日本東洋医学雑誌
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70 巻, 3 号
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原著
  • 寺澤 捷年, 板澤 正明
    原稿種別: 原著
    2019 年 70 巻 3 号 p. 199-204
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    吉益東洞の伝記によると,彼は1752年に南部侯を往診している。しかしこの伝記には治療過程は記されていない。 最近筆者らは『雑書』という史料を見いだした。この書物は盛岡南部藩の家老によって記された日記である。この日記には東洞の南部侯に対する治療の詳細が記されている。本稿はこの日記を紹介し,併せて吉益東洞の具体的な行動について報告することを意図した。これは吉益東洞関連の史料として『東洞全集』出版(1917年)以来の意義有る発掘である。

臨床報告
  • ~30例の有効症例から~
    土倉 潤一郎, 後藤 雄輔, 吉永 亮, 井上 博喜, 矢野 博美, 犬塚 央, 中川 幹子, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    一般に黄連湯は上部消化器症状に用いられるが,「上熱中寒」を参考にさまざまな疾患に使用した。有効30例について検討した結果,「上熱」の症候として「舌の黄苔」が29/30例,「中寒」の症候として「温かい飲食物を好む」が27/30例で最も多くみられた。また,無効群との比較において,有効群では「温かい飲食物を好む」と「冷たい飲食物で消化器症状が悪化する」を合わせた「胃腸の冷え」が29/30例(p =0.047),「上下部消化器症状」が29/30例(p =0.014)認めており,いずれも有意に多かった。「上熱」の症候は「舌の黄苔」,「中寒」の症候は「胃腸の冷え」が最も参考になること,黄連湯証に上部消化器症状は必須ではないが,上下部いずれかの消化器症状を伴い,さらには皮膚疾患や睡眠障害も存在する可能性が示唆された。

  • 中原 恭子, 中原 章徳, 飯塚 徳男, 佐藤 泰昌, 吉本 真奈美
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 211-218
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    出産を経験した女性の中には,様々な体調不良を訴え西洋医学的治療に不応なケースが多い。そのようなケースに対し漢方治療として,補気や気血相補に主眼が置かれてきたのが現状である。今回,我々は妊娠前からの患者背景や妊娠および分娩の状況を把握するとともに,肝鬱に焦点をあて,これに先天あるいは後天の気を補う治療を追加することにより,比較的難治な経過にも関わらず好転した3例を経験したので報告する。

  • 小池 宙, 吉野 鉄大, 中澤 敦, 堀場 裕子, 足立 智英, 渡辺 賢治
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 219-226
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    [緒言]大承気湯により便秘と精神状態が改善した後,アルツハイマー型認知症が明らかとなった便秘型過敏性腸症候群の2例を報告する。[症例1]82歳男性。過敏性腸症候群に対して整腸剤や下剤で治療を受けるも改善せず精神状態も不安定だった。大承気湯を開始後,消化器症状は精神状態とともに安定した。その後の検査でアルツハイマー型認知症が明らかになった。[症例2]74歳男性。強い便秘症状があり浣腸と摘便を時に怒りを表出しながら強く希望し受診していた。大承気湯開始後,便秘は改善し精神状態も安定した。その後アルツハイマー型認知症が明らかとなった。[考察]易怒性を伴う便秘に大承気湯が有効だった2例を経験した。自覚なく未診断だったアルツハイマー型認知症が背景に存在し,そのストレスが便秘型過敏性腸症候群の増悪因子だったと考えられた。易怒性を伴う便秘患者には認知症が隠れている可能性があり注意する必要がある。

  • 黄 麗明, 高木 嘉子
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 227-235
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    臍左外側2横指部に圧痛点を認め,真武湯が奏功した精神疾患の二症例を経験した。この二例は『傷寒論』辨太陽病,辨少陰病の条文に合致する症候を示した。また,真武湯の構成生薬や先人の医論より真武湯証の病態は“水気の変”であると考えられた。臍左外側2横指部の圧痛点は「WHO/WPRO 標準経穴部位」に示す“足の少陰腎経”の經穴のひとつである“膏兪”に一致する。臍左外側2横指部の圧痛は真武湯の腹症として有用であり,経絡学説の経穴が『傷寒論』三陰三陽の病の病態を反映する反応点として方剤選択に貢献する可能性が示唆された。

  • 福嶋 裕造, 塩田 敦子, 多久島 康司, 藤田 良介, 戸田 稔子, 船越 多恵, 三明 淳一郎
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 236-239
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    ドケルバン病や手根管症候群は産後に多く起こる問題である。妊娠の影響でホルモンのバランスが崩れ腱鞘炎になりやすい上に出生児の世話で手をよく使うために症状が出やすいと考えられる。今回,出産後にこれらの症状を訴えた4例を報告する。症例は全例女性で,33歳から39歳であり,全例出産後に授乳を行っていた。診断はドケルバン病が1例,手根管症候群が2例,ドケルバン病と手根管症候群の合併が1例であった。全例に当帰芍薬散を投与した。全例に疼痛が軽快または消失して,手根管症候群の軽度のしびれは残存している。授乳中の治療中に使用できる薬剤は限られるが,当帰芍薬散は安全に使用できて有効な薬剤であると考えられた。

