日本東洋医学雑誌
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59 巻, 3 号
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学会シンポジウム
原著
  • 後藤 博三, 嶋田 豊, 引網 宏彰, 小林 祥泰, 山口 修平, 松井 龍吉, 下手 公一, 三潴 忠道, 新谷 卓弘, 二宮 裕幸, 新 ...
    2008 年 59 巻 3 号 p. 471-476
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主体とした漢方薬の効果を3年間にわたり前向き研究により検討した。対象は富山大学附属病院ならびに関連病院を受診した無症候性脳梗塞患者93名で男性24名,女性69名,平均年齢70.0±0.8才である。桂枝茯苓丸エキスを1年あたり6カ月以上内服した51名をSK群,漢方薬を内服せずに経過を観察した42名をSC群とし,MRI上明らかな無症候性脳梗塞を認めない高齢者44名,平均年齢70.7±0.7才をNS群とした。3群間において,開始時と3年経過後の改訂版長谷川式痴呆スケール,やる気スコア(apathy scale),自己評価式うつ状態スコア(self-rating depression scale)を比較した。また,SK群とSC群においては自覚症状(頭重感,頭痛,めまい,肩凝り)の経過も比較検討した。その結果,3群間の比較では,自己評価式うつ状態スコアにおいて開始時のSK群とSC群は,NS群に比べて有意にスコアが高かった。しかし,3年経過後にはNS群は開始時に比較し有意に上昇したが,SK群は有意に減少した。さらに無症候性脳梗塞にしばしば合併する自覚症状の頭重感において桂枝茯苓丸は有効であった。以上の結果から,無症候性脳梗塞患者の精神症状と自覚症状に対して桂枝茯苓丸が有効である可能性が示唆された。
  • 小林 匡子, 長岡 佐知, 松山 園美, 吉崎 文彦
    2008 年 59 巻 3 号 p. 477-482
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    傷寒論に記載されている麻黄湯の煎出手順の指示の意味について,配合されている麻黄のアミラーゼ阻害活性を利用して検討した。この酵素はストレスと密接な関係があり,その指標として臨床上応用されている。
    実験に利用したα-アミラーゼはマウス分離血漿中のもので,酵素活性の測定はCaraway法に準じて行われた。現在行われている一般的な煎出法と傷寒論に記載された煎出法(まず麻黄のみを先に煎じ,次に残りの3生薬を加え,さらに煎じる)により得られた煎液について,エキス収量,エキスとその中に含まれる多糖粗画分(活性成分のひとつ)やその他の画分の阻害活性を比較したところ,煎出エキスにおいて後者の煎出法では前者の煎出法より明らかに阻害活性を増強した。従って傷寒論に記載された煎出法には,麻黄湯の生体に対するストレスを減らし,麻黄の副作用を軽減する目的があるものと推測された。このような煎出の過程全体を反映した生物学的な質的変化に関する研究アプローチは,アルカロイドなど特定の成分のみを指標にした理化学的分析とは異なった視点であり,傷寒論や金匱要略に記載されている煎出や服用方法の意義を科学的に解明していく上で有用と思われる。
  • 夏秋 優
    2008 年 59 巻 3 号 p. 483-489
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    顔面に紅斑を有するアトピー性皮膚炎患者14名に対して,白虎加人参湯を投与した。その際,本剤の投与前に患者の自覚症状や体質に関するアンケート調査を実施した。また,本剤投与中の「ほてり」や「口渇」の推移を記録するため,症状日誌を作成し,それぞれの症状の程度をスコア化して患者自身に記載していただくことで自覚症状の変化と薬剤の効果を評価した。
    その結果,白虎加人参湯は顔面のほてりを強く自覚する患者の顔のほてりを改善させる効果があることが明らかになった。
臨床報告
  • 箕輪 政博, 形井 秀一
    2008 年 59 巻 3 号 p. 491-494
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    受傷直後から整形外科治療に併せて鍼治療を行った外傷性頸部症候群の一症例を報告する。症例は軽自動車を運転中に後方より追突された38歳の女性。事故翌日より,手指のしびれ,肩背部の疼痛を自覚して,整形外科治療とともに鍼治療を開始した。鍼治療は上肢下肢の遠隔部の経穴のみに置鍼施術を行い,評価には数値的評価スケールを用いた。治療後に数値が50%以上改善するように治療した結果,治療直後の症状改善は著しく,数値的評価も経過とともに改善した。鍼治療は症状が強い時を主に合計49回行い,7カ月後に症状が緩解したので終了した。外傷性頸部症候群の難治例の患者は,治療の長期化に悩むケースがあり,本症候群に対する鍼灸治療のエビデンスの確立が望まれる。
  • 長坂 和彦, 福田 秀彦, 名取 通夫
    2008 年 59 巻 3 号 p. 495-497
