日本東洋医学雑誌
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70 巻, 4 号
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原著
  • —処方中の乾姜と甘草が与える影響—
    笛木 司, 谷村 陽平, 田中 耕一郎, 千葉 浩輝, 松岡 尚則, 並木 隆雄, 藤田 康介, 須永 隆夫, 別府 正志, 牧野 利明
    原稿種別: 原著
    2019 年 70 巻 4 号 p. 313-323
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    『宋板傷寒論』に収載される未修治ブシ配合処方:四逆湯,通脈四逆湯,乾姜附子湯について,傷寒論成立期とされる後漢代の量衡に基づいた検討から往時想定されていた煎じ上がりまでの煎煮時間を推定し,また実際に煎液を調製して,アコニチン型ジエステルアルカロイド(ADA)をはじめとする附子由来ジテルペンアルカロイドの煎煮中濃度の経時的変化を分析した。通脈四逆湯の条文にある「強人」を対象とする加減方では,乾姜の増量がもたらす煎煮時間の短縮により,未修治ブシから溶出した煎液中の ADA 量が約20%増加することが示された。また,甘草が配合されない乾姜附子湯煎液は四逆湯煎液に比べてpH が高値で,ブシ由来ジテルペンアルカロイドの構成が大きく異なり,低 ADA,高アコニン・ヒパコニンとなっていた。往時の医師が共煎生薬の工夫によって未修治附子配合処方煎液中の ADA 量を注意深く調節していた可能性が示唆された。

臨床報告
  • 坪 敏仁, 上野 孝治, 鈴木 朋子, 秋葉 秀一郎, 佐橋 佳郎, 小宮 ひろみ, 三潴 忠道
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 324-332
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    福島県立医科大学会津医療センター漢方内科において平成23年6月から平成28年9月までに烏頭を使用した57名を解析した。烏頭使用処方総数が110で烏頭剤49,非烏頭剤に烏頭を加えたものが61であった。烏頭剤では赤丸料が32と多かった。主症状は疼痛が36例,冷えが27例であった。烏頭使用量および烏頭の使用期間は中央値(最小値—最大値)で各々8.0(1.0—41.0)g/日および180(3—1700)日であった。治療効果は烏頭投与量が4g/日以上,投与期間一ヵ月以上の場合に「改善」または「やや改善」の症例が多かった(p < 0.05)。また烏頭20g/日以上を使用した症例は全て赤丸料を使用していた(p < 0.05)。外来および入院で効果・副作用に差はなかった。
    烏頭は慎重な投与下で,比較的大量,長期間,外来でも使用されていた。

  • 福嶋 裕造, 松元 かおり, 佐々木 石雄, 藤田 良介, 上野 力敏, 内海 康生, 戸田 稔子
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 333-336
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    升麻葛根湯は初期の感冒や皮膚炎の治療に使われる。今回,流涙を伴った脈が浮の感冒の2例に対して升麻葛根湯を使用して有効であった。症例は81才の男性と69才の女性であり,感冒様症状を発症して当院を受診した。受診時に流涙を認め,陽明の感冒と診断して升麻葛根湯を投与して感冒様症状と流涙の改善を認めた。流涙を伴った感冒が升麻葛根湯の治療目標になり得ると考えられた。

  • 嶺井 聡, 貝沼 茂三郎, 多鹿 昌幸, 上間 進
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 337-343
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    視床痛は視床出血や視床梗塞後の難治性中枢性疼痛として知られているが確実な治療法がない。そこで我々は視床痛に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効だった5症例を報告する。症例1:63歳男性で3年前の左視床梗塞後に右半身の痛みがあった。症例2:68歳男性で13年前の左視床出血後に右半身の痛みがあった。症例3:74歳女性で3年前の右視床出血後に左上肢の痛みがあった。症例4:67歳女性で2年前の右視床梗塞後に左上下肢の痛みがあった。症例5:82歳男性で2ヵ月前に左視床を含む左被殻出血で右下肢の痛みがあった。全症例が桂枝加竜骨牡蛎湯の投与後に症状が改善した。しかし症例5は3ヵ月後に視床痛が再発し,桂枝加竜骨牡蛎湯単独では効果が持続せず,桂枝茯苓丸の合方が有効であった。画像所見から視床外側に病変が限局した視床痛に対して桂枝加竜骨牡蛎湯は一つの選択肢と考えられた。

