日本東洋医学雑誌
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74 巻, 1 号
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原著
  • 飯塚 徳男, 瀬川 誠, 浜本 義彦, 荻原 宏是, 間宮 敬子, 網谷 真理恵, 高山 真, 三潴 忠道
    原稿種別: 原著
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    2021年8月に開催された第71回日本東洋医学会学術総会で漢方医学教育に焦点をあてた特別企画,「次世代に継ぐ卒前卒後漢方医学教育」を行った。本企画の一つとして「漢方共通模擬講義」を基にした「漢方共通テスト」を,Moodle を用いたWeb テストの形式で行い163名の参加をえた。また,「漢方共通テスト解説」を Live 配信し全国の学生,教育者,学会員等,計301名の視聴があった。本稿では,一連の「漢方共通テスト」と「漢方共通テスト解説」について Web システム構築から問題作成,解答結果,解答解説までを総括して報告する。近年のタブレット端末やスマートフォンなどの普及状況から,将来的には本 Web テストシステムは学生教育のみならず,医師,薬剤師,看護師等の医療従事者に相応しい学修システムとして普及する可能性を有している。

臨床報告
  • 平澤 一浩, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 12-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    喉頭静脈奇形は増大や出血による気道閉塞のリスクを有し,硬化療法,レーザー治療,外科的手術などの治療を要する。しかし成人型の喉頭静脈奇形は声門上部に好発し,声帯に発生した場合を除き症状が乏しく,手術を希望しない例も経験する。今回,症状が無くレーザー治療を希望されなかったが,漢方治療により著明に縮小した喉頭静脈奇形例を経験した。

    症例は69歳男性。健康診断の上部消化管内視鏡検査で偶発的に喉頭腫瘤を指摘され受診したが,咽頭症状は特に自覚がなかった。右声門上部に静脈奇形を認めレーザー治療をすすめたが,症状がないため希望しなかった。瘀血の病態と考え桂枝茯苓丸を7週間投与したが変化なかった。便秘があったため大黄甘草湯を併用したところ,便通は改善。併用開始から13週後,静脈奇形も著明に縮小した。

  • 寺澤 捷年, 岡 洋志, 太田 陽子, 平崎 能郎, 地野 充時
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 16-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    筆者らは腹腔鏡下胆嚢摘出術の後に適切な抗菌薬治療にもかかわらず,臍創部の遷延性浸出液を訴えた患者において,漢方治療が奏効した一症例を経験した。この漢方方剤,千金内托散の薬理学的作用は未だ明らかではないが,古来,遷延性の感染症に用いられて来た。漢方の古典の記述によれば,この方剤は生体の代謝を賦活し,抗炎症作用を発揮することが示唆される。腹腔鏡下手術に伴う表層切開創感染に対する漢方治療の報告はこれまでなかった。筆者らはこの種の手術創部位感染(SSI)の解決法に漢方治療がもう一つの有望な選択肢であることを提案した。

  • 福田 功, 中田 英之, 草鹿砥 宗隆, 小菅 孝明
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 20-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    喘息発作は,時間の経過とともに病態が急速に悪化する。特に術前の状態悪化では,手術内容によっては全身麻酔(全麻)の適応となるが,帝王切開(帝切)ではわが国においては,挿管困難のリスクや胎児への影響,新生児の蘇生の懸念もあり全麻は避ける傾向がある。今回,帝切当日に不穏症状から呼吸困難を伴う喘息様発作を起こした症例と術前抗生剤点滴により呼吸困難を起こした症例に梅核気を使用目標に半夏厚朴湯を内服させた所,いずれの症例においても呼吸困難が消失し,全麻を避けて帝切を行い得た症例を経験した。喘息発作を東洋医学的に考えると,不安感,焦燥感など心因的素因が誘因となって気逆,気滞が起こり,気がふさがって痰涎を凝集し梅核気を生じて症状が出ると考えられるため,気を巡らし痰を除く行気化痰をおこなう半夏厚朴湯が適応と考えられた。

  • 原田 直之, 吉村 彰人, 牧 俊允, 吉永 亮, 井上 博喜, 矢野 博美, 貝沼 茂三郎, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    症例は64歳女性で,主訴は発熱,咳嗽である。4日前からの発熱,咳嗽に対し,3日前に柴胡桂枝湯を処方した。その後,胸痛を伴って症状が増悪し,近医での胸部 X 線で右肺の浸潤影,血液検査で炎症反応を認めた。細菌性肺炎に胸膜炎併発の診断であったが,既往に抗菌薬アレルギーがあったため抗菌薬治療を行えず当院へ紹介された。漢方治療の継続希望があり柴陥湯へ転方した。内服後約15分で胸痛が軽減し,4日後には軽度の咳嗽が残存するのみとなり,11日後には炎症反応が鎮静化した。肺炎,胸膜炎に対する漢方治療では随証的に柴胡剤が選択されることが多い。本例では,咳嗽を伴う胸痛を訴えたことから,少陽病の柴胡剤の証に小陥胸湯の方位を併せもつ柴陥湯を処方して著効した。抗菌薬を用いず漢方薬単独で肺炎を治療した臨床報告は少なく,肺炎,胸膜炎に対する漢方治療の有効性を示す一例であると考える。

