日本東洋医学雑誌
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62 巻, 4 号
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原著
  • 城島 久美子
    2011 年 62 巻 4 号 p. 529-536
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果を時速2.4km,傾斜12%のトレッドミル検査にて検討した。血管性間歇性跛行を有する閉塞性動脈硬化症の患者33例を対象にし,投与薬は患者自身が選択した。I 群:シロスタゾール投与,II 群:当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス顆粒投与,III 群:I 群で歩行距離延長の限界となった患者に当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス顆粒投与した群とした。歩行限界まで歩いた距離を最大歩行距離とした。その距離を最大歩行距離変化率(投与後距離⁄投与前距離×100)として算出した。
    最大歩行距離変化率の中央値は,I 群で1ヵ月後130.5%,3ヵ月後145.5%,II 群で1ヵ月後111.6%,3ヵ月後122.7%,III 群で3ヵ月後112.3%といずれも有意に改善した。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は歩行距離の延長効果を認め,単独治療およびシロスタゾールとの併用治療が有用であった。
  • 伊藤 隆, 菅生 昌高, 千々岩 武陽, 島田 博文, 海老澤 茂, 深谷 良, 小竹 源紀, 小澤 友明, 青柳 晴彦, 仙田 晶子, 島 ...
    2011 年 62 巻 4 号 p. 537-547
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    大陥胸湯と大陥胸丸料の現代における適応について検討した。頸,肩,背部に難治性のこりを自覚する33例に対して,いずれかの方剤を投与した。24例は4週以上服薬できたが(長期群),9例は中断した(中断群)。長期群においては14例(58%)で主訴の改善を認めた。有用であった方剤は大陥胸湯13例,大陥胸丸料1例であった。長期群の特徴は中断9例に比較して,BMIがより大きく,腹力はより強く,心下鞕陽性例が多かった。甘遂末投与量は長期群0.81g,中断群0.57gと有意差を認めた。副作用は嘔気18例,下痢6例を含む24例(73%)27件で,両群に差はなく,甘遂の中止,減量によりただちに軽快した。
    改善例の中で,肩背のこり疼痛を主訴とする2例,身体表現性障害,うつ病,痙性斜頸,胃食道逆流症各1例の経過を記した。大陥胸湯と大陥胸丸料は,頸,肩,背部の強いこりを有する症例には,より広く用いられて良いと考えられた。
  • 有光 潤介, 萩原 圭祐, 大塚 静英, 中西 美保, 岸田 友紀, 井上 隆弥, 加藤 由紀子, 大谷 安司, 尾崎 和成, 清水 健太郎 ...
    2011 年 62 巻 4 号 p. 548-555
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    サフランは,駆瘀血剤として使用される。瘀血は西洋医学的な病態で考えると,血液の粘稠度亢進と微小循環障害と解釈できる。今回我々は,サフランの臨床的な駆瘀血効果を観察し,血小板活性化の指標である,platelet factor4(PF-4)とbeta-thromboglobulin(β-TG)を瘀血のマーカーとして検討した。
    リウマチ膠原病アレルギー患者71人(女性66人,男性5人,平均年齢52.3 ± 16.1歳)にサフラン(300mg∼900mg)を投与し,78.7%(n=37/47)の自覚症状の改善を認めた。投与前後での血漿中PF-4,β-TGともそれぞれ有意な改善を認めた(PF-4:49.6 ± 29.8→24.0 ± 19.6,β-TG:117.5 ± 64.0→64.6 ± 47.1,paired t-test, p < 0.0001)。サフランは,膠原病患者に対する血小板活性化を抑制することが明確となった。これらの結果より,PF-4,β-TGは瘀血と関連する可能性が示唆された。
臨床報告
  • 山内 智彦, 菅野 晶夫, 市村 恵一
    2011 年 62 巻 4 号 p. 556-558
