ブ」とあるように, 神気を把握することは最も重要である。このように, 舌は, 病状の進展, 病態の陰陽・虚実, 気血水のバランスを反映すると考えられるが, 一方では重篤な疾病があるにもかかわらず所見にはそれほどの変化がなかったり, 健常人でも先天的な変化をみることができる。つまり, 局所の所見のみにとらわれず, 舌質や舌苔の変化を, 全身的な病態の部分現象や随伴症状として総合的にみることが前提である。
  • 千福 貞博
    2007 年 58 巻 4 号 p. 687-697
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    私は, 普通の外科医でした。ところが, 約8年前から漢方薬を非常によく使うようになっています。そこで, はじめに, 私がどのようにして漢方を学び, 漢方の技量を修練していったかを話したいと思います。この部分では, 私のおもしろい経歴や性格, 私の好きな本, 漢方の名人 (講師) を紹介します。それから, 私の経験から漢方の特性を明らかにし, 漢方治療の要点をお示しします。最後に日常の漢方治療における私の心がけを話します。
  • 長坂 和彦
    2007 年 58 巻 4 号 p. 699-704
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    二千年以上にわたり漢方が永続し得たのは, 「漢方は効く」この一点に尽きる。二千年前の薬が効くのは, 人の体が二千年前とほとんど変わらないからである。一説には400万年の間, 人はほとんど進化していないという。しかし, 我々を取り巻く環境は著しく変化し, アレルギー疾患のような新たな証を引き起こす要因となっている。
    日本漢方は証を決定する上で, 傷寒論・金匱要略を重視している。それ以外の考えを排除する, あるいは傷寒論・金匱要略に収載されている薬方以外は用いない, という行き過ぎと思われる意見もある。しかし, 証を決定する上で根底を成す傷寒論・金匱要略は時代より変化しているのではないかと思う。
    傷寒論は林億らの宋改を経ている。金匱要略はまだしも, 傷寒論は宋改を経ていない医心方や太平聖恵方と異なっている点も多い。我々は, 張仲景が書いた傷寒論・金匱要略を重視するといいながら, 実は, 林億らが書き換えた, あるいは, それ以前に書き換えられていた傷寒論に基づいて証を決定している可能性が高い。ここで注意してほしいのは, 書き換えたことがいけないということではない。むしろ, 宋板傷寒論は現代によりマッチしていると思っている。
    我々は, 古いスタイルから脱皮することを恐れてはならない。漢方医学は四診をことのほか重視する, といわれているが, これは単に漢方医学が成立した時点で四診くらいしか情報を得る手段がなかったからである。現在の医療機器の進歩にはめざましいものがある。白血球やCRPが上昇している場合は, 闘病反応が強いので実の反応と捉えることも可能である。我々は, 有用であるものは可能な限り取り入れ治療に当たるべきである。これは, 傷寒論の序文にある, 「博采衆方」という考えに合致すると信ずる。
  • 後山 尚久
    2007 年 58 巻 4 号 p. 705-708
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    漢方医学は複雑系科学に立脚しており, 八綱, 気血水, 五臓六腑, 三陰三陽などの概念や病態把握アプローチにより「病」そのものを総合的に解析して個別的な治療を施す。これに対し, 西洋医学は線系科学を基本とし, 正常値の設定による異常病態の診断と診断基準による病気の一般化をはかり, 標準医療を行う。2つの医療体系は, ひとりの人間の持つ病気を診断し治療するにもかかわらず, 別の方向性からの対応となる。
    現代的な漢方医療の実践には, 西洋医学の患者情報を無視することは不可能であり, むしろ積極的にそれらを漢方医療に取り込み, 融合させながらより良き医療体系を構築する必要がある。
    東西融合医療の概念とその下位分類, あるいはメリットに関して症例の提示を含めて解説し, 漢方医学の将来像を検討する。
  • ―コンテクストからみた漢方理論―
    喜多 敏明
    2007 年 58 巻 4 号 p. 709-721
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    漢方医学の「基本的概念」および「理論的枠組み」について, 生命科学における最新の知見を活用しながら, “コンテクスト” をキーワードに解説することで, 漢方医学の「普遍的理解」にむけての取り組みの一助とする。
