日本東洋医学雑誌
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60 巻, 4 号
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原著
  • 御影 雅幸, 小野 直美
    2009 年 60 巻 4 号 p. 419-428
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    漢方生薬「芍薬」は,日本ではシャクヤクPaeonia lactiflora Pallas(ボタン科)の栽培根を乾燥したものを使用しているが,中国では「赤芍」と「白芍」に区別して用いている。中国では5世紀には芍薬に赤と白の別があることを認識し,原植物も複数種あった。芍薬の赤・白の区別点については古来,根の色,花の色や花弁の形態,野生品と栽培品の相違などの説があった。本研究で古文献の内容を検討した結果,野生品か栽培品かに関係なく,根の外皮をつけたまま乾燥したものを赤芍,外皮を去って蒸乾したものを白芍としていたと考証した。また明代の湖北,安徽,浙江周辺では,野生品で赤花のP. veitchiiP. obovata Maxim. の根を赤芍とし,栽培品で白花のP. lactifloraの根を加工して白芍薬として使用していたと考察した。このことは芍薬の赤白がたまたま花色と一致したため,赤芍は赤花,白芍は白花とされ,同様に赤芍は野生品,白芍は栽培品として区別する習慣ができたものと考察した。
  • 堂井 美里, 御影 雅幸
    2009 年 60 巻 4 号 p. 429-434
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    漢方生薬「大黄」は中国で古来,酒による修治(酒製)が行われてきた。大黄の酒製には酒浸,酒洗及び酒炒の3種があり,現在も「酒大黄」と称する酒炒品が用いられているが,酒製法の違いによる薬効の相違点や酒炒品が使用され始めた経緯は明確でない。本研究では,理論的治療を目的とした金元代以降の古文献の記載内容を調査した結果,「酒浸大黄」の薬効は活血など駆瘀血,「酒洗大黄」の薬効は瀉下または健胃であり,「酒炒大黄」は医方家の間で使用され,明代には「酒浸大黄」及び「酒洗大黄」と同様の薬効を期待して用いられていたと考察した。
  • —漢方薬に対する患者の認識とコンプライアンス—
    五十嵐 信智, 伊藤 清美, 木村 孝良, 秋葉 哲生, 入江 祥史, 渡辺 賀子, 福澤 素子, 石井 弘一, 渡辺 賢治, 杉山 清
    2009 年 60 巻 4 号 p. 435-442
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    近年,臨床において漢方薬を治療に用いる医師が増加し,西洋薬とともに漢方薬が処方される機会が多くなってきた。本研究では,慶應義塾大学病院漢方クリニックに来院した外来患者を対象とし,漢方薬に対する患者の認識およびコンプライアンスなどについてアンケート調査を行った。
    98%の患者が顆粒剤の漢方薬を服用しており,そのうち約3割は「味がまずい」などの理由で飲みにくいと回答した。60%の患者は漢方薬を1日3回服用しているが,昼に飲み忘れる場合が多く,1日の服用回数として2回を希望している患者が多かった。また,漢方薬の剤形として顆粒剤と並んで錠剤を希望している患者が多かった。
    本研究の結果より,漢方専門外来受診患者の漢方薬に対する認識が明らかとなった。今後,医師および薬剤師は,漢方薬に対する患者のこのような認識を把握し,患者に適した治療を行っていく必要があると考えられる。
臨床報告
  • 関矢 信康, 笠原 裕司, 地野 充時, 並木 隆雄, 平崎 能郎, 来村 昌樹, 小川 恵子, 橋本 すみれ, 大野 賢二, 寺澤 捷年
    2009 年 60 巻 4 号 p. 443-447
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    茯苓飲合半夏厚朴湯あるいは半夏厚朴湯の奏効した凍瘡の4症例を経験した。4例に共通した他覚所見として舌の腫大,臍上悸,腹部の鼓音が認められた。さらに触診上,手関節および足関節より末梢では体幹から遠位であるほど体表温度の低下を認めた。4症例には,いずれも著明な気うつおよび水毒の症候があり,そのうち茯苓飲合半夏厚朴湯を投与した2症例においては強い気虚の状が認められた。いずれの症例においても効果の発現が速やかであった。通常の西洋医学的あるいは漢方医学的治療に応じない凍瘡に対して,茯苓飲合半夏厚朴湯および半夏厚朴湯は試用する価値のある処方と考えられた。
  • 山中 章好, 古橋 健彦, 菅谷 亜弓, 梅川 宏司, 真鈴川 聡, 金子 幸夫