  • 中村 祐子, 奥田 博之, 後藤 由佳, 勅使川原 早苗
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 344-354
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    更年期障害の治療において,更年期女性を「証」に基づき個別的総合評価を行い,治療薬を選択する漢方治療は有用である。中でもホルモン補充療法(hormon replacement therapy 以下HRT)禁忌,または HRT を希望しない場合はその有用性が高いと考える。今回我々は漢方的指標を用いて証を判断し駆瘀血剤に抑肝散加陳皮半夏を併用し有効だった症例を経験したので報告する。

  • 河尻 澄宏, 木村 容子, 伊藤 隆
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 355-360
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    鼻の乾燥感に漢方薬が有効であった報告は少ない。今回我々は,鼻の乾燥感に補腎剤である八味地黄丸,六味丸が有効であった3症例を経験したので報告する。3症例の主訴は異なるが,鼻の乾燥感は2,3番目に困る症状として挙げられていた。共通点は,小腹不仁を認めるなど腎虚であり,腎虚症状の改善とともに鼻の乾燥感は速やかに改善し,呼吸が楽になるなど肺症状の改善も見られていたことであった。『普濟方』によると,鼻の乾燥感は風熱あるいは腎虚によって生じると考えられる。また,「腎は納気を主る」と考えられ,肺の吸気を腎が取り込むことで呼吸が上手く行われる。本3症例は,八味地黄丸や六味丸で腎虚症状の改善,納気改善を示唆する呼吸の改善と共に鼻の乾燥感が改善したことから腎虚による鼻の乾燥感と考えられた。鼻の乾燥感に対し,腎虚であれば,八味地黄丸,六味丸は,鑑別に挙げてよい方剤と考えられた。

  • 福嶋 裕造, 島田 光生, 河合 知則, 藤田 良介, 上野 力敏, 船越 多恵, 三明 淳一朗, 杉原 徳郎
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 361-365
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    症例は,36歳男性で歯科矯正後の腹部不快感,腹痛があり近医にて検査及び治療を受けたが腹痛の原因は分からず治療も効果がなかった。当院にて明らかな心下悸に対して漢方医学的な口訣により抑肝散加陳皮半夏を投与してだんだんと症状が軽快した。今回発生した腹痛についての漢方医学的な病機について検討した。治療後の精神医学的検討で本症例は身体表現性自律神経機能不全であったと考えられ,精神医学的には精神科専門医による高度な治療が必要であるが,今回は漢方医学的に口訣による治療を行い有効であったと思われた。

  • 平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 366-375
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    諸理由でステロイドを減量,もしくは投与しなかったGrade3以上の突発性難聴例7例に対し,証を考慮し漢方治療を試みた。全例が虚証であり,いずれも気陰両虚所見で,補中益気湯と八味地黄丸の合方により6例で治癒,1例で回復に至った。

  • 山本 真一, 長船 綾子, 松井 純子, 中根 慶太, 池田 昇平
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 376-383
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    当院の卵巣癌139症例のデータを用いて,参耆剤を卵巣癌の標準治療に併用した場合の予後および病理組織型別の予後への影響を検討した。Ⅰ~Ⅱ期症例においては参耆剤の有効性が認められなかったが,Ⅲ~Ⅳ期症例では有効性を示す傾向が見られた。病理組織型別に参耆剤の有効性を検討したところ,漿液性腺癌と粘液性腺癌で予後が改善される傾向があり,類内膜腺癌と明細胞癌では予後に差が無かった。このことは組織型により参耆剤の効果に差がある可能性を示唆する。各進行期の病理組織型分布の差を検討したところ,Ⅰ・Ⅱ期では明細胞腺癌が多く,Ⅲ・Ⅳ期では漿液性腺癌と低分化腺癌が多かった。この差が参耆剤の有効性が進行期により異なる原因である可能性がある。しかし症例数が少なく統計学的な有意差を確認できなかった。更なる詳細な検討のためには,他施設との共同研究などを通じて症例数の蓄積が必須と思われた。

  • ~遷延性嘔吐症の一例~
    越路 正敏, 坪井 宏樹
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 384-391
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    摂食行動により,吐き気,嘔吐症状が持続する女性に対し,種々の西洋薬や幾つかの漢方薬が無効であったが,最終的に二陳湯の投与により軽快した症例を経験したので報告する。治療経過中の処方には,六君子湯や小半夏加茯苓湯もあったが,いずれも効果がなかった。構成生薬から勘案するに,嘔吐に心因的な要素がある場合には理気薬が必要であり,逆に脾虚がない場合には,補気薬は余分な生薬となることが推察された。

