日本東洋医学雑誌
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68 巻, 1 号
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原著
  • —個別化栄養指導の導入に向けての検討—
    久木 久美子, 久保 益秀, 大原 栄二, 坂井 孝
    2017 年 68 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    肥満に係わる遺伝的な体質(肥満関連遺伝子とする)と東洋医学的な体質,さらに食嗜好等の関連性を検討した。 肥満関連遺伝子はADRB3,UCP1及びADRB2についてPCR—CTPP を用い変異の有無を分析し,野生型と変異型に分類した。東洋医学的体質は体質アンケートを用い胃熱,脾虚,両方持たないに分類した。食嗜好等はアンケートを実施した。対象者は女81人,男28人で平均年齢は42.6歳,BMI 中央値は22.3kg/m2,低体重7人,普通体重83人,肥満19人である。肥満関連遺伝子のうちADRB3野生型は胃熱になりやすく胃熱群のBMI 値は高かった。食嗜好として油もの,辛いものを好んだ。ADRB3変異型は脾虚になりやすく脾虚群のBMI 値は低く食嗜好は胃熱と異なった。ADRB3の変異の有無と東洋医学的体質,さらに食嗜好の特徴を把握することで肥満予防のための個別化栄養指導ができる可能性が示唆された。

  • ─閉経前女性の冷え症のスクリーニングに有用な基準─
    古谷 陽一, 深谷 良
    2017 年 68 巻 1 号 p. 12-16
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    目的:冷え症患者をスクリーリングする受信者動作特性曲線(ROC 曲線)を作成すること。
    対象と方法:患者群は冷えを主訴に受診した女性患者99名。健常者群は女性看護職員372名。両群の「冷えの苦痛」の程度をNumerical Rating Scale(NRS;0無症状から10最も苦痛)で調査した。その値を基に患者群を判別するROC 曲線を閉経前と閉経後の群に分けて作成した。
    結果:NRS 平均値(95%信頼区間)は患者群7.3(6.9 to 7.6),健常者群4.0(3.7 to 4.3)で患者群は有意に高値であった。NRS のカットオフポイントを5以上とした場合,患者判別の感度・特異度は閉経前98%・54%,閉経後96%・67%となった。
    結論:冷えNRS が5以上の場合,医療機関を受診したい程の苦痛を感じている可能性がある。冷えをNRS で評価することは冷え症のスクリーニングに有用と思われる。

臨床報告
  • 犬飼 賢也, 須永 隆夫, 関 義信
    2017 年 68 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    耳鳴は西洋医学的な治療ではうまくいかないことが多い。
    症例1は65歳女性。初診5年前に突発性難聴になり,耳鳴が持続し当院を受診した。耳鳴日常生活支障度(Tinnitus Handicap Inventory ; THI)は66点であった。両側の翳風(TE17)に円皮鍼を貼った。THI は1ヵ月後に14 点,2ヵ月後に0点となり終診とした。症例2は69歳男性。初診の40年前頃,左耳の近くで鉄砲が発砲され,左耳鳴が出現し,寛解増悪していた。初診8年前より持続するようになり,当院を受診した。THI は18点であった。左側の翳風に円皮鍼を貼った。3ヵ月後THI は2点となった。症例3は31歳女性。初診15日前より両側の耳鳴が出現し当院を受診した。THI は34点であった。両側の翳風に円皮鍼を貼った。4ヵ月後THI は8点となった。
    翳風への円皮鍼は簡単に貼れ,目立たず試みる価値のある方法と思われる。

  • 高橋 浩子, 田中 耕一郎, 千葉 浩輝, 奈良 和彦
    2017 年 68 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    症例は8歳女児。主訴は視力低下。弱視や他眼疾患の既往歴は認めなかった。自他覚的屈折検査にて近視を認め,裸眼・矯正視力とも低下していた。調節麻痺剤使用による屈折検査にて近視の軽減化を認めたため調節緊張症と診断した。標準治療1ヵ月にても視力に改善を認めなかった。漢方医学的に疲労時に視力増悪すること,脾気虚と考えられる所見があることにより,小建中湯を処方した。投与4ヵ月にて裸眼視力右1.2,左1.2に改善し,現在も疲労時にも良好な視力を維持している。西洋医学的治療が無効な調節緊張症に対し,漢方治療が視力改善の選択肢となりうると考えられた。

