日本東洋医学会が作成した最初のテキストである入門漢方医学に記述された寒熱,陰陽に関する指摘に対して議論した。
1)太陽病期の薬は温薬であり,適応となる病態は表熱ではなく表寒ではないかと指摘された。発汗という治病原則においては,悪寒は寒の病態を反映する症状ではなく,生体が体温上昇に赴く一過程と考えられ,太陽病期の病態としては熱が主と考えられている。
2)陰証,陽証の定義に曖昧な点があり,奥田の定義を採用すべきと指摘された。奥田の定義は傷寒論上で,急性疾患を前提としたものである。しかし,入門漢方医学には慢性疾患,後世方,中医学まで応用可能である必要があり,そのまま採用することはできないと考える。
現代の漢方医学の教育方略を考える上で症状と病態を区別する態度が重要である。漢方医学のものさしに関する議論に際しては,21世紀の定量的な尺度と伝統医学の定性的な尺度との相違を意識して行うことが望ましい。
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