C
2Sに固溶してβ-C
2Sを安定化する効果がないと考えられる成分の例として, Fe
2O
3を取り挙げて, その添加がβ→γ転移に及ぼす効果について実験検討した. Fe
2O
3を含んだC
2Sを合成した後, 800°-1500℃で10分間-48時間加熱処理し, 急冷した試料中のβ相とγ相の生成比を求めた. 更に顕微鏡観察, メスバウワースペクトル測定を行い, 考察した結果, 以下のような知見を得た.
(1) Fe
2O
3添加によりβ→γ転移を抑制できる. 添加量が1%, 3%, 5%と多いほど抑制効果は大きくなる.
(2) α'相へのFeの固溶量は非常に少なく, 固溶したFeイオンは温度により価数が変わる. またFeは固溶により転移を抑制しているのではないと考えられる.
(3) Fe
2O
3を添加した場合も, 無添加の場合と同様にβ→γ転移の粒径依存性は大きく, 粒径の小さいときに転移は起こりにくい. Fe
2O
3添加によりC
2Sの粒成長は抑制されるが, 粒径の効果だけで転移抑制現象を説明することはできない.
(4) α'相の固溶限界を超えたFe成分を離溶し, この際C
2S粒内に生成した相の組織が転移抑制の主因と考えられる. しかし詳細な機構等については更に検討する必要がある.
(5) 1400℃あるいは1300℃程度で長時間処理することにより, β→γ転移が促進されることもある. その原因は明らかにできなかった.
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