日本東洋医学雑誌
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60 巻, 1 号
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学会シンポジュウム
原著
  • 高際 麻奈未, 金 成俊, 石野 尚吾, 花輪 壽彦
    2009 年 60 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    漢方薬を用いた治療では患者の症状などにより証に合わせて処方が選択される。煎剤の場合は生薬を加味することにより,さらに患者の症状に適した処方を用いることが可能となる。臨床の現場では漢方治療に携わる医師および薬剤師が漢方薬の治療実態を全体的に把握し,処方運用を理解することが重要であるが,その情報は少ない。煎剤を中心とした治療を行っている当研究所漢方外来における2004年9月の繁用20処方の全処方に占める比率は60%以上であり,これらの処方について解析を行った。受診患者全体と処方毎の年代分布を比較したところ,大きく異なっており,また処方毎に年代分布の特徴がみられた。加味生薬としては黄耆(晋耆),よく苡仁,附子などが多く用いられていた。今回の報告は漢方薬の基本剤形でありながら,比較的情報の少ない煎剤について解析することにより得られた内容であり,漢方治療に携わる医師および薬剤師が処方を理解する上で,意義のある情報であると考えられた。
  • 石田 和之, 佐藤 弘
    2009 年 60 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    [目的]血虚では不眠・めまいなど全身症状や肌荒れなど皮膚関連の症状を呈し,心身に様々な影響を与える。血虚の診断は患者や医師の主観による部分が多く,必ずしも客観的とは言えないため,角質水分計を用いて血虚の客観的評価を試みた。
    [方法]当院を初診で,漢方未治療の女性患者80名(血虚なし38名・血虚あり42名)を対象に,角質水分計にて角質の水分量を測定し,血虚スコアと比較検討した。
    [結果]血虚なし群,あり群で比較した場合,頸部,前腕の水分量には有意差を認めたが,腹部には有意差を認めなかった。血虚スコアと頸部角質水分量の相関係数は-0.41で,数量化1類では皮膚関連項目に加え過少月経・腹直筋攣急のカテゴリー数値も大きかった。治療前後の比較では血虚スコアの改善と角質水分量の推移が概ね一致していた。
    [考察]角質水分量は,皮膚と直接関連しない項目とも関連していたが,血虚スコアの代用とはならなかった。しかし,治療効果の目安となるのではないかと推察された。
    [結論]角質水分量は血虚の治療の目安となりうるが,臨床への応用には更なる検討を要する。
臨床報告
  • 篁 武郎
    2009 年 60 巻 1 号 p. 69-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    多汗症に対して半夏厚朴湯合苓桂朮甘湯が奏効した一症例を報告する。症例は65歳男性。50歳ごろより手掌,足底,背部を主とする全身の発汗過多があり,星状神経節ブロックによる治療を受けたこともあるが効果は無かった。痰飲,気滞,気逆と診断して,半夏厚朴湯合苓桂朮甘湯を処方したところ,発汗過多は軽快して,随伴する咽頭部閉塞感,安静時の動悸,軽動作時の息切れ,残尿感などの症状も軽減した。これらの症状群は,湿痰によって上焦中焦間の気津の流通が障害された結果であり,半夏厚朴湯合苓桂朮甘湯の化痰飲,理気,降逆など作用によって気津の流通が正常化して症状群が軽快したものと考察した。多汗症に対する随証的漢方治療の一例といえる。
  • 小野 孝彦, 森 典子, 武曾 恵理
    2009 年 60 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    ネフローゼ症候群に柴苓湯が奏効した2症例を経験した。症例1は5.2g/日の多量の蛋白尿を呈し,柴苓湯の単独投与を開始し,その後の入院精査にて腎生検による組織型は微小変化型であったが,尿蛋白は入院中に減少し続け,投与開始の2ヵ月後に0.3g/日に至った。外来治療に移行して2.0g/日に増加したものの,再び減少し完全寛解に至った。症例2は8年前にネフローゼ症候群を呈し腎生検で特発性膜性腎症と診断され,少量プレドニゾロン,免疫抑制薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬等の併用にて寛解していたが,経過中,4.4g/日の蛋白尿を呈して再発し,柴苓湯の併用にて4週間後1.3g/日となり,その後寛解した。身体所見および漢方医学的所見として症例1は軽度の胸脇苦満を認め,症例2は中等度の浮腫とともに胸脇苦満も明瞭であった。今回の症例におけるすみやかな寛解経過から,考えうる柴苓湯の作用機序を考察し報告する。
  • 中永 士師明
