地すべり・崩壊発生箇所の予測において,広範囲,複数の箇所を一度に判断するのは難しい.近年,高精細なLiDAR(light-induced direction and ranging)データの日本国内の取得が進んでいる.このデータは,現在の地表面で検出できる過去の履歴の蓄積である.本研究は,地質,地形などの条件が比較的類似し一つのイベントで発生した2011年台風12号(アジア名Typhoon talas)で発生した38箇所の崩壊(崩壊発生),および隣接する63箇所の崩壊していない山体重力変形地形(崩壊非発生)を入力データとして,実際に深層崩壊が生じた箇所の教師データを作成し,深層学習を用いて山体重力変形を自動検出する方法を検討した.検出結果は,正解率0.856で,数値ツールを用いた深層崩壊発生箇所予測の有効性を示唆した.また,崩壊範囲外において崩壊判定が認められた箇所もある.これは,“崩壊する可能性のある箇所”として今後の崩壊発生の候補とすることができ,深層学習は将来的に深層崩壊発生箇所の予測を改善できるだろう.
山岳トンネル工事では,切羽面に分布する岩石の種類や性状を観察し,適切な支保の種類を判定しながら掘削を進めている.現場技術者による切羽観察の一助とするため,筆者らはディープラーニングを用いて岩塊の写真から岩石の種類(岩種)を判定するシステムの開発を行っている.本研究では,主として国内の様々な地域や年代の地質から集められた,29岩種,2,656試料を対象に,様々な角度から可視光画像を撮影した.アルゴリズムにはAlexNetを使用した.得られた画像から1岩種当たり7,000枚をランダムに抽出して学習させたところ,平均で72.1%の正解率が得られた.本学習モデルを用いて,撮影した画像をサーバーに送ると岩種を回答する岩種判定システムを構築した.正解率を向上させるべく,新しいシステムでは自動で判定候補となる岩種を絞り込む機能を搭載した.
最近では,数多くのIoTセンサが安価に入手できる.計測したい項目に合わせて,適切なセンサを組み合わせ,マイコンボードであるArduinoやパソコン並みの処理能力をもつRaspberry Piを介して,様々なデータを取得することが可能である.一方で,研究室には室内実験用の高精度な計測機器類が役目を終えて埃を被っていたりする.これらとIoT技術を組み合わせることにより,野外観測の高精度化を図ることも可能となる.ここでは,このような組み合わせを行うことにより,2018年から継続している史跡での観測事例を紹介する.埼玉県にあるこの史跡は軟質な凝灰質砂岩に掘られた横穴墓群である.南西向きの斜面表層では木の根の侵入により,多くの開口割れ目が形成されており,浮石状となって崩落の危険性がある箇所もある.そこで浮石を形成している開口割れ目の開口幅の変化状況をリアルタイムモニタリングすることで危険な状況が悪化しているか否かを確認することが本研究の観測の目的であり,本稿では,データ取得に至る計測方法等に関するノウハウと,取得したデータから得られた知見を紹介する.