日本東洋医学雑誌
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73 巻, 3 号
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総説
  • 高山 真, 松田 隆秀, 矢数 芳英, 新井 信, 並木 隆雄, 小川 恵子, 佐藤 寿一, 石上 友章, 伊藤 剛, 三潴 忠道
    原稿種別: 総説
    2022 年 73 巻 3 号 p. 247-262
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    2021年8月に開催された第71回日本東洋医学会学術総会で漢方医学教育に焦点をあてた特別企画,「次世代に継ぐ卒前卒後漢方医学教育」を行った。Faculty Development を目的に日本漢方医学教育協議会(協議会)の協力を得て行った,漢方共通模擬講義について総括し報告する。模擬講義は協議会が定めた「漢方医学卒前教育の基盤カリキュラム2016」に準拠し,協議会が作成したモデルスライドを用いて行った。「漢方医学の歴史」,「漢方医学の基礎理論」,「漢方医学の診察」,「代表的な漢方薬の構成と効果,代表的な生薬の効果,副作用」,「漢方の有用性と有効であった臨床例」,「鍼灸治療概説」について計240分程度で事前収録し Web 配信した。本模擬講義には計1,017回の視聴があった。学術総会における漢方共通模擬講義は本学会初の全国的教育活動の取り組みであった。

  • 小田口 浩, 砂川 正隆, 秋葉 秀一郎, 伊藤 剛, 鈴木 雅雄, 高山 真, 三潴 忠道
    原稿種別: 総説
    2022 年 73 巻 3 号 p. 263-278
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    2021年8月に開催された第71回日本東洋医学会学術総会で漢方医学教育に焦点をあてた特別企画,「次世代に継ぐ卒前卒後漢方医学教育」を行った。本企画の一つとし行った各教育施設の漢方実習について総括して報告する。漢方実習として「四診」,「生薬および湯液煎じ」,「鍼灸」について計5演題の説明入り動画を事前収録し,冒頭の説明を含め計200分のコンテンツを学会期間中に Web にて動画配信した。本漢方実習の配信においては全国の医学生,教育者,学会員により,計501回の視聴があった。日本東洋医学会学術総会における漢方実習の動画配信は本学会初の全国的教育活動の取り組みであった。

臨床報告
  • 福嶋 裕造, 藤田 良介, 平 憲吉郎, 東儀 洋, 三橋 牧
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 279-283
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    手根管症候群は整形外科領域では一般的な疾患である。西洋医学的に薬物治療や外固定などの保存的治療や,手術的治療が行われる。漢方医学的治療についての症例もすでに報告されている。今回,手根管症候群に対して桂枝湯を投与して有効であった。症例は,80歳女性であり,右手の痺れ感があったため当院を受診し,手根管症候群と診断された。同日に桂枝湯を投与して7日後の受診日には症状が軽快して14日後には消失した。手根管症候群に対して桂枝湯が有効であったという報告は渉猟しえなかった。今回の手根管症候群の症状は営衛不和の症状であると考えられ,桂枝湯が有効であったと考えられた。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 284-287
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    原因不明のめまいの中には,睡眠障害が関与する例もあると考えられる1)2)。今回我々は,桂枝加竜骨牡蛎湯を用い,睡眠障害とともにめまいが改善した2例を経験した。症例1は67歳女性。4年前から回転性めまい発作を繰り返しており,発作に対する不安が強くて寝つきも悪く,発作間欠期にもふらつくようなめまいを自覚していた。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ,4週後には不安が消失し熟眠できるようになった。10週後にはふらつきも消失し,17週で廃薬とした。症例2は38歳女性。3ヵ月前に職場内での異動があり,気を遣うことが多く疲弊していた。2ヵ月前より夜の寝つきが悪く,くらくらするようなめまいも出現し,徐々に増悪してきた。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ,2週後には熟眠できるようになった。6週後にはめまいは消失し,10週後に廃薬とした。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 288-292
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    拍動性耳鳴では器質的疾患の存在を疑う必要がある。原因が特定されれば多くは治療可能だが,原因が特定できない特発性に対しては確立された治療法がない。今回我々は,特発性拍動性耳鳴に対して漢方薬が奏効した2例を経験した。症例1は50歳男性。半年前から職場の役職変更に伴いストレスを抱え,1ヵ月前から左拍動性耳鳴が出現した。柴胡加竜骨牡蠣湯を投与し,1週間で耳鳴は消失した。症例2は30歳女性。4ヵ月前に出産し,産後は睡眠が少なく疲労とストレスがたまっていた。1ヵ月前から右拍動性耳鳴とめまいが出現した。女神散を投与し,2ヵ月で耳鳴もめまいも消失した。

