日本東洋医学雑誌
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63 巻, 2 号
第63巻 第2号 2012年
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 中島 正光
    2012 年 63 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    治療目的で投与された薬剤により発症する薬剤性肺炎は大きな問題である。しかし,薬剤性肺炎の確定診断ができる検査方法はなく,経過,身体所見,検査などを総合して診断しなければならない。特に,薬剤性肺炎と鑑別困難な場合がある感染症の否定が重要である。また,本症診断のために薬剤リンパ球刺激テスト(Drug lymphocyte stimulation test : DLST)があるが,DLST は偽陽性偽陰性の頻度が低くなく,検査方法の基準が不明確などの問題点が多く,DLST を重視した薬剤性肺炎の確定診断は控える必要がある。そのような中で,肺線維症のマーカーであるKL‐6が薬剤性肺炎で高値になり,血清 KL‐6は補助診断法として有用な検査と考えられる。その他の薬剤性肺炎の診断に関わる検査方法についても解説する。
    生薬による薬剤性肺炎の報告でも,DLST を重視した診断,感染症の否定が不十分などの問題があることも少なくない。一度,薬剤性肺炎と診断されると有用な薬剤であっても原則的にはその薬剤が使用できなくなる。薬剤性肺炎の診断には十分な注意が必要である。
  • 寺澤 捷年
    2012 年 63 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    漢方は1875年に明治維新政府によって捨て去られるまで,我が国の医療の主流であった。1910年,和田啓十郎は『医界之鉄椎』を公刊し,西洋医学との協調の下に漢方を正当に評価すべきことを提唱した。今から丁度100年前,明治43(1910)年のことである。この著作に啓発され,漢方復興運動に取り組んだのが湯本求真であり,そして湯本求真の精神に共鳴したのが大塚敬節である。このように見ると,この『医界之鉄椎』が漢方の復興に果たした歴史的意義は甚大である。本稿では『医界之鉄椎』が発刊された当時の時代背景と,それから一世紀,我々の先輩は何を成し遂げたかを明らかにした。
臨床報告
  • 長坂 和彦, 福田 秀彦, 渡辺 哲郎, 永田 豊
    2012 年 63 巻 2 号 p. 98-102
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    漢方薬はこれまでも腎疾患に応用されてきた。漢方薬の大黄や温脾湯には,透析導入までの期間を延ばす働きがあることが知られている。しかし,その効果は1/Cr の傾きを改善するにとどまり,Cr 自体を改善するわけではない。今回,西洋薬が無効であった慢性腎不全患者に漢方薬の黄耆が奏功した4症例を報告する。4例ともCr 値は明らかに改善し,透析導入までの期間が延長された。このうち2例は4年以上にわたり安定的に推移している。4例とも副作用は認めず,また治療前後で血清リン,カリウム,尿酸値に変化はなかった。黄耆は慢性腎不全の有力な治療薬となりうる。
  • 薄木 成一郎, 西本 隆
    2012 年 63 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    僧帽弁置換術(MVR)後に利尿剤服用中にもかかわらず治療抵抗性の胸水貯留を認め,五苓散追加投与にて改善した症例を経験した。症例は60歳の男性で,MVR 施行2年後でフロセミド60mg 及びスピロノラクトン25mg/日を服用中であったが,労作時呼吸困難と共に右胸水を認め,穿刺排液を2度行い,スピロノラクトンを50mg/日に増量するも,胸水の再度の増加を認めた。そこで,五苓散7.5g/日を追加し,胸水量の減少,安定化を認めた。このように,心不全に伴う胸水が利尿剤にてもコントロールが難しい時,五苓散追加投与が選択肢に成り得ると考えられた。
  • 西田 清一郎, 佐藤 広康
    2012 年 63 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    CAVI (Cardio-Ankle Vascular Index) は,四肢動脈の脈波測定によって,動脈の硬化度を非侵襲的に導くことができる生理検査指数である。八味地黄丸が,CAVI を改善した2例を経験したので報告する。
