日本東洋医学雑誌
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60 巻, 6 号
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教育講演
  • —腹診伝承—
    山田 光胤
    2009 年 60 巻 6 号 p. 573-582
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    日本漢方は,診察法として腹診の手法を行う。
    腹診は,四診,すなわち望,聞,問,切診の中の切診の一部ではあるが,診断である証の判定の為に,最も有力な情報が得られる手技である。
    また,腹診は,東亜諸国,諸地域に伝承されている伝統医学の中で,日本で,唯一,独自に発展した診察法である。
    なお,現代行われている腹診は,主に古方,傷寒論系医学におけるものであるが,折衷派医学にも影響が及んでいる。
    さらに,腹診は,形式的認識ではあるが,手技,手法である故,一応の修練,習熟が必要である。
    本稿で,古昔より長年にわたって集積された腹診の知見を解説する。
招待講演
原著
  • 丸山 晋司
    2009 年 60 巻 6 号 p. 591-594
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    性器脱に対する漢方の有用性を検証するため,当院で経験した性器脱症例37例に補中益気湯エキス(7.5g/日)を投与し,症状の変化,脱の程度と有用性の関連,最終的転帰,有害事象の有無を調査した。症例の平均年齢は68.7歳であり,経産回数の平均は2.5回で,未産婦,5回以上の経産婦はいなかった。自覚的に下降感が軽減・消失したもの(著効+有効)は全体の48.9%であった。最終的な転帰は有効で継続中6例,軽快し廃薬となったもの6例,手術となったもの10例,リングペッサリー装用となったもの9例,漢方を中止し経過観察中5例,有害事象にて中止1例であった。補中益気湯は性器脱に対しほぼ50%の有効性があり,リングペッサリーや手術を望まない患者に対してまず試してみる価値のある治療と考えられた。
報告
  • —保険調剤薬局に対するアンケート調査による検討—
    大野 賢二, 関矢 信康, 長谷川 敦, 角野 めぐみ, 平崎 能郎, 久永 明人, 地野 充時, 笠原 裕司, 並木 隆雄, 寺澤 捷年
    2009 年 60 巻 6 号 p. 595-605
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    【目的】漢方薬,特に煎じ薬の調剤や服薬指導の現状および問題点を明らかにするためにアンケート調査を実施した。【対象】千葉大学医学部附属病院・和漢診療科の院外処方箋を応需している保険調剤薬局全15店舗を対象とした。【結果】12店舗の薬局が現行(一律190点)の煎じ薬の調剤料が低いと回答した。生薬専用の分包機を導入していない薬局の調剤時間は,導入している薬局と比較して2倍であった。薬局からの要望では,処方日数や生薬薬味数に準じた調剤料および生薬薬価の見直しが多く挙げられた。また,調剤や服薬指導に従事する薬剤師の約半数が漢方薬に関する知識不足を認識していた。【総括】今後,煎じ薬を調剤できる薬局を確保するためには,煎じ薬の調剤を取り巻く経済的な問題の改善が必要と考えられた。また,漢方薬に精通した薬剤師の育成のため,大学における卒前・卒後教育体制の整備も併せて必要と考えられた。
臨床報告
  • 橋本 すみれ, 関矢 信康, 笠原 裕司, 島田 博文, 木俣 有美子, 奥見 裕邦, 小川 恵子, 来村 昌紀, 大野 賢二, 平崎 能郎 ...
