日本臨床免疫学会会誌
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31 巻, 5 号
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巻頭言 特集:特異抗原をターゲットとしたImmunotherapy
総説 特集:特異抗原をターゲットとしたImmunotherapy
  • 岡田 全司
    2008 年31 巻5 号 p. 356-368
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      1998年,米国CDC及びACETは新世代の結核ワクチン開発の必要性を発表した.しかしながら,BCGワクチンに代わる結核ワクチンは欧米でも臨床応用には至っていない.我々はBCGを凌駕する強力な結核予防ワクチン(HVJ-エンベロープ(又はリポソーム)/HSP65+IL-12 DNAワクチン)を開発した.結核免疫を強く誘導するヒト結核菌由来のHSP65蛋白をコードするDNAを用いた.プライム・ブースター法を用い,HSP65 DNA+IL-12 DNA (HVJ-エンベロープベクター)のワクチンはBCGよりも1万倍強力な結核予防ワクチンであり,CD8陽性キラーT細胞の分化,IFN-γ産生T細胞の分化を増強した.肺の結核病理像を改善した.このワクチンは多剤耐性結核菌に対しても治療ワクチン効果を示した.さらに,ヒト結核感染モデルに最も近いカニクイザル(Nature Med. 1996)を用い,このワクチンの強力な有効性を得た.カニクイザルにワクチン接種後ヒト結核菌を経気道投与し,1年以上経過観察した.免疫反応増強及び胸部X線所見・血沈,体重の改善効果が認められた.また,生存率改善・延命効果も認められた.
      BCGワクチン・プライム-DNAワクチン・ブースター法を用いた群は100%の生存率を示した.一方,BCGワクチン単独群は33%の生存率であった.このワクチンが強力な成人ワクチンとなることが示唆された.
  • 幸 義和, 清野 宏
    2008 年31 巻5 号 p. 369-374
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      感染症に対する多くのワクチンは注射による投与が一般的である.しかし注射型ワクチンは全身系における防御免疫を誘導するが,エイズ,SARS(重症急性呼吸器感染症)及びインフルエンザのような多くの粘膜感染症に対する第一次防御網である粘膜免疫は誘導できない.加えて,発展途上国ではワクチンの冷蔵保存(コールドチェーン)がコスト負担になり大きな問題のひとつになっている.これらの問題を克服するためには,植物生産型ワクチンは魅力的な選択肢の一つである.ここで,我々は,既存ワクチンを超える優位性をもつコメ型ワクチンMucoRiceを開発した.発現されたコレラトキシンB鎖はコメの胚乳細胞に存在する蛋白質貯蔵体に蓄積しており,マウスに経口投与された場合,腸管の粘膜誘導組織パイエル板の抗原取り込み細胞であるM細胞から取り込まれて,毒素中和活性を持つ抗原特異的血清IgG及び粘膜IgAを誘導する.またこのMuocRice CTBは室温保存状態で1年半以上安定であり,且つ試験管内ペプシン消化実験で消化酵素耐性を示す.即ち,MucoRiceはコールドチェーンも注射筒・針も必要とせず,全身系と粘膜系の2段構えの防御免疫を誘導可能な,新興再興感染症を制圧できる世界規模仕様ワクチンであること示している.
  • —WT1ペプチド癌ワクチン—
    岡 芳弘, 川瀬 一郎
    2008 年31 巻5 号 p. 375-382
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      癌遺伝子としての機能を有するWT1遺伝子(Wilm's tumor gene)は多くの造血器腫瘍や固形癌で発現している.その遺伝子産物であるWT1蛋白は抗原性が高く癌免疫療法の標的としてすぐれていることを示す実験データが蓄積されつつある.つまり,癌患者の末梢血では健常人に比較してWT1抗体が高力価で,また,WT1特異的CTL (cytotoxic T lymphocyte)が高頻度で検出される.さらに,造血幹細胞移植時のGraft versus Leukemia反応にもWT1特異的免疫反応が関与している可能性が高い.これらの知見をもとに,WT1特異的CTLを誘導できるWT1ペプチドを癌ワクチンとして投与する臨床試験が開始された.その結果,WT1ペプチドワクチン投与患者において,投与されたWT1ペプチド特異的な細胞性免疫反応の誘導(WT1特異的CTL頻度の増加,ペプチド特異的DTH反応の陽性化など),および,それに基づくと考えられる臨床的反応(白血病細胞の減少,多発性骨髄腫におけるM蛋白の減少,固形腫瘍の縮小など)がみとめられた.今後,ヘルパーペプチドや化学療法との併用などにより,WT1ペプチドワクチンのさらなる効果の増強が期待できる.また,WT1ペプチドワクチンなどの免疫治療はMRD (minimal residual disease)時の再発予防に最適であると考えられる.
