日本東洋医学雑誌
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62 巻, 6 号
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原著
  • —2群間のランダム化比較試験—
    水嶋 丈雄
    2011 年 62 巻 6 号 p. 691-694
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病は神経難病である。我々はこの疾患を薬物治療群と薬物治療と鍼灸治療併用群に無作為に群別し,その進行度をホーンヤール度と UPDRS II・III について治療開始から5年間にわたり追跡調査をおこなった。薬物治療群は95例平均年齢64.7才,薬物治療と鍼灸治療併用群は103例平均年齢63.9才,両群において L-dopa 内服量や合併症において差はなかった。結果は,薬物治療群5年経過時にホーンヤール度平均2.1±0.8,薬物治療と鍼灸治療併用群はホーンヤール度平均1.3±0.4となった。また同様に UPDRS II は薬物治療群平均12.2±7.2に対し鍼灸治療併用群平均は7.6±5.0となった。次いで UPDRS III は薬物治療群は平均18.2±9.8に対し鍼灸治療併用群は平均11.9±6.8となり,いずれも反復測定分散分析で有意差を認めた。我々はパーキンソン治療において鍼灸治療を併用することは,その進行抑制に寄与できるものと考える。
  • 町 泉寿郎
    2011 年 62 巻 6 号 p. 695-712
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    従来,大鳥蘭三郎らの研究によってシーボルトによる鍼灸に関する言及が,彼の門人の蘭訳文献に依拠するものであること,またその蘭訳の原著が石坂宗哲の鍼灸文献『知要一言』であることは知られていた。しかし,シーボルトが門人美馬順三にその蘭訳を依頼したのは『知要一言』刊行以前のことであり,先行研究では蘭訳の際の底本までは特定できていなかった。今回,著者の調査によって,ライデン大学図書館に所蔵される石坂宗哲の鍼灸書が,シーボルトの江戸参府の際に石坂宗哲が自ら書写して贈った自筆稿本であり,蘭訳の際の底本となった文献であることが分かった。また国立民族学博物館に所蔵されるシーボルト旧蔵にかかる「九鍼」と「微鍼」も,石坂宗哲から贈られたものである可能性が高いことを論じた。
臨床報告
  • 松浦 恵子, 徳永 秀明, 今津 嘉宏, 西村 甲, 秋葉 哲生, 渡辺 賢治
    2011 年 62 巻 6 号 p. 713-717
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎では,内科的治療が困難な場合,大腸全摘出術・回腸嚢肛門吻合術が適応になり,回腸嚢炎は,術後のQOLを左右する重要な要因の一つである。繰り返す回腸嚢炎に対して大桃花湯が有効であった一例を報告する。症例は41歳の男性。潰瘍性大腸炎の劇症化により大腸全摘出術・回腸嚢肛門吻合術を施行した。その後,回腸嚢の狭窄,回腸嚢炎を繰り返し,全身疲労倦怠,冷え,下腹部の持続性疼痛や不快感,排便時の激痛を認めた。抗生剤,鎮痛剤でコントロールができないため,当科受診。小建中湯(煎液)の開始により,排便時痛が消失し,黄耆建中湯(煎液)では体力回復が認められた。しかし,その後も回腸嚢炎の発症を繰り返し,柴胡桂枝湯(煎液),補中益気湯エキス,十全大補湯エキスを試したが効果なく,抗生剤の耐性化も認めた。大桃花湯(煎液)へ転方したところ,6ヵ月の内服で回腸嚢炎が軽快し,本方の継続でその後も回腸嚢炎のコントロールは良好である。
  • 田原 英一, 村井 政史, 犬塚 央, 岩永 淳, 大竹 実, 土倉 潤一郎, 矢野 博美, 木村 豪雄, 三潴 忠道
    2011 年 62 巻 6 号 p. 718-721
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    小半夏加茯苓湯を後鼻漏の15症例に対して投与した。有効10例,無効5例の,自覚症状,他覚所見を検討した。全例で嘔気は認めなかった。有効例では鼻汁の性状が水様で,振水音を聴取したものを多く認めた。鼻汁が粘調で,振水音を認めなかった症例は無効であった。小半夏加茯苓湯は明らかな嘔気を伴わなくても,鼻汁が水様であり,振水音を聴取する後鼻漏に試みてよい方剤と考えられる。
  • 堀田 広満, 及川 哲郎, 伊藤 剛, 花輪 壽彦
    2011 年 62 巻 6 号 p. 722-726
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    掌蹠膿疱症に関節症状を合併する例は少なくないが,標準的治療は確立されていない。今回,柴胡桂枝湯の投与で皮疹および関節症状が改善した掌蹠膿疱症の症例を提示する。症例は44歳,男性。足底の膿疱,胸鎖関節,股関節,腰部の疼痛を認めた。ジクロフェナクナトリウム挿肛後も疼痛は緩和せず当研究所を受診した。掌蹠膿疱症の関節痛合併例と診断し「治小柴胡湯,桂枝湯,二方証相合者」を目標に柴胡桂枝湯を処方したところ,1ヵ月後,関節痛,皮疹が軽快した。以後,上気道症状と共に再び足底に膿疱を認め,桔梗湯の『傷寒論』条文「咽痛者」から桔梗を加味したところ,関節痛,皮疹がほぼ消失した。掌蹠膿疱症の関節痛合併例に柴胡桂枝湯を用いたとする文献はない。関節痛を合併する掌蹠膿疱症は稀ではなく,柴胡桂枝湯は有用な処方のひとつであると考える。
