応用地質
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50 巻, 6 号
特集 応用地質と市民生活
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
論説
  • ―旧産炭地での取組みを事例として―
    江﨑 哲郎, 牧野 隆吾, Ibrahim DJAMALUDDIN, 池見 洋明
    2010 年 50 巻 6 号 p. 319-328
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     安全・安心で質の高い生活のできる国の実現は, 科学技術政策の理念の一つである. 地盤沈下や陥没現象は, 人々の生活にとって不安なものであり, 問題解決のための総合的な技術が極めて重要である. これらは, 長い期間にわたって地下の開発が進められた結果として広域に発生する. 発生は不可避であるが, 物理的な解明, 対応技術に加えて自然環境や社会環境に及ぼす影響を明らかにして, 長期にわたっての安全・安心を担保しなければならない.
     新しい応用地質の技術を展望する参考例として筆者らがこれまでに取組んできた旧産炭地域の国土保全や民生の安定の問題解決を目標とした地圏環境技術について紹介して, 解説する.
報告
  • 朽津 信明
    2010 年 50 巻 6 号 p. 329-335
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     凝灰質砂岩である来待石と呼ばれる石材で造られた石塔が, その置かれている環境条件の違いによりどのように風化状況が異なっているかを, 京都妙心寺春光院において調査した. 調査項目は, 硬度値, 浸食量, 帯磁率, 色彩値の4項目である. ほぼ同時期に製作されたと見られる石塔群の中で, 当初から覆屋建物内に置かれたものは, 切り出したばかりの来待石に比べれば表面硬度は低下しているものの, 表面の物理的浸食はごくわずかに留められている. これに対し屋外で風雨にさらされてきたものでは, バラツキはあるが概して屋内のものよりは硬度が低く浸食が進行している傾向が認められる. これらの計測により, 覆屋建物の存在は, 風化の軽減に貢献することが示されたことになる. 帯磁率は屋外のものでは低下が見られるが, 屋内のものでは原岩値を上回る. 建物内でも扉の欠損した側に置かれた石塔では, 硬度の低下は顕著ではないものの表面には微生物が繁茂しており, 将来的には扉の有無が物性にも何らかの影響を与える可能性も否定できない. 色彩値は屋内・屋外ともに相互に類似した値で, 約400年間の風化時間では環境によらず既に色彩変化は飽和に達しているようである.
  • 長谷川 修一
    2010 年 50 巻 6 号 p. 336-344
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     高松クレーターは, 重力探査によって発見された伏在陥没構造で, 高松平野南部の仏生山町を中心に直径約4km, 深さ千数百mの規模と推定されている. 高松クレーターをめぐっては, 1994年から約10年間, その成因と渇水時の地下水源としての利用について論争が続いた. 高松クレーター論争は, 学会における議論により, 「夢」と「ロマン」と「渇水の切り札となる水源」として, マスメディアの報道が先行した特異な事例である. また, 高松クレーターの報道によって, 行政が水源調査を行い, 民間会社が温泉事業に投資し, 市民が地域おこしの題材とするなど, 単なる科学論争を超えた社会現象になった. 本稿では, 高松クレーターに関する論争と新聞報道を検証し, 応用地質学の市民生活に貢献のあり方を考察した. 高松クレーターでは, 日本初の隕石衝突孔なら, 地底湖があればと市民に期待をいだかせる報道に対して応用地質学の論理展開を軸に表層地質, 物理探査およびボーリング試料の分析・試験データに基づき繰り返し反論・説明することによって, 一方的な科学情報による地元の混乱と科学者や技術者の信用失墜を未然に防止することができた.
  • 下河 敏彦, 稲垣 秀輝, 大久保 拓郎
    2010 年 50 巻 6 号 p. 345-349
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     近年, 豪雨や地震による自然災害およびそれらに関連する情報の増加によって, 市民の防災意識が高まり, 既存の宅地や斜面・構造物の維持管理に強い関心が向けられている. これに伴い, 市民からの地形・地質調査依頼も増えてきている. 筆者らは, 宅地や近接する擁壁の点検や, ハウスメーカーの地盤調査結果に対する再調査, 災害の危険性をめぐる近隣住民間での訴訟など, 市民からの依頼調査に携わってきた. 本報告は,これらの事例をもとに, 市民の相談窓口の設置や, 地形発達史・地質的背景を踏まえた調査の価値を高めるための取り組みや, 地質技術のアウトリーチのあり方についてまとめた.
