日本東洋医学雑誌
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62 巻, 5 号
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原著
  • —前向きコホート研究による検討—
    古谷 陽一, 渡辺 哲郎, 永田 豊, 小尾 龍右, 引網 宏彰, 嶋田 豊
    2011 年 62 巻 5 号 p. 609-614
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    目的:冷え症の危険因子となる身体症状を明らかにする。
    研究デザイン:2008年7月7日から11月14日にかけて前向きコホート研究を行なった。
    対象と方法:観察開始時に冷えを認めない女子短期大学生70名(年齢中央値20歳)。冷えの苦痛の程度をNumerical Rating Scale(NRS)で7月および11月に5日間ずつ記録した。身体症状は気血水スコア(寺澤)で評価した。冷え症の判定基準は冷えNRSの平均値5以上とした。
    結果:11月に17名が冷え症と判定された。有意な関連を示した自覚症状は「体がむくむ」で,多変量オッズ比[95%信頼区間]11.6[1.9 to 97.5]であった。また,冷え症群は非冷え症群より低身長であった(身長差[95%信頼区間]-5.9cm[-8.6 to -3.1])。
    結語:「体がむくむ」と「低身長」は冷え症の危険因子である可能性が示された。
  • —めまい患者における検討—
    及川 哲郎, 米田 吉位, 玄 世鋒, 小田口 浩, 若杉 安希乃, 猪 健志, 橋口 一弘, 滝口 洋一郎, 花輪 壽彦
    2011 年 62 巻 5 号 p. 615-620
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    沢瀉湯は,水毒徴候を目標としてめまいに用いられる。しかし,水毒徴候の改善が沢瀉湯の臨床効果に繋がっているか,未だ明確ではない。そこで,沢瀉湯投与症例における症状などの改善度と,水毒徴候の改善度との関連について検討した。沢瀉湯を4週間投与しためまい患者20名に対し,自覚症状に関するアンケート調査や水滞スコア判定,各種平衡機能検査を施行,これらをスコア化したのち,投与前後における各項目間の関連につき統計学的に解析した。その結果沢瀉湯投与後において,めまいと随伴症状を合わせた全自覚症状の改善度は,水滞スコア改善度と有意に相関した。平衡機能検査改善度に関しては,水滞スコア改善度と関連する傾向が認められた。これは,沢瀉湯の臨床効果と水毒徴候の改善がある程度関連することを示唆し,条文の記載を裏付ける知見である。従って,水毒徴候の存在は沢瀉湯の使用目標として一定の妥当性を有すると考えられる。
臨床報告
  • 高山 真, 沖津 玲奈, 岩崎 鋼, 渡部 正司, 神谷 哲治, 平野 篤, 松田 綾音, 門馬 靖武, 沼田 健裕, 楠山 寛子, 平田 ...
    2011 年 62 巻 5 号 p. 621-626
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,巨大な地震と津波により東日本の広い範囲に甚大なる被害をもたらした。東北大学病院では被災地域への医療支援を行ない,漢方内科においても東洋医学を中心とした活動を行なった。ライフラインが復旧せず医療機器の使用が困難な中にあって,医師の五感により病状を把握し治療方針を決定できる東洋医学は極めて有効な診断・治療方法であった。被災直後には感冒,下痢などの感染症と低体温症が課題であり,2週間経過後からアレルギー症状が増加し,1ヵ月以降は精神症状や慢性疼痛が増加した。感冒や低体温に対する解表剤や温裏剤,咳嗽やアレルギー症状に対する化痰剤,疼痛やコリ,浮腫に対する鍼治療・マッサージ施術は非常に効果的であった。人類の過酷な歴史的条件の下に発達した東洋医学は大災害の場でも有効であることを確認した。
  • 木村 容子, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2011 年 62 巻 5 号 p. 627-633
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    頭痛は日常診療で訴えの多い症状の一つであり,漢方治療では頭痛以外の随伴症状などによって,様々な漢方薬を使い分ける。今回,当帰芍薬散が有効な頭痛の症例を報告した。症例1-4は更年期障害,症例5は月経困難症が背景にみられた。症例3では頭痛のほか,めまい,むくみ,手先のしびれなど様々な症状が当帰芍薬散で改善した。また,症例4は呉茱萸湯が無効であり,一方,症例5は呉茱萸湯である程度頭痛は軽快したが,残存した排卵期または月経前と前半の頭痛に対して,当帰芍薬散を併用して症状が改善した。
