日本東洋医学雑誌
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73 巻, 4 号
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論説
  • —清暑益気湯の同名異方に関する検討—
    横山 浩一, 平崎 能郎, 岡本 英輝, 杉本 耕一, 伊藤 隆, 檜山 幸孝
    原稿種別: 論説
    2022 年 73 巻 4 号 p. 367-374
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    清暑益気湯の同名異方である東垣方・近製方・張三錫新定方について,その来歴と適応病態を調査した。東垣方と近製方の違いについては,浅田宗伯の勿誤薬室方函口訣の記述から,「即効を取るには近製方,老人などの持薬には東垣方」と一般に解釈されている。しかしながら原典に従えば,東垣方よりもむしろ近製方が夏季に病なくとも常用できるように工夫されたものであった。そして近製方は東垣方の補脾益気・清熱・生津の作用を担う中心的構造と見なされる処方であり,人に随って加減せよという指示がある。今回の検討で勿誤薬室方函口訣に記載される張三錫新定方とは,香月牛山が発熱する者のために近製方を変方したものであることが判明したが,これも病症に応じた工夫の一つと言えよう。現在汎用される医療用エキス製剤の清暑益気湯は近製方である。その応用に際しても,病症によって清熱剤や利水剤などを適宜兼用することが有用であると考えられる。

臨床報告
  • 平澤 一浩, 大塚 康司, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 375-381
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    苓桂朮甘湯は,起立時のめまい,すなわち起立性調節障害に用いられやすい方剤である。今回,苓桂朮甘湯が奏効した起立性調節障害の2例を経験し,Visual Analogue Scale(VAS),Vertigo Symptom Scale-short form(VSS-sf)日本語版,Dizziness Handicap Inventory(DHI)日本語版を用いてその治療効果を客観的に評価した。

    症例1は苓桂朮甘湯を投与し,4週後に VAS は71/100から22/100,VSS-sf は22点から6点,DHI は42点から26点に改善した。症例2は苓桂朮甘湯を投与し,4週後に VAS は48/100から9/100,VSS-sf は18点から3点,DHI は32点から20点へ改善した。2例とも,全ての指標が4週で顕著に改善し,苓桂朮甘湯の有効性が示せた。

  • 中原 真希子, 貝沼 茂三郎
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 382-386
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    症例は40歳女性。25歳ごろより半年に1回程度,性器ヘルペスが出現していた。初診の1年半前より月に2~5回程度に増えたため,前医にて抗ヘルペス薬による再発抑制療法を開始されたが,ヘルペスの回数や症状の程度の改善は全くなく,当科紹介となった。陰証および虚証で,手足の冷えを認め,抗ヘルペス薬の内服の中止とともに当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方したが,ヘルペスの症状に変化なかった。さらに,強い倦怠感から補中益気湯へ転方したが無効であった。イライラや悪夢などの気逆の所見と,皮膚の乾燥や易脱毛性などの所見から,十全大補湯と柴胡桂枝乾姜湯の食前後の交互服用に転方したところ,性器ヘルペスの頻度は徐々に減少し,漢方薬を内服している限りはヘルペスの再発は見られなくなった。抗ウイルス薬の再発抑制療法が無効であった再発性性器ヘルペス患者に対し,漢方薬のみで症状を抑えることが可能な症例があることが示された。

  • 中村 雅生, 木村 豪雄
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 387-390
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    51歳女性。8年前から両手母指に爪甲剥離があり水を扱う作業をすると沁みる痛みがあり生活に支障を来していた。3ヵ所の皮膚科を受診し検査,治療を受けたが原因不明であり症状は改善しなかった。その後当クリニックを受診,症候として皮膚の枯燥や爪の病変があることから血虚と診断して四物湯を用いた。内服を続けることにより爪甲剥離は徐々に改善が得られた。このことにより原因不明の爪甲剥離に四物湯が有効である可能性が示唆された。

