日本東洋医学雑誌
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73 巻, 2 号
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総説
  • —日本東洋医学会のCOVID-19に対する取り組みと学会主導臨床研究について—
    高山 真, 並木 隆雄, 小田口 浩, 三谷 和男, 矢久保 修嗣, 久永 明人, 貝沼 茂三郎, 伊藤 隆
    原稿種別: 総説
    2022 年 73 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    日本東洋医学会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するエビデンス構築のため学会主導臨床研究を立ち上げ,漢方薬の特徴を踏まえて,①体調を整えて免疫賦活し発病を予防(未病),②軽症・中等症における症状緩和,重症化抑制(発病急性期~亜急性期),③早期回復,遷延症状対策(病後期)などの漢方的観点から4つの主導研究を推進した。企画運営を担当した運営委員会特別ワーキンググループがパンデミック宣言からこれまでに行った,学会員への広報活動,他学会への働きかけ,研究プロトコル作成,研究グループ構築,倫理審査,研究公開システム対応,プロトコル論文作成,根拠となる総説作成,症例報告募集,中医薬使用に関する注意喚起,研究支援資金依頼,学会ホームページ改定,などについて報告するとともに,本疾患に対する漢方的な視点からの解釈や漢方薬選択の方向性について述べる。

論説
  • 郷治 光廣
    原稿種別: 論説
    2022 年 73 巻 2 号 p. 126-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    傷寒論には六種類の病変がある。そのうち厥陰病だけは,病態,症状,治療法など,最も理解しがたい病変となっている。すなわち厥陰病は,熱症状と寒症状が交代して出現する(寒熱錯雑),または上半身が熱症状で下半身が寒症状になる(上熱下寒),または寒だけの症状になる,などのさまざまな症状を呈することから,その病態についてよく分かっていなかったのであろう。本稿では,とりあえずそれらの症状を基に,厥陰病をいくつかの病型に分類してみた。そして,傷寒論の条文と処方から,それらの病型の解説を試みた。

原著
  • ~当院における10年間の連続全98例について~
    渡邊 悠紀, 並木 隆雄, 中村 道美, 龍 興一, 島田 博文, 根津 雅彦, 和泉 裕子, 八木 明男, 平崎 能郎, 下条 直樹
    原稿種別: 原著
    2022 年 73 巻 2 号 p. 137-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    小児に対して,漢方医学に基づいた診断(証)も含めての効果検証は少ない。我々は現代医学での治療に抵抗性のあり,慢性化した小児に対して,漢方治療を専門に行う医師が処方した漢方薬併用療法の効果の後ろ向き観察研究をした。

    過去10年間に千葉大学医学部附属病院和漢診療科を受診した小児98(未就学児(PS)21,小学生(ES)37,中学生(JS)40)人に対して,診療録から患者背景,主訴,紹介元の科,漢方薬の有効性を検討した。効果判定は症状の変化から分類した

    75人(76%)に症状の改善を認め,悪化は無かった。PS は皮膚疾患,ES は消化器疾患,JS は循環器疾患の主訴が多かった。全群で小児科からの紹介が多く,JS の3割は精神科からの紹介だった。PS・ES は JS に比べ有意に効果を認めた(p =0.025)。

    現代医学に治療抵抗性がある小児に対する証も含めた漢方薬併用は有用であった。

調査報告
  • —漢方医学書籍編纂委員会・生薬効能標準化ワーキンググループ報告—
    牧野 利明, 石井 智子, 飛奈 良治, 鈴木 達彦, 並木 隆雄
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 146-175
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    病院や薬局での漢方薬の利用が拡大しており,漢方薬とその成分に関する体系的な教育が急務となっている.漢方製剤の効能は国レベルで承認されているが,その構成生薬の効能は,一部のものを除いて個々の生薬には承認されていない.その結果,生薬学,漢方医薬学の教科書における個々の生薬の効能の表記は,著者によって大きく異なる.この状況を解決するために,先行研究では医療用漢方製剤で使用される生薬の効能の西洋医学用語での標準化案を提案した.本研究では,17世紀から現在までに日本国内で出版された本草書,教科書における漢方医学用語での効能を示す用語をレビューし,漢方医学用語での生薬の効能の標準案を提示できる可能性を検討した.生薬の効能の標準化案は,その用語の出現頻度の高さによって提案した.