    症例1:79歳女性。舌の痛み,口腔乾燥,下肢のしびれに,八味地黄丸を投与した。下肢のしびれと口腔乾燥は改善し,舌の痛みは半減した。治療前,右-CAVI ; 9.8,左-CAVI ; 9.7と高値だったが,1年後,それぞれ9.1と8.9まで改善した。
    症例2:77歳女性。下肢の冷えとしびれ,頻尿に八味地黄丸を投与した。半年後,これらの症状は改善した。治療前の右-CAVI ; 10.2,左-CAVI ; 10.1であったが,2年後,それぞれ9.9と9.2まで改善した。
    八味地黄丸は動脈硬化の指標であるCAVI を,高齢者において,改善させる可能性があることが示唆された。
  • 金澤 康範, 竹本 伸輔, 久保 陽平, 持尾 佳代子, 田原 英一, 矢野 博美, 三潴 忠道
    2012 年 63 巻 2 号 p. 116-120
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    総合病院である飯塚病院における,漢方を専門としない医師による漢方製剤の処方実態を検討した。平成15年より半期毎に漢方製剤の処方量を包数に換算し,集計した。その結果,漢方製剤の処方量は平成15年から漸増していた。さらに平成21年度下期における医師及び診療科別に処方された漢方製剤の種類及び処方量を検討したところ,漢方製剤別には大建中湯が最も多く,以下大黄甘草湯錠,牛車腎気丸の順だった。漢方製剤は全医師の87%,および全ての診療科で処方されていた。科別の処方量は外科が最も多かった。また,産婦人科,泌尿器科等,使用漢方製剤に各診療科の特徴が現れていた。病院診療において漢方製剤は有用な薬剤だと考えられる。
東洋医学の広場
  • 今津 嘉宏, 金 成俊, 小田口 浩, 柳澤 紘, 崎山 武志
    2012 年 63 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    背景:モデル・コア・カリキュラムに「和漢薬を概説できる」の一項目が追加され,漢方医学教育が採用された。
    目的:2007年から漢方医学教育は全国80の医学部全てで行われている。その現状を把握し,大学における漢方医学教育の問題点や,今後漢方専門医等学会に課せられた問題のヒントを得ることを目的に,アンケート調査を行なった。
    方法:日本東洋医学会渉外委員会は,全国80大学の漢方教育に関するアンケート調査を郵送で実施した。
    結果:80施設中67施設から回答(回収率83.8%)を得た。漢方医学が医療にとって必要(91%),教育成果の評価のために試験実施(77%),教員養成を行っている(46%)などの結果を得た。
    結論:卒前の漢方医学教育カリキュラムの充実と,標準化,臨床実習の整備が必要である。今後は卒後教育の確立が必要と考えられた。
  • 高 鵬飛, 宗形 佳織, 詹 睿, 今津 嘉宏, 松浦 恵子, 相磯 貞和, 渡辺 賢治
    2012 年 63 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/04
    ジャーナル フリー
    日本の医学部における漢方医学教育と中国の中医薬大学(中医・中西医の教育課程)および医科大学(西洋医の教育課程)における中医学教育を比較した。日本の漢方医学教育は2001年に文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに組み込まれたものの,6年間の約4000コマの講義数に対して,わずか8コマ程度である。一方,中国の中医薬大学では5年間の5割を中医学,残り5割を西洋医学の課程が占めている。また医科大学においても80コマの中医学講義がある。一方,教育内容に関しては日本の漢方教育や卒後教育は「傷寒論」と「金匱要略」を重視しているが,中国の中医学教育は中医陰陽五行学説や臓腑経絡理論などを重視している。現在,日本では卒後教育の強化により専門医数が増えつつある。一方で中国は中医学を専門とする医師が減少している。伝統医学を継承する根源となる教育は両国の伝統医学の発展にとって非常に重要であると示唆された。
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