964か所の崩壊地の空中写真判読により, 崩壊頭部と崩土到達域末端部とでなす見通し仰角の分布確率を求めた. その結果, 誘因, 地域 (地質), 地形状況, 樹木状況の各因子を適切な組み合わせに区分することにより, 見通し仰角の分布は正規性を示すことが明らかとなった. さらに, 降雨による斜面崩壊は, ほとんどの地域 (地質) で地形状況により見通し仰角の分布に差が生じることが判明し, 一方, 地震による斜面崩壊では, 各因子による差は, 有意な差が生じないほど小さいことが判明した.
これらの結果に基づき, 斜面崩壊による見通し仰角の分布確率を応用したランダムウォークによる崩土到達範囲の確率予測シミュレーションについて検討を行った. このシミュレーションは, (1) 崩壊源からのランダムウォークの移動距離を見通し仰角の分布確率からモンテカルロ法によって求める, (2) その移動距離に応じたランダムウォークを地形に沿って行う, (3) この一連の処理を十分 (100回以上) に繰り返す, ことにより崩土の到達範囲を確率的に予測する手法である. この手法によるシミュレーション結果は, おおむね過去の崩壊事例と整合した. このシミュレーションは表層崩壊のハザードマップ作成の有効な方法となる.
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