  • 宮西 圭太, 平田 道彦, 織部 和宏
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 240-246
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    手指痛に対して西洋医学的検査を施行した結果,関節リウマチなどの確定診断がつかない症例が一部に存在し未分化関節炎と称される。そのような症例に対する漢方エキス剤による治療成績を報告する。対象は62症例(男性5名,女性57名,平均年齢49.7歳)であった。手指痛症例は寒証の傾向が強く,気血水では瘀血や気鬱と判断された症例が多かった。有効群は29症例(47%),軽度有効群は10症例(16%),無効群は23症例(37%)であった。最も多く使われた方剤は加味逍遥散(30症例)であった。多くの症例で複数の漢方エキス剤を併用で用いており,加味逍遥散と桂枝加苓朮附湯の併用は9症例あり,そのうち8症例が有効だった(有効率89%)。明確な診断がつかない手指痛の漢方治療では,寒証,瘀血,気鬱の傾向が強く,散寒祛湿の効能をもつ方剤や駆瘀血剤・理気剤で対応した症例が多かった。

  • 木村 容子, 佐藤 弘, 伊藤 隆
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 247-253
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    過敏性腸症候群(IBS)に胃苓湯を中心とした処方が有効であった5症例を経験した。陰証かつ虚証の女性(33—54歳)で温補の処方を使用して症状は落ちついていたが,精神的なストレスがあるところに,3月から6月の暑さにより冷飲食が増えて,便通状態が悪化した。悪化時には口渇や下痢などの水滞による症状,心窩部や下腹部の腹満感,不安感,憂うつ感など気うつによる症状がみられ,腹診では心下痞鞕が全例に認められた。水滞と気うつによる病態と考え,五苓散と気の巡りを改善する厚朴や陳皮を含む平胃散の合方である胃苓湯を投与した。処方内訳は胃苓湯単独が1例,胃苓湯と桂枝加芍薬湯や建中湯類(黄耆建中湯,小建中湯)の併用が3例,桂枝茯苓丸との併用が1例であった。精神的なストレス負荷があり,冷飲食を契機に下痢が悪化するIBS 患者で,心下痞鞕を認め,腹痛を伴う場合は芍薬を含む胃苓湯が有効であると考えられた。

  • 谷口 大吾, 妹尾 高宏, 小田 良, 遠山 将吾, 川人 豊, 徳永 大作, 久保 俊一
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 254-259
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    抗リウマチ薬による治療を行っていた関節リウマチ(RA)症例に対して漢方薬の追加を行い,漢方薬を1年以上継続できた症例の疾患活動性の変化について調査した。対象は RA 患者41例であり,漢方薬追加開始時から1年間で圧痛関節数と DAS28-CRP が改善し, Boolean 寛解は3例から6例に増加した。しかし,41例中16例は治療効果不十分で,抗リウマチ薬の変更または増量(西洋薬強化群)を行った。西洋薬強化群16例と抗リウマチ薬の変更を要さなかった群25例(漢方群)で疾患活動性を比較した。西洋薬強化群は漢方薬追加開始時から疾患活動性が高かったが,1年後 CRP と DAS28-CRP が改善した。漢方群は漢方薬追加開始時から疾患活動性が比較的良好であり,1年後患者全般的評価(PGA)が改善した。抗リウマチ薬で炎症を制御し,漢方薬で PGA を改善することは Boolean 寛解を達成する有効な方法あると考えた。

  • 辻 正徳, 地野 充時, 寺澤 捷年
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 260-265
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    高血圧切迫症に関しては,治療に難渋することがしばしば見られ,漢方治療の報告例もあまり多くない。今回我々は,繰り返す高血圧切迫症に対して,七物降下湯単剤で奏効した5症例を経験した。全症例で虚証・血虚の所見を有しており,七物降下湯投与後,比較的速やかに血圧の安定化を認めた。七物降下湯は虚証で血虚を呈する繰り返す高血圧切迫症患者に対して,速やかで持続的な血圧の安定化をもたらす可能性がある。

