日本東洋医学雑誌
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69 巻, 1 号
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原著
  • 大岡 均至
    2018 年 69 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    【目的】スニチニブ投与に合併する口腔粘膜炎(OM)に対する半夏瀉心湯(HST)含嗽の臨床的有用性につき検討する。
    【対象と方法】対象はOM を発症した22例。12例に対してはHST を2.5g∗3回,食後30秒間含嗽後飲食を控えるよう指導(HST 含嗽群),他の10例に対しては含嗽以外の治療を行った(HST 非含嗽群)。治療前後における,KPS・OM グレード・体重・アルブミン(Alb.),ヘモグロビン(Hb.)・摂食状況の変化につき検討した。
    【結果】HST 非含嗽群におけるOM グレードや摂食状況の改善は不良であったが,含嗽群では,開始翌日からOM は改善,摂食も好転し,体重・Alb.・Hb. 低下を認めなかった。
    【考察】HST は,含嗽により癌化学療法に伴うOM に対しても有効である。含嗽によりOM がより早期に改善し,摂食が好転することで,全身状態の増悪が軽減されたものと考えられる。

臨床報告
  • 土方 康世, 山崎 武俊, 二宮 文乃
    2018 年 69 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    目的:電磁波過敏症合併化学物質過敏症が疑われた患者に有効漢方処方の検討。
    方法:症状を中医学的に血瘀,陽虚,脾虚と弁証し,中国で半身不随に処方されてきた補気・活血・通絡作用のある補陽還五湯と補陽作用のある肉桂・炮附子を加えた補陽還五湯加肉桂,附子を投与。残存する下痢などの脾虚症状に,補脾作用のある黄耆建中湯を追加投与した。
    結果:長期にわたる頭痛,脱力発作,不眠などの QOL 低下が速やかに改善した。
    考察:補陽還五湯加肉桂,炮附子で補気・活血・通絡・補陽して先瀉し,黄蓍建中湯で後補して,化学物質過敏症および電磁波過敏症による諸症状改善に対し,有効である可能性が示唆された。

  • 阿南 栄一朗, 織部 和宏
    2018 年 69 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    気道感染後,CO2ナルコーシスを呈したため治療に難渋した症例に大建中湯や人参養栄湯,附子末の加味を行うことで改善した1症例を経験した。症例は,88歳女性。肺結核後遺症,慢性閉塞性肺疾患があり,チオトロピウム,ブデソニド吸入,ツロブテロール貼付を行っていたが,発熱後,呼吸困難が持続し,当院へ救急搬送された。CO2ナルコーシスになっていたため人工呼吸管理を勧めるものの高齢を理由に拒否され,呼吸困難や軽度の意識低下が遷延した。そこで,大建中湯,人参養栄湯,附子末を段階的に加味したところ,呼吸困難,便秘,食欲不振,意識低下の改善,動脈血中CO2濃度の低下,Ph の正常化をみた。慢性呼吸不全が悪化し,CO2ナルコーシスを生じた場合,人工呼吸管理を行うことは第一選択である。しかし,本症例のように,医療処置を拒否され治療継続困難となる場合,呼吸不全の改善に漢方を投与することで症状緩和につながる場合がある。

  • 木村 容子, 佐藤 弘, 伊藤 隆
    2018 年 69 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    片頭痛の治療では発作時の痛みだけでなく,ストレス,月経,疲れなど誘発・増悪因子の治療も重要である。陰虚証で過度の疲労や寝不足,更年期症状などが重なると気血両虚を背景として月経後期に頭痛が起こるがある。全体の経血量が多くない場合でも月経2-3日目で比較的多く出血した後,月経4-5日目から起こる頭痛に補気補血作用のある十全大補湯が有効な症例を経験した。症例1から4を具体的に提示する。症例1では日々の服用を温経湯から十全大補湯に変更し,他の症例では月経期間の7日間のみ,十全大補湯を当帰四逆加呉茱萸生姜湯に追加(症例2)あるいは当帰芍薬散から十全大補湯に変更(症例3-4)した。十全大補湯で月経後期の頭痛が改善した9症例では,冷え(9/9例),易疲労感(9/9例)や乾燥症状(7/9例)を認めた。
    月経後期の片頭痛には十全大補湯が有効な場合があるが,投与量や服用期間は気血両虚の程度で調整する必要がある。

