日本東洋医学雑誌
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73 巻, 1 号
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原著
  • —後ろ向きコホート研究による検討—
    中山 毅, 向 亜紀, 鈴木 京子, 宗 修平, 村林 奈緒, 堀越 義正, 小泉 るい, 伊東 宏晃
    原稿種別: 原著
    2022 年 73 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    目的:妊娠中の便秘症に対し,大建中湯の効果に関連する因子を明らかにする。

    対象と方法:妊娠中に便秘症状を有し,大建中湯15g/日が投与された23名の患者を対象。独自に作成した便秘スコアをもとに,投与前,2週および4週後のスコア値を後方視的に調査した。さらに4週時における処方継続の転帰から,改善群12名と非改善群11名に分け,有効性に関与したと考えられる背景の抽出を試みた。

    結果:大建中湯の投与前後で総スコア値は有意に減少し,症状別スコア値では特に腹部膨満と腹痛といった便秘随伴症状で低値を示した。改善群と非改善群につき背景の比較の結果は,手術(開腹ないしは腹腔鏡)既往歴がある群で,改善群の割合が高かった。また対象となった23名の妊娠および分娩経過は,特に問題なかった。

    考察:大建中湯は妊娠中の便秘症に対し,特に手術既往がある妊婦で効果が高い可能性が示唆された。

  • 浮田 真吾, 浮田 徹也, 村上 優美, 浮田 美里, 山口 菜津子, 浮田 恵, 浮田 祐司
    原稿種別: 原著
    2022 年 73 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    分娩後子宮は1ヵ月で非妊時の大きさに戻るが,通常の収縮が認められない場合子宮復古不全という。今回,我々は産後14日目に子宮内腔幅が15mm 以上の悪露貯留に伴う機能性子宮復古不全患者に対しコントロール群,桂枝茯苓丸群,マレイン酸エルゴメトリン群の3群に分け治療介入を行い,1ヵ月健診時の子宮復古不全の有無につき比較検討を行った。子宮内腔の縮小に関しマレイン酸エルゴメトリン群とコントロール群では差を認めなかったが,桂枝茯苓丸群ではマレイン酸エルゴメトリン群と比較し,有意に高い縮小率を認め,コントロール群との比較ではその傾向を認めた。(76.1 ± 17.1% vs 65.8 ± 25.4%,68.3 ± 22.9%,p = 0.0101,p = 0.0709)子宮底長の縮小率では,3群間で差を認めなかった。桂枝茯苓丸は子宮のサイズを縮小させる効果は乏しいが,子宮内腔に貯留した悪露を排出させる効果のある事が示唆された。

論説
  • 太田 美里, 宇高 一郎, 牧野 利明
    原稿種別: 論説
    2022 年 73 巻 1 号 p. 16-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    カノコソウ根はセイヨウカノコソウ根(ワレリアナ根)の代用品として知られているが,日本古来の利用および生薬名の変化については不明な点が多い。本研究では古文献を調査し,それらの利用法ならびに名称の変遷について考察した。

    カノコソウ根は江戸中期には和甘松の名称で民間薬的に利用されていた可能性があった。江戸後期以降,ワレリアナ根の欧州での利用法から,カノコソウ根がヒステリーの特効薬とされたが,漢方の復興時にヒステリーが血の道症に包含され,昭和になってから婦人用保健薬にも配合されるようになった。

    元来,纈草の名称はカノコソウ根を意味していたが,江戸後期に Valeriana officinalis(セイヨウカノコソウ)をカノコソウとして邦訳したことで,纈草=ワレリアナ根の認識が生まれた。昭和初期に,カノコソウ根の生薬名を吉草根と改め,ワレリアナ根と区別し,戦後にカノコソウとカタカナ表記したことが明らかになった。