  • 井上 博喜, 原田 直之, 牧 俊允, 吉永 亮, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    咽喉頭異常感症には半夏厚朴湯が使用されることが多い。今回,半夏厚朴湯が無効であった咽喉頭異常感症に苓桂朮甘湯が有効であった2症例を経験した。症例1は28歳女性。1年前から食後の噫気,腹満,喉のつかえ感が出現した。検査を施行されたが異常を認めず当科を受診した。半夏厚朴湯を含む方剤で加療したが,喉のつかえ感だけは改善しなかった。症例2は50歳女性。2週間前から,耳閉感,耳鳴,目の奥の痛みが出現した。耳鼻咽喉科を受診したが異常を認めず当科受診した。加味逍遙散を処方し耳閉感や耳鳴は6割ほど改善したがめまいと喉のつかえ感を訴えるようになり,半夏厚朴湯を併用したが改善しなかった。2症例とも苓桂朮甘湯に転方したところ症状が軽快した。咽喉頭異常感症は,気虚,気鬱,気逆,瘀血,肝の失調,津液不足,水毒,胃腸障害に注目し漢方方剤を選択する必要があり,苓桂朮甘湯もひとつの候補になり得ると思われた。

  • 寺澤 捷年, 小林 亨, 太田 陽子, 隅越 誠, 平崎 能郎, 地野 充時
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    筆者らは真武湯が奏効した非定型的な熱性疾患の三症例を報告した。第一例は発熱に全身の疼痛を伴い,第二例は強い全身倦怠感を,そして第三例は全身の違和感を伴っていた。いずれの症例も真武湯証に通常見られる,めまい感や動揺感などを伴わなかったが,高木嘉子の提唱する左臍傍圧痛が明らかで,これを根拠として真武湯証と決定した。これらの症例を通して,これまでに我々が固定観念として持っている真武湯証とは全く異なる,新たな形の真武湯証があることを提案した。すなわち,悪寒を伴う発熱で,脈は浮・弱,自然発汗がなく,全身倦怠感や身体痛を伴い,高木の左臍傍の圧痛点が激しく痛む病型である。

  • 澤井 一智, 山崎 武俊, 峯 尚志
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 42-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    霊梅散(WTMCGEP)を用いた集学的治療が奏功した進行癌の3症例を報告する。症例1は87歳男性,食道癌 stage IV に化学放射線療法が開始されたが,副作用で化学療法は1クール目で中止,放射線療法後に緩和医療となった。霊梅散開始1年半後に食道癌が消失,診断5年6ヵ月後の現在も再発はない。症例2は79歳男性,食道癌 stage III に化学療法後手術の方針となったが,副作用で化学療法は2回試行も1クール目で中止,放射線療法後に緩和医療となった。霊梅散開始半年後に食道癌が消失,診断2年9ヵ月後の現在も再発はない。症例3は73歳女性,脳・肺・腹膜転移を伴う膵癌 stage IV による多発性脳転移・脳梗塞で発症。抗凝固療法,緩和的化学療法と霊梅散の開始1ヵ月後に腹水,神経症状が改善し,7ヵ月の無増悪期間後,13ヵ月間生存した。霊梅散は抗腫瘍作用の示された生薬を含有し,進行癌に有効な治療と示唆された。

  • 玉田 真由美, 渡邉 賀子, 村松 慎一
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    成人後も夜尿が続く症例に対し漢方治療が有効だったので報告する。症例は21歳の女性。幼少期は毎晩,学童期は2~3日に1回程度の夜尿があった。19歳時には週1~2回まで減ったが,成人後も持続するため来院。軽度の腹直筋攣急,臍上悸の腹証から,桂枝加竜骨牡蛎湯煎じを開始。内服開始直後の1回を除き3週間1度も夜尿は起きなかった。1日の排尿回数が4回と少ない傾向にあったため,排尿回数を増やす目的で五苓散を少量併用した結果,排尿回数は7回へと増加し安定した。2ヵ月で併用は中止し,桂枝加竜骨牡蛎湯煎じのみに戻した後も症状は安定していたため,煎じからエキス製剤へと変更。その後も再発なく安定したため半量に減量した。3日連続で薬を飲み忘れた際に1回だけ夜尿を認めたが,服薬コンプライアンス厳守後は4ヵ月再発していない。本症例は,成人後継続する夜尿症に対しても漢方治療が有効であることを示唆する貴重な症例である。

  • 寺澤 捷年, 小林 亨, 斎田 瑞恵, 隅越 誠, 平崎 能郎, 地野 充時
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    筆者らは各種の標準的治療にも拘わらず16年間に亘って反復性の悪心嘔吐が持続していた36歳の男性患者において左臍傍圧痛点を根拠として用いた真武湯が奏効したので報告する。この患者の異常は漢方における水滞の病態が関与したものと推測しているが,この様な症例報告は漢方の分野においてこれまでになく,更には Medline による検索においても関連の論文は見いだせなかった。すなわち本報告は西洋医学,漢方の枠を越えて治療学の観点から貴重なものと考えられた。