    2009 年 60 巻 6 号 p. 607-610
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    神経因性膀胱による排尿障害に対し半夏白朮天麻湯が有効であった症例を経験した。症例は71歳男性。排尿障害があり,泌尿器科にて弛緩性神経因性膀胱の診断の下,自己導尿と内服薬にて加療されていたが改善が認められなかった。気虚,水滞,気鬱を目標に半夏白朮天麻湯を使用したところ,排尿障害が著明に改善し,自己導尿から離脱し,西洋薬を中止することができた。神経因性膀胱に対する漢方治療は,補腎剤や利水剤,駆瘀血剤などが処方される症例が多いが,気虚,水滞を伴う排尿障害では半夏白朮天麻湯が有効である可能性が示された。
  • 今中 政支, 峯 尚志, 山崎 武俊
    2009 年 60 巻 6 号 p. 611-616
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症の薬物療法の治療成績を向上させるために即効性を期待できる漢方薬を西洋薬に併用し臨床効果を検討した。アレルギー性鼻炎に対する漢方薬として第一選択とされている小青竜湯例(20名)の有効率は45%と芳しくない成績であった。一方,越婢加朮湯例(24名)では有効率64%と良好な成績であった。重症例に処方される麻黄湯,越婢加朮湯併用(大青竜湯の簡便方)例(7名)は有効率72%であった。麻黄と石膏の消炎作用の増強目的に小青竜湯と五虎湯を併用した症例(16名)では有効率87%とさらに良好な結果であった。経口ステロイド薬の使用を余儀なくされた症例は皆無であった。副作用は胃もたれを訴えた1名のみであった。11種類の漢方薬を使用した全体の治療成績は有効率83%と極めて良好な結果であった。漢方薬を併用することにより,薬物療法の臨床効果の向上を図ることができた。
  • —経皮的動脈血酸素飽和度の変動に関する検討—
    松井 龍吉, 小林 祥泰
    2009 年 60 巻 6 号 p. 617-622
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性肺疾患に対し,清肺湯を投与したところ,夜間の呼吸苦症状が改善した症例を経験した。症例は90歳男性。慢性閉塞性肺疾患で治療中,肺炎を合併し,その後在宅酸素治療導入目的にて当院入院。夜間を中心に呼吸苦症状が見られ,24時間酸素飽和度測定を行ったところ,夜間帯を中心に酸素飽和度の低下が見られた。他の内服薬を変更することなく,清肺湯を追加投与したところ夜間の酸素飽和度の低下が見られなくなり,熟睡感が得られ,ADLの改善を認めた。
    清肺湯は肺の熱をさます作用を持つとされ,気道のクリアランスを亢進させ肺胞などの炎症所見を抑制するとされている。本症例においても概日リズムによると考えられる気道内の変化に対し清肺湯が改善効果を示し,呼吸状態の安定化に寄与したと考えられた。
  • 木村 真梨, 柴原 直利, 津田 昌樹, 永田 豊, 藤本 誠, 小尾 龍右, 引網 宏彰, 後藤 博三1, 嶋田 豊
    2009 年 60 巻 6 号 p. 623-628
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    近年,スポーツ選手に対して鍼灸治療が施される機会が増加しているが,局所やトリガーポイントへの単刺法や通電治療を施したとする報告が多い。今回我々は随証治療による鍼灸治療が奏効した水球選手を2例経験したので報告する。症例1は16歳,男性。練習後に右拇指違和感を自覚し,練習時間延長とともに拇指痛が持続するようになり,左手のシビレ感も認めるようになったため,鍼灸治療を行った。原穴への接触鍼,背部兪穴への置鍼などを施術し,治療直後に症状が消失した。症例2は17歳,男性。腰痛を自覚し,その後に首の凝りも認めるようになったことから,鍼灸治療を行った。原穴への接触鍼,背部兪穴及び奇経への治療として、八宗穴への置鍼などを施術し,治療直後より症状が消失した。症例1,症例2ともに随証治療により症状が軽快し,強度な運動の継続も可能となったことから,スポーツ選手に対する証に随った鍼灸治療の有用性が示唆された。
  • 望月 良子, 及川 哲郎, 村主 明彦, 花輪 壽彦
    2009 年 60 巻 6 号 p. 629-633