    気血水とは, 細胞の環境 (=コンテクスト) を構成する3要素であり, 生命活動 (代謝や情報の流れ) を維持・活性化する働きを担っている。気血水のこの働きにより, 生体の機能と構造が正常に営まれる。
    五臓には, 細胞の環境を維持する器官としての側面だけでなく, 器官の活動を制御する高次制御システムとしての側面もある。高次制御システムとしての五臓は, 全体の場の状況 (=コンテクスト) を形成することによって各器官の生命活動を統合的に制御する。
    病者の生命活動 (=闘病様式) は, 自然の経過や治療的介入によって時々刻々と変化する。『傷寒論』は, 闘病様式の変化を六病位という文脈 (=コンテクスト) で記述し, そのバリエーションに即した治療方剤の選択を指示している。
    西洋医学との連携および中医学との対話といった国際的な視野に立ったとき, 漢方医学の基本的概念および理論的枠組みについての普遍的理解にむけての取り組みによって, 漢方医学を誰にでも理解できるように説明していくことこそが, 21世紀に漢方医療を行っている我々に課された使命である。
臨床報告
  • 関矢 信康, 林 克美, 檜山 幸孝, 並木 隆雄, 笠原 裕司, 地野 充時, 大野 賢二, 喜多 敏明, 平崎 能郎, 寺澤 捷年
    2007 年 58 巻 4 号 p. 723-728
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    漢方治療が奏効した蕁麻疹の4症例を経験した。内容はコリン性蕁麻疹2例, 慢性特発性蕁麻疹1例, 寒冷蕁麻疹1例であった。悪化要因として, 第1例は義父の介護と子宮摘出術のストレス, 第2例は家庭内の問題での精神的ストレス, 第3例はパニック障害樣のエピソード, 第4例は家族に対する心配・不安を指摘できた。皮膚症状を改善する上での有効方剤は, それぞれ桂枝茯苓丸, 半夏厚朴湯, 抑肝散加陳皮半夏, 加味逍遙散であった。これらの処方の選択を行う際に, 皮膚症状に関与する心理的背景を聞きだし得たことが大いに役立った。心理的背景について繰り返し丁寧に問診を行うことは, 蕁麻疹難治例の治療において有用であると考えられた。
  • 河野 雅洋
    2007 年 58 巻 4 号 p. 729-734
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    当帰芍薬散が著効した絨毛膜下血腫の2症例を経験した。2例とも妊娠第2三半期おいて絨毛膜下血腫による性器出血がみられた症例である。当帰芍薬散を投与したところ, 投与後1週以内に性器出血はみられなくなった。絨毛膜下血腫も投与後2週以内には消失し, 妊娠39週で2470gおよび3324gの児を経腟分娩した。漢方学的所見では2例ともお血, 水滞および四肢の冷えを認めた。絨毛膜下血腫の存在は妊娠転帰に悪影響を及ぼす可能性があり, 何らかの対策が必要であると思われるが, 現在までのところ西洋医学において有効な治療法は確立されていない。今回の2症例では当帰芍薬散が著効したことから, 絨毛膜下血腫の治療法として当帰芍薬散も有効な選択肢の一つになり得るものと考えられた。
  • 久永 明人, 水島 豊
    2007 年 58 巻 4 号 p. 735-739
    発行日: 2007/07/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    われわれは, 左胸部から心窩部の圧迫感に対し, 抗うつ薬や抗不安薬が無効で真武湯が著効した身体表現性自律神経機能不全の87歳女性を経験した。本例では, 腹力きわめて軟弱, 両側胸脇苦満, 臍上悸などの腹候が認められたため, 柴胡桂枝乾姜湯を処方したが十分な効果が得られなかった。そこで, 脈候は浮弱であったが, 臥床傾向, 四肢の冷え, 下痢傾向などの所見から少陰病とみて真武湯を選択したところ, 胸部圧迫感をはじめ諸症状が著明に改善した。本例における胸部圧迫感は, 気逆によって生じたものではなく, 水滞によって2次的に起こった気鬱が原因で, 真武湯投与後に水滞が改善した結果, 気鬱も消退したものと解釈された。胸部症状を主訴とする身体表現性障害に対して真武湯が投与されることは稀であるが, 真武湯が著効する症例のあることが示された。また, 必ずしも沈脈や腹直筋の緊張などの所見が認められなくても真武湯証とみなしてよい例のあることが示唆された。
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