  • 石川 利博
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 266-272
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    黄帝内経にはフレイルと病態の類似した痿症という疾患概念が存在する。痿症は最終的には立てなくなる心身の機能障害である。痿症は5類型,肺痿(気虚),心痿(脈痿),肝痿(筋痿—サルコペニア類似,気滞),脾痿(脾虚,肉痿),腎痿(腎虚)に分類できる。それぞれの病態は漢方治療が可能である。それ故,フレイルは系統的かつ戦略的に漢方治療を行うことができる。今回,脾痿の病態を優先することで漢方治療が奏効した体重減少をともなったフレイルの2症例を報告する。1例は,おそらく先に内服していた八味丸による胃腸障害があった。脾痿を治療したのちに腎痿に対する八味丸を再び内服することが可能となった。これらの症例は,食欲不振や消化機能低下による体重減少のあるフレイルに対しては,脾胃(消化機能)を回復させることを優先させるべきであることを示唆した。

  • 太田 博孝
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 273-277
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    症例は38歳の女性。受診10ヵ月前より両手指関節の強い痛みとしびれを自覚した。挙児希望があり漢方治療を求め,当科を受診した。検査では抗 CCP 抗体等が陽性で, ACR/EULAR スコアは8点となり関節リウマチ(RA)と確定された。治療は桂枝加朮附湯加味方より開始し,一時手指関節痛は軽減したものの再度増悪し,治療4ヵ月目に薏苡仁湯加味方に変方し,さらに防已黄耆湯を追加合方した。同2剤併用2ヵ月後から,手指関節痛は劇的に消失し,完全寛解状態となった。薏苡仁湯は,四肢の関節や筋肉が冷え,痛く痺れる状態に,防已黄耆湯は,気虚風湿,乃ち浮腫傾向で関節の腫脹や疼痛のある例に用いられる。両剤の構成生薬には鎮痛,止痙,利水や抗炎症作用を有する生薬が多い。両方剤の併用療法は,利水を促進し局所の炎症を鎮め関節痛や筋疼痛を強力に緩和すると考えられる。本療法は RA 治療の有力な選択肢の一つになりうると考えられた。

  • 福嶋 裕造, 藤田 良介, 上野 力敏, 山下 和彦, 内海 康生, 清水 知己, 大森 あさみ, 杉原 徳郎
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 278-282
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    偽痛風は高齢者によく発症する結晶性関節炎である。今回,偽痛風の急性発作に対して防風通聖散と黄連解毒湯の併用が有効であったので報告する。症例は87歳男性であり,左手関節痛があり経過をみていたが疼痛が続くため発症2日目に当院を受診した。理学所見では左手関節の圧痛を認めた。左手関節単純レントゲンで軽度の石灰化を認め,血液検査で炎症所見があり,手関節の偽痛風による急性発作と診断した。防風通聖散と黄連解毒湯を併用して投与したところ徐々に症状が軽快していった。初診3日後には左手関節痛が消失し,初診9日後には炎症所見も正常化した。防風通聖散と黄連解毒湯の併用は偽痛風の急性発作に対して有効であると考えられた。

調査報告
  • —自己の健康観との関連および漢方教育の影響—
    飯岡 秀晃
    原稿種別: 調査報告
    2019 年 70 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    女子看護学生の自己の健康観および漢方薬に対する関心度に与える漢方教育の効果を知る目的でアンケートによる意識調査をおこなった。その結果,20%の学生が健康でないと,40%の学生が健康に自信がないと感じており,月経痛や頭痛に西洋薬の鎮痛剤を多くの学生が内服していた。一方,漢方薬の服薬経験者は55%におよび,漢方に関心のある群のほうが漢方薬の服薬経験が多い傾向が示された。また,多くの学生が月経痛,月経不順,頭痛,月経前症候群,更年期障害などの症状に効く漢方薬があれば服薬したいと考えていることが示され,その傾向は漢方に関心のある群のほうが高かった。さらに,漢方に関するスライド集閲覧による漢方教育により各症状に対する漢方の服薬関心度は増し,特に漢方に関心がない群では閲覧後に有意な増加を示した。従って,漢方に関心のない学生に対しても今後の漢方教育の重要性が示された。

短報
  • 仲尾 貢二, 金子 幸夫
    原稿種別: 短報
    2019 年 70 巻 3 号 p. 290-293
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    慢性硬膜下血腫(Chronic subdural hematoma : CSDH)術後再発症例に治打撲一方が奏功した症例を報告する。症例は81歳女性,左 CSDH に対して穿頭術を施行した。術後の経時的頭部 CT では血腫は徐々に増大した。再発防止に五苓散,柴苓湯を投与するも再発を防止することができなかった。失語症と右不全片麻痺を認めたため,再手術を行った。術中所見では血腫は粘稠で十分にドレナージできなかった。臨床上および頭部 CT 上の改善に乏しいため,血腫を瘀血ととらえて治打撲一方を投与したところ,投与後3週の時点で右片麻痺が改善,投与後7週の頭部 CT では明らかな血腫の減量を認めた。以上より, CSDH のなかでもドレナージが困難で利水剤に反応しない再発症例に対し,治打撲一方は有用な治療薬になることが示唆された。

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