  • 西村 泰治, 中面 哲也, 千住 覚
    2008 年31 巻5 号 p. 383-391
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      ヒトの肝細胞癌組織と正常組織におけるcDNAマイクロアレイ解析により,肝細胞癌に高発現する遺伝子としてGlypican-3 (GPC3)を同定した.GPIアンカー膜蛋白質であるGPC3は,肝細胞癌患者の約40%の血清中に検出される新規癌胎児性抗原であり,αフェト蛋白,PIVKA-IIにつぐ肝細胞癌の第3の腫瘍マーカーとして有用であることを示した.また,マウスにGPC3ペプチドを負荷した樹状細胞を投与した後に,マウスGPC3を発現する癌細胞株を移植すると,自己免疫現象を伴うことなく著明な腫瘍の増殖抑制と生存期間の延長を誘導できた.さらに,HLA-A2トランスジェニックマウスや,癌患者の血液検体を利用して,HLA-A2あるいはA24によりヒト・キラーT細胞に提示されるGPC3ペプチドを同定した.これらのペプチドで癌患者のリンパ球を刺激することにより,GPC3発現ヒト肝細胞癌細胞株を傷害するヒト・キラーT細胞を誘導できた.これらのGPC3ペプチドを用いた,肝細胞癌の免疫療法に関する臨床試験を開始した.また,我々はマウス胚性幹(ES)細胞から樹状細胞(ES-DC)を分化誘導する方法を開発し,マウスGPC3を発現するES-DCをマウスに免疫したところ,GPC3発現マウス癌細胞株に対するin vivo抗腫瘍効果の誘導が観察された.
  • 石井 保之
    2008 年31 巻5 号 p. 392-398
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      欧米では,様々な花粉症や通年性アレルギー性鼻炎を対象とするアレルゲン免疫療法(allergen Immunotherapy ; AIT)が,根本的な治療法として実施されている.しかしながら本邦では,長期間の通院治療を要することや作用機構が解明されていないことなどから,十分に普及していないのが現状である.現在我々は,スギ花粉症のAITへの実用化を目指した新規治療ワクチンの研究を進めている.治療ワクチンの第一候補として,生体内でアレルゲン特異的に免疫制御機構を誘導することを目的に,アレルゲンタンパク質と免疫制御細胞を活性化する化合物を包含した免疫制御リポソームを考案した.モデル実験として,卵白アルブミン(OVA)と不変ナチュラル・キラーT(iNKT)細胞を活性化するCD1dリガンドを封入した免疫制御OVAリポソームをOVA感作したマウスに投与した結果,追加免疫で惹起される二次的なIgE抗体産生が著しく抑制されることを認めた.これらのマウスは,数ヶ月後のOVA追加免疫においてもIgE抗体の上昇が認められなかった.以上の結果から,免疫制御OVAリポソームは長期に渡り免疫寛容を誘導できることが示唆された.次に,免疫制御OVAリポソームを投与したマウスの脾臓細胞を解析した.その結果,樹状細胞やマクロファージ以外に,B細胞にも免疫制御OVAリポソームが取り込まれ,iNKT細胞との会合でIL-10を産生し,制御性T細胞を誘導することが示唆された.現在,スギ花粉症ワクチンとして,アナフィラキシーの危険性がないように設計された組換えCryj 1-Cryj 2融合蛋白質を封入した免疫制御リポソームを製造し,その薬効を確認している.本ワクチン投与によって,スギ花粉飛散前にアレルゲン特異的な免疫制御機能を高めておくことができれば,スギ花粉飛散期のIgE抗体産生が抑制され,さらに免疫寛容を誘導できれば,その後のアレルギー症状の軽減と長期的な治療効果が期待できる.
  • 西本 憲弘
    2008 年31 巻5 号 p. 399-404
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      特異抗原を標的とするモノクローナル抗体の治療への応用,すなわち抗体医薬の開発が世界中でブームを引き起こしている.わが国オリジナルの日本初の抗体医薬であるヒト化抗IL-6受容体抗体“トシリズマブ”はIL-6の過剰産生が病態形成にかかわっている免疫疾患や炎症性疾患の治療薬として開発された.2005年に希少疾患であるキャッスルマン病に世界に先駆けて承認されていたが,本年4月に,関節リウマチと若年性特発性関節炎の治療薬として追加承認された.いずれの疾患に対しても従来の抗リウマチ薬や免疫抑制剤による治療にくらべて優れているばかりでなく,関節リウマチに関してはすでに承認時に国内だけでも1900患者・年に及ぶ安全性のデータが治験の中で蓄積されている.トシリズマブが臨床現場で使用可能になり,これらの難治性疾患に対する治療法に大きな変革がもたらされることが期待される.
