日本東洋医学雑誌
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66 巻, 4 号
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原著
  • 穴水 聡一郎, 長屋 直樹, 藤 純一郎, 馬渕 茂樹
    2015 年 66 巻 4 号 p. 275-281
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    凍結乾燥ミミズエキス含有サプリメント(Protein Related compound Derived from Redworm,PR-DR)の動脈硬化に対する改善効果を検討した。動脈硬化度検査で血管年齢が実年齢より高いと推定され,同意が得られた19名(女性10名。平均年齢61.5 ± 6.9歳)を対象に,PR-DR を6ヵ月間投与した。その結果,頸動脈エコーにて,内中膜複合体厚(Intima-Media Thickness ; IMT)に基づく指標(IMT-Cmax,maxIMT,プラークスコア)の有意な改善(p < 0.01 ; ウィルコクソン符号順位和検定)を認めた。スタチンやEPA の服用者を除いた13名(女性7名。平均年齢61.2 ± 7.9歳)においても同様であった。PR-DR は,動脈硬化におけるIMT 及びプラークの改善効果を有し,動脈硬化予防や動脈硬化性疾患改善の臨床応用が期待できる。
  • 寺澤 捷年
    2015 年 66 巻 4 号 p. 282-287
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    漢方医学的腹診において臍を中心とした正中線の皮下に索状物を触れることがあり,これを正中芯と呼んでいる。 本稿ではこの索状物をMRI およびCT 撮影によって解剖学的に検討し,臍下部に見られる正中芯は尿膜管遺残であること,そして臍上の正中芯は肝円索であることを明らかにした。これまでの幾つかの著作では,小腹不仁と臍下部正中芯との関係は十分に明らかでは無かったが,このものが,既に報告されているように,小腹不仁を前提にして触知されるものであることから,小腹不仁の範疇に属した特異な兆候とすることが妥当であることを論じた。一方,臍上部の正中芯も,腹壁トーヌスが軟弱であることを前提にして触知可能なものであることを論じた。
  • 佐藤 万代, 山﨑 翼, 矢野 忠, 片山 憲史, 今西 二郎
    2015 年 66 巻 4 号 p. 288-295
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    東洋医学では,顔面の皮膚色などから健康状態を評価する「顔面診」が用いられているが,その有用性についての基礎的な調査は少ない。そこで本研究では,顔面部および前腕部(尺膚)の皮膚色と,質問紙などで評価した健康状態との関連について調査を行い,顔面診の有用性を検討した。
    対象は22~55歳の健常成人30名(男13名,女17名)とし,顔面部,前腕部の皮膚色の測定と,健康状態に関する調査を行った。
    調査の結果,皮膚色と相関関係を認めた健康状態に関する調査項目は,総人数の解析では過去4週間の仕事パフォーマンス,陰虚スコア,男性のみの解析ではBMI,主観的健康感,過去4週間の仕事パフォーマンス,水滞スコア,女性のみの解析では年齢,過去1~2年間および過去4週間の仕事パフォーマンス,陰虚スコアであった。
    本結果より,皮膚色と健康状態の関連が上記の項目において示されたことから,顔面診の一部が有用である可能性が示唆された。
臨床報告
  • 福原 慎也, 千福 貞博
    2015 年 66 巻 4 号 p. 296-301
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    透析患者の便秘は難治性であるばかりか,下剤による透析中の便意出現に対する恐怖や体重調節が困難になるなどの不安も誘発する。今回,難治性便秘症を有する透析患者に潤腸湯を投与し便秘に対する効果と同時に不安感の変化を検討した。対象は維持透析患者で排便困難を自覚し,かつ虚証と判断した14名である。対象者に潤腸湯5.0g -7.5g/日を処方した。排便状態判定には生活状態をconstipation scoring system(以下CSS),便形状をブリストル分類の2方法を用いた。不安感は漢方医学的に気鬱スコアを用いた。その結果,CSS は服用前後で中央値14から4点へと有意に低下した。ブリストル分類も平均1.4から4.3点へと有意に改善,便形状改善を示した。精神面では,気鬱スコアが中央値38から6点へと有意に改善した。以上,潤腸湯は透析患者の難治性便秘症に対して心身両面で有用な薬剤と考えられた。