  • 川島 希
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 391-397
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    漢方医学が主体の集中治療の報告はあまりない。25歳男性,13歳時,再生不良性貧血に対する骨髄移植後進行性脳症のため脳幹死となり人工呼吸管理,膀胱瘻・胃瘻造設して長期在宅医療管理中,下痢・血圧低下を主訴に入院した。緑膿菌尿性敗血症後,心原性ショック・胸水貯留を発症して無尿となった。家族の希望により点滴・内服薬のみで治療した。淡白胖大舌・薄白苔。橈骨動脈触知せず,頸動脈緩大・微弱。腹力やや強,皮下浮腫・腹水波動を著明に触れ,四肢冷感著明。胸部X 線で大量胸水を認めた。真武湯合牛車腎気丸加桂皮末により徐脈は改善し昇圧した。五苓散・フロセミドにても残存した大量胸水は牛車腎気丸・桂皮末を黄耆建中湯に変更したところ利尿亢進とともに著明低下した。ショックという西洋医学が優先される病態にも漢方医学が有用である可能性が示された。また黄耆含有製剤を追加して胸水低下したことは利水における補気の重要性を示唆する。

  • 中尾 真一郎, 矢野 博美, 原田 直之, 牧 俊允, 吉永 亮, 井上 博喜, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 398-401
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    顔や胸,背中に多量の発汗とホットフラッシュを半年前から認めるようになった49歳女性の症例である。患者は同時に,息子らに対してイライラしていたが,自身の怒りを反省し,なぜそんなに怒ってしまうのだろうかと省察していた。抑肝散を処方したところ,1ヵ月後にはすべての症状に著効していた。更年期障害やイライラには加味逍遙散が重要な鑑別になるが,イライラの性状を評価することは処方選択に有用かもしれない。

  • 福田 功, 中田 英之, 草鹿砥 宗隆, 小菅 孝明
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 402-408
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    経皮的冠動脈再建(PCI : percutaneous coronary intervention)後に疼痛,知覚障害,麻痺,皮膚蒼白,他動的伸展時痛の症状が起こったため,PCI に起因した前腕コンパートメント症候群と診断した。東洋医学的には瘀血と水滞が原因で,腹診所見より治打撲一方,桂枝茯苓丸を投与したところ,速やかに自他覚症状が改善し,術後10日目までには症状が消失し術後14日目に廃薬できた。コンパートメント症候群に対して漢方薬による随証治療が有効であると示唆された。

  • 村井 政史, 谷津 高文, 佐野 敬夫
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 409-413
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    症例は44歳女性で,第2子を妊娠した頃から体力の低下を自覚し,疲れやすくなったため漢方治療を希望。茯苓四逆湯の方意として真武湯エキスと人参湯エキスの併用で症状は改善し,その後も服用を継続していた。今回,発熱,甲状腺部の痛み,動悸や手の震えを認め,内分泌内科で亜急性甲状腺炎と診断され,アセトアミノフェンを処方されたが症状の改善を認めなかった。食欲が低下して舌に厚い黄苔を認めたことから少陽病と考え小柴胡湯エキスを投与したところ,その翌日から体温は37℃を超えなくなり,甲状腺部の痛みも消失した。漢方治療で亜急性甲状腺炎が改善した既報告症例と今回の自験例を合わせた310例の処方内容を検討したところ,柴胡と黄芩を含有したいわゆる柴胡剤が53%で用いられていた。亜急性甲状腺炎における発熱や甲状腺部の疼痛といった炎症症状には,抗炎症作用を有する柴胡剤が有効な場合が多いと思われた。

  • 松岡 竜也, 岡村 麻子, 加藤 士郎, 島袋 剛二
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 414-421
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    女性の生涯がん罹患率は約50%であり,婦人科がんの一部は増加しており,患者の抑うつ状態の有病率は約12~25%と想定される1)。抑うつ状態は自殺のみならず,がんによる死亡にも影響すると考えられ2),がんと診断した時からサバイバーとして心のケアを行うことは重要である。薬物治療はしばしば向精神薬が選択されるが,錐体外路症状,眠気,便秘などの副作用が認められ,がん患者の生活の質はますます低下しうる。

    今回,婦人科がんサバイバーが診断,告知,治療,再発,best supportive care(BSC)などの様々な過程で感じたストレスによる抑うつ状態と不安に対し,香蘇散が有効であった7例を経験したので報告する。香蘇散は気剤であり,古来より抑うつ状態を改善する効能が記載されている。特に虚証な女性の気の問題に広く用いることができ,婦人科がん治療に応用することは非常に有用であると考えられた。

