瀬戸・多治見地方の粘土をESR法で調べて, それらに含まれている観測しうる常磁性種は主にFe
3+と有機ラジカルであることが分った. カオリン中の欠陥と帰属されてきたシグナル (
g||=2.049,
g⊥=2.007) はこれらの粘土中では存在しなかったり, あるいは非常に微弱であった.
詳細に調べられ, 以下に言及する粘土は55wt%のハロイサイト, 35wt%の石英及び6wt%の長石よりなる神明カオリンである.
この粘土をESRで調べて, その中には少なくとも2種類の有機ラジカルと2種類のFe
3+ (一つは構造内に置換したFe
3+, もう一つは水溶液中のFe
3+と類似したFe
3+) の存在することが明らかになった. シュウ酸水溶液で表面の鉄を除去した後の粘土のESR吸収と450℃で粘土を酸化した後の粘土のESR吸収の比較から, 構造内に置換されたFe
3+量は全鉄量に比較して非常に少ないことが推論された. 同様に粘土のESRスペクトルとFe(NO
3)
3水溶液のそれとの比較から, 恐らく吸収水に溶解しているかあるいはこれと強く相互作用しているであろうと思われる遊離状態のFe
3+は同様に少なかった (全鉄量の≈20%). 上述の推論から, 大部分の粘土中のFe
3+は通常のESR測定によっては観測できない状態で, 恐らく層間にあってその面と相互作用して, 存在することが示唆される.
排気後, 引き続いて500℃で粘土を酸化すると, 強磁性のγ-Fe
2O
3に帰属される大きな広幅な吸収が出現したが, これから遊離状態のFeイオンが約500℃で表面に凝集することが分った.
更に, これまでの研究報告を調べ, またシミュレーション法を使って,
g∥=2.049及び
g⊥=2.007のシグナルがSO
4-アニオンラジカルと帰属されうる可能性のあることが指摘された.
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