日本臨床免疫学会会誌
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32 巻, 4 号
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特集:疾患の制御―臨床から免疫へ―
巻頭言
総説
  • 吉田 裕樹
    2009 年 32 巻 4 号 p. 202-213
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      IL-12関連サイトカイン,IL-27, 23は活性化した樹状細胞から産生され,ヘルパーT細胞の分化に深く関わる.IL-12, 27, 23は,主としてIFN-γを産生し細胞性免疫をつかさどるTh1型ヘルパーT細胞の分化を誘導する.さらに,IL-23は,IL-17を産生し炎症性疾患の病態形成に関与するTh17と呼ばれるヘルパーT細胞の分化を促進し,炎症誘導に関わる.一方,IL-27はTh1細胞の分化誘導作用に加えて,免疫・炎症抑制作用を持つ.IL-27は,IL-23と逆にTh17の分化を抑制する作用を持ち,この働きが失われたマウスではTh17細胞が増加し,自己免疫性脳炎や,感染に続発する炎症病理が増悪する.さらに,IL-27は活性化T細胞による様々な炎症性サイトカイン産生を抑制する.IL-27の持つ免疫抑制作用の一部は,活性化T細胞に対して免疫抑制性サイトカインであるIL-10の産生を誘導することによると考えられている.IL-27投与,あるいはIL-27受容体シグナル増強により,マウスにおける自己免疫性脳炎,コラーゲン誘発性関節炎,遅延型過敏症,全身性ループスエリテマトーデスなどに対する治療効果が得られる.このIL-27の免疫制御作用は,自己免疫性疾患や炎症性疾患に対する治療応用の観点から注目を集めている.
  • 大木 伸司, 山村 隆
    2009 年 32 巻 4 号 p. 214-222
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)は中枢神経系の脱髄疾患であり,その本態は自己反応性T細胞を含む免疫担当細胞を介した組織障害である.長らく自己免疫疾患に関わる病原性T細胞の本体は,IFN-γ産生性のTh1細胞と考えられてきたが,最近なってTh1細胞やTh2細胞とは機能的に異なる新たなエフェクター細胞T集団として,より強力な炎症惹起能を有するIL-17を産生するTh17が,強力な自己免疫疾患誘導性を有する病原性T細胞集団であることが示された.我々は,自己免疫病態形成に関わる病原性T細胞の機能解析を目的として,寛解期MS患者由来の末梢血T細胞を対象に,DNAマイクロアレイ法を用いた網羅的遺伝子発現解析を施行し,新たなMS治療標的候補分子として,オーファン核内受容体NR4A2を同定した.RNAi法を用いたT細胞のNR4A2発現抑制により,炎症性サイトカイン産生抑制と,実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental Autoimmune Encephalomyelitis ; EAE)の軽快が認められた.本稿では,NR4A2をターゲットとした分子標的薬による新規MS治療法開発の可能性について紹介する.
  • 中村 修治
    2009 年 32 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      ヒトの臍帯血の細胞をマウスのストローマ細胞と共培養することにより従来知られていなかった種類の制御性T細胞(Treg)が誘導されることが明らかになった.HOZOTと命名されたこのT細胞には3つの大きな特徴がある.1つは誘導法でヒト臍帯血の単核球細胞をマウスストローマと共培養しxenogeneicな系を用いる点,2つめはCD4+CD8+のダブルポジティブの表現形を示す点,3つめはキラー活性,サプレッサー活性,ヘルパー活性をあわせ持つ多機能性である点である.HOZOTはアロMLR抑制機能をもつことからTregとして定義されたが表現型や免疫抑制作用機序などから従来のTregと異なっている.またマウスストローマに対してキラー活性を示すだけでなくヒトの大腸癌細胞などある種の腫瘍細胞に対してもキラー活性が判明した.また,HOZOTはサイトカイン産生という面からIL-10/RANTES/IL-8の高産生細胞として従来のT細胞と大きく異なる.これらの特徴のうち特に抗腫瘍活性とサプレッサー活性を同時にもつことから機能や分化への興味とともに臨床応用が期待される.