    2例に共通して,気逆の症状として顔ののぼせを自覚しており,漢方治療により拍動性耳鳴とともに改善した。 気逆に伴い頭部の血流が増加し,頭部血管の相対的狭窄を生じ,血管内腔で乱流を生じて拍動性耳鳴を聴取した可能性を考える。

  • 吉田 実
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 293-296
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性。主訴は肉眼的血尿。近医にて特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対し,シクロフォスファミド50mg/day 投与中,肉眼的血尿が続くため,当科紹介受診。膀胱鏡にて膀胱内に粘膜不整あり,膀胱癌の疑いで経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)施行。病理結果は polypoid cyst で出血性膀胱炎と診断した。2ヵ月後より再び血尿出現,猪苓湯合四物湯および柴苓湯を投与したがいずれも無効だった。漢方所見から気虚・血虚,および ITP を考慮し,加味帰脾湯を投与すると,約1ヵ月で肉眼的血尿は消失,尿沈査も RBC1-4/HPF と正常となった。1年後の膀胱鏡でも膀胱腫瘍を疑い,再度 TUR-BT を行ったが,病理結果は Inflammatory change であった。以後44ヵ月の観察期間に加味帰脾湯を継続し,肉眼的血尿は見られなかった。

  • 陣内 厚子, 木村 容子
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 297-302
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    疲れやすい(易疲労感)という主訴に対し半夏厚朴湯が奏功した3症例を経験した。症例1は44歳女性で仕事の多忙から疲労感を長期に感じていた。十全大補湯が無効で腹満や心下痞鞕の所見から半夏厚朴湯を処方し,症状が軽快した。症例2は13歳女性で海外から日本へ引っ越し後から疲労感が生じ,不安感や動悸,心下痞鞕も認め半夏厚朴湯を処方し症状が軽快した。症例3は18歳女性で大学入学後に勉学の苦痛から疲労感を認め,不安感や腹満,心下痞鞕があり半夏厚朴湯を処方し疲労感は改善した。

    症例2と3では明らかなストレス要因があり,気鬱を強く疑った。症例1は明らかなストレスを訴えないものの,十全大補湯のような気虚を改善できる処方が無効で,仕事中の腹満など気鬱を疑う所見を認めた。“疲れやすい”といった症状には補気剤を使用する頻度が高いが,半夏厚朴湯のような理気剤が奏功することもある。患者の精神状態や環境要因に着目することも大切である。

  • 天野 雅夫
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 303-307
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    感染症後の精神症状に対して,竹筎温胆湯が有効だった2症例を報告した。

    症例1は普通感冒に罹患後のうつ状態で,洋薬による標治に反応せず,漢方薬による本治法で治癒に至った。症例2はインフルエンザに罹患後のせん妄で,温胆湯類が著効した。

    うつ病の病因論に炎症性神経障害仮説があり,脳内炎症に対して NSAIDS の臨床応用を検討した報告もあるが,まだ創薬は端緒についたばかりである。一方,漢方薬の構成生薬には抗炎症作用が認められており,本症例が治癒に至った要因の一つと考えられた。

    新型コロナウイルス感染症(COVID—19)に罹患後の精神症状に対しても,本方剤が鑑別処方の一つとなる可能性が示唆された。

  • 松下 浩子, 谷川 聖明
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    片側あるいは両側の間代および強直類似発作を時に伴う意識消失発作を繰り返したが,心因性非てんかん性発作と診断,四逆散と半夏白朮天麻湯が奏功した一例を経験した。発作間欠期には腹直筋攣急や胸脇苦満を認めなかった一方,発作時には,腹診不可能だったものの,四肢が末梢まで非常に冷たく,硬くなっており,屈曲して硬くなっている手関節,足関節をあたためてほぐしたあと,数時間かけて徐々に意識障害が回復していた。意識消失発作間欠期には頻回の頭痛もみられた。発作間欠期であるベースに気虚,気鬱,水滞,気逆があり,発作時には非常に強い気鬱,気逆があると考えられた。異なる病位を併せ持つ本症例で,四逆散と半夏白朮天麻湯の併用が有用であったと考えられた。

  • 西村 甲, 服部 孝雄, 村井 克昌, 玉田 耕一, 羽根 靖之
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 316-320
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    全般性不安障害,全身過緊張を呈し,肝気滞と考えられたが,肝気疎通とともに脾腎温陽を行い軽快した症例を経験した。症例は67歳女性,子宮がんで手術が施行され,術後放射線照射を受けた。以後イレウス発症のため大建中湯が投与されたが,年に数回再発を繰り返した。一方で,家庭内でストレスが増強した。抗不安薬が投与され一定の効果があったが,漢方治療を希望した。当初,肝気滞,肝血虚と診断して抑肝散加陳皮半夏を投与したが,効果が不明確であった。脾胃虚寒の合併として安中散を投与することで,徐々に種々の症状が改善し,抗不安薬,大建中湯を終了することができた。7年後に漸減し,9年後に投薬を終了し,その後再発はない。本症例では,潜在する強度の裏寒のため温裏も十分行う必要があり,安中散が有効であったと考えられる。安中散は胃痛が主な適応症状とされるが,気滞と裏寒を主目標として治療する場合には考慮されるべき方剤といえる。

