日本東洋医学雑誌
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61 巻, 7 号
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総説
  • 秋葉 哲生
    2010 年 61 巻 7 号 p. 881-888
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    1944年に東亜治療研究所長板倉武は,漢方エキス剤による比較臨床研究を実施したが敗戦のために中断した。1961年に国民皆保険が実現し,漢方治療の保険給付が開始された。1967年にはじめて6種類の医療用漢方製剤が薬価収載され,1976年には42処方,60品目が一挙に導入された。2000年現在では,148処方,848品目に至っている。医療用製剤の薬剤としての承認基準は『一般用漢方処方の手引き』と題されて1975年に第1版が,2008年に改訂版が刊行された。
    1996年の小柴胡湯副作用問題が契機となり,2001年に日本東洋医学会にEBM委員会が設立された。委員会は漢方治療の臨床研究の収集と評価とを行い,2005年に最初の報告書を公表した。
    2001年になって,医学教育に和漢薬の知識が必修とされるにいたった。2009年に実施された漢方薬の保険適応除外に反対する署名活動の結果,国民の多くが漢方薬を医師による処方によって服用することを希望していることが判明した。
  • —その全体像の俯瞰—
    寺澤 捷年
    2010 年 61 巻 7 号 p. 889-896
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    現代・日本漢方の基盤の一つに「古医方」の思想がある。これは江戸期に中国における復古運動の影響を受けて勃興したが,同時期に起こった文芸復興運動と連動している。この儒教を中心とする革新運動の影響の下に,日本独自の展開がなされた。それは思弁性の排除であり,「親試実験」による実証性の追求であった。本稿では,「古医方」と古義学・古文辞学・古学との関連を総合的に俯瞰し,両者の関連性を明らかにした。
原著
  • 木村 容子, 清水 悟, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2010 年 61 巻 7 号 p. 897-905
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    緒言:桂枝湯エキスと麻黄附子細辛湯エキスの併用が有効な冷えのタイプを検討した。
    症例提示:麻黄附子細辛湯エキスに桂枝湯エキスを追加して,胃もたれの軽快とともに,長年の冷えも改善した一例を挙げた。この症例を参考にして当初より同処方を併用し,症例1は冷え,食欲不振,倦怠感や関節の動きが悪い,症例2は冷え,悪寒しやすい,疲れやすい,胃もたれ,風邪を引きやすいなど,症例3では悪寒を伴う全身の冷えや倦怠感,月経痛などが改善した。
    対象と方法:冷えを訴え,随証治療にて桂枝湯エキスと麻黄附子細辛湯エキスを投与した患者43名を対象とした。随伴症状,体質傾向や診察所見など52項目を説明変数とし,冷えの改善の有無を目的変数として多次元クロス表分析により検討した。
    結果:「悪風または悪寒」と「全身の冷え」を含む組み合わせが臨床的に最適な効果予測因子となった。
    考察:悪寒や悪風を伴う全身の冷えがあり,頭痛を訴え,下痢がない場合に有効な可能性が高い。
臨床報告
  • 村井 政史, 矢野 博美, 大竹 実, 岩永 淳, 犬塚 央, 貝沼 茂三郎, 田原 英一, 三潴 忠道
    2010 年 61 巻 7 号 p. 906-911
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    通脈四逆湯の附子を烏頭に変更し奏効した2例を報告した。1例目は33歳の女性。皮疹および瘙痒感を認め,通脈四逆湯を投与し白河附子を14gまで漸増したが改善しなかった。そこで冷えが極めて強いために,通脈四逆湯の白河附子を烏頭に変更したところ,皮疹および瘙痒感が改善した。2例目は42歳の男性。泥状便および全身倦怠感を認め,通脈四逆湯を投与し炮附子を10gまで漸増したが改善しなかった。そこで冷えが極めて強いために,通脈四逆湯の炮附子を烏頭に変更したところ,普通便となり全身倦怠感が改善した。附子を用いた通脈四逆湯では改善しない寒の強い病態においては,附子を烏頭に変更すると有効な場合がある。
  • 福田 悟, 南部 隆, 高橋 秀則, 黒木 佳奈子, 西山 比呂史, 三潴 忠道
    2010 年 61 巻 7 号 p. 912-916
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    釣藤散により帯状疱疹による眼症状が劇的に改善した2症例を経験した。症例1は78歳女性で20年前の帯状疱疹による眼内異物感とひりひりする痛みを訴え,既往に高血圧があった。週1回の星状神経節ブロック,桂枝加朮附湯エキス,アミトリプチリンおよび後にメキシレチンで治療した。最初,神経ブロックの効果は劇的であったが,その効果は1カ月間で徐々に減少した。星状神経節ブロックと釣藤散の共通作用である頭蓋内血流の増大を鑑み,釣藤散エキスを投与した。症状は投与5日で減衰し,2.5カ月で全く消失した。症例2は65歳男性,11カ月前の帯状疱疹による眼内異物感を訴え,既往に高血圧があった。星状神経節ブロックを行ったがその効果は症例1と同じく一時的であった。釣藤散エキスを投与したところ,症状は2週間で軽減し2カ月でほぼ消失した。これらの経験から高血圧を既往に持ち帯状疱疹による眼症状を呈する患者には釣藤散が適していると思われる。
  • 田島 康介, 吉田 祐文, 松村 崇史