  • 三島 怜, 小川 恵子, 有光 潤介, 津田 昌樹
    2017 年 68 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    一般的にがん終末期においては,症状は右肩下がりに悪化し,症状の改善を図ることは非常に困難である。中でも骨転移疼痛のコントロールは難しい。症例は67歳男性,左腎癌右骨盤骨転移にて,緩和的化学療法や疼痛緩和治療が施行されていたが,疼痛コントロールが不十分であった。当初盗汗を主訴に湯液治療を開始し,さらに骨転移疼痛に対する疼痛緩和目的で鍼灸治療の併用を開始した。併用治療により,十分かつ,迅速な疼痛緩和が得られたため報告する。

  • 木村 容子, 田中 彰, 佐藤 弘, 伊藤 隆
    2017 年 68 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    背景:月経時片頭痛は他の時期の発作に比べて治療抵抗性であることが多い。呉茱萸湯で効果不十分な月経時の片頭痛に黄体ホルモンによる水滞の病態に着目して五苓散を併用した。
    対象と方法:呉茱萸湯を3ヵ月間投与し,月経時の片頭痛が残存した陰証の月経関連片頭痛患者37名(中央値37歳,範囲23—48歳)を対象とした。呉茱萸湯の服用は継続し,残存する月経時の頭痛に対して月経1週間前から月経終了時まで五苓散を追加した。
    結果:月経時の片頭痛が軽快した症例は26例(70%)。改善群では,発作時の随伴症状として頭重感(p = 0.003),浮腫(0.006),めまい(0.014),尿不利(0.014)が有意に認められ,雨前日に頭痛の悪化を認めることも多かった(0.004)。
    結語:発作時に頭重感や尿不利など水滞症状が顕著な場合は,呉茱萸湯に五苓散を月経周期に合わせて投与することが有効であると考えられた。

  • 土倉 潤一郎, 高橋 佑一朗, 前田 ひろみ, 吉永 亮, 井上 博喜, 矢野 博美, 犬塚 央, 川口 哲, 田原 英一
    2017 年 68 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    「1週間に1回以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」で再発するこむら返り33例に対して,疎経活血湯を使用した。判定は薬剤開始1ヵ月後に行い,薬剤開始直後から症状が消失したものを「著効」,1ヵ月後に症状が消失していたものを「有効」,1ヵ月後に半分未満へ軽減したものを「やや有効」,1ヵ月後に半分以上が残存したものを「無効」とした。結果は,「著効」12例,「有効」11例,「やや有効」9例,「無効」1例であった。1ヵ月後までに23/33例(69.6%)でこむら返りが消失し,32/33例(96.95%)において半分未満に改善した。さらに3ヵ月後までに29/33例(87.8%)で消失しており,高い有効性を認めた。夜間から明け方のこむら返りに対しては,“夕より眠前”“1包より2包”でより効果を認め,眠前2包の“発作前の集中的投与”が最も有効であった。再発性のこむら返りに対して疎経活血湯は有用だと思われる。

  • 坂田 雅浩, 薬師寺 和昭, 黒川 慎一郎, 七種 祐衣子, 沈 龍佑, 藤本 剛史, 駒井 幹, 佐野 智美, 亀尾 順子, 清川 千枝, ...
    2017 年 68 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    黄連解毒湯は精神神経症状を伴う高血圧や胃炎,皮膚炎などに対する実証向きの清熱剤として使用されるが,吐血や下血などの出血傾向がある場合にも応用されてきた。今回我々は,西洋医学的アプローチで止血困難であった出血性病態に対して黄連解毒湯が有効であった8例を経験した。代表例2例および注腸投与が有効と考えられた1 例について詳述した。代表例は80歳男性。再生不良性貧血を有し,僧帽弁置換術後で抗凝固薬内服中であった。出血性胃炎に対して内視鏡的止血術を繰り返したが止血が得られず,本剤を開始したところ,数日以内に出血症状は消失した。黄連解毒湯による止血のメカニズムは未だ詳細不明であるが,凝固系異常の有無に関わらず比較的速やかに効果を発揮したことから,細血管収縮作用などによる一次止血への関与も考えられた。黄連解毒湯は,消化管出血などの難治性出血例に対する薬物療法として,安全で有効な選択肢となる可能性がある。