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    小児インフルエンザ感染症における麻黄湯の呼吸器合併症に対する効果について検討した。呼吸器系に作用する薬の使用例は,抗ウイルス薬群166例中64例(39%),麻黄湯群80例中12例(15%)と,麻黄湯群で有意に少なかった(P ⟨ 0.01)。しかし,呼吸器合併症に対する追加治療を行った症例は,抗ウイルス薬群166例中34例(21%),麻黄湯群80例中9例(11%)で,明らかな差を認めなかった(P = 0.07)。追加治療例は,気管支喘息の既往のない例においては,抗ウイルス薬群107例中19例(18%),麻黄湯群67例中4例(6%)と有意差を認めたが(P = 0.045),気管支喘息の既往のある10歳未満の例については,抗ウイルス薬群57例中15例(26%),麻黄湯群5例中4例(80%)であり,症例数は少ないが,後者が有意に多く(P = 0.047),今後注意を要する。
  • 重田 哲哉, 小暮 敏明, 巽 武司, 地野 充時
    2011 年 62 巻 4 号 p. 559-564
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    外傷性頸部症候群に対して大柴胡湯を投与した13例を経験した。その中で,著効例2例を症例提示した。症例1(40代男性)は,少陽病期で腹力は充実し,胸脇苦満も顕著であったことから,いわゆる大柴胡湯の目標と一致していた。一方,症例2(50代女性)は,少陽病期で腹力,胸脇苦満ともに中等度であったが,胸脇の張りの自覚と便秘を認めていた。13例での効果は,VASによる評価で,著効3例,有効6例,やや有効1例,無効3例であった。本症での大柴胡湯の使用目標を明らかにするために,13例での和漢診療学的所見を検討した。腹力が充実していた9例のうち有効以上は8例であるのに対して,中等度の症例では著効は1例で,やや有効1例,無効2例であった。さらに腹力中等度の無効例は2例とも腹部に他覚的な冷感が観察されたが,著効例ではみられなかった。
    外傷性頸部症候群に大柴胡湯を用いる場合,あらためて随証治療が肝要であることが示唆された。しかしながら腹力が中等度の症例で腹部に冷感のみられない症例では本方が鑑別に挙げられてよいと考えられた。
  • 松井 龍吉, 小林 祥泰, 山口 拓也, 長井 篤, 山口 修平
    2011 年 62 巻 4 号 p. 565-569
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    多系統萎縮症とは以前よりオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),線状体黒質変性症(SND),Shy-Drager(SDS)と呼ばれてきた3疾患を包括した病理学的疾患概念の総称である。今回我々は本疾患患者に対し,八味地黄丸を投与したところ,起立時の血圧変動に著明な改善を認めた症例を経験したので報告する。
    症例は79歳男性。緩徐進行性に動作緩慢,すくみ足,手指振戦を認め,その後立ちくらみ症状が出現。起立性低血圧が見られ各種薬剤の投与を行うが効果は不十分であった。このため八味地黄丸を追加投与したところ,体位変換時の血圧変動が小さくなり,さらに諸症状の改善も認めた。
    八味地黄丸は自律神経機能の改善に効果を示す方剤とされており,本症例においても多系統萎縮症に伴う起立性低血圧の改善に寄与したと考えられた。
  • 西田 欣広, 唐木田 真也, 楢原 久司, 織部 和宏
    2011 年 62 巻 4 号 p. 570-573
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    一般に顔面神経麻痺の中でBell麻痺は約70%が自然治癒し,残りはステロイドや抗ウイルス剤(アシクロビル)療法でほとんどが軽快するとされているが,極数%の重症例では西洋医学的治療が無効である。顔面麻痺の遺残や麻痺が改善しても病的共同運動などの後遺症が生じ,患者にとっても特有な顔面の容貌のため,多大にQOLを損ねる結果となる。
    症例は29歳,初産婦。既往歴に特記すべきことなく,妊娠中も特に異常はなかった。妊娠35週の寒い早朝,突然,右顔面神経麻痺が発症した(麻痺スコア0/40)。耳鼻咽喉科でステロイド治療されるも効果なく,自然分娩した。分娩後,漢方治療を開始した。葛根湯と香蘇散の併用,柴苓湯と香蘇散の併用で2ヵ月にわたり順次治療するも無効のため大三五七散料と香蘇散の併用に転方した。2週間後には閉眼,開眼がスムーズになり,ほぼ1ヵ月で治癒し廃薬となった。
    今回,妊娠中に西洋医学的治療に難渋した顔面神経麻痺に漢方治療を行い,大三五七散料と香蘇散の併用が奏効した一例を経験したので報告する。
  • 來村 昌紀, 並木 隆雄, 関矢 信康, 笠原 裕司, 地野 充時, 平崎 能郎, 小川 恵子, 奥見 裕邦, 岡本 英輝, 木俣 有美子, ...
