日本東洋医学雑誌
Online ISSN : 1882-756X
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64 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
臨床報告
  • 大竹 実, 吉村 彰人, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 上田 晃三, 土倉 潤一郎, 岩永 淳, 矢野 博美, 犬塚 央, 田原 英一, 木 ...
    2013 年 64 巻 5 号 p. 261-264
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    乙字湯は痔疾患の処方として有名である。しかし,我々は口と肛門の解剖学的類似性に着目し,瘀血を伴う口唇炎に乙字湯が奏効した症例を経験した。症例は59歳女性。顔面・頚部の湿疹を主訴に当科を受診した。漢方治療により湿疹は改善傾向となったが,口唇の炎症と瘙痒は持続した。瘀血を目標に乙字湯を合方したところ,症状は改善した。乙字湯には,柴胡,升麻,黄芩,大黄等の清熱薬と血剤である当帰が含まれており,瘀血を主体とした口唇の炎症性疾患にも有効であると考えられる。
  • 盛岡 頼子, 佐藤 弘
    2013 年 64 巻 5 号 p. 265-268
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    経過観察中の気胸患者に,易疲労を目標として補中益気湯を投与したところ,一時的に気胸の改善が認められた症例を経験したため報告する。
    症例は56歳女性。X-3年に右気胸を指摘され,安静治療を行ったが完治せず,経過観察されていた。X 年5月,疲労により気胸が悪化する傾向にあったため,易疲労改善のために補中益気湯エキスを投与したところ,5日後の胸部X 線にて気胸の改善を認めた。しかし,その後再び悪化し,11月に内視鏡的手術が行われた。
    気胸は一般的に漢方治療の適応にはならず,症例報告もみられない。今回,一時的ではあるが,補中益気湯により気胸が改善した可能性が推測され,貴重な症例と思われる。
  • 寺澤 捷年, 小林 亨, 隅越 誠, 横山 浩一, 檜山 幸孝
    2013 年 64 巻 5 号 p. 269-271
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    9歳・女児。X 年6月20日に両側耳痛で発症。5日後から耳痛は軽減したが,次第に音を大きく感じるようになり。約1ヵ月後には様々な音が頭の中で反響する状態となった。この症状の悪化に伴い,頭痛,吐き気,易疲労が出現。食臭過敏となり,米飯の臭いが嫌で摂取できない。魚やカレーライスなども摂取できない。そこで,これを気逆の病態と考え,良枳湯(煎剤)を投与したところ,3週間後,煎剤は一日量の3分の1ほどしか服用できなかったが,聴覚過敏は半減。カレーライスが食べられた。そこで母親と分けあって服用するように指導。その4週間後には諸症状は半減。効果を実感したのであろうか,その後は煎剤1日量を一人で服用するようになった。治療開始後8週間で聴覚過敏,頭痛,嘔吐,易疲労は消失した。
  • 大平 征宏, 齋木 厚人, 大城 崇司, 鈴木 和枝, 龍野 一郎, 白井 厚治, 秋葉 哲生
    2013 年 64 巻 5 号 p. 272-277
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    症例は減量手術後に体重増加を来した51歳女性。若年時より肥満があり,30歳の時に糖尿病を発症した。45歳時には糖尿病性ケトアシドーシスで入院した。48歳時に過食症の診断も受けており,食事・運動療法では減量困難であった。減量手術を受け,体重は減量手術後6ヵ月で11kg 減少した。しかし,術後7ヵ月頃からリバウンドした。この頃,精神状態も不安定であり,日中は常に何かを食べている状態であった。不安定な精神状態の治療を目的に,抑肝散エキス5g/日を投与した。抑肝散投与後,摂取エネルギーの減少に伴って体重は減少した。患者本人も精神状態の改善を自覚した。また,HbA1c(JDS)も抑肝散投与後に8.7%から7.1%に改善した。本症例では抑肝散が患者の精神的不安定を改善することによって過食を抑える事で,体重減少およびHbA1c の改善が得られた可能性が示唆された。
  • 沢井 かおり, 渡辺 賢治
    2013 年 64 巻 5 号 p. 278-281
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    関節痛は,種々の整形外科的疾患や免疫性疾患などで生じるが,原因不明の場合,西洋医学的治療は限られる。今回,原因不明の多発関節痛が,補中益気湯で著明に軽快した症例を経験したので報告する。
    症例は48歳女性,4,5年前から易疲労感,3ヵ月前から多発関節痛がある。関節痛に関する内科的検査で異常はなかったが,疲れと肩・手首などのこわばりや痛みが持続していた。虚実・寒熱の偏りが乏しく,気虚・気滞と診断し,易疲労を重視して補中益気湯を処方したところ,3週後には関節のこわばりや痛みがほとんどなくなった。
    関節リウマチを含む多発関節痛が補中益気湯で軽快した報告はごく少ない。本症例では,慢性疲労症候群に準じた病態に対して,補中益気湯が補気剤として奏効した可能性が示唆された。
    原因不明の多発関節痛では,関節痛に多用される処方以外も選択肢として考えることが重要である。
  • 矢野 博美, 田原 英一, 土倉 潤一郎, 岩永 淳, 犬塚 央, 久保田 正樹, 貝沼 茂三郎, 木村 豪雄, 栗山 一道, 三潴 忠道
    2013 年 64 巻 5 号 p. 282-288
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    入院治療で附子や烏頭を含む方剤が奏功した小児の2症例を報告する。【症例1】13歳女児。アトピー性皮膚炎。ステロイド外用中止後に急激に増悪した。風呂で温まると瘙痒感が軽減するため寒があると考えて茯苓四逆湯(附子1g/日)1/2回量を服用したところ,翌朝全身の皮膚が剥離し健常な皮膚が現れた。茯苓四逆湯(附子1g/日)を毎食前に併用したところ皮膚炎は急速に改善した。【症例2】12歳女児。起立性調節障害。発症時は冷えを自覚し,冬からは倦怠感のために朝起きられなくなり不登校となった。倦怠感が強く,渋脈や足首が冷たいことから寒が強い状態と考え,赤丸料(烏頭2g)を開始した。倦怠感は軽減し,起きられるようになって朝食が摂れるようになり,院内学級に通うことが出来た。難治性アトピー性皮膚炎や強い倦怠感を伴う場合には小児でも強い虚寒証が存在し,附子や烏頭含有方剤が必要な場合もありうるが,中毒には注意を要する。
論説
  • 岩田 健太郎, 野口 善令, 土井 朝子, 西本 隆
    2013 年 64 巻 5 号 p. 289-302
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/28
    ジャーナル フリー
    迅速診断検査(RIDT)とノイラミニダーゼ阻害薬(NI)が開発され,インフルエンザ診療の様相は激変した。しかし,RIDT の感度の低さ,副作用や薬剤耐性など NI の問題もあり,その診療は未だ最適とは言えない。そこで,インフルエンザをウイルスという「モノ」ではなく「現象」として認識し,漢方薬を治療選択に加えた診療意思決定モデルを開発した。まず患者の重症度を吟味し,重症・ハイリスク患者では RIDT に関係なく NI 点滴を基本とする。重症でもハイリスクでもない場合は,NI か漢方薬を患者に選択させ,前者の場合は検査前確率が50%未満で RIDT を用い,それ以上では事後確率への影響の低さから RIDT を行わない。漢方薬では「現象」を対象としているため,原則として RIDT は行わないものとした。本モデルでは RIDT を選択的に行うことで検査属性を活かし,かつ検査の乱用や誤解釈を回避することが可能になる。
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