日本臨床免疫学会会誌
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36 巻, 3 号
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総説
  • 三宅 勝久, 笹冨 佳江, 中島 衡
    2013 年36 巻3 号 p. 129-133
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      ネフローゼ症候群は,増殖性病変が主体となるび慢性増殖性ループス腎炎(Diffuse lupus nephritis ; DLN)と膜性病変が主体となる膜性ループス腎炎(Membranous lupus nephritis ; MLN)に高頻度に認められる.これらの病態に対しては,ステロイド療法や奏功する免疫抑制剤が開発され,予後は大きく改善しているものの,いまだ難治症例が多い.全身性エリテマトーデスの病態で発症する腎炎であるにもかかわらず,DLNとMLNでは,その病態で中心的な役割を担うTh細胞が異なっていることが示されている.DLNの病態では,Th1,Th17系サイトカイン,MLNでは,Th2系サイトカインがその病態形成を担っていることから,難治性病態に対しては,従来の免疫抑制療法とともに,それぞれの病態において,中心的なサイトカインを制御することがさらなる効果を有する可能性が示唆される.
  • 猪爪 隆史
    2013 年36 巻3 号 p. 134-138
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      近年,多くの癌免疫療法の臨床試験が各所で行われている.方法,対象患者,目的も多様化してきており,特にここ数年,良好な成果の報告が相次いでいる.T cell機能抑制分子であるcytotoxic T-lymphocyte antigen 4 (CTLA-4)に対する阻害抗体は進行期メラノーマ患者の全生存率を延長し,さらに一部の患者には長期寛解をもたらすことが示された.同様にprogrammed cell death 1 (PD-1)やprogrammed cell death 1 ligand 1 (PD-L1)に対する阻害抗体も一部のメラノーマ,非小細胞肺癌,腎細胞癌を長期にわたり縮小させることが分かった.また,切除されたメラノーマ腫瘍から培養した腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte, TIL)や,腫瘍特異的T細胞受容体の遺伝子を導入した人工T cellを用いた養子免疫療法では,少ない症例数ながらメラノーマと滑膜肉腫において劇的な奏効例と長期寛解例が報告されている.一方で癌ワクチン療法では簡便で体への負担が少ない特性を生かし,他の治療との併用も含めてより多くの癌患者を対象とした大規模な臨床試験が行われている.本稿では最近の癌免疫療法の臨床試験において顕著な成果を挙げているものをいくつか紹介する.こうした臨床試験における奏効例の特性を解析し次の臨床試験に反映させていくことで,癌免疫療法の効果がより確実になっていくものと期待される.
  • 濱口 儒人
    2013 年36 巻3 号 p. 139-147
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      全身性強皮症(Systemic sclerosis : SSc)は皮膚をはじめ内臓諸臓器に線維化を生じる.その病因は不明であるが,抗核抗体が高率に検出されることから自己免疫疾患に位置づけられる.SScの病態における抗核抗体の役割は未だ明らかではないが,個別のSSc特異的あるいはSSc関連自己抗体は特徴的な臨床像と密接に結びついているため,SScの診療において自己抗体を同定することは,病状の把握と臨床経過,予後の推測に重要である.SScでみられる自己抗体として代表的なものは抗セントロメア抗体,抗トポイソメラーゼI抗体,抗RNAポリメラーゼ抗体であるが,抗Th/To抗体,抗U3RNP抗体,抗human upstream-binding factor (hUBF)抗体,抗セントリオール抗体,抗U1RNP抗体,抗Ku抗体,抗PM-Scl抗体なども頻度は低いながら特徴的な臨床像を有しているため重要な抗体である.SScでみられる自己抗体の頻度には人種差があり,これは自己抗体が特定のHLAと相関していることが一因と考えられている.SScにおける自己抗体の同定は手技の煩雑な免疫沈降法を要するものが多く,ELISA法が利用できる自己抗体は限られている.簡便に測定できる測定法の開発が望まれる.
  • 内山 徹, 小野寺 雅史
    2013 年36 巻3 号 p. 148-155
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      原発性免疫不全症(primary immunodeficiency, PID)の根治的治療法として造血幹細胞移植が挙げられるが,至適ドナーがいない場合には移植関連合併症の危険が増大する.このような背景から1990年代よりレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療がアデノシンデアミナーゼ欠損症に対し開始され,続いてX連鎖重症複合免疫不全症,ウィスコット・アルドリッチ症候群,慢性肉芽腫症など様々なPIDにおいてその効果が確認された.しかし,その後の観察で遺伝子導入細胞の消失や,ウイルスベクターによるがん原遺伝子(proto-oncogene)の活性化とそれに伴う造血系異常(白血病や骨髄異形成症候群)が報告され,更なる開発,改良の必要性が明らかとなった.これらを踏まえ,現在行われている遺伝子治療では,骨髄間隙(niche)確保のための前処置化学療法や,long terminal repeat(LTR)内の強力なエンハンサー配列を削除した自己不活型ベクターが使用されている.今後の臨床試験において,これらの改良が遺伝子治療の更なる有効性や安全性を示すことを期待している.