臨床報告
  • 磯部 哲也
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 176-181
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    アトピー性皮膚炎患者に対して当院で漢方治療を施した70症例を対象とし証を考慮して方剤選択を行った計237処方について集計した。

    ステロイド外用薬が不要となった症例を「著効症例」,ステロイド外用薬使用量が漢方薬使用前から50%以上減少した症例+著効症例を「有効症例」とし,それらの割合を著効率,有効率と定義した。

    全症例に対して有効率は温清飲56.3%>当帰飲子50.0%>荊芥連翹湯41.0%>他,著効率は温清飲25.0%>当帰飲子16.7%>梔子柏皮湯15.8%>荊芥連翹湯13.1%>他となった。

    発赤タイプに対して有効率・著効率共に温清飲>梔子柏皮湯>荊芥連翹湯>他となり,湿潤タイプに対して有効率・著効率共に温清飲>消風散となった。

    今後,証の判定が困難な状態で処方する必要に迫られた場合には温清飲を第一処方とし,第二処方として皮膚状態に基づき消風散,梔子柏皮湯,当帰飲子を選ぶべきである。

  • 加藤 果林, 上田 真帆, 植月 信雄, 谷川 聖明
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    静脈等の穿刺後に生じる穿刺後痛は稀有な合併症であるが,標準的な治療法が存在せず,治療に難渋することがある。穿刺後痛は穿刺針による神経障害が痛みの原因と考えられることが多いが,神経障害性疼痛ではなく,侵害受容性疼痛と考えられる穿刺後痛も存在する。症例1は右手背静脈を穿刺され,痛みとしびれが残存するために受傷9日後にペインクリニックを受診。症例2は左橈骨動脈と左手背静脈を穿刺され,痛みが続くために受傷16日後にペインクリニックを受診。症例3は右肘正中静脈を穿刺され,痛みが続くために受傷6日後にペインクリニックを受診。穿刺部位の内出血や局所の疼痛・圧痛を瘀血と捉えて3症例とも治打撲一方を投与したところ,疼痛が改善した。今回,穿刺後痛を「打撲の痛み」と捉え,局所の圧痛と内出血を瘀血と捉えることにより治打撲一方が奏功した3例を経験したので報告する。

  • —単施設での12例の後ろ向き症例集積研究—
    玉田 聡, 加藤 実, 山崎 健史, 安田 早也香, 井口 太郎
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 187-189
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    放射線性出血性膀胱炎に伴う血尿に対する猪苓湯合四物湯の有効性を検討した。経過観察できた11人の患者のうち肉眼的血尿が消失した症例は8例であった。肉眼的血尿が消失するまでの期間は中央値で74日であった。再燃した症例は認めなかった。無効であった3例のうち1例は尿路変向術,2例には経尿道的電気凝固術,高圧酸素療法が行われた。猪苓湯合四物湯使用に伴う有害事象は認めなかった。猪苓湯合四物湯は放射線性出血性膀胱炎に伴う血尿に対して有効である可能性が考えられた。

  • 松本 桜, 岩橋 麻子, 清松 諒太, 竹部 隆江, 白井 明子, 小川 真生, 津田 昌樹, 小川 恵子
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 190-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    慢性疼痛は精神症状などの非器質的要因が加わることで病態が複雑になり,治療に難渋することが多い。このためガイドラインでは痛み以外の周辺症状にも対処を求めている。

    症例は60代男性,精神不安を伴う非定型顔面痛に対し,西洋薬の服用やトリガーポイントブロックなどあらゆる治療を施行するも副作用が強いか無効のまま1年が経過していた。

    本症例では湯液と鍼灸を併用し,漢方医学概念に基づく共通した診断によって「心」の異常と瘀血を主証として治療を行った。鍼灸師は患者と十分な時間を共有し精神的・身体的両面からその痛みや症状を理解して治療を行った。これにより,痛みに対する破局的思考・不安・とらわれ・回避行動といった4つの因子は改善し悪循環を抑制, 患者の心身の痛みを緩和し,QOL を改善させた。

    心身一如の考えに基づく漢方医学は,多様な周辺症状が複雑に絡み合う慢性疼痛に対して有効であることが示唆された。

  • 有馬 菜千枝, 中山 明峰, 塚本 佳世, 佐藤 慎太郎, 江崎 伸一, 岩﨑 真一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    漢方医学と西洋医学を合わせて行うことが有効であった睡眠時無呼吸症例を報告する。症例は日中傾眠がある52歳男性で,睡眠検査にて閉塞性睡眠時無呼吸と診断され持続陽圧呼吸療法(CPAP)を開始した。CPAP は鼻から陽圧をかけ上気道閉塞の改善をはかりながら治療経過は機器に記録される。鼻閉があると CPAP 継続困難となるが本例でも CPAP を脱落しそうであった。そのことは記録された治療経過からも明白であった。そこで鼻閉に対して越婢加朮湯を服用すると鼻閉が自覚的に改善した。CPAP 使用状況と鼻CT 画像を参考にして小青竜湯や葛根湯加川芎辛夷へ変更すると CPAP は効果的に継続された。最終的には日中傾眠が消失した。

