日本東洋医学雑誌
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53 巻, 1-2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 磯濱 洋一郎, 森内 宏志, 甲斐 広文, 宮田 健
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 1-9
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    気管支喘息や慢性閉塞性呼吸器疾患 (COPD) に代表される慢性の呼吸器疾患は, 世界中に多くの患者が存在する。慢性呼吸器疾患の治療には長期投与が可能で副作用の少ない薬物が求められるが, 西洋薬には限界があり, 漢方薬の使用が増加している。麦門冬湯は慢性呼吸器疾患に有効な漢方方剤の一つであり, 特に激しい咳を伴う場合に用いられる。麦門冬湯が多彩な薬理作用を持つことは明らかになってきたが, その薬理作用にはグルココルチコイドと共通するものが多い。従って麦門冬湯がグルココルチコイドと同様に遺伝子の発現を調節する作用をもつと推定されるが, その特性は十分に解明されていない。本稿では, 特にこれまでに明らかになった麦門冬湯の肺上皮細胞における遺伝子発現調節作用に焦点を当て, 麦門冬湯とグルココルチコイドの作用の類似点と相違点について解説する。
  • 寺澤 捷年
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 11-35
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    20世紀にめざましい発展をとげた西洋医学は, 普遍性・客観的観察・論理性を重要視する医学体系である。西洋医学では身体や物質的側面が追求され, しばしば患者の心の問題やクオリティーオブライフが軽視されてしまう。一方, 東洋医学 (漢方医学) では心身一如の考え方にもとづき, 患者の訴えが重視される。今や西洋医学と東洋医学が融和した新しい医学の確立が求められている。インフルエンザ, シェーグレン症候群, 慢性腎不全, 慢性C型肝炎, 動脈硬化症に対する西洋医学と東洋医学の有用性と限界を示し, 両者が融和した新しい医学の可能性について述べた。さらに, 漢方薬の臨床効果の評価方法として, 証の理念を取り入れた形での二重盲検法やN-of-1デザインによる評価を紹介した。
  • 松村 崇史
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 37-40
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    急性期RSDの5例に対し柴苓湯と六君子湯を投与し, 疼痛 (VAS), 腫脹, 手指運動障害について検討した。うち4例が6週以内に疼痛が半分以下に減少し有効であった。腫脹, 手指運動障害は疼痛に先行して改善する傾向があった。RSDの急性期は局所の炎症が主体であるが, 発症しやすい精神的素因や発症後の気虚があり, 全身的疾患の部分症と認識する必要がある。それゆえ柴苓湯と六君子湯による漢方治療は合理的な治療法と考えられた。
  • 堀野 雅子
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 41-46
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    傷寒論, 金匱要略において, 振り出し薬として唯一記載されているのは, 傷寒論の大黄黄連瀉心湯である。振り出し薬とした意味は, 緊急性が要求されているからであろうと思われる。筆者は, 大黄, 黄連, 黄苓三味の瀉心湯の振り出し薬を当院受診の高血圧患者32名 (男性5名, 女性27名) に使用し, 服用前, 服用後30分間経時的に血圧測定した。その結果, 収縮期圧10mmHg以上の降圧効果は, 全体の68.8%であった。平常時, 陽実証と思われない人においても降圧効果があった。今回の投与において, 下痢をした人はいなかった。振り出し薬は瀉下作用よりも, 鎮静作用が強調されていると思われた。緊急的に血圧上昇した場合の降圧剤として有用と思われる。
  • 山田 和男, 神庭 重信, 大西 公夫, 田 亮介, 福澤 素子, 村田 高明, 寺師 睦宗, 浅井 昌弘
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 47-54
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    柴胡剤や柴胡を含まない方剤の投与により, 胸脇苦満がいかに変化するかを検討した。
