日本臨床免疫学会会誌
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38 巻, 2 号
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特集:再生医療の臨床応用
  • 杉田 直
    2015 年38 巻2 号 p. 79-85
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      リプロミングされた細胞は移植のツールとして広く受け入れられている.これらは移植後の拒絶反応が少ない事から,網膜移植を含めた細胞移植で利用されつつある.人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells: iPS cells)は自己の細胞を利用できる事に加えて多種類の細胞・組織に分化する事が可能な細胞として注目され,現在様々な基礎研究および臨床試験が取り組まれている.近年,著者らの研究所では,高純度のヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelial cells: RPE)の分化・誘導に成功した.このiPS細胞由来のRPE細胞は多角形(多くは六角形)で色素を豊富に含んだ細胞で,また,この細胞は生体内のRPE細胞と同等の特徴を有していた(iPS細胞の素因はなし).著者らの研究所とその関連病院では,2014年の9月に滲出性加齢性黄斑変性患者にiPS細胞由来RPE細胞が世界で初めて移植された.また,他家移植に向けた検討の中で,HLAホモドナー(HLA-A, B, DRB1 locus homozygote donors)から樹立したiPS-RPE細胞がHLA拘束下でアロT細胞に反応するかなどを行っているところである.近い将来には加齢性黄斑変性だけではなく他の網膜疾患にも移植の構想があり,その場合iPSバンクを利用した他家移植で行われる予定である.もしHLAが適合する患者T細胞のiPS-RPE細胞への反応が低下するならば,iPSバンク由来の細胞がこれらの網膜疾患に利用できる可能があると思われる.
  • 田中 良哉, 園本 格士朗, 近藤 真弘, 尾下 浩一, 張 香梅, 福與 俊介, 山岡 邦宏
    2015 年38 巻2 号 p. 86-92
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      関節リウマチに於いて破壊された関節,及び,特発性大腿骨頭壊死症などを誘因とする骨壊死症の機能改善は期待できず,骨・関節機能の再生を目指した治療法の開発が必須である.間葉系幹細胞は全身に分布する体性幹細胞で,骨芽細胞・骨細胞などに分化する多能性,顕著な自己増殖能,複製能を有する.間葉系幹細胞は骨髄,臍帯血,脂肪組織,胎盤などからも採取可能で,倫理的問題は殆どなく,移植時の安全性の点でも優れ,再生医療への応用が期待されている.著者らは,骨髄,あるいは,脂肪由来のヒト間葉系幹細胞は,炎症性サイトカインの存在下に於いて骨芽細胞,骨細胞,また,軟骨細胞へ分化が誘導されること,及び,そのシグナル伝達機構を解明した.また,間葉系幹細胞は破骨細胞の分化誘導を抑制し,TGF-β等の産生を介して免疫抑制作用を有していた.さらに,コラゲン関節炎モデルラットでは,間葉系幹細胞はポリ乳酸グリコールナノファイバーをscaffoldとして用いることにより,移植局所での間葉系幹細胞の局在性を高めて骨細胞への分化を効率的に誘導し,局所炎症により増幅される可能性が明らかとなった.さらに,TGF-βの産生等を介した免疫抑制作用の誘導が示された.以上,ヒト骨髄由来間葉系幹細胞は,破壊関節や壊死骨などの局所治療ツールとしての有望性が示唆され,骨・関節組織等の再生・修復を目指した実践的展開が期待される.
  • 小川 美帆, 辻 孝
    2015 年38 巻2 号 p. 93-100
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      唾液腺障害による唾液分泌量の低下は口腔乾燥症(ドライマウス)を引き起こし,齲蝕や感染症,嚥下障害などを惹起することが知られている.自己免疫疾患や社会の高齢化に伴い口腔乾燥症患者は増加しており,社会的な問題となっているものの,現在の治療法は対症療法が主流であり,抜本的な治療法の開発が望まれている.最近になって,損傷した組織の修復と唾液分泌の機能回復に向けて再生医療からのアプローチが始まり,幹細胞移入療法や遺伝子治療などが報告されつつある.さらに次世代再生医療として,疾患や傷害により機能不全に陥った器官を再生器官に置換する器官再生医療が進められている.著者らは胎仔期の発生する器官原基を上皮性幹細胞と間葉性幹細胞により再生する器官原基法を開発し,再生器官原基を生体内に移植することにより,歯や毛,唾液腺,涙腺など幅広い器官の機能的な再生が可能であることを実証した.本稿では,著者らの研究成果を中心に唾液腺の機能的な器官再生医療の実現可能性について解説したい.
