日本東洋医学雑誌
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68 巻, 4 号
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原著
  • 小池 宙, 山田 享弘, 堀場 裕子, 渡辺 賢治
    2017 年 68 巻 4 号 p. 307-316
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    緒言:甘草瀉心湯は現代,『金匱要略』に書かれた人参を含む7味の方剤が一般的に使用される。しかし『宋板傷寒論』には人参を含まない6味の甘草瀉心湯が記されている。今回,古医書から現代までの甘草瀉心湯の人参の有無に関する記述を検討した。
    方法:近現代日本,残存する宋改前後の古医書,江戸時代の医書の甘草瀉心湯の記述を検討した。
    結果:甘草瀉心湯の人参に関する論考は近現代では1論文のみ存在し,『金匱要略』以外の宋改前後の古医書では甘草瀉心湯は人参を含まない6味と記していることを確認していた。今回の検討ではさらに,一部の書に人参を加えることもあるとの記述を確認した。江戸時代の医書の大部分では甘草瀉心湯は人参を含む7味と記していた。
    考察:甘草瀉心湯は『金匱要略』では狐惑に,『宋板傷寒論』では激しい下痢に使用される。激しい下痢に対する人参のない6味の甘草瀉心湯の有効性は確認される必要がある。

臨床報告
  • 永田 豊, 小山 俊平, 青山 和史, 貝塚 真知子, 中川 のぶ子, 長坂 和彦
    2017 年 68 巻 4 号 p. 317-323
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    桂枝加竜骨牡蛎湯と甘麦大棗湯を兼用して投与し,精神症状が緩和された不安症/不安障害(以下,不安症)の4症例を報告する。共通した背景として,精神的ストレスの原因となる出来事を経験していた。さらに精神的ストレスへの曝露,再体験や再想起で精神症状の悪化がみられ,その時期には,甘麦大棗湯の兼用が有効であった。他覚的には,数脈で脈力と腹力が共に弱く,臍上悸を共通して認めた。欠伸は顕著でなかった。不安症や,ストレスに関連した精神障害を呈する患者に対して,しばしば漢方治療が有効となる。しかし,単独の漢方エキス方剤が奏功しない症例も多く,無効例に対して,桂枝加竜骨牡蛎湯と甘麦大棗湯の2剤の兼用または合方を応用しうる可能性が示唆された。

  • 伏見 章, 山岡 秀樹, 永田 耕一, 鹿野 美弘, 井口 敬一
    2017 年 68 巻 4 号 p. 324-332
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    慢性腎臓病に対する薬物療法の主体は西洋医学的治療であり,東洋医学的アプローチの推奨は記述されていない。 今回,腎炎・腎機能改善作用が報告されている単一成分の生薬“黄耆”に着目し,使用経験を解析し臨床的な特徴を検討した。対象症例は22例で性別,75歳以上,未満,CKD 罹患期間,開始1年前の推算GFR(eGFR)低下速度,開始時の蛋白尿の存在,糖尿病の有無に関係なく,全ての患者においてeGFR 値の改善を認めた。さらに診察室血圧変動幅と尿蛋白定性も改善を認めた。黄耆は,臨床的な特徴,重症度,原因疾患に関係なく,CKD に対し有効で安全に使用できる可能性がある。

  • 星野 朝文, 岡村 麻子, 玉野 雅裕, 加藤 士郎
    2017 年 68 巻 4 号 p. 333-338
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    頭頸部癌に対しセツキシマブのような分子標的薬が用いられるようになってきた。その問題点として,痤瘡様皮疹や爪囲炎などの皮膚合併症が比較的高率に起こることが挙げられる。これに対して,ミノサイクリンの内服や,ヘパリン類似物質やステロイド軟膏が一般的に使用されるが,それらでは十分コントロールできない難治性皮膚合併症もある。症例は50代男性。主訴は,鼻腔癌再発に対してのセツキシマブ長期使用に伴う爪囲炎,下肢の紅色丘疹と褐色斑。温清飲の内服,足趾への紫雲膏の塗布を開始したところ,下肢の皮疹は徐々に改善し,爪囲炎による母趾からの滲出液は減少し,ステロイド軟膏の使用が不要となり,皮膚病変のコントロールが良好となった。一般的な治療に難渋する場合には温清飲の内服とともに,足の爪囲炎などの審美上の問題がない部位には,紫雲膏の使用も選択肢の一つとなると考える。