  • 木村 容子, 佐藤 弘, 伊藤 隆
    2015 年 66 巻 4 号 p. 302-306
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    こむら返りが真武湯で速やかに軽快した3症例を経験した。【症例1】74歳,女性。こむら返りと変形性膝関節症による膝痛を訴え,防已黄耆湯を処方したが効果がなかった。下痢が出現した際に真武湯に転方したところ,膝痛の改善に伴いこむら返りも軽快した。【症例2】77歳,女性。足の浮腫とこむら返りを訴え,当帰芍薬散を服用していた。胃もたれが出現したため,真武湯に転方したところ,足の冷えおよび浮腫の改善に加えこむら返りを認めなくなった。【症例3】79歳,女性。夫との死別後,不安感や焦燥感に対して香蘇散を服用していたが,足の浮腫や冷えを感じるようになり,また,明け方や日中にも足がつりやすくなった。香蘇散に真武湯を追加したところ,足の冷えの改善に伴って,浮腫が減り,足のつることもなくなった。
    裏寒を認め,胃腸虚弱を伴う腎虚を背景としたこむら返りの患者には,真武湯が有効であると考えられた。
  • 大前 隆仁, 松川 義純, 山本 修平, 武原 弘典, 西森(佐藤) 婦美子
    2015 年 66 巻 4 号 p. 307-310
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    レストレスレッグス症候群(RLS)は,主に夜間,下肢に不快な異常感覚を自覚し,睡眠障害の原因となる疾患である。今回,RLS の二症例を経験したので報告する。症例1は60歳男性。他院でRLS と診断され,標準的治療を受けて一定効果があったが,増悪を来した。滋陰降火湯エキス及び桂枝茯苓丸エキスを開始したところ,1週間で睡眠の質が大きく改善し,下肢症状も改善した。症例2は30歳男性。6ヵ月前から下肢に不快な異常感覚が出現し,増悪した。睡眠が障害され,日中の仕事などに支障を来した。滋陰降火湯エキスと柴胡加竜骨牡蠣湯エキスを開始したところ,初服で下肢症状はほぼ消失し,睡眠も良好となり2週間で廃薬とした。
    RLS は夜間に症状が増悪することから陰血の不足があると考える。また,虚熱による手足煩熱を伴う場合は清熱が必要である。二つの点から,滋陰降火湯の有効性が示唆された。
  • 沢井 かおり, 渡辺 賢治
    2015 年 66 巻 4 号 p. 311-315
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    発熱と易疲労感は感染症や悪性腫瘍,膠原病で生じるが,原因不明のことも多い。今回発熱と易疲労感が長期間続く女性に対し,消化器症状に注目して半夏瀉心湯を用いたところ,著明に改善した症例を経験したので報告する。 症例は47歳女性で,3年前月経不順や不正出血とともに発熱と易疲労感が出現した。夕方から38°C弱の発熱があり,朝から倦怠感が強く就業不能のこともあった。血液検査で肝機能,腎機能,炎症反応などに異常はなく,腹部CT 検査は子宮筋腫を認めるのみであった。漢方医学的診断はやや虚証,寒熱錯雑証,気滞・瘀血で,軟便・下痢傾向という消化器症状と心下痞鞕に注目して半夏瀉心湯を投与したところ,1ヵ月で発熱は37°C前後に低下し,身体が楽になって就業不能の日が減った。5ヵ月後には体温が36°C台となり,易疲労感は消失した。半夏瀉心湯は,消化器症状があり心下痞鞕を呈する症例の様々な症状に有効である可能性が示唆された。
  • 中田 真司, 南澤 潔
    2015 年 66 巻 4 号 p. 316-320
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    橘皮枳実生姜湯は金匱要略に胸痺に対する方剤として記載されている。今回,我々は咳嗽に対して本方を投与し奏効した7例を経験した。これらの症例は,咽喉の掻痒感,切れにくい喀痰,喉に乾燥感がない,肌は色白で瑞々しいなどが共通して認められた。橘皮枳実生姜湯は咽喉の掻痒感を伴う咳嗽に対して有用な方剤の1つである可能性が考えられた。
  • 徳毛 敬三
    2015 年 66 巻 4 号 p. 321-326