  • 玉野 雅裕, 加藤 士郎, 岡村 麻子, 星野 朝文, 高橋 晶
    2018 年 69 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    慢性閉塞性肺疾患(COPD)は中高年齢において増加傾向にあるが,禁煙指導,リハビリ,在宅酸素療法,吸入薬をはじめとする各種の西洋薬治療が行われており,一定の効果が認められている。しかし,感染の併発により,急性増悪を繰り返す予後不良な高齢者が存在し,臨床上問題になっている。今回,我々は同様な病態で入退院を繰り返し,一時,Ⅱ型呼吸不全により人口呼吸器管理を必要とした高齢 COPD 患者に対し,漢方医学的に肺中冷と診断して苓甘姜味辛夏仁湯を投与したところ,呼吸不全悪化による再入院を長期間回避し得た症例を経験した。肺中冷を有する COPD 患者に対して苓甘姜味辛夏仁湯が有効である可能性が示唆された。

  • 福嶋 裕造, 井藤 久雄, 田頭 秀悟, 栁原 茂人, 中村 陽祐, 藤田 良介, 山下 和彦
    2018 年 69 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    急性腰痛症に対して非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs, non-steroidal anti-inflammatory drugs)を用いたが効果が得られないため,大黄牡丹皮湯と四物湯を併用して用いて効果が得られた3症例を経験したので報告する。 症例1は86歳の男性で,症例2は56歳女性でありいずれも急性腰痛症と診断した。症例3は69歳男性で急性腰痛症,軽度の左根性坐骨神経痛と診断して治療した。全症例とも1から2週間の投薬で腰痛等の症状が軽快した。『万病回春』の調栄活絡湯の方意に準じて,大黄牡丹皮湯と四物湯を併用した。急性腰痛症に対する漢方治療において大黄牡丹皮湯と四物湯の併用による治療は有用であると考えられる。

  • 八木 宏, 福間 裕二, 宋 成浩, 岡田 弘
    2018 年 69 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    抗コリン剤やα1阻害剤に抵抗性を示す夜間頻尿で,和漢診療学的腎虚の徴候を認めた30例に牛車腎気丸を12週間投与,治療前後に国際前立腺症状スコア,キング健康調査票,夜間頻尿特異的 QOL 質問票,排尿日誌,尿流量測定,尿中8-OHdG,身体組成分析装置による体内水分分布を評価した。自覚的所見では国際前立腺症状スコアにおける畜尿症状と排尿 QOL,キング健康調査票と夜間頻尿特異的 QOL 質問票における睡眠・活力の項目が有意に改善した。他覚的所見では排尿日誌における夜間排尿回数,夜間多尿指数及び睡眠後第一覚醒までの時間が有意に改善,身体組成分析装置による体水分率は有意に減少した。本研究では抗コリン剤やα阻害剤に抵抗性を示す夜間頻尿患者のうち,腎虚徴候を認めれば牛車腎気丸が体内水分分布を正常な状態に戻すことにより夜間尿量を減少させ,夜間頻尿を改善する可能性がある事を示した。

  • 津田 篤太郎, 渡辺 浩二, 矢数 芳英
    2018 年 69 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    鉄剤の消化管副作用に対して漢方治療が効果的であった一例を経験したので報告する。症例は35歳女性。17歳時より月経不順が続くため当科を受診した。当帰芍薬散加附子を投与したが,ヘモグロビン7.8g/dl と著しい貧血を認めたため経口鉄剤を併用した。5ヵ月間併用して12.8g/dl に改善したが,食思不振が出現し鉄剤を中止した。その後,貧血は再び増悪,静注鉄剤も使用したが鉄欠乏状態の改善に至らず,原南陽「叢桂亭医事小言」記載の鍼砂湯を参考にして,苓桂朮甘湯加紅参末に鉄剤を減量して投与した。投与前後でヘモグロビン11.6→12.3g/dl,フェリチン4.0→32.0ng/ml と改善し,その後,鉄代謝マーカーは安定的に推移している。鍼砂湯は動悸・息切れ・めまい・浮腫を主な適応とし,いずれの症状も貧血による諸症状と解釈できる。当症例では鍼砂湯の処方構成が鉄分の吸収を促し貧血を改善させた可能性が示唆された。

短報
  • ~抗痙攣作用と収斂作用~
    萬谷 直樹, 佐橋 佳郎, 岡 洋志
    2018 年 69 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    中医学の理論では芍薬は酸味があり収斂作用をもつとされている。芍薬の煎液の味を調査するため,12人のボランティアが赤芍と白芍の煎液を試飲した。各人は赤芍と白芍の味が五味(酸,苦,甘,辛,鹹)のうちどれに近いかを選択した。一番感じる味として,ほとんどの者は苦味を選択したが,酸味を選択した者はいなかった。少なくとも現代においては,芍薬にはほとんど酸味がないと考えられた。芍薬の収斂作用と筋弛緩作用について酸味と関連づけて考察を行った。

