本論文はポルトランドセメント硬化体中のCl
-イオンの移動現象について述べている. セメントあるいはセメント鉱物の水和物とNaCl溶液の反応について研究し, セメント硬化体をNaCl溶液, 人工海水に浸漬した場合の硬化体中のCl
-イオン濃度分布を測定し, セメント硬化体中のCl
-イオンの拡散について検討し, 次の結果を得た.
C
3AはNaCl溶液と完全に反応し, Clを含むカルシウムアルミネート複塩を生成する. C
3AH
6は最も安定なカルシウムアルミネート水和物であるが, C
3AH
6もある程度NaCl溶液中のCl
-イオンと反応する. しかし, 濃度が20wt%でも完全には反応しないことが分った. C
4AFの水和物もNaCl溶液と反応するがClの反応量はC
3AH
6の場合に比べ約半分であった. C
3Sの水和物と反応するCl
-イオンの量はわずかであった. セメントを水和した物の場合, Cl
-イオンの反応量はセメントの組成から加成的に求めることができた.
セメント硬化体中のCl
-イオンの濃度分布はFickの法則に合った分布をしている. そして見掛けの拡散係数は3.8×10
-8cm
2・s
-1と求まった. フルオレッセンナトリウムと硝酸銀を用いた発色法によるCl
-イオン浸透深さから求めた見掛けの拡散係数は3.4×10
-8cm
2・s
-1であった. 反応したCl
-イオンの濃度を考慮に入れると拡散係数は2.3×10
-7cm
2・s
-1となり, このような方法で求めた方が, より正確であることを示した. MgCl
2溶液の場合にはNaClの場合より拡散が速く, Cl
-イオンの拡散は共存する陽イオンにより影響されることが分った.
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