  • 陣内 厚子, 木村 容子, 伊藤 隆
    2017 年 68 巻 1 号 p. 56-59
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    症例は35歳男性で,主訴は眼瞼痙攣である。特に仕事中に右眼瞼が痙攣するようになり,眼科では異常なしと言われ,漢方治療を希望して受診した。疲れやすい等の気虚を疑う症状と,胸脇苦満の所見から,柴胡桂枝湯や芍薬甘草湯を使用したが改善を認めなかった。証を再検討したところ,体格は中等度以上で筋肉質であり,自覚症状からは虚弱な印象を受けたが,虚証ではなく中間証~実証であると判断した。また眼瞼痙攣は,暑くてのぼせる時に起き,上半身の汗や頭痛の症状を認めていたことから,上焦の実熱証と考え黄連解毒湯を開始した。八週後に眼瞼痙攣が軽減し,六ヵ月後に消失した。頭痛やのぼせの症状も改善した。
    眼瞼痙攣に対する黄連解毒湯の報告はこれまでにない。同方剤は実熱証による眼瞼痙攣に対しては効果が期待できると考えられる。

調査報告
  • 小林 誠一, 高山 真, 石橋 悟
    2017 年 68 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    漢方は医学部のカリキュラムに正式採用されているが,卒業後の臨床研修では必須とはされていない。そこで臨床研修病院における研修医の漢方薬の処方経験の実態を明らかにし,臨床研修における漢方医学教育に対するニーズを明らかにする目的で,宮城県の地域基幹病院の臨床研修医を対象に,漢方薬の処方経験の有無,初期研修で期待される指導内容について,自書式,無記名のアンケート調査を実施した。
    21名の研修医から回答を得た。漢方薬の処方経験は初期研修医の75%,後期研修医は全員にあり,きっかけは指導医や先輩研修医からの指導が多かった。全員が臨床研修中の漢方医学の教育機会が必要と回答し,指導内容として期待されるものは漢方の基本知識や日常よく遭遇する症候や疾患に対する漢方処方などであった。
    以上の調査結果から,臨床研修医は臨床研修中に漢方医学の教育機会が必要と認識していることが示唆された。

  • 中島 正光, 田妻 進
    2017 年 68 巻 1 号 p. 66-71
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    今後の初期研修医の漢方教育に意識調査,漢方薬処方状況調査が必要と考え,3総合病院で初期研修医にアンケート調査を行った。85.7%は漢方に興味を持ち,70.8%が漢方を診療に活用したいと考えていた。漢方処方経験は57.8%で,その約30%が月に数回処方し,予想より高い割合であった。卒後臨床研修で漢方医学を学びたいか,漢方外来を見学したいかという問いに,是非受けたい,受けてもいいを選んだのは77.9%と高率であった。漢方のセミナー・講義・講演の必要性を97.4%が感じ,その理由として西洋医学で不足している部分(27.0%)がある,漢方が優れている場合がある(26.4%)などが選択され,漢方の必要性を示していた。一方,漢方に興味を持てない理由は漢方に触れる機会が少なくよくわからない,漢方に疑問があるなどで,漢方教育である程度は払拭される内容であり,研修中の漢方教育充実が必要であると考えられる。

フリーコミュニケーション
  • 岡田 将平, 小俣 文弥, 富樫 尭史, 奥田 貴久, 宮本 哲慎, 大須賀 美帆, 田中 康平, 石山 真美, 相磯 愛聖, 安井 廣迪, ...
    2017 年 68 巻 1 号 p. 72-78
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    これまで北日本における学生による東洋医学に関する研究会は,独自に活動をしており交流を持つ機会がなかった。各研究会間の情報交換や知識の向上を目的とし,平成25年に医学生が主体となり,合同東洋医学研究会を発足した。これまでに開催した3回の合同研究会の活動内容について報告する。各地の研究会の代表と連絡を取り平成25年から年1回,東北大学,北海道大学,弘前大学が順に主幹となり,合同研究会を開催した。これまでに北海道大学,旭川医科大学,弘前大学,東北大学,岩手医科大学の研究会など,延べ111人が参加し,各大学独自の活動報告を行うとともに,特別講演では東洋医学史,腹診実習,グループワークによる症例検討会等を行ってきた。参加数は年々増加し,東洋医学でつなぐ北日本の学生ネットワークを構築することができ,その活動から幅広い視点を得ることができた。今後は全国規模の合同東洋医学研究会の開催に期待したい。

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