  • 古谷 陽一
    2017 年 68 巻 4 号 p. 339-344
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    当帰芍薬散加地黄に相当するエキス製剤2剤の併用が有効であった16症例を経験したので報告する。全例女性で年齢の中央値35.5歳(範囲22-62歳),疾患は不妊症5例,皮膚疾患5例,婦人科疾患2例,冷え症2例,オトガイ神経知覚異常と倦怠感それぞれ1例。全症例で当帰芍薬散証に強い血虚を認めていた。不妊症5例は全て治療1年以内に妊娠した。他疾患は症状の程度が初診時の半分以下までに軽減した。掌蹠膿疱症の1例と慢性湿疹ではステロイド外用剤なしでも良好な状態となった。当帰芍薬散証で血虚の程度が強い場合,加地黄が有用だと思われる。

  • 澤井 一智, 山崎 武俊, 峯 尚志
    2017 年 68 巻 4 号 p. 345-351
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    釣藤散が有効であった難治性一過性脳虚血発作(TIA)の1症例を報告する。64歳女性。主訴は繰り返す右片麻痺,構音障害発作。23ヵ月前に右片麻痺,構音障害が出現し,MRI で左内包後脚の脳梗塞を指摘され加療されたが,後遺症はなかった。4ヵ月前から週に3~4回,40~50分持続する右片麻痺,構音障害発作が出現し,TIA と診断され入院,直接トロンビン阻害剤,抗血小板薬2剤併用療法,スタチン,カルシウム拮抗剤,ベンゾジアゼピンを含む治療を4ヵ月継続したが改善せず,発作が持続するまま当院紹介となった。強い不安感や発作時の眩暈を伴い釣藤散7.5g の内服を開始した。1週間で発作頻度は減少したが,自己中断で再び増悪した。釣藤散再開3ヵ月で発作は完全に消失し,再投与17ヵ月後の現在まで発作は14ヵ月認めていない。釣藤散は現代医学的研究でも脳血管疾患への効果が示されており,治療抵抗性のTIA に有効な治療薬と示唆された。

  • 中西 美保, 岸田 友紀, 田上 真次, 馬場 孝輔, 萩原 圭祐
    2017 年 68 巻 4 号 p. 352-357
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    妄想型統合失調症の治療中に出現した,無為,自閉,倦怠感,抑うつ等の陰性症状に対して,加味逍遥散と補中益気湯が奏功した症例を経験した。陰性症状に対する治療は,薬物療法や心理社会的療法の有効性が示されつつあるが,これらの治療に抵抗性を示す症例も多い。統合失調症に対する漢方薬治療は,従来の陽性症状に対する補助的治療に留まらず,陰性症状にも幅広く有用な治療であると考えられた。

  • 瀧波 慶和, 三田 建一郎, 長井 篤, 山川 淳一, 小原 洋昭
    2017 年 68 巻 4 号 p. 358-361
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    77歳男性,主訴:左下顎部痛と重だるさ。左下顎部を中心に痛みがあり,近医で三叉神経痛第3枝領域と診断された。カルバマゼピンの処方により一時的に痛みは治まったが,再度同部位の焼けつくような痛みが出現し,当院ペインクリニック外来に紹介となった。1日に数十回の瞬間的な強い発作があり,うつ気分,食欲不振,意欲低下,口渇,下肢冷感,皮膚乾燥,舌診では紅色,やや腫大し,辺縁歯痕,舌尖紅,白苔。脈診で沈,腹診では腹力は虚(2/5)で心下痞,小腹不仁を認めた。下顎神経ブロックにより痛みは一時消失するが再燃を繰り返す状態で,この間も重だるさは継続していた。初診から35ヵ月後に,重だるさに対して抑肝散エキス7.5g/分3を処方したところ重だるさは消失した。1年6ヵ月経過した現在も下顎神経ブロックおよび鎮痛剤なしで経過している。