    当帰芍薬散を用いた頭痛の11症例をまとめて検討したところ,頭痛は片頭痛が多く,月経や冷えで増悪傾向であった。当帰芍薬散は五苓散や半夏白朮天麻湯と鑑別が必要となることもあるが,当帰芍薬散では月経周期や更年期症状などいわゆる「血証」と関わりのある頭痛で,頭重感またはめまいを訴える比較的虚証の人に有効であると考えられた。
  • 関口 由紀, 長崎 直美, 槍沢 ゆかり, 畦越 陽子, 河路 かおる, 増子 香織, 吉田 実, 坂田 壽衛, 窪田 吉信
    2011 年 62 巻 5 号 p. 634-637
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    季節性の温度の低下のための冷えによる過活動膀胱患者の症状悪化の現状を把握するため秋季の2ヵ月間に過活動膀胱治療薬である抗ムスカリン剤を処方されていた患者のうち,冷えによる過活動膀胱症状の悪化を訴え,漢方薬を開始した患者を抽出し,その治療状況を調査した。
    2ヵ月間に抗ムスカリン剤の投与を受けていた過活動膀胱の患者数は258名で,このうち漢方併用は79例31%であった。漢方併用群のうち冷え治療目的で漢方を使用されていたのは,39例49%であった。これらの患者のうち春季になり,漢方薬の効果あり続行21例(53%),漢方薬の効果あり春になり中止10例(25%)となった。両群の患者の平均年齢63±7.3歳と44±11歳には,統計学的に有意な差(p < 0.01)を認めた。抗ムスカリン剤による治療に加えて年齢や季節に応じて漢方薬を併用することで過活動膀胱患者のQOLを高めることができることが示唆された。
  • 西田 清一郎, 佐藤 広康
    2011 年 62 巻 5 号 p. 638-642
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    症例は,耳鳴りを主訴に来院した70歳の男性。釣藤散の服用後,耳鳴りは,約10ヵ月で改善しそれまでにあった頭痛も改善した。しかし,釣藤散を減量後に,それまで見当たらなかった高血圧症が,みられるようになった。再度,釣藤散を通常量に戻したところ,投与開始日から,速やかに高血圧の改善を認めた。高齢者の耳鳴りを釣藤散はよく改善する可能性がある。また,本例から,釣藤散は,高血圧の程度が軽度で,深刻な合併症がない症例であれば,患者の随伴症状の治療とともに,投与でき,その降圧作用は,即時的に表れる可能性が示唆された。
  • 蛯子 慶三, 菊池 尚子, 吉川 信, 丹波 さ織, 新井 寧子, 佐藤 弘
    2011 年 62 巻 5 号 p. 643-648
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性。X年7月3日に右Hunt症候群を発症し,入院にて星状神経節ブロック,アシクロビルの点滴などを行った。糖尿病があったことなどからステロイドは使用しなかった。退院後はビタミンB12等の服用や週に3回の星状神経節ブロックを継続しているが,麻痺の回復傾向はみられなかった。10月6日(発症後95日目)より置鍼治療とリハビリテーションを併用したところ,発症後95日目で4点であった麻痺スコアは早期に回復傾向を示し,発症後186日目で32点,発症後246日目には36点以上の正常範囲内となり,発症後1年で明らかな病的共同運動なども認められなかった。高齢,Hunt症候群,糖尿病,ステロイド未使用,麻痺スコア8点以下の完全麻痺であったこと,3ヵ月以上回復傾向がなかったことなどから難治性と考えられたが,結果からは置鍼治療とリハビリテーションの併用が奏効したものと思われた。
  • 福田 佳弘, 岡 新治, 小林 瑞
    2011 年 62 巻 5 号 p. 649-659
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    厚朴七物湯が有効であった35症例と,先人の見解,治験例を礎とし,その立方の趣旨と病態を考察した。厚朴七物湯に関する先人の意見は二群に分類される。A群は,外感証に属し,外感による表証(桂枝湯証)に続いて裏熱証(厚朴三物湯証)が現れ,二証の併存した病態となるが,表証より裏証が重いため,その治法は二薬方の合方で表裏双解である。B群は,陰虚内熱に起因し,その病態には厚朴三物湯の加味方が適応するとしている。そして内熱が実熱証に属すか,虚熱証に属すかで脈候,腹候の虚実,食思の程度が異なる。厚朴七物湯に芍薬が用いられていないのは,胃熱の胸部への波及により現れる胸部症候に対応するためである。報告例は感冒に食傷を挟むもの,腹満を伴う胃腸疾患,呼吸器疾患,イレウス等であるが,神経症,精神疾患,腰痛症にも運用が可能である。
