日本東洋医学雑誌
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69 巻 , 2 号
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原著
  • 王 宝禮, 早坂 奈美, 山口 康代, 王 龍三
    2018 年 69 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    排膿散及湯の歯周炎に対する有効性の確認を目的として,ラット口腔内の右側下顎第一臼歯部の歯肉にカラゲニンの処置により歯周炎を惹起させ,排膿散及湯2900mg/kg を10日間経口投与し,歯周炎に対する排膿散及湯の抗炎症作用の効果を検討した。歯周炎に及ぼす効果について,写真撮影による歯肉の状態の経過観察,最終投与後に摘出した炎症部位の病理標本による病理組織学的分析により評価した。その結果,排膿散及湯は,歯肉の腫脹を抑制すると共に,病理組織学的分析において歯周ポケットが浅くなり,上皮層糜爛改善,上皮突起の伸張,炎症細胞の減少,歯根膜の成熟を確認できた。さらに,好中球数の減少,血管数の増加傾向,破骨細胞数の減少傾向を確認した。また,ポケット接合上皮に生じた上皮脚の伸長とポケット上皮の根尖側への側方増殖が軽減した。以上の結果より,排膿散及湯が歯周炎に対して抗炎症作用を有する可能性が示唆された。

臨床報告
  • 玉野 雅裕, 加藤 士郎, 岡村 麻子, 星野 朝文, 高橋 晶
    2018 年 69 巻 2 号 p. 127-132
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    慢性呼吸器疾患を有する高齢者は繰り返す呼吸苦により,多大なストレスを受けており,そのため不安感,不眠を基礎に胃腸機能障害を併発しやすい。更に低栄養,免疫力低下が進行し,入退院を繰り返し,著しいQOL の低下,更には認知症の発症,進行を来す症例が多くみられる。今回,全身衰弱化した高齢の陳旧性肺結核患者に,人参養栄湯合香蘇散を投与することにより,食欲が回復,身体活動性が向上,認知症が改善し,呼吸器感染による再入院を回避し得た症例を経験した。人参養栄湯の参耆剤としての効果に,遠志,五味子の鎮静,安神作用,更に香蘇散の理気作用が適切に働き,自律神経を安定化させたことが,著効を得た要因と考えられる。今後,激増する高齢慢性呼吸器疾患症例に対する本処方の有用性が期待される。

  • 山本 篤志, 福永 智栄, 新沢 敦, 堀江 延和, 米谷 さおり, 長濱 通子, 藤原 進, 山田 陽三, 福永 淳, 錦織 千佳子
    2018 年 69 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    ステロイド忌避を含む難治性のアトピー性皮膚炎(AD)患者で顔面に皮疹を有する12名を対象に,白虎加人参湯エキスに石膏末を加味した方剤を4週間投与し,AD 診療ガイドラインに基づく皮疹の重症度スコア,痒みVAS,生活の質(Quality of life)の指標であるSkindex-16および各種血液検査を行い,有効性を前向きに評価した。 また,どのような証(漢方医学的に把握した病態)に有効かを後ろ向きに調査した。
    その結果,内服4週間で重症度スコアとSkindex-16の平均が有意に低下した。好酸球数,IgE 抗体,TARC 値は有意な低下を認めなかった。白虎加人参湯と同様で「暑がり」,「汗かき」の証を有する患者に有効であった。4週間という短期間で皮疹が改善したことより,ステロイド忌避を含む難治性アトピー性皮膚炎患者に使用する内服薬の選択肢の1つになりえると考えた。

  • 原田 佳尚, 松村 耕三, 新井 一
    2018 年 69 巻 2 号 p. 140-144
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    症例は60歳女性。左前頭葉の転移性脳腫瘍に対してガンマナイフ治療が施行された患者である。3ヵ月後に腫瘍および周辺浮腫が増大に転じ経過から放射線脳壊死と判断された。ステロイド内服を増量するも改善なく6ヵ月間は増悪傾向が続いた。経過中にbevacizumab 投与が検討されたが増悪が止まったため経過観察となり,1年以上経過するも画像および症状の改善はなかった。改めて治療方針を再検討すべくMethionine-PET を施行したが集積なく,放射線脳壊死の確定診断でステロイド治療が継続となった。漢方治療を併用することとし,柴苓湯9g 分3/日を追加したところ,9ヵ月後の頭部MRI で脳浮腫の改善が確認された。柴苓湯は放射線脳壊死による脳浮腫改善の一助となる可能性が示された。