  • 平林 香, 佐藤 浩子, 佐藤 真人, 田村 遵一
    2017 年 68 巻 4 号 p. 362-365
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    自閉症スペクトラム障害がベースと考えられた小児の不安障害・起立性調節障害に対し,西洋医学との併用により黄耆建中湯が奏功した一例を経験した。症例は10代女性,以前から頸部痛を自覚。中学校に入学後,他の生徒との交流で恐怖と動悸を感じるようになり,起床困難,頭痛,立ちくらみ,食欲不振などの症状を自覚した。小児科で自閉症スペクトラム障害をベースとした不安障害,起立性障害と考えられアリピプラゾールおよびミドドリン塩酸塩を処方された。一方で易疲労感や起立性調節障害に対し漢方治療目的に紹介受診。気虚,気逆,水滞,肝気虚で「諸不足」の病態と考え,黄耆建中湯エキス製剤9g/日を処方したところ症状が改善。心身症的要素の認められる起立性調節障害において肝気虚は考慮すべき病態であり,黄耆建中湯はこのような病態に対する処方の一つと考えられた。

  • 濱口 眞輔, 小松崎 誠, 北島 敏光, 恵川 宏敏
    2017 年 68 巻 4 号 p. 366-371
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    当院を受診した腰椎疾患のうち,変形性腰椎症,腰部脊柱管狭窄症,腰椎手術後症候群による下肢の痛み,冷え,痺れを呈する患者を診療記録から抽出し,漢方薬による治療効果について調査した。評価項目は下肢の痛み,冷え,痺れの有無,先行した疼痛治療法,選択した方剤とその効果とした。その結果,これらの疾患による下肢痛,冷感,痺れに対して,証に随って先行鎮痛治療に追加した漢方薬としては桂枝加朮附湯,真武湯,苓姜朮甘湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,牛車腎気丸,芍薬甘草湯の処方例が多く,痛みは60例中32例(53%),痛みと冷えの合併には34例中17例(50%)と概ね半数の症例に効果がみられたが,痛みと痺れの改善は19例中4例(21%)のみであった。桂枝加朮附湯,苓姜朮甘湯,牛車腎気丸,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,真武湯の先行鎮痛治療への追加処方は腰痛疾患による下肢症状緩和に有用であると結論した。

  • 福嶋 裕造, 井藤 久雄, 田頭 秀悟, 栁原 茂人, 中村 陽祐, 藤田 良介
    2017 年 68 巻 4 号 p. 372-376
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    crowned dens syndrome は高齢者に発生する軸椎歯突起周囲の石灰化を伴う偽痛風で再発も多い。今回漢方薬が著効したcrowned dens syndrome の1例を経験したので報告する。
    症例は85歳女性で誘因なく頚部痛,頚部自動運動時痛があり3日後に当院受診した。両側上位頚部の圧痛がありコンピューター断層撮影(CT,computed tomography)で軸椎歯突起周囲の石灰化と血液検査で炎症所見を認め,crowned dens syndrome と診断した。既往歴に胃潰瘍があり治療中で非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs, non-steroidal anti-inflammatory drugs)は使用できず同日より越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯を投与した。6日後には副作用もなく頚部痛,両側上位頚椎の圧痛,血液検査での炎症所見は軽快したため,投薬を中止し治療を終了した。

  • 萬谷 直樹, 岡 洋志, 渡邊 妙子, 長崎 直美
    2017 年 68 巻 4 号 p. 377-381
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    黄芩含有漢方薬による肝障害の頻度を推定するため,当院の全てのカルテをレトロスペクティブに調査した。黄芩含有方剤を服用した2430例のうち,1547例(63.7%)で肝機能検査が施行されていた。1547例のうち黄芩含有漢方薬による肝障害が否定できない例を19例(1.2%)みとめた。その肝障害の臨床像は過去の報告と大差がなかった。 今回の調査でも黄芩含有方剤による肝障害の頻度は1%前後であると推測され,過去の文献報告と一致していた。

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