日本臨床免疫学会会誌
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28 巻, 5 号
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総説 特集:自己免疫疾患の病態形成に関わる細胞・分子と臨床応用
  • 田中 聡, 坂口 志文
    2005 年28 巻5 号 p. 291-299
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      内在性CD25+CD4+ 制御性T細胞は,胸腺で産生され,試験管内での抗原刺激に対して,自らは低反応であり,他のT細胞の増殖を抑制する.この細胞集団を生体より除去すると,各種の臓器特異的な自己免疫疾患が自然発症する.その際,制御性T細胞を移入すれば,自己免疫病の発症が阻止される.すなわち,制御性T細胞は,末梢での免疫自己寛容の維持に重要な働きをしている.CD25+CD4+ 制御性T細胞の発生及び機能発現のマスター制御分子は,転写因子FoxP3であり,FoxP3の異常は,ヒトの自己免疫病の原因となる.また,自己免疫マウスモデルや自己免疫疾患患者において,制御性T細胞に量的もしくは機能的異常を認める.自己免疫マウスモデルを用いた実験では,制御性T細胞の移入により,発症後の自己免疫疾患を治療することが可能である.制御性T細胞をヒトの自己免疫疾患の治療に応用するには,制御性T細胞と活性化CD25+ T細胞を区別できる細胞表面マーカーの検索,抗原特異的な制御性T細胞の増殖法の開発などが重要課題である.
  • 長谷川 稔
    2005 年28 巻5 号 p. 300-308
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      近年の研究は,B細胞が自己抗体の産生,サイトカインの分泌,抗原提示,共刺激作用などを介して自己免疫とその発症に重要な役割を果たしていることを明らかにした.CD20に対するキメラモノクローナル抗体(リツキシマブ)が作成され,これを用いることにより,B細胞をターゲットとした選択的治療が可能になった.関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含むいくつかの自己免疫疾患において,この抗体の有用性が続々と報告されてきている.リツキシマブは,B細胞を消失させることにより長い期間症状の寛解を誘導する.自己免疫におけるB細胞の役割を明らかにすることは,B細胞をターゲットとした治療の開発に重要である.また,逆にB細胞をターゲットとした実際の治療から,自己免疫の病態解明につながる鍵が得られる可能性がある.この総説では,自己免疫疾患におけるB細胞の役割に関する最新の研究知見とリツキシマブによる自己免疫疾患の治療効果を中心に概説する.
  • 竹田 潔
    2005 年28 巻5 号 p. 309-317
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      自然免疫系においてファミリーを形成するToll-like receptor (TLR)が病原体の構成成分を特異的に認識し,免疫応答の引き金を引くことが明らかになった.11種のTLRの各メンバーがそれぞれ異なる病原体構成成分を認識し,遺伝子発現を誘導する.TLRを介したシグナル伝達経路では,TIRドメインを有するアダプター群(MyD88, TRIF, TIRAP, TRAM)が重要な役割を担っていて,この使い分けによりTLRごとに異なる遺伝始発現が誘導される.そして,TLRを介した自然免疫系の活性化は,過剰になると,慢性炎症性腸疾患の発症につながることも明らかになった.そのため,自然免疫系の活性は様々なメカニズムで負に制御されている.その分子機構の一端として核に発現するIκB分子(Bcl-3, IκBNS)がTLRを介したサイトカイン産生を選択的に抑制していることが明らかになった.
  • 高井 俊行
    2005 年28 巻5 号 p. 318-326
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      Fcγレセプター(FcγR)は末梢ではT細胞以外の血球系細胞に広く発現する.これらは抗原とIgG抗体の結合物,つまりIgG免疫複合体を結合して細胞内にシグナルを導入するレセプター群であるが,活性化型と抑制性のFcγRのバランスによってその細胞は活性化閾値が制御され,これにより細胞性免疫,および液性免疫が巧みに調節されることになる.活性化型FcγRの機能が破綻したマウスではアレルギーや自己免疫疾患を発症しなくなる一方,抑制性FcγRであるFcγRIIbが欠損することにより逆にこれらの疾患に対する感受性が顕著に増大する.今後はさらにヒトFcγRの機能や発現異常と自己免疫疾患,移植免疫,癌免疫の関連を探る研究が押し進められ,多くの知見を我々に示してくれるだろう.本総説ではFcγRによる免疫制御の機構とその免疫疾患との関連について概説する.
  • 高松 漂太, 熊ノ郷 淳
    2005 年28 巻5 号 p. 327-332
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      セマフォリン分子群は神経ガイダンス因子として,1990年代の初めに同定された分子群であるが,近年神経系以外にも器官形成や血管新生,癌の悪性化等への関与が示唆されている.免疫系においてもSema4D/CD100(以下CD100)がB細胞や樹状細胞の活性化を促進することや,Sema4AがT細胞の活性化およびTh1/Th2分化制御に関与することが明らかとなっている.更に,これらのセマフォリン分子の免疫ホメオスターシスへの関与も示唆され,免疫制御におけるセマフォリン分子の重要性が認識されつつある.本稿では,これまで明らかになっているセマフォリン分子の自己免疫への関わりに焦点を当てて紹介する.