調査報告
  • 髙橋 京子, 髙浦(島田) 佳代子, 後藤 一寿
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 422-433
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本古来の篤農技術や品種・系統および形態の史的検証と現況調査に基づき,医薬品原料品質の担保と採算性が見込める暗黙知発掘を目的とした。特に,中山間地域活性化を図る候補として期待されるシャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)について,江戸享保期,徳川吉宗が展開した薬草政策以降,国内で育種された大和芍薬のルーツとして,実地臨床で良品とされる「梵天(白花重弁)」と異なる複数の系統基原種を確認した。その中に,幕府保護下の私設薬園(現森野旧薬園)を創始した森野藤助賽郭真写「松山本草」に描かれた赤花単弁の品種も存在した。森野家所蔵文書群から,大和の薬種特産性を示す初出史料を発見し,国内生産地動向や品質系統の管理・栽培技術を考察した。近現代の薬用栽培法では摘蕾・摘花が散見するが,地域文化および薬種専門家の現地取材から,観賞や切り花利用など営利性向上の可能性を示唆した。

  • 蓮沼 直子, 柿木 保明, 川添 和義, 塩田 敦子, 喜多 敏明, 杉山 清, 高山 真, 三潴 忠道
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 434-447
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    2021年8月に開催された第71回日本東洋医学会学術総会で漢方医学教育に焦点をあてた特別企画,「次世代に継ぐ卒前卒後漢方医学教育」を行った。本企画の一つとして医歯薬看護学における教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)に関するシンポジウムを開催した。2021年度において,医学,歯学,薬学,看護学の各分野における教育コアカリの中に漢方教育についての文言が記載されている。各教育機関においては,分野における特徴や教育機関の事情なども考慮し,教育コアカリに準じた教育を進めることとなる。各分野におけるコアカリを紹介し,分野ごとの漢方教育の現状,多職種連携における留意点や提案,臨床実習との関連,教育者不足などに関する課題点,多職種における漢方教育の利点,今後の展望などについて,総括し報告した。

  • ~日本東洋医学会医療安全委員会活動報告(2021)~
    関根 麻理子, 牧野 利明, 田中 耕一郎, 嶋田 沙織, 四日 順子, 古屋 英治, 地野 充時, 田原 英一
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 73 巻 4 号 p. 448-462
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    医療安全委員会では,安全に漢方方剤を使用するための種々の医療安全に関する啓発活動を行ってきた。今回,医療事故の発生予防・再発防止を推進することを目的にアンケート調査を行った。その結果,漢方専門19施設中15施設から回答が得られ,247件の漢方領域におけるインシデント・アクシデント事例を収集した。漢方方剤の副作用に関する事例には,黄芩含有漢方方剤による間質性肺炎,烏頭中毒,甘草による偽アルドステロン症の事例があった。また,今まで集積できなかった漢方専門施設に特有な煎剤に特化した事例も収集することができた。本委員会では漢方領域におけるリスクマネージメントとして①漢方方剤の副作用に対する認識不足,②漢方製剤の用量の勘違い,③薬剤名・生薬名の類似性による誤り,④頻用処方への先入観,⑤煎剤への異物混入,⑥加味加減の多い生薬とその用量に関する誤り,⑦病棟での誤りの7つをポイントとして考えた。

フリーコミュニケーション
  • 有田 龍太郎, 神 久和, 草野 源次郎, 秋葉 秀一郎, 渡辺 均, 高山 真, 三谷 和男, 三潴 忠道
    原稿種別: フリーコミュニケーション
    2022 年 73 巻 4 号 p. 463-474
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    国内で使用される生薬の9割を輸入に頼る日本では,近年になり生薬の国内生産が推進されている。2021年8月に第71回学術総会が東北支部主幹で開催された際,特別企画として東北地方における薬用植物栽培と生薬生産の歴史と現況について調査報告を行った。東北地方で薬用植物栽培が拡大したのは江戸時代享保年間以降で,会津のオタネニンジン,出羽のベニバナなどが栽培に成功し全国に流通した。現代の調査では,栽培を伝承し地域振興に活用したり,全く新たに栽培を開始した地域・品目もみられた。

    栽培事業を継続・拡大するため産官学による連携体制が形成されていた。また,生薬だけでなく,食品・化粧品・織物にも販路を拡大する模索が行われていた。生薬としての流通には多くの課題が残るが,本調査で東北各地での薬用植物栽培の工夫を明らかにすることができた。

    本調査結果は動画として学会会員専用ホームページにて公開されている。

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