日本臨床免疫学会会誌
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29 巻, 3 号
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総説
  • 奥谷 大介
    2006 年29 巻3 号 p. 107-113
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      1994年,Long Pentraxinとして最初に発見されたPentraxin 3 (PTX3)は免疫や炎症において重要な役割を担っている.Pentraxin類はLong PentraxinとShort Pentraxin (CRP : C反応性蛋白,SAP:血清アミロイドP)に分類されるが,その共通点はC-端末Pentraxinドメインを有することであり,その違いはLong Pentraxinにunrelated long N-端末ドメインが存在することである.PTX3は炎症に反応して,血管内皮細胞やマクロファージなどの全身の細胞より産生される為,肝臓のみにより産生されるShort Pentraxinと異なり,局所的な感染や炎症に敏感に反応する指標として役立つと考えられる.また正常な状態では,血液中のPTX3レベルは極めて低いが,一旦激しい炎症が起こるとそのレベルは急激に上昇する.臨床において,PTX3の血清レベルが特定の炎症性疾患の重症度,治療や予後などと相関するとの報告がされている.本稿では,炎症反応におけるPTX3の役割とその臨床応用について述べる.
  • 深澤 弘志, 影近 弘之, 首藤 紘一
    2006 年29 巻3 号 p. 114-126
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      レチノイドとは,核内ホルモン受容体スーパーファミリーに属するレチノイン酸受容体(RARα, β, およびγとRXRα, β, およびγ)に結合し,これらを活性化する化合物の総称である.内在性に存在する最も重要な生体内レチノイドは,all-trans-レチノイン酸(ATRA)であり,これはRARα, β, γを区別なく活性化する.ATRAおよびその類似化合物が急性前骨髄球性白血病(APL)や皮膚疾患の治療に用いられている一方で,数多くの合成レチノイドが合成され,医薬としての性状を改善する試みも行われている.中でも,タミバロテン(Am80)は,RARα, βのみを活性化し,RARγやRXRsには結合しない特徴的な合成レチノイドである.Am80は,乾癬と再発APLの治療において有効性が確認されていることに加え,コラーゲン誘導関節炎モデルや実験的自己免疫性脳炎(EAE)においてもその効果を示す.レチノイドは,特にTh1優勢な自己免疫疾患に有効ではないかと考えられる.
  • 向井 正也
    2006 年29 巻3 号 p. 127-135
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)ではアポトーシスが亢進しており,末梢血中でDNAとヒストンの複合体であるヌクレオゾームの過剰状態がある.このヌクレオゾームはその除去の低下ないしウイルス感染などによる修飾によって免疫原性を持ち,抗ヌクレオゾーム抗体が産生される.抗ヌクレオゾーム抗体は多くのSLEで陽性であり,診断マーカーとして重要であり疾患活動性のマーカーである可能性もある.ヌクレオゾームは抗ヌクレオゾーム抗体と免疫複合体を形成するが,ヌクレオゾームのヒストンには強い陽性荷電があり,腎糸球体基底膜のヘパラン硫酸の陰性荷電と結合し,抗ヌクレオゾーム抗体が腎基底膜に結合すると考えられる.これに補体が結合して,腎炎などの組織障害を呈すると考えられる.
      ヌクレオゾームは免疫原として抗ヌクレオゾーム抗体ついで抗DNA抗体といった自己抗体の産生に関与して病因になるだけでなく,自己抗原としてその免疫複合体がイオン結合で組織に沈着して組織障害に関与するなど,SLEの病態にも深く関与していると考えられる.本稿ではSLEにおけるヌクレオゾームの役割について概説し,合わせてアポトーシスの発現部位についてリンパ球以外の臓器として肝臓の可能性についても述べる.
  • 兪 史幹, 大西 伸幸, 加藤 菜穂子, 依田 成玄, 南 康博
    2006 年29 巻3 号 p. 136-147
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      生体を構成する細胞の遺伝情報の恒常性維持は,多彩かつ精緻に制御された諸生命活動に必須の細胞機能であり,その破綻は遺伝情報における変異の蓄積ならびにアポトーシス誘導機構の異常をもたらし,癌をはじめとする諸疾患の誘因となると考えられている.遺伝情報の維持において,DNA損傷応答機構,とりわけ細胞周期チェックポイント機構は重要な役割を担っている.放射線,紫外線,各種の化学物質あるいは代謝の過程で生じる活性酸素などによりDNA損傷を受けると,細胞はチェックポイント機構を作動させ速やかに細胞周期を停止し,その間にDNA損傷修復を行うか,あるいはDNA損傷の程度が著しい場合にはアポトーシスを誘導することにより異常な遺伝情報が生体に蓄積するのを防ぐ.本稿では,まずDNA損傷応答機構,特にチェックポイント機構について概説するとともに,チェックポイント機構に関わる分子群(遺伝子群)の異常と造血器腫瘍をはじめとする悪性腫瘍との関連について,我々の研究成果もまじえて紹介する.さらに,チェックポイント機構の異常と慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連についても言及したい.