論説
  • 寺澤 捷年
    2018 年 69 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    三焦は漢方医学における六腑の構成要素のひとつである。このものと体内の如何なる臓器が関連するかについての論考は『井見集』に初出し,その後大友一夫により臓側腹膜(腸間膜)と対応するとの学説が呈示されている。 最近,腸間膜に関する総説が The Lancet 誌に公表されたが,これには腸間膜を一つの臓器として認識すべきことが提案されている。大友学説は1980年に公表されたものであるが,本稿は最新の解剖学的知見を基にその学説の妥当性を論じる事を意図した。

  • 寺澤 捷年
    2018 年 69 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    心身一如は漢方医学の基盤を為す理念である。本稿では,その具体的一例として瘀血病態について考察することを試みたが,その理由はこの病態が情動の異常と身体的病症により構成されているからである。この病態は血流欝滞の病症であると考えられてきたが,一方,情動に関しては怒りや攻撃性の感情と関連している。情動は大脳辺縁系を主体とした非常に複雑な神経回路によって情報処理され,発動するものであることは周知の事柄であるが,本論文ではその生理学的メカニズムついて,これまでの多数の科学的研究成果の中から考察に適した一部の論文を参照し,心身一如について検討した。

  • 萬谷 直樹, 寺澤 捷年
    2018 年 69 巻 1 号 p. 72-81
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    国際癌研究機構は発癌実験の結果などからベルベリンを含有するヒドラスチス根をグループ2B(発癌性を示す可能性がある)に分類した。超高濃度のベルベリンを負荷した実験用細胞でもDNA 障害が確認された。これらをふまえ日本医師会雑誌に掲載された医師会会員による2つの投稿は,黄連・黄柏がベルベリンを含有し,ベルベリンや大黄の成分がDNA 障害を示すことから,黄連・黄柏・大黄が発癌性・生殖毒性を持つと主張した。しかし,同投稿には数々の科学的な誤りや恣意的な記述が多いことが明らかとなった。実験で毒性を示したベルベリン濃度は漢方薬の服用では到底得られない濃度である。黄連・黄柏そのものの発癌性や生殖毒性を示すデータは確認されていないにもかかわらず,投稿内容が週刊誌にも取り上げられて患者を無用の不安に陥れていることから,会員投稿の数々の誤りに対して科学的根拠を示して反論した。

フリーコミュニケーション
  • 有田 龍太郎, 吉野 鉄大, 堀場 裕子, 引網 宏彰, 嶋田 豊, 並木 隆雄, 田原 英一, 南澤 潔, 村松 慎一, 渡辺 賢治
    2018 年 69 巻 1 号 p. 82-90
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    われわれは,既存の問診票やシステムレビューを応用したブラウザ・ベースの自動問診システムを開発・活用して,これまで暗黙知であった漢方の専門家の漢方医学的診断法を集約し,形式知化する試みを続けてきた。しかしながら,入力項目数が多く,入力方法が煩雑であったため,患者負担が大きく正確性が不十分であるという課題が浮かび上がってきた。これらの課題を検討し,負担が少なく,入力しやすい新たな自動問診システムを開発することを目的に,これまでに入力されたデータベースを多面的に解析して,問診項目の削除・統合・追加,症状の評価方法の変更,患者ごとに重要な項目を選択し詳細に評価する方法を導入した新たな自動問診システムに改修した。 同時に問診結果による証診断予測ツールを実装した。われわれはすでに新しい自動問診システムでより信頼性の高い入力データを集めており,より精度の高い診療や研究を推進していく方針である。

  • 宮崎 彰吾, 萩原 明人, 津田 昌樹, 古屋 英治
    2018 年 69 巻 1 号 p. 91-99
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー

    2000年頃から急増したはり師,きゅう師を医療資源の新たな創出と考えた場合,その「社会的インパクト」を評価する意義は大きい。本稿では,平均余命の延伸を評価指標とし,都道府県における地域相関研究を行った。その結果,「はり師」という人的医療資源,並びに「はり及びきゅうを行う施術所」という物的医療資源の増加は,男性高齢者の平均余命の延伸との間に有意な正の弱い相関関係にあった。しかし,本稿では方法論的限界により因果関係まで言及することはできない。今後,より大きな「鍼灸」の社会的インパクトを生み出すために,研究者とはり師,きゅう師とが連携して多施設共同研究を実施できるよう,「鍼灸に関わる公益法人」に懸け橋となっていただくことを一研究者として切望する。

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