  • 藤井 眞一郎
    2009 年 32 巻 4 号 p. 231-241
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      造血器腫瘍疾患は,多くの場合免疫担当細胞の腫瘍性疾患であり,免疫の機能異常を随伴する場合がある.しかしながら疾患のタイプや治療反応性により病態は異なり,必ずしも常に免疫抑制状態にあるわけではない.慢性骨髄性白血病(CML)はPh1染色体を有し,BCR-ABL融合遺伝子の遺伝子産物であるBCR-ABLチロシンキナーゼが白血化をもたらす疾患であり,通常数年の慢性期を経て移行期,急性転化を来たす予後不良の疾患である.近年このチロシンキナーゼに対する分子標的治療薬であるimatinib mesylate(イマチニブ)により予後が目覚しく改善されている.しかし白血病幹細胞への効果がないため,治療中における耐性,不応性が臨床的に問題となる.一方,CML患者の免疫能に関して様々な報告がある.BCR-ABL, Proteinase 3 (PR-1)等がCMLの腫瘍抗原として同定されており,これらのエピトープに対する細胞傷害性T細胞(CTL)が検出され,免疫療法も施行されている.我々は,CML患者の末梢血中のTCRレパトアの解析により,オリゴクローナルなT細胞の集積があること,更に樹状細胞療法により新規CTLが誘導されることを明らかにした.更に自然免疫の評価として,イマチニブを使用している血液学的完全寛解のCML慢性期の患者を対象として細胞学的効果とVα24 iNKT細胞の機能的解析の関連性を検討した.その結果,イマチニブ療法を受けているCML患者の多くはNKT細胞数の減少が認められることと,この中の細胞学的部分寛解症例は,Vα24 iNKT細胞数が比較的保たれていても,IFN-γ産生が認められないことが判明した.この機構はVα24 iNKT細胞自体ではなく,末梢血に含まれる単球の抗原提示異常があることがわかり,実際に樹状細胞で再刺激することによりVα24 iNKT細胞機能が回復した.以上のことは,疾患の進行と免疫の関与を意味すると共に,分子標的治療薬であるイマチニブ治療群での残存白血病細胞に対して免疫療法併用の可能性を示唆している.
  • 村上 洋介, 上阪 等
    2009 年 32 巻 4 号 p. 242-248
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      Triggering receptor expressed on myeloid cells (TREM)-1は,ミエロイド系細胞に発現するレセプターで,TLRと協調的に働くことにより,炎症反応を増強する特徴を有している.リガンドは不明であるが,TREM-1細胞外ドメインにIgG-Fcを融合させたTREM-1-IgによってTREM-1の働きを阻害すると,敗血症などの感染症からマウスを保護することができる.これらのことからTREM-1阻害は感染症制御に有用であることがわかってきた.一方,微生物の関与しない炎症性疾患についてTREM-1の作用は不明であった.我々はTREM-1の発現はTLRリガンドだけでなくPGE2や尿酸結晶によって誘導されることを認めた.また,TREM-1は尿酸結晶誘発性炎症の炎症反応を増強する作用も見出した.さらにTREM-1は自己免疫疾患である関節リウマチやその動物モデル(CIA)においても発現が認められ,CIAにおいてTREM-1を阻害すると,関節炎は著明に改善された.以上のことから,TREM-1が微生物以外の炎症性疾患の有用な治療標的分子となりうることを明らかにした.
  • 山田 久方
    2009 年 32 巻 4 号 p. 249-255
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      関節炎など自己免疫疾患動物モデルの多くは,Th1免疫反応により発症すると長年考えられてきたが,近年IL-17と,それを産生する新しいヘルパーCD4T細胞サブセットのTh17細胞がこれらの発症に重要なことが明らかとなってきた.ヒト関節リウマチ(RA)も同様にTh17細胞が重要な役割を担うと考えられるようになり,RA関節でのIL-17検出も報告されている.またIL-17の示す種々の生理活性はRAの関節破壊性病態を良く説明する.しかしRA患者において,実際どの程度Th17細胞が存在するのかは不明であった.そこで我々は細胞内染色フローサイトメーター法を用いてRAにおけるTh17細胞を解析したところ,末梢血中のTh17細胞数はRA患者と健常人の間に有意差を認めなかった.またTh17細胞数とRA疾患活動性との相関も認めなかった.さらに驚くべきことに,RA関節滑膜あるいは関節液中において,IFN-γを産生するTh1細胞は多数検出されるものの,Th17細胞はごく少数を認めるのみであった.他家の報告を見直しても,ヒトRA関節ではIL-17が大量に産生されているとは言い難いのが実際のようであった.ヒトRA病態へのTh17/IL-17の関与,重要性について結論付けるにはさらなる検討が必要と思われる.