    2009 年 60 巻 4 号 p. 449-454
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    我々は,水疱性類天疱瘡の診断でステロイドの外用と内服剤などの標準的な治療を施されていたが寛解に至っていなかった患者に対し,医宗金鑑の清脾除湿飲加減を用いて完全寛解した一例を経験したので報告する。症例は,78才の女性で,2年前より背中に5mm~25mmの水疱が出現して近医を受診,水疱性類天疱瘡と診断され,ステロイドの外用と内服剤による治療を受けた。しかし,症状が改善と悪化を繰り返したので,湯液による漢方治療を希望して当院を受診した。患者の皮疹は四診に従って水疱性類天疱瘡の中の心火脾湿型と弁証し,清脾除湿飲加減を投与し,約10カ月の治療で皮疹は完全寛解した。以上より,水疱性類天疱瘡の中の心火脾湿型に対しては,医宗金鑑の清脾除湿飲加減が有効である可能性が示唆された。
  • 中江 啓晴
    2009 年 60 巻 4 号 p. 455-458
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    硬膜穿刺後頭痛は腰椎穿刺後に生じる頭痛である。今回,非常に強い硬膜穿刺後頭痛に五苓散が奏効した2症例を報告する。症例1は37歳男性,症例2は36歳女性で,腰椎穿刺の直後から起立性頭痛が出現。硬膜穿刺後頭痛と診断,五苓散の内服を開始したところ改善した。五苓散は利水剤であり,水毒に対する処方である。硬膜穿刺後頭痛は国際頭痛分類第2版では低髄液圧による頭痛に分類されている。今回,髄液を津液,低髄液圧を水の偏在すなわち水毒と考え,五苓散を投与したところ改善が得られた。硬膜穿刺後頭痛に対する五苓散の有効性が示唆された。
  • 地野 充時, 関矢 信康, 大野 賢二, 橋本 すみれ, 小川 恵子, 来村 昌紀, 平崎 能郎, 笠原 裕司, 喜多 敏明, 並木 隆雄, ...
    2009 年 60 巻 4 号 p. 459-463
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    手術そのものは成功したにもかかわらず,器質的原因が明確でない様々な愁訴が手術後に出現することがある。今回,開腹術後に出現した愁訴に対し,香蘇散料が有効であった2症例を経験した。主訴は症例1では食欲不振,症例2では不安感であった。いずれの症例も和漢診療学的には気鬱と考え,香蘇散料を処方したところ,速やかに症状の改善を認めた。香蘇散は和漢診療学的には気鬱を改善する処方であるが,我々が検索した限りでは開腹術後に出現した愁訴に香蘇散が有効であったという報告はない。開腹術後愁訴はQOL低下の原因となり,ひいては医療不信につながる可能性もある重要な問題である。今回提示した症例のように開腹術後愁訴に対する和漢薬治療の導入は,有用な治療の選択肢になりうると考えられる。
  • 関矢 信康, 笠原 裕司, 地野 充時, 並木 隆雄, 平崎 能郎, 来村 昌紀, 小川 恵子, 橋本 すみれ, 奥見 裕邦, 木俣 有美子 ...
    2009 年 60 巻 4 号 p. 465-469
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    桂枝加苓朮附湯は『方機』を出典とし,神経痛や関節痛を目標に使用されてきた。今回,我々はクローン病,子宮内膜症,直腸癌術後,急性胃腸炎,メニエル病に対して本方を投与し,奏効した諸例を経験した。本方を処方する際には『皇漢医学』に記載されているように桂枝加芍薬湯と真武湯あるいは苓桂朮甘湯の方意を持つことを念頭に置くことが重要であり,様々な疾患に対して応用が可能であると考えられた。
  • 中永 士師明
    2009 年 60 巻 4 号 p. 471-476
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/13
    ジャーナル フリー
    芍薬甘草湯は筋弛緩目的に使用される漢方薬である。今回,破傷風の全身痙攣の緩和目的に芍薬甘草湯を併用した1例を経験した。患者は32歳の男性で,飼い犬に咬まれた咬傷から破傷風を発症した。全身痙攣に対してプロポフォールを投与し,芍薬甘草湯も併用したところ,プロポフォールを漸減することができた。持続勃起症,腹痛,振戦,不眠などが一過性にみられたが,芍薬甘草湯の服用を継続することで消失した。患者は後遺症なく第14病日に退院した。これまでに破傷風に芍薬甘草湯を使用した報告はないが,筋痙攣の制御や自律神経系過緊張の緩和を目標に使用できると思われた。
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