カレットにしたソーダ石灰ガラス (Na
2O・CaO・3SiO
2) あるいはソーダ鉛ガラス (Na
2O・PbO・3SiO
2) を蝋石質坩堝で熔融した場合, まず初めに坩堝素地中の粘土およびカオリン質蝋石の各〓焼部分や, ダイアスポア仮像の部分が, それぞれのガラスと反応して析出する各結晶を, 鏡検, X線粉末写真およびX線ガイガー分光計によって同定した. また別に, 各焼成素地と両ガラスとが反応する温度段階を熱分析曲線によって確め, その結果と上述の鏡検並びにX線解析の結果により, 各ガラスの熔融温度を1200°から1400°に上昇させていって, それ以後は長時間にわたって温度を1400°の状態で保持する期間に, これらの熔融ガラスによって蝋石質坩堝が侵蝕されてゆく一連の機構を明らかにした. その結果を要約すれば次のようである.
(1) 蝋石質坩堝素地中のカリオン質蝋石の〓焼部分は, 少量のダイアスポア微粒子を混入しており, その均等にして緻密な粒状組織を持ったものは, ムライト結晶と共に高温型のクリストバライトを含有している. そして, このような素地表面が, 1200°のソーダ石灰あるいはソーダ鉛ガラスに接触した初期には, そのマトリックスの部分が, ムライト結晶間の極めて微細な亀裂や空隙を通って移動して来る, ガラス中のソーダ成分と混融する結果, この部分の表面組織が崩れてガラス質に富んだ10μ前後の浸出層になるが, この層が明瞭に形成されるか否かは, その部分の素地組織中におけるムライト結晶の生長および集合状態に関係するところが大ぎい. この浸出層はさらに時間の経過に伴い, 素地組織の崩れ込みと, ガラス中のソーダ成分の滲透により30μ前後に増大してゆき, 遂にはその内部が反応を起してネフェリンを少量混合したカーネギエイトの結晶を析出するに至る. この晶出は浸出層が明瞭に形成されている程, またその内部あるいは周辺のガラスがアルミナ成分を多く含有している程顕著である. そして結晶層の素地に近い内側は高温型のクリストバライトを含有するマトリックス層で, またその外側にはおうおうコランダム結晶が層をなして析出している. 温度が1400°に上昇してゆく過程中で浸出層はその成分が変化するために消滅し, 析出結晶を熔解したガラスが素地表面の組織に侵入して, この部分は外観が白色を呈する侵蝕層となる.
(2) 蝋石質坩堝中のダイアスポア仮像塊の表面に1200°のソーダ石灰あるいはソーダ鉛ガラスが接触して時間が経過すると, その部分のコランダム微結晶がガラス中に移動して素地表面に垂直な針状に配列し, やがて相互に連結して純粋なコラシダム結晶層となる. そして, この層は温度が1400°に上昇してゆく過程中で, ガラスと反応してネフェリン結晶層に変化する. この結晶はその多くが平行連晶構造を有しているが, 素地に隣接する部分はおうおうコランダム仮像の状態を呈している. さらに1400°で長時間を経過するとコランダム層全体がガラスと反応し終る結果, 遂には結晶層を通ったガラス中のソーダ成分が素地表面に達して, この部分をガラス化する. このだめに結晶層のある部分は表面から剥離し, 残存する部分も徐々にガラス中に熔解して, 遂たはガラスと接触する素地周縁の全体が, マトリックス状に侵された白色の外観を呈する侵蝕層に変る.
(3) ソーダ石灰あるいはソーダ鉛ガラスがカオリン質蝋石や三石ダイアスの焼成物に作用する際には, これらのいずれの場合にも, 素地周縁に形成された新しい一つの層 (浸出層あるいはコランダム層) の部分に, 1050-1200°の温度間で反応が起って, カーネギエイトやネフェリンの結晶が析出するのであるが, それぞれの層や反応の過程が全く異なっているために, それらの熱分析曲線で各反応に該当する部分が, 浸出層の場合には, 発熱となり, コランダム層の場合には吸熱となるような, 両者が相反する現象を呈する.
(4) 蝋石質坩堝素地中の粘土〓焼部分の表面は, その部分のムライト結晶に沿った微細な亀裂や空隙が概して不規則な方向をとって開口しているから, そのために素地表面の浸出物がいち早く拡散によってガラスと混融され, 多くの場合その部分に明瞭な浸出層が形成され難い. したがって素地周辺に結晶層が析出していることは極めて少く, 例え両ガラスのいずれかに析出していても, 1200°で短時間のうちに結晶は熔解し, 周辺のガラスが素地表面に侵入してその部分を白色の外観を持った侵蝕層に変える. なお, この粘土〓焼部分にソーダ石灰あるいはソーダ鉛ガラスが作用する際には, その熱分析曲線の1050-1200°間に比較的緩い吸熱現象が認められる.
(5) 蝋石質坩堝素地中のいずれの〓焼部分も, そのガラスと接触する表面に侵蝕層が形成された以後は, 侵蝕機構が従前とは全く異なり, ガラス中への素地熔解は常に侵蝕層を仲介に進んでゆき, 時間が経過するにつ
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