漢方医学的腹部症候と上部消化管X線所見との関連性について検討した。対象は当診療部通院中の患者95例である。胃十二指腸造影検査施行直前に腹診を行い, 腹候とX線所見を個別に検討した。腹候は, 腹力, 腹直筋緊張度, 心下痞鞭, 胸脇苦満, 振水音, 臍上悸, 臍傍圧痛, 回盲部圧痛, S字結腸部圧痛について評価した。X線所見は, 胃角の高さ, 大彎の鋸歯像, 胃萎縮性変化, 胃びらん性変化, 十二指腸下行脚の鋸歯像, 十二指腸憩室について評価した。推計学的検討の結果, 腹力が虚であるほど, 胃角が低位であり, 十二指腸憩室が高頻度に認められた。腹力が実であるほど, 胃びらんが高度に認められた。振水音陽性例は, 胃角が低位であり, 十二指腸憩室が高頻度に認められ, 胃の萎縮性変化が軽度であった。これらの成績は, 上部消化管の形態や粘膜の変化をとらえることにより, 漢方医学的な診断と治療の精度が向上する可能性を示唆するものである。
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