米国では1980年以降, 性差医療に関して研究が進み, 女性医療センターが設立されるようになった。日本でも, ここ2~3年女性専門外来が次々開設されてきた。その背景は次のような医療が求められているからではないか。すなわち
1) 性差医療の必要性
2) 女性特有の体の仕組みや心理に基づいた個の医療
3) 心身相関に基づいた全人医療
4) 生活の質 (QOL) 向上への期待
全人医療はもとより, 個の医療は東洋医学の求めるところでもある。
女性の一生の中で更年期は性中枢の gonadotropin の分泌亢進に対して卵巣での反応の低下, すなわち estrogen 分泌の急激な低下など内分泌変調があり, 視床下部における cathecolamine を介して自律神経系に影響を及ぼし, その結果さまざまな不定愁訴が現れる。これを更年期障害という。その他, 更年期以降には骨量の減少, 脂質代謝異常, 泌尿器疾患, 膣粘膜萎縮など estrogen 低下に起因して起こりやすい。もちろん life style に関係のある生活習慣病 (diabetes mellitus, obesity, malignant tumor, liver cirrhosis など) も頻度が高くなる。
更年期障害は, 発症は内分泌異常であっても時期を経ると自律神経不安定症状であり, 必ずしも estrogen deficiency syndrome とはいえない。
これら機能性疾患に対しては漢方薬が極めて有効である。ただ, 漢方療法を行う場合は東洋医学的考え方, 診断法によらなければならない。
更年期障害では気血水の概念の導入が便利である。漢方的見方では更年期障害は〓血を核として気, 水がそれを修飾している病態が多い。頻用される処方を紹介した。
また, 更年期障害以外の更年期疾患に対する漢方療法の有効性と限界を考察した。最後に女性専門外来の今後の課題について言及した。
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