  • 谷口 大吾, 戸城 えりこ
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 321-324
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    高齢者の変形性膝関節症に対して,大防風湯加味が有効だった症例を経験したので報告する。症例は84歳女性で右膝痛に対して複数の病院でさまざまな薬剤を試したが,効果不十分であったため漢方治療を希望して受診した。全身的には気虚を認めず,局所には関節腫脹と軽度熱感を認め,単純X 線では膝内側の関節裂隙狭小化,骨棘形成,骨硬化像など重度の変形性膝関節症の所見を認めた。疎経活血湯や八味丸を使用したが,効果が得られなかった。大防風湯エキスがある程度有効であったため,煎じ薬に変更し,生薬量を増量することにより十分な効果が得られた。大防風湯は気虚に対する作用を有し,滑膜炎が軽度の関節リウマチに頻用される処方である。高齢者の変形性膝関節症にも有効であり,両疾患は共通する病態がある。

  • 呉 明美, 小川 恵子
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 325-330
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    「のどになにかがひっかかっている感じ」という咽喉頭違和感を訴えて耳鼻咽喉科を受診する患者は少なくない。 真性咽喉頭異常感症は,西洋医学的には異常がなく,抗不安薬を処方されることもある。漢方医学的には,気鬱による梅核気や咽中炙臠として,半夏厚朴湯が処方されることが多い。今回,我々は半夏厚朴湯が無効であった咽喉頭異常感症の2症例に対して,医療用漢方エキス製剤の苓桂朮甘湯と呉茱萸湯の併用は奔豚湯(肘後方)に茯苓,朮,大棗を加え,半夏を去ったものであるが,心下の飲と気逆から起こる奔豚気と捉え,奔豚湯(肘後方)の方意で投与したところ奏効したので報告する。

  • 溝部 宏毅, 大畑 光彦, 青木 優子
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 331-334
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し,治癒した後にも,呼吸困難や胸痛,関節痛を訴える患者が多くみられる。今回,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患後,2ヵ月以上たっても後遺症として呼吸困難と胸痛が改善しない61歳の男性に対して柴朴湯を投与した。投与後3週間で,ほぼすべての症状が消失したので報告する。

  • 吉永 亮, 原田 直之, 牧 俊允, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に著明な全身倦怠感を訴えた患者に対して漢方治療を行い職場復帰できた1例を経験した。症例は21歳男性。X 年8月上旬,COVID-19と診断され8日間,経過観察のため入院した。1ヵ月後,日常生活が困難なほどの著明な全身倦怠感が持続し,冷え,浮動感,集中力の低下などを伴い9月上旬から入院して漢方治療を行った。強い冷えと全身倦怠感に対して茯苓四逆湯を開始,入院2週目から水毒と血虚に対して連珠飲へ転方した。全身倦怠感,浮動感が改善傾向で3週間で退院した。10月中旬,胃もたれと抑うつが出現したため,加味帰脾湯合半夏厚朴湯へ転方し,八味丸20丸を追加した。11月には4.5km の散歩ができて,QOL が改善し12月から職場復帰できた。全身倦怠感,ブレインフォグなどをきたす COVID-19罹患後症状に対して漢方治療は積極的に試みるべきである。

短報
  • 原田 佳尚, 齋田 瑞恵, 福井 由希子, 鈴木 麻衣, 田所 芽生子, 小林 弘幸
    原稿種別: 短報
    2022 年 73 巻 3 号 p. 342-346
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症後遺症(Long COVID)の脱毛に人参養栄湯が有効であった2例を経験した。症例1は45歳女性で,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)中等症IIで入院加療し,退院2ヵ月後から脱毛を認めた。 症例2は50歳女性で,COVID-19軽症で自宅療養の約2ヵ月後から脱毛を認めた。いずれの症例も内服開始後1ヵ月で脱毛の進行が止まり,2ヵ月目には短い毛も生え始めた。また脱毛による気分の落ち込みも症状改善とともに軽快した。脱毛は血虚と考えられるが,Long COVID に悩まされる患者は気虚でもある。気血両虚に対する補剤である人参養栄湯を,毛髪脱落の口訣を参考に用いたところ,症状改善が得られたものと思われた。

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