  • 高見 智之, 橋本 修一, 太田 保
    2010 年 50 巻 6 号 p. 350-356
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     日本応用地質学会東北支部は, “迫りくる宮城県沖地震に備える” をテーマに平成15~17年度にかけて一般公開シンポジウムを開催し, 特別講演やDIG(Disaster Imagination Game)実習等の活動を市民向けに実施してきた. この目的は, 地質や地盤, 地下水の知識を一般市民に提供することにより, 市民自らが身近な地形地質を知り, 地震災害をイメージし, 地震に備え, 地震防災を考えていくための支援をすることである. 東北支部は, 平成15~17年度にかけての3年にわたる活動内容を平成20年度にCDに取りまとめ, 関連学協会や行政機関に配布した. 東北支部の一連の活動の反響は大きく, 新聞やテレビに報道されて, 町内会連合会などから防災講座での講演やDIGの講習の依頼が多くよせられた. 学会の支部として可能な範囲で対応しているが, 依頼に対する細やかな対応については課題が残り, 他の関係団体との協力や役割分担の必要性がある. 東北支部としては一般市民に対する活動を通じて, 市民の防災に対する考えなどを学習することが多かった. 応用地質学はこれまで資源開発や土木建設などの産業に対する貢献で発展してきたが, 今後は社会に対して双方向のコミュニケーションを通じて, 社会技術としての応用地質学をさらに展開していくことが重要である.
短報
  • ―社会と自然の接点となる普及活動―
    仲井 勇夫, 長谷川 健, 小嶋 智, 服部 康浩, 米田 茂夫
    2010 年 50 巻 6 号 p. 357-361
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     中部支部では, 毎年夏休みの期間中に普及活動として「親子体験ツアー」と称した企画を実施している. この企画は, 感受性の高い小・中・高の時代から, 自然を対象とする体験学習を行うことで, 最近の若者の「自然離れ」を少しでも改善できれば, さらにこうした活動が, 応用地質学の発展にも寄与できるのではないかと考え, 立案されたものである. 平成16~21年度までに5回のイベントを開催し, 延べ62家族, 152名が参加した. 内容は, 地震, 土砂災害, 化石・鉱物の見学・採取, 室内実験などである. 回を重ねるにつれ, 参加者の採取した化石やその写真の専門家による鑑定を取り入れ, 引率型から参加者主導型のイベントに発展してきている. ツアー募集には新聞広告も取り入れ, 定員の2倍の応募がある. 社会は自然離れというが, 一方で社会は「自然との触れあい」を熱望しているのではないか. ただ, そのきっかけがわからないだけなのではないのか. ならば, その機会を提供することも学会の使命ではないだろうか.
提言
  • 石川 浩次, 大野 博之
    2010 年 50 巻 6 号 p. 362-373
    発行日: 2010年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     土壌汚染対策法が平成14年に制定され, 平成21年4月に大幅な改正法が成立した. これは, 本対策法に基づかない土壌汚染の発見の増加, サイトごとの汚染状況に応じた合理的な対策, 掘削除去に伴う搬出汚染土壌の適正な処理が課題となり動き出したものである. 一方, 根本となる土壌汚染調査は, 国が指定した調査機関によって専門的に実施されており, 技術的で第3者的な立場からの汚染調査が実施されることになることは変わらず, むしろ地質技術者の役割は増加してくるものと思われる. しかし, 土壌汚染は外観からの発見が困難であり, かつ簡便には汚染の源や範囲等を特定し難く, そのための技術的問題が課題となって久しい. それとともに, 人の健康を保護するうえでの社会的な役割・課題が問題となってきているものの, この点も解決には至っていない.
     本論では, このような状況を踏まえ, 土壌汚染の現状を概観し, 土壌汚染調査による原因判断が必ずしも十分とはいえない状況を鑑み, 今後の地質学に携わる者の社会的役割と技術的課題について所見を述べる.
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