原著
  • 箕輪 健太郎, 名切 裕, 李 鐘碩, 天野 浩文, 森本 真司, 田村 直人, 戸叶 嘉明, 高崎 芳成
    2009 年 32 巻 4 号 p. 256-262
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      ニューモシスシス肺炎(Pneumocystis pneumonia;以下PCP)を併発した自験20例の膠原病患者の臨床データを解析し,厚生労働省研究班のST合剤の予防投与基準の有用性について検証した.19例(95%)は間質性肺炎(Interstitial Pneumonitis;以下IP)・腎機能障害などの何らかの合併症を保有しており,特にIP・腎臓機能障害を保有する群では死亡率が高かった.血液検査所見では,β-Dグルカン値は全例陽性で,LDH値・KL-6値が高値の症例も認めた.基礎膠原病疾患の治療において,ステロイドパルス療法を含む大量ステロイド使用例は11例(55%),methotrexate(以下MTX)を含む免疫抑制剤使用例は12例(60%)で,19例(95%)がどちらかの治療をしていた.PCPの予後に対するステロイドパルス療法の効果は8例が呼吸不全による死亡に至り,はっきりしなかった.厚生労働省研究班のST合剤の予防投与基準は9例(45%)が満たしたが,年齢の項目を除くと,15例(75%)の症例が該当していた.基準を満たさない症例では,IPの合併,MTX・生物学的製剤の投与,アルブミン値低下などの基準にない危険因子を認めた.予防基準施行後は,PCPの発症が激減していることから,本基準の成果は期待できるが,基準より外れてPCPを発症する可能性があることが,課題として残された.
  • 鈴木 大介, 小川 法良, 澤田 仁, 木本 理, 下山 久美子, 林 秀晴
    2009 年 32 巻 4 号 p. 263-268
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)に対してステロイド,免疫抑制剤が使用され,一定の効果が得られている.しかし,効果不十分例や副作用のためこれらの治療が十分行えない症例が存在する.近年,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)がSLEに有効であると報告され,新たな治療の選択肢として注目が集まっている.本研究では,ステロイド減量困難あるいは免疫抑制剤抵抗性を示した症例,または,副作用のためステロイドの継続投与が困難であった全身性エリテマトーデス16症例を対象とし,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の投与を行い臨床的効果,有害事象を評価した.16症例のうち,女性は13例(81%),男性は3例(19%)であり,平均年齢は44.4±9.2歳,平均罹病期間は12.5±6.9年であった.MMFとPSLの初期投与量はそれぞれ1.44±0.51 g,12.1±4.73 mgであり維持量はそれぞれ1.95±0.61 g,9.8±3.35 mgであった.MMFの平均投与期間は12.0±5.5ヶ月であった.臨床的改善は69%に認められ,臨床検査値では投与6ヶ月から有意なIgGの低下,アルブミン,補体価の上昇が認められた.有害事象は感染症が多かったが重篤なものはなかった.MMFは全身性エリテマトーデスに有効で,比較的に安全に使用できる可能性が示唆された.