論説
  • —疫病の歴史の研究を現代の臨床(例えばCOVID-19の治療)につなげる試み—
    安井 廣迪
    原稿種別: 論説
    2022 年 73 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    紹興年間(1131~1162)に増補された『和剤局方』傷寒門の香蘇散の方後には,当時流行した疫病に対し,この処方を使用した一族のみが無事だったという逸話がある。2020年にパンデミックとなったCOVID-19の発生地域は,かつて宋代に疫病が流行した江南に接し,その背景や漢方医学的にみた病態には類似性が認められる。香蘇散をはじめとする『和剤局方』傷寒門の処方の多くは,疫病の流行の多かった南宋時代の江南地域の疫病の治療のために開発され後世に残された。COVID-19の漢方的病態は11~13世紀の疫病とよく似た特徴を持っていると考えられ,香蘇散などの『和剤局方』傷寒門の処方群はCOVID-19に対して有効である可能性が推察された。これは,科学的に検証する価値があると考えられる。

臨床報告
  • 矢口 綾子, 牧 俊允, 吉永 亮, 後藤 雄輔, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    症例は47歳女性。X — 4年前に左下腿疼痛・不随意運動・しびれが出現した。他院神経内科で精査を行ったが原因が不明であった。むずむず脚症候群としてガバペンチンやガバペンチンエナカルビルなどの西洋薬で治療を行っていたが無効であった。X — 1年に症状が左上肢に進展した。疼痛のため自宅での臥床時間が増え,仕事の継続が困難となった。このため当院漢方診療科に紹介となり入院精査を行い,painful legs and moving toes syndrome,painful arms and moving fingers syndrome の診断となった。漢方医学的所見では重症瘀血があり,パニック障害の併存から桃核承気湯を投与したところ,左半身のしびれは消失し,疼痛も軽減した。西洋医学的に有効な治療法のない疾患に対して,瘀血や気逆を目標に桃核承気湯を中心とした漢方治療を行い,症状の改善を認めた症例を経験した。

  • 矢口 綾子, 牧 俊允, 吉永 亮, 後藤 雄輔, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    西洋医学的治療を拒否した関節リウマチ患者に対し,甘草附子湯を使用し,関節痛および頭痛などの随伴症状を改善できた症例を報告する。症例は35歳女性。X —8年に関節のこわばりが出現し関節リウマチと診断された。メトトレキサート(以下 MTX)による治療歴があるが,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(以下 MTX — LPD)を発症し中止された。西洋医学的治療に対する拒否感から漢方治療を希望し当院を受診し入院加療を行った。 気の変調,冷え,激しい痛みを目標に,甘草附子湯を処方したところ,関節痛に加えて頭痛などの諸症状が改善した。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    我々は過去に,漢方治療を試みた突発性難聴例の報告をしたが,いずれも虚証例であった1)。今回,虚実中間証,実証の突発性難聴例を新たに経験した。症例1は57歳男性。3日前からの右耳鳴,難聴を主訴に受診し,右突発性難聴 Grade3b と診断した。虚実中間証で,肝鬱気滞,瘀血を認め,小柴胡湯と桂枝茯苓丸を併用投与した。投与2週間で治癒した。症例2は48歳男性。2日前からの右難聴,めまいを主訴に受診し,右突発性難聴 Grade4a と診断した。実証で,肝鬱気滞,瘀血を認め,大柴胡湯と桃核承気湯を1週間併用投与した。その後,桃核承気湯を桂枝茯苓丸に切り替えて治療継続したが,高音部中心に若干の左右差が残り,著明回復にとどまった。

  • 辻 正徳, 地野 充時, 寺澤 捷年
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    腹満は日常臨床でしばしば見られる徴候の一つであり,腹痛や食欲不振を伴って生活の質を低下させる原因となりうる。西洋医学では,器質的異常に対する治療法はあるが,殊に機能性腹満に関してはしばしば治療に難渋する。 腹満に対する漢方の報告はあるが,調査した範囲で当帰四逆加呉茱萸生姜湯の治験例は見られなかった。今回我々は,当帰四逆加呉茱萸生姜湯による随証治療が腹満に奏効した2症例を経験した。症例1は頻回の噯気を伴う86歳女性,症例2はオピオイド内服中の59歳男性の症例であった。いずれも理気薬の効果に乏しく,四肢厥冷,腹部の冷え,鼠径部の圧痛から,当帰四逆加呉茱萸生姜湯証と判断した。同湯の投与にて症例1では腹満感の減少に伴って噯気の頻度の減少,食欲増進を認め,症例2では更に呉茱萸の増量等を行うことで腹満の改善を認めた。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は裏寒証を伴う腹満に対して奏効する可能性が示唆された。