  • 上田 樹, 金子 新
    2015 年38 巻2 号 p. 101-108
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      抗PD-1抗体などを用いたT細胞の賦活化による腫瘍免疫療法が最近注目されており,T細胞を用いた免疫細胞療法においても腫瘍浸潤リンパ球やTCR/CAR(Chimeric Antigen Receptor)導入などによる方法が徐々に成果をみせはじめている.免疫細胞療法の奏功において分化のあまりすすんでいないメモリーフェノタイプの細胞が重要であることが指摘される一方で,患者体内に存在する抗原特異的T細胞は細胞疲弊による機能低下やアポトーシス感受性の増加をきたしているという問題がある.今回我々は細胞疲弊を解除しT細胞を“若返らせる”方法としてiPS細胞を介したT細胞再生に成功した.本稿ではこの新しい技術を紹介するとともに,この技術を用いた免疫細胞治療の今後の可能性について述べたい.
総説
  • 橋本 篤, 松井 利浩
    2015 年38 巻2 号 p. 109-115
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)の治療にはステロイド剤や既存の疾患修飾抗リウマチ薬に加え近年では生物学的製剤も多く使われるようになり,それらの免疫抑制作用による感染症が問題になっている.感染症は日和見感染のみならず通常の細菌・ウイルス感染など多岐にわたり,感染部位も様々で,時に致命的である.生物学的製剤登場以前からRAそのものの免疫異常による易感染性が指摘されており,そこに治療薬が加わることでRA患者では一般人口に比べ感染リスクが高いことが知られている.重症感染症の主なリスク因子としては高齢,慢性肺疾患や糖尿病などの合併症,治療薬ではステロイド剤が挙げられる.メトトレキサートは有意な感染リスクでないとする報告が多い.生物学的製剤の感染リスクについてはランダム化比較試験およびそのメタアナリシスで詳しく調べられているがその結果は一定しておらず,生物学的製剤開始後の期間(初期)および高用量は有意なリスクとされている.当施設の検討では,3年間で計5441人年の通院RA患者において3.4例/100人年の入院を要した感染症を認め,高齢(70歳以上),男性,病期の進行,身体機能障害,ステロイド剤又は生物学的製剤の使用がその有意なリスク因子として抽出された.RA診療においては個々の症例におけるRA病勢と感染リスクを勘案し最適な治療を決定することが必要である.
症例報告
  • 南 朋子, 赤澤 政信, 神田 英一郎, 野々村 美紀
    2015 年38 巻2 号 p. 116-120
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      症例は77歳,男性.13年前に前医にて強皮症と診断.4年前に間質性肺炎を指摘され,ステロイド薬,血管拡張薬を内服し,血圧は正常範囲だった.2日前より発熱・食欲不振が出現し救急受診,見当識障害を認め入院した.高血圧(214/105 mmHg),蛋白尿,高クレアチニン血症(3.6 mg/dl)を認め,強皮症腎クリーゼ(SRC)と診断した.また血小板減少(5.4×104/μl),破砕赤血球の出現,LDH高値などより血栓性微小血管障害症(TMA)の古典的5徴候を満たした.入院日よりアンギオテンシン変換酵素阻害薬,血漿交換を開始して見当識障害・血小板減少は軽快し退院した.10年以上の経過の強皮症においてもSRC合併がありうること,TMAの合併が考えられる場合は血漿交換も含めた早期治療が必要であることを示す症例と考え報告する.
  • 丸岡 桃, 角田 慎一郎, 古川 哲也, 本多 釈人, 吉川 卓宏, 藤田 計行, 關口 有希, 佐藤 ちえり, 斉藤 篤史, 西岡 亜紀, ...
    2015 年38 巻2 号 p. 121-126
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/26
    ジャーナル フリー
      症例:39歳,女性.1993年SLE発症しPSL 30 mg/日より開始.以降,PSL 10 mgまで漸減し外来診察されていた.2012年2月(妊娠24週 0経妊0経産),尿蛋白定性(3+),高血圧,下腿浮腫を認め妊娠高血圧症のため当院産科に入院となった.入院時,1日尿蛋白1.6 gであったが,安静,腎炎食のみで,1日尿蛋白1 g程度に減少したため退院となった.その後,妊娠34週に心窩部痛を自覚し来院,AST 324,ALT 156,PLT 6.9万などの血液検査値異常を認めHELLP症候群と診断,緊急帝王切開術を施行し児を娩出した.児を娩出後も高血圧が持続,1日尿蛋白3.2 g,抗ds-DNA抗体高値,補体C3 46, C4 9, CH50 15.1と低下を認めたためSLEの増悪と診断し,血漿交換療法,免疫吸着療法,メチルプレドニゾロンパルス(mPSL 500 mg/日,3日間投与,後療法PSL 30 mg/日)を施行した.さらに,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,カルシウム拮抗薬の併用で血圧は安定し,血液・尿検査所見,全身状態も改善した.考察:SLE・抗リン脂質抗体症候群合併妊娠は,高血圧症,腎症,SLE再燃などのリスクがあるとされ,また,HELLP症候群の発症も報告されているがその病態についての報告は少ない.本症例では,血性ADAMTS13の活性の低下はなく,VW因子量の増加を認めたため,非定型血栓性微小血管障害をおこしたと考えられる.
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