  • 小野 理恵, 髙山 真, 有田 龍太郎, 菊地 章子, 大澤 稔, 齊藤 奈津美, 鈴木 聡子, 石井 正
    原稿種別: 臨床報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】Coronavirus disease 2019(COVID-19)における咳嗽の遷延は,不快であるだけでなく,社会復帰を遅らせる原因となる。今回,COVID-19患者における漢方治療で,発症後数日経った咳嗽のある患者に対し,竹筎温胆湯による治療を試みたので報告する。

    【症例】2020年10月〜2021年9月に竹筎温胆湯を処方した患者は33例,そのうち竹筎温胆湯を単剤で処方し,投与後の経過を確認できたのは7例であった。年齢は37〜70歳,女性6例で,併存症状として微熱,痰,咽頭痛,鼻汁,頭痛,不安・不眠,味覚障害,嗅覚障害を認めた。投与開始は発症後9〜21日で,咳嗽と併存症状が改善するまで投与2〜6日間を要した。3症例では咳嗽が遷延し他剤に変方した。

    【考察・結語】竹筎温胆湯は COVID-19において,微熱などの軽度の炎症を伴う咳嗽に活用できる可能性が示唆された。

調査報告
  • 高山 真, 有田 龍太郎, 金子 聡一郎, 菊地 章子, 沼田 健裕, 石井 誠一, 谷内 一彦, 石井 正
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 75-84
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    背景:漢方をテーマとした Problem Based Learning(PBL)を実践し,引き続き学術活動を行った教育の成果と効果を検証した。

    方法:2013年~2021年の期間,医学部2年生を対象に漢方 PBL を実施し,4年時の漢方試験成績を漢方 PBL 受講者,非受講者間で比較した。その後の学術活動により得られた学びを自由記載文章から抽出した。

    結果:漢方 PBL を322グループ中26グループに実施した。漢方試験では,漢方 PBL 非受講者(n =734)に比し受講者(n =72)で有意に得点が高かった(p < 0.05)。学術発表5演題,学術誌掲載3論文の成果が得られ,これに伴う学びとして「漢方に関する理解の具体化」,「学術活動の貴重な経験」,「意欲の促進と将来への影響」などが挙げられた。

    結論:漢方 PBL により漢方医学知識が向上し,学術活動経験により探究心が涵養された。

  • 佐藤 浩子, 岸 美紀子, 常川 勝彦, 渡辺 由佳子, 小和瀬 桂子, 間宮 敬子, 高山 真, 三潴 忠道
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 74 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    チーム基盤型学習(Team based learning: TBL)は,少人数グループで課題に取り組むことで,自ら学び知識を応用して問題を解決する力,判断力・責任性・協働力を養うことを目標に開発された教育手法である。第71回日本東洋医学会学術総会の特別企画・アクティブラーニングで漢方医学 TBL を行ない,計57名が参加した。風邪をテーマとして,陰陽虚実についてグループ学習させた。学生のアンケート結果では,到達目標として掲げた「漢方診断の流れを理解できた」との回答が得られた。座学から臨床実習への橋渡しとして,漢方医学 TBL は漢方医学教育上,有用であると考えられた。

短報
  • 沖本 二郎
    原稿種別: 短報
    2023 年 74 巻 1 号 p. 94-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    高齢者 COVID-19肺炎に対する葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用効果を,胸部 CT で確認した症例を報告する。症例は,82歳,女性で,発熱,食欲不振,全身倦怠感を訴えて受診し,SARS-CoV-2 PCR が陽性であった。胸部 CT で,肺炎像を認めるも,入院を拒否されたため,自宅療養を行うことになった。葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用投与したところ,3日後には解熱し,9日後には,自覚症状,胸部 CT での肺炎像も著明に改善した。葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用は,高齢者の COVID-19肺炎にも有効であることが胸部 CT で確認された。

  • 田中 秀則, 伊藤 亜樹, 島 仁, 中永 士師明
    原稿種別: 短報
    2023 年 74 巻 1 号 p. 98-101
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    症例は,47歳女性。新型コロナワクチン3回目接種が Day1に施行された。体温は,35.6 ℃であった。Day3に,性器出血と悪寒を認め,精査を目的に当院を受診した。この時の体温は,37.1 ℃であった。Day15に悪寒と強い倦怠感を認め,近医内科を受診したが,原因は不明で,総合病院を紹介された。Day16,婦人科的検査の結果を聞くために当院を受診した。この時,悪寒と強い倦怠感が持続していた。これらは,ワクチン接種を機会に何らかの邪気が体内へ入り,引き起こされた症状と考え,解毒,解熱効果を有する柴胡桂枝乾姜湯を考えた。時間的経過をみても,少陽病と太陰病が併存しているとみられ,特徴的な所見は少ないが,柴胡桂枝乾姜湯証と考えた。そのため,総合病院へ紹介されるまでの3日間,当院より柴胡桂枝乾姜湯を処方した。Day19,体の状態は劇的に改善した。Day37,体温36.2 ℃で倦怠感,悪寒はみられなかった。

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