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    再発卵巣がん症例に対し,gemcitabine(GEM)単剤投与の有効性が確認されている。骨髄毒性につき,血小板減少症といった有害事象があるが,輸血療法以外有効な治療法はない。加味帰脾湯は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の血小板減少に対し約20%に有効という報告があるが,GEM 投与後の血小板減少に対しての有効性についての報告はない。今回grade2の血小板減少に対し,加味帰脾湯を併用した結果,血小板減少が低下し,さらに化学療法に対する意識の変容に対しても有効であった症例を経験したので報告する。症例59歳。GEM 投与1コース目に血小板減少を来し,8コース目まで適宜休薬・減量した。9コース目に加味帰脾湯投与した所,血小板減少低下した。現在17コース目継続投与中で,stable disease(SD)の状態である。加味帰脾湯はGEM 投与後の血小板減少と精神症状を改善できる可能性が示唆された。
  • 濱口 眞輔, 恵川 宏敏, 小澤 継史, 沼田 祐貴, 寺島 哲二, 木村 嘉之, 北島 敏光
    2015 年 66 巻 4 号 p. 327-330
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    慢性痛に対する薬物療法にオピオイドを用いたが,副作用のために治療継続が困難となった慢性痛患者の2症例を経験した。症例1は腰部脊柱管狭窄症による腰下肢痛と眩暈,食欲不振などを主訴とした88歳女性であり,弱オピオイドを処方したが嘔気が強いために中止した。治療のために全身状態の改善が必要と考え,半夏白朮天麻湯を投与した結果,全身状態が改善して痛みの治療を行えた。症例2は膠原病と線維筋痛症のために左頚部の痛み,耳から口にかけての突っ張り感と頭重感を訴えた62歳女性であり,免疫抑制剤と強オピオイド貼付剤で痛みは半減したが,消化器症状と眩暈がみられたため,半夏白朮天麻湯を投与した結果,全身状態が改善して痛みの治療を継続できた。オピオイドによる治療には悪心,嘔吐,食欲低下や眩暈などの副作用が多くみられるため,半夏白朮天麻湯の併用はオピオイドによる副作用軽減の有益な手段になりえると考えられた。
  • 山崎 武俊, 峯 尚志, 土方 康世
    2015 年 66 巻 4 号 p. 331-336
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    動悸を主訴として外来を受診する患者は多いが,不整脈に対して使用される薬剤は副作用も多く,虚証患者には使いづらいのが実情である。今回,我々は虚証の動悸に対して小建中湯が有効であった4症例を経験したので報告する。症例1は67歳女性で動悸を主訴に来院。食欲不振と易疲労感を伴い,心電図で上室性期外収縮を認めた。症例2は83歳女性で動悸を主訴に来院。胃腸虚弱を伴い,心室性期外収縮を認めた。症例3は34歳男性で動悸を主訴に来院。胃腸虚弱と下痢を伴い,Brugada 型心電図を認めた。症例4は71歳女性で動悸を主訴に来院。食欲がなく,下痢しやすい。心疾患を認めなかった。全症例に腹皮拘急を認めた。小建中湯を処方したところ動悸はほぼ消失した。虚証の動悸に対して小建中湯の有効性が示唆された。
  • 角藤 裕, 清水 元気, 山岡 傳一郎
    2015 年 66 巻 4 号 p. 337-341
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    B 型肝炎に伴う非代償性肝硬変により生じた治療抵抗性の腹水に対し茵蔯蒿湯と五苓散料が奏効した一例を経験した。症例は58歳女性。B 型慢性肝炎と糖尿病を無治療で放置しており,外傷に伴う頸部痛で受診した際に黄疸と腹水を指摘され入院した。フロセミドやスピロノラクトンといった利尿薬の効果に乏しく,アルブミン補充でも腹水のコントロールが不良であったが,茵蔯蒿湯合五苓散料を煎薬にて投与したところ1ヵ月余りの間に速やかに改善した。茵蔯五苓散料(煎薬)あるいは五苓散エキスと比較し明らかに効果があったと思われ,特に山梔子や大黄の作用が重要であったと考えられた。
総説
  • —その診断,頻度,臨床像について—
    萬谷 直樹
    2015 年 66 巻 4 号 p. 342-351
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/09
    ジャーナル フリー
    漢方薬による肝障害を正確に診断することは決して容易ではない。漢方薬に対するリンパ球幼若化試験は偽陽性を示しやすい。スコアリングによる診断基準も,漢方薬による肝障害を診断するには特異度が低い。本論文では,漢方薬による肝障害の診断をめぐる問題点について整理し,過去の文献から漢方薬による肝障害の頻度や臨床像について明らかにした。その頻度は,漢方薬全体で0.1%以下,黄芩含有方剤で0.5‐1.0%程度であった。漢方薬による肝障害の症状,肝障害の型,回復期間などは西洋薬とは大差なかった。
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