  • 梶本 めぐみ, 生田 明子, 三谷 和男, 安田 勝彦
    原稿種別: 臨床報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 392-398
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    明確な原因疾患がないにもかかわらず3ヵ月以上続く慢性外陰部痛は,明確な治療法がないため治療に難渋することも多い。本稿では慢性外陰部痛と睡眠の関係に着目し,不眠の軽快とともに慢性外陰部痛の改善がみられた2 症例を報告した。症例1は29歳女性,初診の2年前から帯下の増量,外陰部掻痒感を自覚,徐々に症状が増悪し外陰部痛となった。当院初診時から冷えと不眠を認め,柴胡桂枝乾姜湯を2週間内服したところ不眠,冷え,外陰部痛,倦怠感,便秘,イライラ,肩こり,腰痛,動悸のすべてが軽快した。症例2は46歳女性,初診の2ヵ月前から左外陰部痛を自覚し始め悪化し,夜間は外陰部を刺されるような激痛のため睡眠障害を認めた。柴胡加竜骨牡蛎湯と抗うつ薬と,睡眠導入薬にて,不眠の軽快を認めてから約2週間後に外陰部痛が軽快した。不眠を合併している慢性外陰部痛の症例には柴胡剤が有効であることが示唆された。

調査報告
  • 髙橋 京子, 上田 大貴, 針ヶ谷 哲也, 髙浦(島田) 佳代子, 山田 享弘, 山岡 傳一郎
    原稿種別: 調査報告
    2019 年 70 巻 4 号 p. 399-408
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    保険診療下で生薬を用いる湯液治療は,主産地中国の原料生薬価格高騰で採算が破綻する危機に直面している。 日本東洋医学会生薬原料委員会では,本会承認を得て会員医師7416名を対象としたアンケート調査を実施し,1877名の回答に基づき統計学的解析によるデータの可視化を行った。回答者中,湯液処方者は26%で,未使用者の29%が使用を希望していた。湯液処方者の主な診療形態は保険診療88%,自由診療9%で,湯液処方頻度が高いのは後者だった。生薬輸入価格高騰による保険薬価状況への認知度は高い。湯液の使用目的に関する自由記述中,エキス剤では対応できない旨の記述が35%を占め,その必要性が示唆された。湯液治療は,自己免疫疾患やアレルギー疾患に多く認められたが,治療時の課題として経済的問題が最も多く,薬価生薬の品質低下など,臨床現場の負担が明確となったことから,湯液用生薬使用量を算出し国産化の妥当性を検証した。

短報
論説
  • 寺澤 捷年, 板澤 正明
    原稿種別: 論説
    2019 年 70 巻 4 号 p. 414-418
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    著者らは先に吉益東洞が1752年に盛岡南部藩主を往診したことについて報告した。本稿では東洞の往診の後に起こった出来事を南部藩家老によって記された日記『雑書』に基づき調査した結果を示した。東洞の治療にもかかわらず藩主の疾病は改善せず,最後は死亡した。この時,東洞の弟子三人が藩医として南部藩に居たが,日記は藩主の没後にこの三人が解雇あるいは減給の処分を受けたことを記している。これは吉益の革命的医学思想と方法論が,当時,十分に理解されず,また評価されなかったことを示している。

フリーコミュニケーション
  • 乙竹 秀明, 東 いぶき, 久保川 哲, 近藤 亮一郎, 有田 龍太郎, 沼田 健裕, 大澤 稔, 菊地 章子, 髙山 真, 石井 正
    原稿種別: フリーコミュニケーション
    2019 年 70 巻 4 号 p. 419-429
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/06
    ジャーナル フリー

    漢方薬を用いたランダム化比較試験(RCT)を,日本東洋医学会は漢方治療エビデンスレポート(EKAT)としてまとめている。本研究では,漢方薬の RCT の現状と変遷を検討することを目的として,EKAT の分類法(研究デザイン,介入方法,研究目的,掲載雑誌の信頼度,出版年)を考案し,416本の RCT の分類と比較を行った。研究デザインで分類すると二重盲検 RCT(DB-RCT)は全体の8.9%と少なかったが,その86.5%がプラセボを用いた試験であった。標準治療のない疾病に対し漢方薬の効果を評価した研究の6割以上が DB-RCT であり,漢方薬への期待がうかがえた。近年になるにつれて,封筒法 RCT や準 RCT の割合が減少する一方,インパクトファクターの付く雑誌への掲載割合が増えており,質の高い漢方研究が行われ評価されてきていると示唆された。本研究は医学部医学科第2学年問題発見・解決型実習で行われた。

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