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    胃亜全摘後のダンピング症候群に桂枝湯類が奏効した4症例を報告する。症例1は30年前に胃亜全摘術を受けた57歳の男性。手術直後から食後10分~4時間にふるえたり目がちかちかしてぼやける感じがするようになった。症状は空腹時に起こりやすい。桂枝湯エキスでこれらの症状は消失した。症例2は7年前に胃亜全摘術を受けた63歳の男性。ここ1~2年,食後20~30分に発汗と易疲労感を自覚するようになった。桂枝湯エキス服用後はダンピング症状はなくなった。症例3は9年前に胃亜全摘術を受けた71歳の女性。手術後,食事と関係なく冷や汗や目眩が出現するようになった。桂枝加芍薬湯や小建中湯服用後は上記の症状が消失した。症例4は2年前に胃亜全摘術を受けた72歳の女性。昨年7月から食後30分~3時間の間に,発汗やホットフラッシュが出現するようになった。症状は飴をなめると改善する。桂枝湯エキス内服後,発作は消失した。
  • 木村 容子, 杵渕 彰, 黒川 貴代, 清水 輝記, 棚田 里江, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2008 年 59 巻 3 号 p. 499-505
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    介護者が抱える諸症状に抑肝散およびその加味方が有効であった8症例について報告した。症例1はのぼせ,ほてり,集中できないなどの多彩な症状に抑肝散加芍薬,症例2は不眠および背中の痛みに抑肝散加味方,症例3は不眠に抑肝散合芍薬甘草湯,症例4はイライラや動悸に抑肝散,症例5は不安,不眠に抑肝散,症例6は手掌の湿疹に抑肝散加味方,症例7は目の奥の痛みと頭痛に抑肝散加陳皮半夏合芍薬甘草湯,そして,症例8は頸・肩こり,下痢,動悸,不眠,倦怠感などの症状が抑肝散加陳皮半夏(合芍薬甘草湯)を処方して症状が軽快した。愁訴は多岐に渡るが,その背景には,介護による慢性的かつ持続的なストレスが共通し,情緒系,筋,眼などと関係が深い肝の機能が障害されていると考えられた。また,症例5,6,7,8では,介護される者と介護者の双方に抑肝散を同時に服用させたところ,両方に効果がみられた。原典では「子母同服」とある。介護には,精神的・身体的健康状態が互いに影響を及ぼし合うような濃厚な人間関係があり,母子関係に通じるのではないかと思われた。本来の親子関係とは逆転するが,日常生活の面倒を看てもらう観点から介護される側を「子」,面倒を看る側を「母」ととらえ,「子母同服」の考え方が応用できると考えられた。
東洋医学の広場
  • 松岡 尚則, 村崎 徹, 栗林 秀樹
    2008 年 59 巻 3 号 p. 507-510
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    2003年新加坡中医学院を見学し,シンガポールの中医学校制度について報告した。教材はシンガポール独自のものでなく,中華人民共和国製の教材を使用していた。1994年シンガポール保健省は,伝統中医薬委員会に中医学(TCM)の診療についてのレビューを行うよう指示を出し,患者の利益と安全を守ることを調べるように勧告した。1995年シンガポールのTCMの診療をコントロールし,トレーニングの水準を上げるようにと勧告した委員会の報告が出された。カリキュラム改変の指示を受け,1996年政府保健省の指示に沿う形で,中医学院は西洋医学の基礎学習を充実させ,3年全日制と6年夜間部2コースの設置となった。2000年より全国統一試験が始まり,資格として認められるようになった。シンガポールは,WHOのサポートやNCCAMのグラントを積極的に受け入れ,伝統医学教育,研究に関して,シンガポールは精力的に推進しようとしていると考えられた。
  • 伊藤 隆
    2008 年 59 巻 3 号 p. 511-514
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/13
    ジャーナル フリー
    日本東洋医学会が作成した最初のテキストである入門漢方医学に記述された寒熱,陰陽に関する指摘に対して議論した。
    1)太陽病期の薬は温薬であり,適応となる病態は表熱ではなく表寒ではないかと指摘された。発汗という治病原則においては,悪寒は寒の病態を反映する症状ではなく,生体が体温上昇に赴く一過程と考えられ,太陽病期の病態としては熱が主と考えられている。
    2)陰証,陽証の定義に曖昧な点があり,奥田の定義を採用すべきと指摘された。奥田の定義は傷寒論上で,急性疾患を前提としたものである。しかし,入門漢方医学には慢性疾患,後世方,中医学まで応用可能である必要があり,そのまま採用することはできないと考える。
    現代の漢方医学の教育方略を考える上で症状と病態を区別する態度が重要である。漢方医学のものさしに関する議論に際しては,21世紀の定量的な尺度と伝統医学の定性的な尺度との相違を意識して行うことが望ましい。
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