  • 南 留美, 宮村 知也, 中村 真隆, 園本 格士朗, 寶來 吉朗, 高濱 宗一郎, 安藤 仁, 山本 政弘, 末松 栄一
    2009 年 32 巻 4 号 p. 269-273
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      再発性多発軟骨炎(RP)は軟骨の慢性炎症を主徴とする稀な疾患であり病因として自己免疫機序が想定されている.今回,当科にて5例のRPを経験したので,その臨床像を検討した.症例は,男性4名,女性1名,初発時の年齢27~75歳で,初発からRPと診断されるまでの期間は10ヵ月~5年であった.初発時の所見は,耳介軟骨炎2例,関節炎2例,診断時までに耳介軟骨炎5例,関節炎5例,鼻軟骨炎2例,強膜炎1例,気管軟骨壁肥厚4例,胸水1例,肋軟骨痛1例,皮疹1例,難聴1例,口内炎,陰部潰瘍,回盲部潰瘍の合併(MAGIC syndrome)1例であった.2例が関節リウマチとして加療を受けていた.抗II型コラーゲン抗体は,測定可能であった4例中全例で陽性であり,経過を追えた3例では抗体価とCRP値に相関を認めた.初回治療はステロイド中-大量療法4例,少量ステロイド療法1例であった.再発した3症例に対しステロイドパルス療法を2例に,免疫抑制剤併用を2例に施行した.検討症例5例の診断後の予後は比較的良好であったが,本疾患は気管支狭窄や心病変など,致死的病変の合併もあり得るため早期診断が重要である.
  • 青木 葉子, 岩本 雅弘, 簑田 清次
    2009 年 32 巻 4 号 p. 274-278
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica : PMR)は高齢者に発症する体幹近位部の上下肢帯の筋痛と朝のこわばりを呈する原因不明の炎症性疾患である.PMRは特異的な臨床所見に乏しく関節リウマチ(RA)や血管炎症候群との鑑別を要する.今回当科で診断し,治療を開始したPMR症例44例を後向きに調査した.発症時の年齢の中央値は71歳で,60歳台と70歳台が約80%を占めたが,60歳未満も3例(6.8%)存在した.性差はなかった.側頭動脈炎の合併は3例のみであった.筋痛の分布が遠位筋に及ぶ症例が15例(34%)存在した.関節炎は16例(36%)にみられ,その半数は単関節炎または少関節炎で手関節や膝関節の関節炎が多かった.血清CRPの最高値の中央値は8.18 mg/dl,リウマトイド因子と抗CCP抗体はそれぞれ2例,1例で陽性であり,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性は認めなかった.血清MMP-3は女性において高い傾向があった.治療はプレドニゾロン(PSL)換算で初期用量の中央値は体重1 kg当り0.195 mg/kg/日であった.免疫抑制薬を併用した症例はなかった.治療開始後半年後の経過を確認し得た26例中,RAに診断が変更された症例はなかった.
症例報告
  • 東 直人, 高田 恵広, 西岡 亜紀, 神田 ちえり, 関口 昌弘, 北野 将康, 黒岩 孝則, 橋本 尚明, 松井 聖, 岩崎 剛, 佐野 ...
    2009 年 32 巻 4 号 p. 279-284
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
      症例は63歳,女性.耳介発赤・腫脹,鼻根部発赤,眼球結膜充血,多関節痛,咳嗽,労作時呼吸困難感で当科受診.Damianiらの診断基準に基づき再発性多発性軟骨炎(RP)と診断.抗II型コラーゲン抗体も高力価陽性であった.呼吸機能検査で1秒率の低下,フローボリューム曲線(FVC)でピークフロー(PEF)の低下を認め,中枢気道の閉塞性障害が示唆された.胸部CTでは気管から左右主気管支にかけ気道壁の全周性肥厚を認めた.これらはRPに伴う気道病変と考えられ,methylprednisolone (mPSL) 32 mg/日による加療を開始したところ炎症所見,1秒率,CT所見は速やかに改善した.従来のCTでの気道評価は定性的で,我々は定量性を持たせるため気道壁厚の指標となるpercentage wall area (WA%)およびpercentage wall thickness (WT%)を測定し,経時的に比較した.加療開始後速やかにWA%, WT%は減少し,mPSL漸減中も減少傾向は続いた.呼吸機能検査,FVC, PEFおよびCTでの定性および定量評価を併用することは,いずれも非侵襲的検査であり,かつRPの気道病変を機能面と構造面から評価でき非常に有用と考えられた.
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