  • 藤田 昌弘, 伊添 千寿, 西本 隆
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 74-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性。X — 3年より右肩甲骨下の一部分に熱さを感じるようになった。また夏を中心に倦怠感が悪化していたため,不安感を感じていた。X — 1年より症状の改善を求めて3件の病院を受診し,様々な治療を受けたが効果がなく,X 年2月に当院受診した。西洋医学的には身体症状症と診断し,煎じ薬も含めた漢方治療を開始した。 漢方医学的所見は,皮膚乾燥と下肢の冷えがあり,舌候は舌質が淡で瘀斑があり,苔は厚く中央が黄色,脈候は沈細で弱く,腹候は胸脇苦満があった。肝気鬱滞及び血虚瘀血と診断し,血府逐瘀湯加法にて治療した。約1ヵ月後より,背中の一部の熱さは激減した。その後も服薬を継続し,身体症状及び夏の倦怠感の悪化は認めていない。
    身体症状症は,エビデンスのある治療法は確立されておらず,西洋薬での治療効果が不十分な症例にしばしば遭遇するが,漢方治療が有効となりうる可能性があると思われる。

  • 福嶋 裕造, 藤田 良介, 濱吉 麻里, 平 憲吉郎, 戸田 稔子, 塩田 敦子
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    気虚発熱と診断し治療として補中益気湯を投与して有効であったので報告する。症例は26歳女性であり,手指の疼痛のため当院を受診した。諸検査にて関節リウマチは否定的であったが,最近生じている微熱の治療を希望したため,追加検査で発熱の原因になる感染症・悪性腫瘍・膠原病を否定した。漢方医学的に気虚発熱と診断し補中益気湯を投与したところ,発熱を自覚しないようになり熱型も改善したため有効であったと判断した。補中益気湯はもともと陰火による気虚発熱に対して立方されたが,現在ではそれ以外の疾患に使用されることが多い。今回症例を提示して補中益気湯について解説した。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 藤井 翔太, 千葉 裕人, 大塚 康司, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2022 年 73 巻 1 号 p. 87-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    口蓋扁桃摘出術は,耳鼻咽喉科で一般的に行われている手術である。術後は非常に疼痛が強く,数日間は食事摂取が困難となる場合も多々ある。今回我々は,立効散が疼痛管理に有効であった口蓋扁桃摘出症例を経験した。症例は23歳女性。習慣性扁桃炎の診断で口蓋扁桃摘出術を行った。術後疼痛が強かったが,非ステロイド性消炎鎮痛剤,アセトアミノフェンともに薬疹歴があり使用困難であった。ツムラ立効散エキス顆粒(2.5g/包)を1包,10秒間の含み飲みを行い,服用直後より疼痛が軽減した。その後も立効散の頓用使用により疼痛管理を行い,良好な術後経過をたどり,術後6日目に退院した。

短報
  • 當山 和代, 當山 雅樹, 山川 いずみ, 玉城 祥乃, 名嘉村 博
    原稿種別: 短報
    2022 年 73 巻 1 号 p. 91-96
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー

    当クリニックではCOVID-19患者増加に対応して,発熱外来におけるスタッフの感染リスクを回避するため,タブレット型端末を用いたリモート診療を行った。約5ヵ月間において,PCR 検査で診断されたCOVID-19患者は87人で,このうち漢方薬による初期治療を行ったのは24症例で,男性15人,女性9人,平均年齢は36.2歳であった。 24症例中4例が入院を要した。入院例も含めた全例の症状が8週間以内に軽快した。COVID-19の初期治療として,漢方薬を活用できるのではないかと思われる。また,タブレット型端末を用いたリモート診療は,感染力の強い感染症診療において有用な手段の一つと考える。

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