    西洋医療継続のためには漢方治療が必要である一方,漢方治療効果判定に西洋医学的な情報が有用であった。本例では漢方医学と西洋医学が組み合わせられた東西融合医療の有用性が示された症例と考える。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 203-206
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    めまいの原因は痰湿が多いとされ,多くは利水剤を用いて治療される。しかし,近年はめまいの発症要因も多様化,複雑化しており,頻用方剤では治療に難渋する症例も時折経験する。今回我々は,五積散が有効であった慢性難治性めまいを経験した。

    症例は70歳女性。2年前から歩行時にふらつくめまいがあり,近医を受診し特に異常は指摘されず,内服加療を行うが改善なかった。当科でも初診医より苓桂朮甘湯,半夏白朮天麻湯,五苓散,補中益気湯,加味逍遙散,釣藤散,真武湯が処方されたが改善なく,著者が担当を引き継いだ。起立性調節障害と診断し,トフィソパムを処方したが改善は得られなかった。東洋医学的診察により,食積に伴う痰湿が病態の中心で,気滞と血瘀も合併していると診断。五積散を投与したところ,16週の経過でめまいが改善した。

  • 前田 ひろみ, 吉永 亮, 土倉 潤一郎, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性。X—3年に食道・胃接合部癌にて手術歴がある。X 年1月より食欲不振となり3月に当院内科に入院した。癒着性小腸閉塞の診断で5月上旬に外科的イレウス解除術を施行したが,症状は改善せず6月中旬より当科併診となった。流涎を「喜唾」と捉え,心下痞鞕,手足の冷えから附子理中湯の煎じ薬を開始した。内服5日目から活気が出現し8日目から唾液量が減少し12日目から味覚と食欲が改善した。経口摂取量が増えたため経管栄養を減量でき,リハビリが進み,ほぼ寝たきりの状態から杖で150m 連続歩行できるようになり,29日目に慢性期病院へ転院となった。体重は当科初診時34.1kg から退院時には39.7kg まで増加した。5ヵ月間続いた食欲不振と流涎を,附子理中湯を用いて短期間で改善することができた。

短報
  • 並木 隆雄, 根津 雅彦, 猪狩 英俊
    原稿種別: 短報
    2022 年 73 巻 2 号 p. 214-219
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    緒言:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症患者に漢方治療外来を開始し患者の傾向と治療について検討した。

    対象と方法:2021年5月~9月に受診し文書同意が得られた9例。治療は証に基づいて選択し,漢方的な考えでの生活習慣等に関する指導をした。

    結果:全症例で疲労(気虚),生活習慣の不摂生(過剰な冷飲食),心身のストレス負荷のいずれかまたは全てが複合的に存在していた。患者は確立した西洋医学の治療法がないことや継続診療の体制が不十分なことへの不安が強かった。治療は補剤や柴胡剤の使用が多く,9例全例において4—5週以内に症状の改善傾向が認められた。

    考察:漢方薬の使用と冷飲食中止の指導の併用で速やかな薬効が得られた印象がある。今後のさらなる検討が必要である。

    結論:COVID-19後遺症に対し西洋医学的治療は確立していない。一方,今回の患者での経験では心身一如の漢方治療は有用性があった。

  • 根津 雅彦, 並木 隆雄
    原稿種別: 短報
    2022 年 73 巻 2 号 p. 220-227
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    インフルエンザパンデミックは,1917年の「スペイン風邪」以前にも1889年に「Russian flu(ロシア風邪)」が発生している。本邦には1990(明治23)年に上陸し「お染風邪」と称され,当時の社会に大きな影響を及ぼした。

    『和漢医林新誌』にある浅田宗伯の「流行感冒説」と岡田昌春の「天行時気感冒贅説」において,当時の漢方治療の実際を垣間見ることができる。そこには大青竜湯,桂枝二越婢一湯などの傷寒論処方や解肌湯,柴胡解毒湯,升陽散火湯,芎芷香蘇散,和解湯,十神湯,香蘇散などの後世方の使用が確認できる。

    なお,ウイルス学などを初めとした複数の知見から,このパンデミックの原因として新型インフルエンザウイルスH3亜型と新型コロナウイルスOC43の両者が候補とされている。病原体ごとの対応が必要な西洋医学と異なり,浅田や岡田による漢方治療はこのようなパンデミックに対しても有効であったと思われる。

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