症例報告
  • 南 留美, 井筒 挙策, 宮村 知也, 山本 政弘, 末松 栄一
    2006 年29 巻3 号 p. 148-153
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      症例は33歳女性.日光過敏,蛋白尿,汎血球減少,抗核抗体,dsDNA抗体陽性よりSLEと診断された.prednisolone 50 mg/日にて治療を開始後,貧血以外の所見は改善した.ハプトグロビン値は回復し溶血は改善したが,網状赤血球は低値,骨髄では赤芽球系は低形成であり,Pure red cell aplasia (PRCA)の合併と診断された.SLEとPRCAはともに免疫学的異常を背景に発症するが,合併は比較的稀である.PRCA患者血清中には造血阻害因子の存在が報告されている他,細胞性因子の関与も報告されている.今回,本症例にて,患者赤芽球系コロニー形成細胞(erythroid colony forming cell: ECFC)および末梢血T細胞を用いて発症機序の解析を行った.患者T細胞は,数依存性に患者赤芽球造血を抑制した.一方,患者血清にて健常者赤芽球造血は促進した.患者血清中には貧血に対応して赤芽球系細胞の増殖促進因子が含まれていたと考えられた.以上より,本症例でのPRCA発症に細胞性免疫の関与が示唆された.
  • 黒澤 るみ子, 宮前 多佳子, 今川 智之, 片倉 茂樹, 森 雅亮, 相原 雄幸, 横田 俊平
    2006 年29 巻3 号 p. 154-159
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      症例は13歳,女児.2000年8月発熱,下痢,嘔吐,関節痛,鼻出血,全身倦怠感あり,前医を受診した.血小板減少,抗核抗体,抗DNA抗体,PAIgGが陽性のため特発性血小板減少性紫斑病,全身性エリテマトーデス(SLE)の疑いで経過観察されていた.2001年1月麻疹に罹患後より,腹痛が出現し,尿蛋白・潜血陽性,左水腎,左尿管狭窄・拡張を認めた.症状は輸液,NSAIDsで軽快したが,2月発熱,両頬部紅斑認めSLEと診断され,当科入院となった.患児はシェーグレン症候群を併発したSLEで,経静脈性腎盂造影で左水腎,左尿管狭窄・拡張,膀胱内視鏡で左尿管口付近に発赤を認めた.同部位の病理所見で,SLEにみられる血管炎の所見が存在し,ループス膀胱炎と診断した.外科的治療は行わず,経静脈的シクロホスファミド(IVCY)パルス療法(計8回,1年間)を導入し,維持治療をプレドニゾロン,アザチオプリンとした.IVCYパルス療法1年間終了後,左水腎症,尿管拡張・狭窄は著明に改善した.副作用も認めておらず,現在内服治療のみで寛解維持ができている.小児期発症SLEにループス膀胱炎を合併し,IVCYパルス療法が著効した症例を経験したため報告した.
  • 山本 元久, 高橋 裕樹, 宮本 千絵, 小原 美琴子, 鈴木 知佐子, 苗代 康可, 山本 博幸, 篠村 恭久, 野中 道夫, 今井 浩三
    2006 年29 巻3 号 p. 160-168
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
      症例は,22歳女性.2005年6月頃に高熱,関節痛および四肢に皮疹が出現し,近医皮膚科を受診した.その際の血液検査で肝機能障害を指摘され,翌日同院内科に入院となった.CRPは著明に高値を呈したが,感染徴候はなく,骨髄像も正常であった.持続する39℃以上の発熱,皮疹,白血球増加,咽頭痛,脾腫,肝機能障害,血液検査で自己抗体陰性,高フェリチン血症を認めたことから,成人スチル病と診断された.プレドニゾロン30 mg/日より治療が開始されたが,無効であり,ステロイドパルス療法を実施,加療継続のため7月中旬に当科転院となった.ステロイドとシクロスポリンの併用により,活動性のコントロールを試みたが,高フェリチン血症の増悪,肝障害の出現を認め,2回目のステロイドパルス療法を実施した.一時的に症状は改善を認めるものの,ステロイド減量困難であることから,シクロスポリンをメトトレキサートに変更し,インフリキシマブの投与を開始した.経過中,ST合剤の処方を開始したが,薬剤性肝障害も疑われたため,中止した.8月下旬に2回目のインフリキシマブ投与を実施し,速やかに臨床症状および検査値異常の改善を認めた.しかし9月上旬に突然,高熱と頭痛が出現したため,髄液検査,血液・髄液培養および頭部MRI撮影を実施した結果,リステリア髄膜脳炎と診断した.経過中,複視および意識障害が出現し,画像上,脳膿瘍の形成を認めたが,長期間にわたるアンピシリンとゲンタマイシンの併用療法により治癒することができた.成人スチル病に対しては,インフリキシマブ投与は中止し,二重膜濾過血漿交換を併用することで,ステロイド剤の減量をはかることが可能であった.その後,症状の再燃,血液検査値異常の出現は認めず,2005年12月に当科退院となった.リウマチ性疾患の治療は,生物学的製剤の出現により,従来の治療では抵抗性を示していた病態における治療成績の劇的な改善が得られている.しかし一方,日和見感染症の発症も大きな問題であり,十分な予防と対策が必要になる.今回,私たちはステロイド依存性の成人スチル病に対してインフリキシマブを投与中,リステリア髄膜脳炎を発症した一例を経験した.リステリア症も,結核と同様に,今後注意すべき合併症の一つとして考えられるため,考察を加え報告する.
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