漢方処方選定の際に性と年令が重要な要素となるという仮説を検討するために, 昭和56年12月1日より昭和57年11月30日までの間に日本漢方医学研究所附属渋谷診療所を訪れた外来初診患者 (3, 156名) に処方された薬方 (総数4, 848回) につき統計的分析を行った。
頻用処方順位は: (1) 男性; (1) 小青竜陽, (2) 八味丸 (3) 柴胡桂枝湯, (4) 小柴胡湯, (5) 柴胡加竜骨牡蠣湯, (2) 女性; (1) 加味逍遙散, (2) 当帰芍薬散, (3) 桂枝茯苓丸, (4) 小青竜湯, (5) 桂枝加朮附湯。性による差違は明白である。
患者の年令分布は数の点で不均等であった。そこで, この不均等さを一定の計算で補正した後, 上記の各薬方について, 年令と, この年令に相当する患者達にその処方が何回位使われるかということとの間に何か関係があるか否かということが検討された。その結果, ある特定の薬方を使う頻度は年令に伴って変わるように思われた。それぞれの薬方ごとに, この点で, 特有のパターンがあるようである。
例えば, 小青竜湯はもっとも若い患者達に男女とももっともよく使われていた。反対に, 八味丸は老令者の男性にもっともよく用いられた。加味逍遙散は40才台と50才台の女性に使用のピークがあった。
こうしたことは我々の仮説を肯定するように思われる。この問題について, 歴史的観点からも論じられた。
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