    44例 (男性7例, 女性37例, 平均年齢42.8±16.4歳) を対象として, 6ヵ月間の漢方薬による治療を行い, 胸脇苦満の程度と有無の評価, 血液生化学検査, Zung の Self Depression Scale (SDS), the Subjective Well-being Inventory (SUBI) の変化を調査した。
    6ヵ月間にわたり“柴胡”を含む方剤のみを投与されていた20例 (S群) では胸脇苦満の程度が左右ともに有意に軽減していたのに対し, 柴胡を含まない方剤のみを投与されていた16例 (C群) では左右ともに胸脇苦満の程度に有意な変化を認めなかった。S, C両群の比較においても, 左右ともに両群間に有意差を認めた。また, 左側の胸脇苦満の程度の軽減と, 血中総蛋白値の上昇との間の関連が示唆された。
  • 桜井 みち代
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 55-61
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    ステロイド抵抗性の重症の成人アトピー性皮膚炎に漢方治療が奏効した3症例を報告した。3症例とも紅皮症の状態であり, 滲出液, 浮腫, 悪寒, 皮膚の乾燥感が著明であった。各症例に対し, 本治と標治を組み合わせて, 治療した。症例1は38歳の男性で, 脾胃気虚と水滞が著明で, 本治に啓脾湯を, 標治として, 水滞に猪苓湯を, 紅斑, 落屑, 掻痒に清熱剤の三物黄苓湯を使用した。症例2は58歳の女性で, 脾が弱く, かるい眩暈, 頭痛があるため, 本治に半夏白朮天麻湯を, 標治に排膿散及湯を使用した。症例3は23歳の男性で, はじめに治頭瘡一方と桔梗石膏による標治をおこない, その後, 皮膚の乾燥感が非常に強いため, 本治に十全大補湯を選択し, 標治に黄連解毒湯や越婢加朮湯を加えて治療した。その後汗がでるため桂枝加黄耆湯に変方した。その後も症状の変化に応じて, 本治と標治を交互におこなったり, 組み合わせたりして治療した。3症例とも1年半後には略治あるいは軽度の皮疹を認めるのみとなった。
  • 田原 英一, 斉藤 大直, 川上 義孝, 荒川 龍夫, 寺澤 捷年
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 63-69
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    療養型病床群で釣藤散投与を契機に経管栄養から経口摂取が可能となったと考えられる症例を経験した。症例1は84歳, 男性。誤嚥性肺炎の後, 寝たきり, 胃瘻状態で当院へ転院。入院時は会話もほとんど不能であったが, 釣藤散 (TJ-47) を投与開始後, 意欲の向上が見られ, その後嚥下訓練を行い, 経口摂取が再開となった。症例2は99歳女性。大腿骨骨折術後, 経鼻経管栄養状態で当院へ転院。経口摂取に対して拒否的であったが, 釣藤散投与開始後徐々に経口摂取が可能となった。症例3は84歳女性。誤嚥性肺炎の後, 寝たきり, 経鼻経管栄養状態で当院へ転院。左大転子部に褥瘡形成を認め, しばしば発熱があったが, 釣藤散投与後意欲の改善を認め, 嚥下訓練と合わせて経口摂取が可能となった。また経口摂取に伴い, 褥瘡も治癒した。高齢者の経管栄養からの離脱に際し, 釣藤散は試みられて良い方剤と考えられた。
  • 和久田 哲司
    2002 年 53 巻 1-2 号 p. 71-75
    発行日: 2002/03/20
    公開日: 2010/03/12
    ジャーナル フリー
    漢代に成立した『黄帝内経』の以前もしくは以後の関係文献から, 手技 (按摩) 療法の発祥及び発展状況を考察したところ, 次の事項を確認した。
    中国における按摩療法の起源は, 甲骨文や『周禮』の記述から殷周代に求められ,『扁鵲伝』に按摩治法の名やその治効作用が示されていることから, その発祥を春秋戦国期に遡ることが出来る。また,『五十二病方』に按摩療法の記述が見られることは, 按摩治法が既に秦漢以前に行われていたことを実証するものである。そして『養生方』『神農本草経』などの薬物書において「摩」の術が膏薬と共に用いられていたことは,『黄帝内経』での「按」の術との表現が異なってはいるが, 按摩施術が存在していたことを裏付けている。以上のことから按摩療法は少なくとも周代には既に他の治法と共に併用されていた。しかし「按」と「摩」の術としての発展過程の相違が伺われ, 今後この点の検討を要する。
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