日本東洋医学雑誌
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58 巻, 5 号
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学術賞受賞講演
  • 花輪 壽彦
    2007 年 58 巻 5 号 p. 833-845
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    いわゆる「気剤」の特質を解明する一連の研究の概要を述べる。ヒトによる検証は, 電子瞳孔計による評価, 酸素飽和度, 心拍変動による評価, PWV (Pulse Wave Velocity・脈波伝播速度) による評価, 腹部超音波法による評価, 遺伝子解析による評価の5項目について行なった。動物実験による検証は, 抗鬱モデルマウスによる評価, 抗不安モデルマウスによる評価をした。
    代表的な気剤である香蘇散と半夏厚朴湯の作用機序の相違点は電子瞳孔計による評価によれば, 半夏厚朴湯は交感神経優位群について, 有意に交感神経の緊張を取る方向に働いていることが判った。一方, 香蘇散は副交感神経優位群において交感神経系を刺激する形でバランスを正常に近づけるように作用した。
    酸素飽和度による検討では香蘇散によって, 精神活動の活性化や抑鬱傾向の改善は, 脳の組織酸素飽和度の上昇と関連しているのではないかということが示唆された。PWV (Pulse Wave Velocity・脈波伝播速度) による評価では半夏厚朴湯は, 主として交感神経の緊張を取ることによって, 血管の弾力が軟らかくなることが示唆された。腹部超音波法による評価では半夏厚朴湯は健常者では変化がないのに対して, FD患者では胃の排出能の回復, 下部消化管の腸管ガスの減少が判り, 半夏厚朴湯が腹満を治すことの一端を解明した。
    遺伝子解析による評価では香蘇散証で服用前に発現が多く, 服用後に減る遺伝子として, 知覚関係や神経伝達物質関係, 神経筋シナプス形成, 特にアレルギー関係などは非常に強く出た。また, 香蘇散証で服用前に発現が少なく, 服用後に増える遺伝子として, ウイルスの感染や好中球のバクテリア貪食作用 (phagocytosis) ということで, ウイルスや細菌感染などに対する防御作用が香蘇散証にはあることが示唆された。
    動物実験ではマイルドストレス負荷による鬱病モデルマウスを用いた結果として, 視床下部―下垂体―副腎系の機能がストレスによって異常亢進している場合に, 香蘇散はそれを抑制する。一方, ガラス玉隠し行動の評価により, 香蘇散が不安・強迫性障害に有効であることが判ったが, 鬱状態と不安に対して異なる作用機序を持つ可能性が示唆された。
臨床報告
  • 平岩 久幸, 太田 庸子, 平岩 里佳, 金津 幸子, 廣瀬 方志, 伊達 伸也
    2007 年 58 巻 5 号 p. 847-852
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    2004/05シーズンのA型インフルエンザ感染症の障害児・者施設における流行状況を把握し, 漢方薬による予防効果について後方視的に検討した。全国のサーベイランスの結果から, このシーズンはB型の流行と例年より遅くまで流行したA型がワクチン株と抗原性が異なっていたため, ワクチンなど通常の予防対策では有効でなかったと推測された。全員, インフルエンザワクチン接種にも関わらず, 2005年3月末から5月末の約2カ月間に, 施設利用者の47.8% (43/90), 職員22.7% (25/110) が罹患した。漢方薬内服の有無では罹患率の差はなかった。しかし漢方薬内服者のうち, 補剤と非補剤を比較すると罹患率に有意差 (p<0.05) が見られた。補剤の十全大補湯を内服していた8例では2例のみの罹患であった。日常の健康管理上, 補剤の投与が障害児・者の集団感染予防に役立つ可能性が示唆された。補剤と免疫賦活機能についても若干の考察を加えた。
  • 假野 隆司, 土方 康世, 清水 正彦, 河田 佳代子, 日笠 久美, 後山 尚久
    2007 年 58 巻 5 号 p. 853-859
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    西洋医学では一般的なタイミング療法・ステップアップ療法 (人工授精, 体外受精) を受け, 最終治療の体外受精で胚のグレードが不良であったため, 不妊症の原因が優良卵子枯渇にあると診断された二症例に対して卵管機能と造精機能が正常であることを確認したうえで, 随証漢方単独療法を行い二ヵ月以内に妊娠が成立して生児を獲得した二例を経験した。一例は血虚, 気虚を伴う裏寒証の太陰病と診断して当帰四逆加呉茱萸生姜湯を投与したところ当該周期に妊娠が成立した。一例は気逆, お血, 水毒を伴う上熱下寒の虚証の少陽病と診断して加味逍遙散・安中散を投与したところ二ヵ月目に妊娠が成立した。診断治療学的に今回の二症例は卵巣機能不全不妊症と推測され体外受精の適応ではない事が示唆された。随証漢方療法は関連機能を含む卵胞機能と黄体機能を改善する。体外受精の適応は卵管不妊症と男性不妊症であり, 本来適応ではない卵巣機能不全不妊症を対象に行う限り随証漢方療法を凌駕する事はないと考えられる。卵巣機能不全不妊症には抗エストロゲン作用を有するクロミフェンではなく, 駆お血作用, 利水作用, 理血作用によって卵巣機能を賦活する漢方方剤の随証療法がファーストチョイスと考えるべきであろう。
  • 井上 博喜, 岡 洋志, 八木 清貴, 野上 達也, 小尾 龍右, 引網 宏彰, 後藤 博三, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2007 年 58 巻 5 号 p. 861-865
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    呉茱萸湯が奏効した難治性のあい気の一例を報告した。症例は74歳の女性。あい気, 腹部膨満感, 食欲不振のため7回の入院歴があり, 様々な方剤で加療されたが, 症状は消長を繰り返していた。呉茱萸湯を投与したところあい気はほぼ消失し, 食欲も改善した。あい気に使用される方剤は少陽病の方剤が多いが, 陰証で心下痞こうと胸脇苦満を伴うあい気には呉茱萸湯が有効である可能性が示唆された。
東洋医学の広場
  • 西村 甲, 前嶋 啓孝, 荒浪 暁彦, 渡邉 賀子, 福澤 素子, 石井 弘一, 秋葉 哲生, 渡辺 賢治
    2007 年 58 巻 5 号 p. 867-870
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    背景 : 2002年以降, メディア, 出版, インターネットなどを通して様々な活動を行ってきたが, その効果あるいは外来患者の特徴について検討することがなかった。
    目的と方法 : 当漢方クリニック受診患者の特徴とこれまでの広報活動の効果を調査し, 将来のクリニックのあり方について検討した。平成16年11月から1年間に当クリニックを初診した患者791例 (男229, 女562) を対象に受診に至る紹介・情報源, 年齢性構成, 疾患領域について調査した。
    結果 : 紹介・情報源に関しては, インターネットによるものが最も多く, 他施設からの紹介が極めて低かった。女性は男性の3倍前後を占めた。患者数は女性では30歳代が最も多く, 男性では全年齢で同様であった。16歳未満と70歳以上の患者数に男女差がみられなかった。疾患領域では, 内科, 産婦人科, 皮膚科疾患が66.9%を占めた。
    結論 : インターネット・ホームページによる漢方診療に関する情報提供が, 患者数増加に有用であることが示唆された。紹介率が極めて低いことから, 内科, 皮膚科, 産婦人科を中心に病診連携機能を高めていく必要がある。
  • 久保田 達也, 高木 嘉子, 盛 克己, 宮崎 瑞明, 中村 謙介, 今田屋 章
    2007 年 58 巻 5 号 p. 871-897
    発行日: 2007/09/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
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