  • 松下 貴史, 佐藤 伸一
    2005 年28 巻5 号 p. 333-342
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      B細胞の生存・分化・抗体産生に重要な役割を果たすBAFF (B cell activating factor belonging to the tumor necrosis factor family)はTNFファミリーに属する分子で単球,マクロファージ,樹状細胞の細胞膜上に発現され,可溶型として分泌される.BAFFの受容体にはBAFF-R (BAFF receptor), BCMA (B-cell maturation antigen)およびTACI (transmembrane activator and calcium-modulator and cyclophilin ligand interactor)の3種類が知られておりいずれもB細胞の広範な分化段階において発現がみられる.BAFFシグナルは主にBAFF-Rを介して伝えられ,TACIは抑制性のシグナルを伝達している.BAFFはB細胞上の受容体との結合により未熟B細胞の生存と分化,成熟B細胞の増殖,自己反応性B細胞の生存を制御する.BAFF過剰発現マウスでは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)やSjögren症候群に類似した症状を呈する.さらにSLE自然発症モデルマウスや関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)モデルマウスであるコラーゲン誘導関節炎においてBAFFアンタゴニストの投与にて症状が改善することが明らかにされた.そしてSLEやRA,Sjögren症候群,全身性強皮症の患者において血清BAFF濃度の上昇が報告されている.BAFFは末梢性B細胞の分化・生存に影響することから,BAFF/BAFF受容体の異常が末梢性トレランスの破綻を来たし,リウマチ性疾患の発症に関与していると推測される.近年SLEやRAにおいてB細胞をターゲットした治療が脚光を浴びており, BAFFが有望な治療標的となることが期待されている.
症例報告
  • 中島 章子, 梅林 宏明, 黒澤 るみ子, 今川 智之, 片倉 茂樹, 森 雅亮, 相原 雄幸, 横田 俊平
    2005 年28 巻5 号 p. 343-348
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      当科で経験した全身性エリテマトーデス(SLE)の男子3例について経過をまとめた.発症時年齢は12~14歳.シェーグレン症候群(SS)合併が2例,SSおよび抗リン脂質抗体症候群(APS)合併が1例で,治療前の腎組織所見は,3例とも進行型のWHO分類IV型であった.初期治療としてメチルプレドニゾロン(mPSL)パルスおよびシクロフォスファミド(IVCY)パルス併用療法(NIH推奨法,1年コース)を行い,維持療法としてプレドニゾロン(PSL)とアザチオプリン(AZA)を併用した.1例は併用療法終了3ヶ月後に再燃しmPSLパルスやシクロスポリン(CsA)の導入を行ったが,他の2例では約2.5年間再燃なく,抗核抗体以外の各種自己抗体は陰性化し低用量のPSL(5 mg/日)とAZA(50 mg/日)で寛解維持が可能となった.mPSLパルス・IVCYパルス併用療法後の腎組織所見は,再燃のなかった2例でWHO分類I, III型と改善し,再燃を起こした1例はWHO分類IV型であったものの,初診時に比較しメサンギウム細胞の増生や基質の増加の改善を認めた.すなわちmPSLパルス・IVCYパルス併用療法にて全例で腎の組織所見は改善し,2例では低用量のPSLと免疫抑制薬の併用で再燃なく寛解維持が可能となった.予後不良のリスク因子である男児において,また他の併発症(SS, APS)をもつSLEにおいても,病初期からmPSLパルス・IVCYパルス併用療法による積極的な治療を選択することで予後が改善される可能性が示唆された.
  • 山本 元久, 小原 美琴子, 鈴木 知佐子, 岡 俊州, 苗代 康可, 山本 博幸, 高橋 裕樹, 篠村 恭久, 今井 浩三
    2005 年28 巻5 号 p. 349-356
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/05
    ジャーナル フリー
      症例は,73歳女性.1998年頃より口渇,両側上眼瞼腫脹が出現,2003年10月には両側顎下部腫脹を認めた.同時期に近医で糖尿病と診断され,経口血糖降下薬の投与が開始された.2004年夏頃より上眼瞼腫脹が増強したため,当科受診,精査加療目的にて10月に入院となった.頭部CT・MRIでは,両側涙腺・顎下腺腫脹を認めた.血清学的に高γグロブリン血症を認めたが,抗核抗体・抗SS-A抗体は陰性であり,乾燥性角結膜炎も認めなかった.さらなる精査で,高IgG4血症及び小唾液腺生検にて著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたため,Mikulicz病と診断した.腹部CTではびまん性膵腫大を認め,ERCPで総胆管・主膵管に狭窄を認めた.自己免疫性膵炎の合併と診断し,プレドニゾロン40 mg/日より治療を開始した.その結果,涙腺・顎下腺腫脹は消失,唾液分泌能も回復した.また膵腫大,総胆管・膵管狭窄も改善した.耐糖能障害も回復傾向にある.Mikulicz病と自己免疫性膵炎は共に高IgG4血症を呈し,組織中にIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることから,両疾患の関連を考える上で非常に興味深い症例であると思われた.
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