  • 遠藤 平仁
    2013 年36 巻3 号 p. 156-161
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      体外からの細菌感染や外傷などによる急性炎症は早期に血管浸過性亢進と好中球を中心とする炎症細胞の浸潤が起こる.炎症により破壊された組織は正常の組織に修復される.急性炎症で好中球の浸潤がおこりその後マクロファージ,リンパ球の浸潤と異物の貪食除去の炎症収束,組織修復と生体反応は展開する.急性炎症は自己制御され収束(Resolution)し組織修復する.この転換期に脂質メデイエータのLipoxinやResolvinや抗炎症サイトカインIL-10やアデイポカインChemerinなど多くの因子が作用する.Lipoxinはリポキシゲナーゼ(LOX)により合成される.急性炎症の早期は5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)がロイコトリエンB4(LTB4)を合成し好中球の炎症部位に遊走させる.その後マクロファージの15-LOXや血小板の12-LOXが誘導され,5-LOX,と12-LOXまたは15-LOXの2つの酵素を介してLXA4またはLXB4が合成される.このLipoxinは強い抗炎症作用を有している.LXA4はG蛋白結合型受容体ALXに結合し好中球の遊走抑制,マクロファージの遊走活性化などを生じ炎症収束過程の早期に作用する.Chemerinは好中球からのプロテアーゼにより前駆蛋白より活性化されマクロファージ,樹状細胞遊走,抗炎症作用を起こす.またアセチルサリチル酸(アスピリン)の作用したシクロオキシゲナーゼ(COX2)はPGE2産生を抑制し,さらに5-LOXと共に15-epiLXA4を産生し強い抗炎症作用を示す.以上の炎症の収束(Resolution)は自然免疫と獲得免疫を繋ぐ能動的な過程であり新たな炎症治療の戦略の標的である.
  • 高見 正道
    2013 年36 巻3 号 p. 162-169
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      骨吸収抑制剤デノスマブ(Denosumab)は,破骨細胞の分化誘導因子であるRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)を標的とした完全ヒト型モノクローナル抗体製剤である.米国Amgen社が最先端の遺伝子工学技術を駆使して本剤を開発し,わが国ではランマーク(RANMARK)という商品名で多発性骨髄腫や固形癌骨転移に伴う骨病変の治療に使用されている.また,骨粗鬆症や関節リウマチ,骨パジェット病患者に対しても骨吸収抑制効果を示すことから,使用範囲は今後さらに拡大すると予想される.デノスマブは生体内での半減期が長く,半年に1度の皮下投与で十分な骨吸収抑制効果が得られる.これは,従来使われてきたビスホスホネート製剤よりも強力であることを意味するが,重度の腎機能障害患者では低カルシウム血症引き起こすこともある.デノスマブは,RANKL分子特有のループ構造に結合し,受容体であるRANKとの相互作用を阻害する.また,放射能標識したデノスマブを用いた生体内での追跡実験結果から,皮下投与したデノスマブが血液を介してリンパ節や脾臓のRANKLに結合することが示唆されている.このように,本剤は強力な骨吸収抑制作用と,これまでにない作用機序をもつことから,医師および研究者の注目を集めている.
症例報告
  • 石田 素子, 宮村 知也, 海江田 智絵, 木村 大作, 中村 彰宏, 高濱 宗一郎, 喜安 純一, 南 留美, 山本 政弘, 末松 栄一
    2013 年36 巻3 号 p. 170-174
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      症例は68歳女性.平成10年頃からRaynaud症状,平成20年頃より指尖部潰瘍が出現し,増悪消退を繰り返していた.平成24年1月当院初診し,強指症状,両肘を超えない皮膚硬化,短指症,抗centromere抗体陽性で強皮症(limited cutaneous systemic sclerosis ; lcSSc)と診断された.診断2か月後より労作時呼吸困難感を自覚,指尖部潰瘍の増悪を認めた.心臓超音波検査で推定肺動脈圧91 mmHgを認めた.胸部レントゲンで心拡大を認めるが,肺野異常なく,心機能正常,胸部CT検査・肺血流シンチで異常を認めず,右心カテーテル検査で平均肺動脈圧59 mmHgを確認し,強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症と診断した.ボセンタン・ベラプロストナトリウム・ワーファリンに加え,プレドニゾロンで治療を開始,臨床症状・検査所見は速やかに改善した.皮膚硬化進行や他の臓器病変の出現は認めないものの強皮症関連肺動脈性肺高血圧症が急速に進行し,治療に速やかに反応した非常に稀な症例を経験した.
  • 中澤 裕美子, 前川 貴伸, 小穴 慎二, 石黒 精, 太田 さやか, 寺嶋 宙, 柏井 洋文, 久保田 雅也, 堤 義之, 中澤 温子, ...
    2013 年36 巻3 号 p. 175-179
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/30
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症の診断は,病巣が単発性の場合,しばしば脳腫瘍や脳炎・脳症との鑑別が困難になる.今回われわれは延髄に2 cm大の腫瘤性病変を認め,当初脳幹部グリオーマが疑われたが,最終的に多発性硬化症の診断に至った11歳男児例を経験した.患児は下肢痛の出現後,約2週間の経過で四肢麻痺,意識障害,呼吸不全が進行した.急性の臨床経過がグリオーマの臨床経過と合致せず,診断が困難であったため,手術自体の危険性を説明の上,組織生検を施行した.組織像では明らかな腫瘍細胞を確認しなかったこと,及び症状が急性に進行していることから非腫瘍性疾患の可能性を考え,ステロイドパルス療法を施行したところ速やかに回復し,ほぼ障害を残さずに退院した.その後初発から9か月後に他の部位に再発し,臨床的に多発性硬化症の診断に至った.脳幹部の組織生検は容易ではないが,適切な治療法選択の上で極めて重要な役割を果たした.
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