    2009 年 60 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    [目的]トリカブトの塊根を湿熱処理したブシ末は四肢・体幹の冷えや痛みに用いられる。疼痛性疾患に対して漢方エキス剤に加えてブシ末を処方し,治療効果と安全性について検討した。[対象と方法]修治ブシ末を247例(男性94例,女性153例)に処方(1.5‐8.0g/日)し,4週間後の効果を判定した。効果判定にはVisual Analog Scale(VAS)を用いた。投与前に比べて4週間後のVASが50%以下であれば著効,51‐75%であれば有効,76%以上もしくは4週間以内に処方を変更した場合は無効と判定した。[結果]ブシ末に関して著効102例,有効84例,無効61例で,著効と有効を合わせると75.3%であった。副作用は3例(舌のしびれ,膀胱絞扼感,全身浮腫)に認められた(1.2%)。[結語]今回の検討では重篤な副作用は認められず,疼痛疾患に対して高齢者に対するブシ末の有効性と安全性を確認しえた。
  • 伊藤 隆, 仙田 晶子, 山本 佳乃子, 斉藤 康栄, 鏡味 勝, 青柳 晴彦, 蓮田 昌夫, 中原 朗
    2009 年 60 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    薯蕷丸は金匱要略収載の方剤で治験例は殆どない。今回,末期肺癌で食欲と全身状態の維持に有用であった一例を報告した。
    62歳女性。主腫瘍は左下葉にあり,両側胸膜,縦隔に浸潤していた。転移は骨折した左大腿骨を始め,腸骨,胸腰椎,肝臓に及んだ。発症後5カ月の時点で薯蕷丸を開始した。すでにステロイド剤・麻薬を用いており,全身状態は極めて不良であった。服薬開始後,食欲回復,栄養状態の改善を認め,QOLの維持にも貢献し,その後2カ月生存した。経過中,胸水細胞診にて腺癌が診断された。
    薯蕷丸は作成に手間のかかる方剤であるが,厥陰病期の患者の全身状態を改善できる薬であり,より使われて良いと考え報告した。
  • 大塚 静英, 及川 哲郎, 望月 良子, 早崎 知幸, 小曽戸 洋, 伊藤 剛, 村主 明彦, 花輪 壽彦
    2009 年 60 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    難治性の顔面の皮疹に葛根紅花湯が著効した3症例を経験したので報告する。症例1は39歳男性。20歳頃より鼻に限局して丘疹が出現し,以後,塩酸ミノサイクリンの内服にて寛解,増悪を繰り返し,いわゆる酒さ鼻となったため,2007年5月に当研究所を受診した。葛根紅花湯(大黄0.3g)を服用したところ,3週間後,鼻全体の発赤が軽減し,丘疹も減少,額・頬部の発赤も消失した。症例2は,56歳女性。鼻,口周囲を中心としたそう痒感を伴う皮疹にて2006年10月に当研究所を受診した。ステロイド外用剤にて軽減するものの中止すると増悪を繰り返していたことより,酒さ様皮膚炎と診断した。葛根紅花湯(甘草0.8g,去大黄)を服用し,ステロイド外用剤は同時に中止したところ,3週間後,全体的に紅斑は鼻と口周囲のみとなり,8週間後には症状はほぼ消失した。症例3は,26歳女性。鼻口唇部の紅斑,アトピー性皮膚炎にて当研究所を受診した。黄連解毒湯にて全体的には症状が軽減するも,鼻口唇部の紅斑は不変であったため,葛根紅花湯(大黄1g)に転方したところ,2カ月後,鼻口唇部の紅斑は消失し,6カ月後には鼻口唇部の色素沈着がわずかに残るのみとなった。葛根紅花湯は,従来,いわゆる酒さ鼻に用いられてきたが,鼻だけでなく,顔面・鼻周囲の皮疹にも応用が可能であると考えられた。
東洋医学の広場
  • —世界各国の医師が日本漢方を選ぶ理由と自国の事情あるいは普及—
    崎山 武志, 石野 尚吾, 渡辺 賢治, PLOTNIKOFF G.A., 許 鳳浩, FROEHLICH C., PFLÜEGE ...
    2009 年 60 巻 1 号 p. 99-118
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    世界的に伝統医学が再認識される流れにある。東南アジアの伝統医学は古代中国に端を発し,各国独自の発展を遂げた。これら関係国間の情報交換と意思疎通の手段として,世界保健機構・西太平洋地区(WHO‐WPRO)は国際標準用語集(IST)を発刊した。わが国でも,日本漢方の講義が全医学部で行われるようになった。このような流れの中で,世界の中での日本漢方の現状を把握し,どのように世界に発信していくかに関して会議を開く意義は大きいと考える。そこで日本漢方の現状と世界から見た日本漢方とその問題点,同じ古代中国医学を起源とする現代中国と韓国での現状,日本国内で漢方を専門とする医師は日本漢方をどう捉えているのか,について計3回に亘り漢方医学国際会議(仮称)を開催した。「なぜ,今,日本漢方か」の主題,世界各国の医師が日本漢方を選ぶ理由と自国の事情あるいは普及,自分にとって日本漢方はどういうものか;漢方の世界への発信ということを踏まえて,の副題のもと,在日外国医師・医学生と代表的漢方医に講師を依頼し,その後に参加者で総合討論を行った。
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