    2011 年 62 巻 4 号 p. 574-583
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    日本頭痛学会出版の慢性頭痛の診療ガイドラインにおいて小児片頭痛の急性期治療にはイブプロフェンやアセトアミノフェンが推奨されている。しかし,小児片頭痛における予防治療はまだ確立されていない。今回,我々は小児片頭痛,小児周期性症候群に対する漢方治療の有用性を検討した。対象は8歳から15歳の小児片頭痛あるいは小児周期性症候群と診断した9例で,9例全例で頭痛頻度の軽減,強度の減少,頭痛にともなう腹痛,めまい,悪心,嘔吐の改善をみた。Headache Impact Test-6(HIT-6)では治療前平均63.66点が治療後45.77点に改善した。漢方治療は小児片頭痛,小児周期性症候群に対して有効であると考えられた。
  • 高久 俊, 高久 千鶴乃, 栗林 秀樹, 大薗 英一, 平馬 直樹, 高橋 秀実
    2011 年 62 巻 4 号 p. 584-588
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全で血液透析療法中の患者の上腹部の消化器症状に対して平胃散が著効した4例を経験したので報告する。症例1は61歳男性。逆流性食道炎で主訴は食後の胃部停滞感。症例2は45歳男性。慢性胃炎で主訴は朝夕食後の胃部停滞感。症例3は61歳男性。慢性胃炎で主訴は胃部不快感。食思不振。症例4は69歳女性。慢性胃炎で主訴は食後の胃部停滞感と空腹時の上腹部痛。いずれの症例も胃粘膜保護剤,消化管運動改善薬,H2-blockerおよびプロトンポンプ阻害剤などで西洋医学的治療を施行するも症状改善に至らなかった。そこで,これら4症例の消化器症状は湿困脾胃が原因と考え,理気化湿,和胃作用を有する平胃散を併用したところ速やかに自覚症状の改善が認められた。一般に維持透析患者は無尿で体液貯留傾向にあり脾胃における湿邪が形成されやすい体内環境にあると思われ,このような患者群の胃腸障害に対して平胃散は有効と考えられた。
  • 田原 英一, 犬塚 央, 岩永 淳, 村井 政史, 大竹 実, 土倉 潤一郎, 矢野 博美, 木村 豪雄, 三潴 忠道
    2011 年 62 巻 4 号 p. 589-592
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    大柴胡湯が奏効した嘔吐の2症例を経験した。症例1は16歳女性。肺炎で入院中に嘔吐が出現。嘔吐,胸脇苦満などを参考に大柴胡湯を投与したところ,嘔吐は速やかに消失した。症例2は73歳女性。嚥下性肺炎の後,嘔気,嘔吐が出現。嘔吐に対し,胸脇苦満と便秘傾向を目標に大柴胡湯を投与したところ,徐々に消失した。古典条文の上で大量の生姜を含む大柴胡湯は,強力に嘔気を鎮めると考えられる。
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