  • 石田 和之, 佐藤 弘
    2018 年 69 巻 2 号 p. 145-149
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    半夏白朮天麻湯が奏功したpainful trigeminal neuropathy の1例を報告した。症例は76歳女性。脳底動脈の大型脳動脈瘤のため脳幹が圧排され,難治性の顔面痛を呈していた。鎮痛薬としてgabapentin(GPT と略す)がある程度有効であったが,GPT 増量によりふらつきが悪化し,歩行困難となるため,増量は困難であった。GPT に半夏白朮天麻湯を併用した結果,ふらつきが軽減するとともに顔面痛も緩和し,GPT を減量することができた。原典の脾胃論では,半夏白朮天麻湯は誤治による脾胃の障害に続発した頭痛やふらつきに有効な方剤と記載されている。今日,多くの薬剤に副作用のふらつきがあり,これら薬剤の副作用軽減目的で半夏白朮天麻湯は有用と考えられた。

  • 沢井 かおり, 渡辺 賢治
    2018 年 69 巻 2 号 p. 150-154
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    当帰湯は虚寒証の胸腹部痛に用いられる処方である。今回,疼痛以外の胸部症状に当帰湯を用いたところ,症状が軽快するとともに気力体力が増強した症例を経験した。
    症例1は81歳男性,虚寒証の胸部絞扼感に対して当帰湯を用いたところ,胸部絞扼感が著明に軽快するとともに,気力が強くなり,しばらくできなかった農作業ができるようになった。症例2は77歳男性,虚寒証の動悸に対して当帰湯を用いたところ,動悸が著明に軽快するとともに,力強くなる気がして,心配していた立ち仕事も続行できた。
    本二症例の主訴は疼痛ではなかったが,虚寒証の胸部症状が軽快するとともに気力体力増強効果があった。当帰湯は参耆剤で,補中益気湯の祖型のひとつともいわれ,補気剤としても重要な処方である。当帰湯は,痛みにこだわらず,胸部症状のある虚寒証に,補気剤として広く応用される可能性が示唆された。

  • 薗田 将樹, 山本 昇伯, 髙田 敦子, 菊地 学, 田宮 大介, 遠藤 良二, 伊藤 隆
    2018 年 69 巻 2 号 p. 155-160
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    東洋医学的治療が有効であったうつ病の3症例を報告する。3症例とも同一職場(全17名)の職員。症例1は46 歳男性,勤続20年。主訴は抑うつ,不眠。症例2は28歳女性。勤続9年。主訴は嘔気,気分不良。症例3は41歳男性,勤続15年。主訴は焦燥感,不眠,抑うつ。3症例に対して抑肝散および抑肝散加陳皮半夏で加療し,症状の改善がみられた。今回,処方選択において3症例が同一の職場環境であることを考慮した。抑肝散には母子同服という服用法が伝えられている。また,精神神経分野にて情動伝染(Emotional Contagion)という情動の共有システムがHoffman(1984)により提唱されている。総合的に考えると母子同服は情動伝染を考慮した経験的治療法であり、同一職場のような同じコミュニティ内でも応用可能と考察した。本症例のように,同一職場内の情動伝染を考慮した職場内同服は有用である可能性がある。

  • 角藤 裕, 清水 元気, 山岡 傳一郎
    2018 年 69 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    持続する吃逆は患者のQuality of Life を大きく損なうため速やかな治療が求められるが,時に治療に難渋する。 当院では,吃逆の治療に柿蔕湯を日常的に用いており効果を実感しているがその有効率についてのデータは無いままであった。
    そこで2014年2月1日~2016年2月28日までの25ヵ月間に,吃逆を主訴として当院漢方内科を受診し,第一選択薬として柿蔕湯が処方された患者について,カルテを後方視的に調査し検討した。対象患者は27名(女性3名),年齢65.4±15.1歳(24~89歳)であった。対象者の59.3%で奏効し,症状軽快例を含め全体の66.7%に効果が認められた。投与後2日以内に効果を確認できる例が多く,有効例の88.9%が投与開始4日以内に効果を確認できた。
    証によらず病名処方的に投与を行った例も多くあったにも関わらず有効率が高く,臨床的に非常に重要と考えられた。