    2010 年 61 巻 7 号 p. 917-919
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    ハンセン病の後遺症による難治性下肢神経障害性疼痛に対し,漢方薬である五苓散(エキス剤)が著効した症例を経験したので報告する。【症例】85歳,男性。ハンセン病による右下肢神経痛に対しNSAIDsやその他の西洋薬が無効なため,ペンタゾシンを約5年もの間,連日投与されていた。漢方医学的には全身には水毒を認めなかったが,考察で論ずる理由から五苓散を投与したところ急速に症状の寛解が得られた。【考察】末梢神経では慢性炎症により浮腫と線維化が進行するとされる。(1)末梢神経の線維化により局所の血流障害がおこるとNa/K-ATPaseポンプが抑制されるため,細胞外K濃度が増加して神経の易興奮性を生じるが,五苓散には細胞外Kの調節作用が存在することが知られている。また,(2)本症例は漢方医学的には水毒を認めなかったが,神経の腫大化すなわち神経浮腫は局所の水毒と考えられる。この二つのメカニズムにより,五苓散が奏効したものと考えられた。
  • 沢井 かおり, 松浦 恵子, 今津 嘉宏, 西村 甲, 渡辺 賢治
    2010 年 61 巻 7 号 p. 920-923
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    女性の外陰部痛は,炎症,外傷,腫瘍,加齢による萎縮乾燥などで生じるが,原因不明の場合はVulvodyniaと称され,しばしば難治性で,治療に難渋することがある。今回,牛車腎気丸で原因不明外陰部痛が軽快した症例を経験した。症例は92歳女性,2~3時間続く腟から尿道にかけての痛みが頻発し,夜間長時間眠れないため受診した。漢方医学的に,虚実中間証,寒証で,瘀血,腎虚の所見が認められた。高齢で,腎虚があり,尿路系の症状があることから,牛車腎気丸を処方したところ,夜間に痛みで起きる日が少なくなり,日中の外陰部痛も,著明に軽快した。また,時々起こしていた尿閉も起こさなくなった。難治性の原因不明外陰部痛では,補腎剤も治療の重要な選択肢のひとつと思われる。さらに排尿障害も改善し,複数の障害が一剤にて改善されるという,西洋薬にはない漢方治療の有用性が示された。
  • 岡田 直己, 夏秋 優, 西本 隆
    2010 年 61 巻 7 号 p. 924-929
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    Schamberg病は特発性色素性紫斑の一亜型で,原因不明であるが静脈性微小循環障害や免疫アレルギー的機序が関与しているとされる。今回我々は自家製桂枝茯苓丸がSchamberg病の皮疹に対して著効を示した症例を経験した。症例は55歳,男性。両下腿に点状の紫斑が出現し,その後褐色の皮疹が混在して融合傾向を示すため皮膚科を受診した。臨床所見より特発性色素性紫斑,そのうち斑状型であるSchamberg病と診断された。その漢方医学的病態を瘀血と考えて桂枝茯苓丸を選択し,より作用を効果的とするため自家製のものを用いた。同剤処方後下腿の皮疹は次第に軽快し,約4カ月で略治した。特発性色素性紫斑の漢方治療は,これまで温清飲の報告例が多い。代表的な駆瘀血剤である桂枝茯苓丸も,薬理作用面から血流障害と炎症を呈する病態に対して効果的であり,特発性色素性紫斑の治療に有用であるといえる。
報告
  • 角野 めぐみ, 大野 賢二, 金子 明代, 久永 明人, 喜多 敏明
    2010 年 61 巻 7 号 p. 930-937
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    漢方薬の服用方法や,服用を困難にしている原因を探り,服薬指導に活かすため,未成年患者における漢方薬の服用状況についてアンケート調査を実施した。
    対象患者46例の平均年齢は9.7 &qlusmn; 5.3歳(2歳~19歳)で,男性の割合が高かった(65%)。エキス製剤(40例)または煎剤(6例)を服用しており,服用回数は1日2回が38例(83%)と最も多かった。また,服薬に際し,5歳以下の69%の患者で直接介助が必要であったが,6歳以上では飲む段階まで用意すれば本人が服用でき,13歳以上では77%の患者で自発的な服用が可能であった。
    また,患者の年齢に関係なく,介助者や家族は服薬理由を具体的に話していることから,患者本人をも含めた服薬指導はアドヒアランスの向上につながることが期待される。さらに,薬剤師は必要に応じて漢方薬やその構成生薬と味について情報提供することもアドヒアランスの向上に役立つと考えられた。
会長講演
  • 寺澤 捷年
    2010 年 61 巻 7 号 p. 938-955
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
    『医界之鉄椎』の初版本が発刊されたのは明治43(1910)年であり,今年は正に100周年である。この警世の書は医学が専門分化の道を辿り統合的な理解が困難となった医療界の現状を憂え,漢方こそが統合的治療の根幹に据え置かれるべきものであることを主張した医療論である。この初版本に対して,論理だった反論を展開した人物が存在した。それが平出隆軒氏である。平出氏は奇しくも当時の名古屋医療界の泰斗である。彼は『医界之鉄椎』を熟読し,これに反論(一部同意)を加えた見識と品格を高く評価したい。この平出隆軒氏の反論を輯録した第二版は大正4(1915)年に出版された。平出隆軒氏の指摘した事項は今日の我々にも突きつけられた刃である。そこで,平出氏の指摘した課題を整理し,私共がその課題にどのように取り組んできたか。将来に解決を待たなければならない課題は何かについて論じた。
招待講演
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