花崗岩類中の鉱物分布やモード組成は,その形成過程の検討,割れ目分布の特徴や基質中の物質移動現象を理解する上で有用である.モード解析手法としては,ポイントカウンティング法や様々な画像解析手法などが提案される.しかし,既存手法では観測者の技量や測定領域が狭いなどの課題がある.そこで,本研究は,測定領域が広い走査型X線分析顕微鏡(SXAM)で取得した元素分布図を用いて,鉱物個々の化学組成の不均質性を考慮し,二次鉱物も含めて花崗岩類中の鉱物分布とモード組成を簡易かつ客観的に評価できる新たな手法(MJPD法)を提示する.MJPD法は,各鉱物から出力される元素のX線強度分布を正規分布と仮定し,X線強度のばらつきを考慮して鉱物種を同定可能とした手法である.土岐花崗岩の肉眼観察で顕著に変質を被る試料と被らない試料を対象としてMJPD法の妥当性を検証した結果,岩石薄片程度の大きさであれば,SXAMで約10,000秒間測定することで簡易に鉱物分布図の構築およびモード組成が把握できることを確認した.また,MJPD法は他の機器で取得した元素分布図にも適用可能であり,今後の適用の拡大が期待できる手法である.
南海トラフ巨大地震の発生が高い確率で予測される今,どのようなメカニズムで斜面災害が発生するかを理解することが防災・減災のために重要である.本研究では,重力変形斜面や地すべりブロックの地震時の挙動を明らかにするため,加速度センサーと傾斜センサーを組み込んだ新しい一体型プローブを開発した.山間部のボーリング孔内においても使用できるように,一体型プローブは低消費電力,かつ,水深100 mまでの防水,耐圧設計とした.この一体型プローブを,紀伊半島の四万十帯において南海トラフ巨大地震により斜面災害の発生が危惧される重力変形斜面の鉛直ボーリング孔内に2点設置した.地表に設置した高感度速度計とあわせて鉛直アレイを形成し,連続観測を開始したところ,2016年4月1日に東南海地震の震源域で発生した気象庁マグニチュード6.5の地震を記録することができた.この波形記録を用いて斜面内部における周波数ごとの地震波の大きさを見積もった結果,1-6 Hzの地震波のスペクトルは重力変形を受けた岩盤で不動点よりも2-7倍大きくなった.一方,6-8 Hzの地震波のスペクトルは地表で重力変形を受けた岩盤や不動点よりも1.5-2倍大きくなることがわかった.すなわち,1-6 Hzの地震動が,重力変形斜面の緩み域の不安定性促進に大きく寄与することが考えられた.