  • 大谷 かほり, 木村 容子, 伊藤 隆
    2018 年 69 巻 2 号 p. 168-172
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    体のほてりを伴う不眠に,柴胡桂枝湯が有効であった3症例を経験した。症例1は50歳男性で体幹と手足のほてりを伴い,症例2は57歳女性で背中を中心としたほてりの他,手指の変形性関節症があり,いずれも手足の症状が支節煩疼の応用と考えられた。症例3は別の57歳女性でのぼせと体のほてりを訴え,支節煩疼の所見は明らかではなかったが,過去に腕の発疹を繰り返す症状があった。ほてりと寒気の繰り返しは憎寒壮熱の応用と考えられ,全例に胸脇苦満を認めたが,心下支結に相当する所見は症例1が心下痞鞕と腹直筋の緊張,症例2が中脘の凝り,症例3が軽い心下痞鞕と全て異なっていた。いずれの所見も古典に同様所見の記載があり,柴胡桂枝湯の腹候は複数ある事が窺われた。更年期世代,四肢末端の冷えがない,中間証からやや虚証,ほてるが冷やすと寒いという共通点もあり,このような症例では,柴胡桂枝湯は男女問わず鑑別処方の1つになり得る。

  • 梶山 広明
    2018 年 69 巻 2 号 p. 173-177
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    放射線腸炎は照射中から発症する急性期障害と放射線照射後に現れる中期~晩期障害に分類され,がん患者の QOL を低下させる主要な問題の1つである。一方,大建中湯は数々の臨床試験において,イレウス予防をはじめとした様々な腹部愁訴に対する有用性が報告されている。今回我々は子宮頸癌の治療後に生じた,放射線腸炎を想定する一連の腹部愁訴のコントロールに対して,大建中湯が有効と考えられた59歳女性の症例を経験した。放射線照射の影響で微小循環障害が生じた腸管への大建中湯による血流増加が本疾患の腹部症状の改善に寄与したと考えられた。

  • 野上 達也, 渡り 英俊, 藤本 誠, 金原 嘉之, 北原 英幸, 三澤 広貴, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2018 年 69 巻 2 号 p. 178-183
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    症例は8歳の女児。末梢血にて汎血球減少を認め,日本小児血液学会の中央診断システムにて小児不応性血球減少症(refractory cytopenia of childhood ; RCC)と診断された。標準的な免疫抑制療法が行われたが無効であり,頻回の赤血球輸血および血小板輸血を必要とするため骨髄移植が予定された。当院小児科入院8ヵ月後に漢方治療が開始され,加味帰脾湯エキスと芎帰膠艾湯エキスの投与により徐々に汎血球減少症は改善し,2ヵ月後には赤血球輸血を中止し,3ヵ月後に血小板輸血も不要となった。その後も順調に汎血球減少は改善し,16か月後にはほぼ正常化し,骨髄移植は中止された。加味帰脾湯,芎帰膠艾湯のRCC に対する作用機序は明らかでなく,その有効性も未知である。しかし,漢方治療は低侵襲性で安価であり,副作用も少ないことから,標準治療への反応が悪いRCC に対して積極的に試みるべき治療法であると考える。

論説
  • 福田 佳弘
    2018 年 69 巻 2 号 p. 184-198
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    桂姜棗草黄辛附湯を桂枝去芍薬加附子湯に麻黄細辛が加味された処方と考え臨床に運用し,数々の治験を得た。 その有効例を礎に本方証を考察した。桂枝去芍薬加附子湯証は,桂枝去芍薬湯証に寒が加わったものである。則ち本方の病態は,その条文中の,“下之”により,胃陽は衰耗し,胃陰が上逆し,陰盛陽衰となり“胸滿”が現れる,さらに寒により病態が激化し,心陽は衰憊する。そのため麻黄,細辛の加味が必要となる。この病態に現れる証候を本方証と推考する。治効例の証候は,上焦と下焦の多岐に渉り各々異なる。しかし本方証の診断には,各症例に共通して認められる症候の一つ,胸骨末端の両側肋間部とTh12‐L1の両傍脊椎筋の按圧痛を確証とした。これは桂枝去芍薬湯条にみられる“胸滿”の他覚的症候である。胸滿は気分の条文には記載されていないが,本方の運用には必須の症候である。

  • 寺澤 捷年
    2018 年 69 巻 2 号 p. 199-201
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/08
    ジャーナル フリー

    心身一如は漢方医学の基本的理念であり,現代の科学的医学とは異なっている。歴史的に見ると,科学は心と身を分離することを基盤に出発しているので,疾病の理解において,心身二元論が臨床的に用いられる結果になっている。しかしながら人間は心身一如のものとして存在している。筆者はこの心身一如という用語が鎌倉時代に道元により著された『正法眼蔵』を起源としていること,さらに,現代において,この用語を初めて用いたのは日本の心療内科の権威・池見酉次郎であることを明らかにした。

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