  • 深谷 良, 菅生 昌高, 海老澤 茂, 島津 健吾, 千々岩 武陽, 青柳 晴彦, 小澤 友明, 嶋田 豊, 伊藤 隆
    2011 年 62 巻 6 号 p. 727-735
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    薯蕷丸は金匱要略に収載された方剤であるが使用報告例は少ない。今回,食欲低下が著しかった14症例を薯蕷丸で治療し良好な食欲改善効果を得たので報告する。悪性疾患は8例で,その内6例を占める肺癌では全例で食欲改善を認めた。改善例では平均食事摂取率が28%から79%に増加した。胆管癌,悪性リンパ腫各1例には効果がなかった。良性疾患6例では心不全1例と大腿骨骨折手術後の食欲低下2例に効果があり,残りの3症例(肺炎,糖尿病とうつ病合併,食欲不振)では効果がなかった。薯蕷丸は肺癌終末期の食欲低下に有用である可能性があり,QOLを維持する効果も期待できると思われた。
  • 引網 宏彰, 山本 佳乃子, 中田 真司, 野上 達也, 藤本 誠, 後藤 博三, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2011 年 62 巻 6 号 p. 736-743
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    純粋型自律神経不全症(PAF)は多彩な自律神経症状を伴う変性疾患の中で,体性神経症状を伴わない疾患である。今回我々はPAFに対して桂枝加芍薬湯が奏効した症例を経験した。症例は下痢,腹痛,排尿障害,起立性低血圧を主訴とする61歳,男性である。安静時の血漿ノルアドレナリンが低値で,123I MIBG心筋シンチグラフィーで高度びまん性交感神経機能障害が示唆され,PAFが強く疑われた。種々の漢方薬を投与したが,無効ないし継続困難であった。尿閉に対しては自己導尿を行った。桂枝加芍薬湯エキスの投与により,下痢や腹痛の頻度が減少し,食事も摂れるようになっていった。次第に活動範囲も広がり,自尿も得られたため導尿を中止できた。5年後に自律神経機能の低下を認め,臨床的にPAFと診断したが,日常生活の活動性は低下していなかった。本症例のような多彩な自律神経症状を呈する疾患に対して,桂枝加芍薬湯は有用な治療手段となり得る可能性が示唆された。
  • 中永 士師明, 廣嶋 優子, 横井 彩, 鎌田 久美子
    2011 年 62 巻 6 号 p. 744-749
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    葛根加朮附湯は肩こり,肩甲部の神経痛,上半身の関節リウマチなどに効能があるといわれている。今回,頸部・上肢痛を訴える症例に対して葛根加朮附湯を投与し,その有効性,安全性について前向き多施設研究を行った。胃腸障害,のぼせ,発汗過多を有さない124例を対象とした。効果判定はVisual Analog Scale (VAS)を使用し,投与前に比べて4週間後のVASが50%以下であれば「著効」,51‐75%であれば「有効」,76%以上もしくは4週間以内に処方を変更した場合は「無効」とした。著効例81例,有効例21例,無効例22例であった。著効例と有効例を合わせた効果ありの症例は82.3%であった。有害事象は5例に認められた。症状としては倦怠感,胃痛,浮腫であった。全例,中止により症状は改善した。葛根加朮附湯は胃腸障害,のぼせ,発汗過多を有さない頸部・上肢痛に対して安全に使用できると考えられた。
東洋医学の広場
  • 石川 利博, 金 兌勝, 梁 哲周
    2011 年 62 巻 6 号 p. 750-759
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/21
    ジャーナル フリー
    黄帝内経・霊枢には「陰陽五態」「陰陽二十五人」と二種類の類型が存在する。それは「性格」「体格」「体質」「治療」に項目を分けてまとめ直すことができる。それらは相互に密接に関連している。これは,「形神合一」という概念があることで説明できる。「形」即ち「身体」と「神」即ち「精神」が合一であるという整体観が基礎になっている。
    また,この類型を性格類型とみなすと,現代の心理学的な性格類型と比較する事が出来る。クレッチマーやコルマンは性格と体格,性格と相貌を関連付けて論じている。体格,相貌は望診である。一方,性格は望診と問診両方に当たる。これらの知見を借りることで,漢方的な診断の技術を上げられるのではないかと考える。
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