  • 田原 英一, 犬塚 央, 岩永 淳, 村井 政史, 大竹 実, 土倉 潤一郎, 矢野 博美, 木村 豪雄, 三潴 忠道
    2011 年 62 巻 5 号 p. 660-663
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    芍薬甘草湯が無効で,疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例を経験した。症例1は73歳,男性。以前からあったこむら返りが1ヵ月くらい前から増強し,当科を初診。芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変のため,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに軽減した。症例2は67歳女性。肩こり,腰痛などで通院中。夜間にこむら返りが出現するようになり,芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変。疎経活血湯2.5g/眠前投与に変更したところ,こむら返りは速やかに軽減した。症例3は66歳女性。腰痛にて当科治療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯3.0g/日を投与したが,効果が少なく,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。症例4は75歳男性。左の下肢冷感で加療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯1.5g/日投与したが,変化は一時的で,疎経活血湯2.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。血流を改善し,鎮痛効果の期待できる疎経活血湯は,芍薬甘草湯無効のこむら返りに試みられてよい方剤と考えられる。
  • 福田 知顕, 津田 篤太郎, 早崎 知幸, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2011 年 62 巻 5 号 p. 664-668
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    第2世代チロシンキナーゼ阻害薬,ダサチニブによる胸水に対して柴陥湯が奏効したフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(以下Ph+ALL)症例を経験したので報告する。症例は55歳女性。X-2年3月にPh+ALLと診断され,イマチニブなどの化学療法が開始された。1年後には,嘔気,下痢などでイマチニブ不耐容となり,ダサチニブが開始となったが,その約7ヵ月後,胸背痛や咳嗽が出現し,胸部単純レントゲン写真で右胸水の貯留がみられた。再燃を繰り返すためX年1月に当研究所を受診した。心下の圧痛があったことから,これを小結胸として柴陥湯を処方したところ,5ヵ月後には胸水や臨床症状は著明に改善し,小結胸の症候も消失した。以上の臨床経過から,本症例においては柴陥湯の免疫調節作用・抗炎症作用,さらに利水作用によって胸水が減少したものと考えた。
  • 中村 佳子, 田原 英一, 三潴 忠道, 木村 豪雄
    2011 年 62 巻 5 号 p. 669-674
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    漢方治療が奏効した再燃性胆管炎の1例を報告した。症例は31歳,女性。先天性胆管拡張症にて肝部分切除と胆管空腸吻合手術を受けたが,29歳頃から頻回に胆管炎を繰り返し,抗生剤による治療を受けていた。患者は挙児希望で,抗生剤の使用量を減らす為に漢方治療を希望し,当科を受診した。茵蔯蒿湯を基本処方とし大柴胡湯などで随証治療を行い,抗生剤の使用量を顕著に減量でき,妊娠出産に到った。妊娠中の経過は良好であった。胆道再建術後の再燃性胆管炎に対し,漢方治療は試みられてよいと考えられた。
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