V
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5を多量に含む結晶化ガラスにおいて, 大きな誘電緩和が観察された. 結晶化ガラス70V
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5・30P
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5で見いだされた主な結晶は, V
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5結晶であった. このV
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5結晶が誘電緩和を大きくすることに関係していると考えられた. その原因を明らかにするために結晶化ガラスと二つの異なる方法で得られたV
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5多結晶体の誘電特性を比較検討した.
結晶化ガラスの誘電率 (ε′) は, 同じ組成のガラスに比べて2-3倍大きな値を示した. 焼結体及び配向性多結晶体は, 大きな誘電分散を示し, 620℃で5時間焼結した試料の静的誘電率は1000の値を示した. V
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5多結晶体の誘電率は, 焼結温度とともに変化し, 配向性試料では結晶軸の方向とともに変化した.
得られた結果について, 2層誘電体からなる等価回路モデルを用いて解析した. このモデルを用いて計算した結果, 電場方向に対して垂直に配向した試料のε′とσは, それぞれ63と7.06×10
-4(mho/cm) の値を示した. この試料のσは, V
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5単結晶のb軸の値にほぼ等しい値を示した. 一方, 結晶粒界のσは, 6.06×10
-7(mho/cm) と求まり, アモルファスV
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5の値にほぼ等しい結果となった. V
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5焼結体中の結晶のε′は, 10-13であった. 結晶粒界層のε′は, 焼結温度の上昇とともに増加した. 焼結した試料のε′の変化は, 結晶粒界の厚みに関係していることが明らかとなった. 結晶化ガラスにおいて, 析出したV
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5結晶のε′は, 焼結したV
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5多結晶体中のV
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5結晶のε′にほぼ等しい値を示した. 結晶化ガラスにおいて, 結晶粒界に相当する厚みは, 焼結体よりも大であった. 焼結体及び結晶化ガラスの誘電率は, V
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5結晶の性質だけでなく, V
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5結晶間の結晶粒界の性質によって影響されることが示唆された. 2層誘電体モデルによる解析の結果, 結晶化ガラスの大きな誘電分散は, V
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5結晶の特定な結晶軸方向による寄与ではなく, 低伝導マトリックスと高伝導性結晶 (V
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5) 間の界面分極の効果に基づくと推論された.
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