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    喘息の既往がある31歳,女性。幼小時より認めるアトピー性皮膚炎が悪化し,激しい痒みを自覚し,それと共に気管支喘息の悪化も認めたことから,当研究所漢方外来を受診。汗をかかないことから「表実」,のどの渇きや気管支喘息の既往より「裏の熱と水」,激しい痒みを「煩躁」ととらえ,発汗・清熱を目標に大青竜湯を処方した。気管支喘息の軽快とともに皮膚症状も安定し,激しかった掻破が少なくなり,約26週で症状はほぼ改善した。本症例の特徴の一つは,『激しい瘙痒感』を「煩躁」ととらえたところにある。この解釈により,アトピー性皮膚炎に限らず,痒みが激しい皮膚疾患における大青竜湯の応用はさらに広がるのではないかと考える。麻黄の使用量が多いことから,循環器疾患の既往がない事など既往歴の注意は必要であるが,これまでの報告例を含め検討しても,比較的若年者で実証の患者には他の方剤と同様,長期に投与することは可能であると考える。
  • 石田 和之, 佐藤 弘
    2009 年 60 巻 6 号 p. 635-639
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    症例は8歳と7歳の兄弟。主訴は夜尿症。二人とも幼少期より毎晩夜尿があり,現在まで紙オムツを付けて寝ている。そのうち治るだろうと様子を見ていたが,改善の兆しがないため当研究所を受診した。家族歴として兄弟の父親も小児期に夜尿があり,12歳まで続いていた。診察所見では兄は腹直筋が緊張し非常にくすぐったがり屋であったが,弟には特記すべき所見は無かった。兄は柴胡桂枝湯エキスで,弟は葛根湯エキスにて治療を開始した。しかし,明らかな効果がなかったため12週目から兄弟に六味丸エキスを追加した。併用開始後,兄は14週間で,弟は10週間で夜尿が改善し始め,それぞれ20週,28週で夜尿がほぼ完治した。
    経過からは六味丸の治療効果が推測されるが,二人とも夜尿以外には大きな問題はなく,腎虚を疑わせる所見はなかった。しかしながら,父親・兄弟ともに同様の夜尿であったことから,先天の気(腎気)の問題が疑われた。
  • 関矢 信康, 平崎 能郎, 小川 恵子, 来村 昌紀, 橋本 すみれ, 奥見 裕邦, 木俣 有美子, 久永 明人, 寺澤 捷年
    2009 年 60 巻 6 号 p. 641-646
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    苓甘姜味辛夏仁湯は『金匱要略』を原典とし,慢性の呼吸器,鼻疾患に用いられてきた処方であり,その脈状は沈弱と理解されることが多かった。我々は浮脈を呈するアレルギー性鼻炎の症例に苓甘姜味辛夏仁湯を投与して奏効した。その症例の経験に基づき,2007年1月から2008年3月までに当科を受診した患者のうち,同様の脈状を有し,鼻汁,鼻閉等の鼻症状あるいは喘鳴,息切れ等の呼吸器症状を呈していた16例に本方を4週間投与し,検討をおこなった。その結果,苓甘姜味辛夏仁湯は投与した全ての症例において有効であった。また特徴的な他覚所見として成人の有効例においては全例に心下痞鞕が認められ,胃部振水音あるいは心窩部の冷えを伴っていた。
  • 中山 毅, 田中 一範
    2009 年 60 巻 6 号 p. 647-651
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/03
    ジャーナル フリー
    妊娠中および帝王切開術直後に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯エキスを服用することにより,保存的に加療できた症例を経験した。症例は29歳女性。15歳の時に小腸軸捻転にて開腹歴あり。妊娠11週に癒着性イレウスを発症したため,大建中湯を投与したところ,大量の下痢便を認め症状は軽快。その後,胎児ジストレスにて36週に緊急帝王切開を施行。腹壁前面に小腸の強固な癒着を認めた。術後4日目に術後癒着性イレウスの診断にて,大建中湯を経口投与した。6日目に,軟状便および排ガスを認め,9日目には経口摂取を開始。その後は異常なく25日目に退院した。妊婦の高齢化に伴い,イレウス合併妊娠の報告が数多く認められる。妊娠中は母子ともに,重篤化しやすく外科的処置が必要となることが多いが,妊娠中や出産時に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯を用いることにより,保存的に改善する症例もあると考えられる。
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