原著
  • 宮前 多佳子, 伊藤 秀一, 町田 裕之, 小澤 礼美, 樋口 るみ子, 中島 章子, 今川 智之, 中村 智子, 森 雅亮, 相原 雄幸, ...
    2008 年31 巻5 号 p. 405-414
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      混合性結合組織病(MCTD)は,全身性エリテマトデス(SLE),皮膚筋炎(DM),全身性強皮症(SSc)様所見の混在する疾患である.小児例は初期にDMやSSc様所見を呈することは少なくSLE様所見が中心になる.したがってMCTDの診断は,Raynaud現象と抗U1-RNP抗体の存在に重きを置くことになり,とくに抗dsDNA抗体及び抗U1-RNP抗体陽性の症例はSLEとの鑑別が困難になる.今回,小児期発症SLEまたはMCTDと診断された80例をdsDNA抗体と抗U1-RNP抗体の有無により,A群(抗dsDNA抗体陽性/抗U1-RNP抗体陰性)48例(60%),B群(抗dsDNA抗体陽性/抗U1-RNP抗体陽性)22例(27.5%),C群(抗dsDNA抗体陰性/抗U1-RNP抗体陽性)10例(12.5%)に分類し,B群の特徴を明らかにするため3群間の臨床症状や検査所見について比較検討した.その結果,低補体血症はSLEに近似していたが,高IgG血症はMCTDに近く,またRaynaud現象の頻度もMCTDに近似していた.一方,比較的MCTDに特徴的と思われる斑紋型抗核抗体やリウマトイド因子の出現頻度は,SLEとMCTDの中間的な位置にあった.すなわちB群症例は両疾患の特徴を併せ持ち,初発時の鑑別は困難であった.しかしRaynaud現象,高IgG血症,膜性腎炎,斑紋型抗核抗体,リウマトイド因子,抗U1-RNP抗体などMCTDに近似した所見を呈する症例は,MCTD予備軍としての経過観察や対応が必要と思われた.
症例報告
  • 佐野 史絵, 宮前 多佳子, 中岸 保夫, 木下 順平, 小澤 礼美, 今川 智之, 森 雅亮, 朝山 雅子, 横田 俊平
    2008 年31 巻5 号 p. 415-421
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
      消化器症状で発症した腎梗塞合併古典的結節性多発動脈炎(PN)の一男児例を経験した.症例は14歳,男児.発熱,腹痛,血性下痢で発症し,体重減少も著しく,前医で行った内視鏡検査で回盲部からS状結腸にかけて多発性の深掘型潰瘍の所見を得て腸管ベーチェットが疑われた.しかし,その病理組織所見は非特異的で,口内アフタ性潰瘍や外陰部潰瘍の既往はなく,結節性紅斑,関節炎などもなく,ブドウ膜炎,針反応も認めないため,ベーチェット病の診断には至らなかった.検査所見ではCRPの上昇,赤沈値の亢進,FDP-Eとフィブリンモノマーの軽度上昇を認め血管炎を想定したが確診には至らず,炎症部位を特定するために3D-CTアンギオグラフィを施行した.この結果,両側腎に多発性腎梗塞と腎動脈瘤,肝動脈の蛇行が認められた.また頭部MRアンギオグラフィでは頭蓋内主要動脈全体の蛇行と拡張も認められ,厚生省(現厚生労働省)特定疾患難治性血管炎分科会認定基準を満たし,PNと診断した.シクロホスファミドパルス・パルス療法を導入し,維持療法として経口プレドニゾロン+アザチオプリンによる治療を行ったところ奏功し速やかな症状の改善を得て,1年後の3D-CTアンギオグラフィによる再検索では両側の多発腎梗塞,腎動脈瘤の消失を認めた.PNの症状や血液検査所見は非特異的であることが多く,従来PNの診断には組織所見や血管造影所見を必要としていた.このため早期の診断,治療導入が困難な症例が少なくなかった.本症例は侵襲性の少ない3D-CTアンギオグラフィにより早期に血管炎の所見を確認でき,速やかな治療導入により後遺症なく炎症抑制が可能であった.
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