日本臨床免疫学会会誌
Online ISSN : 1349-7413
Print ISSN : 0911-4300
ISSN-L : 0911-4300
30 巻, 2 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
序文 特集:Autoinflammatory syndromeの新たなる展開と治療法の確立
総説 特集:Autoinflammatory syndromeの新たなる展開と治療法の確立
  • 上松 一永
    2007 年 30 巻 2 号 p. 63-67
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      感染や自己免疫に基づかない炎症を反復する疾患群,自己炎症疾患(autoinflammatory diseases)の存在が明らかになった.自己炎症疾患は,炎症を繰り返すものの,病原体,自己抗体,自己反応性T細胞は見出されない.炎症,自然免疫,細胞死の制御に関わる分子群の異常であり,確定診断がなされず治療に難渋することも多い.自己炎症疾患における個々の疾患は治療法が異なるため確定診断が重要である.自己炎症疾患は特徴的な臨床所見を呈するため,比較的診断は容易であり,さらに遺伝子解析による確定診断が可能である.原因不明の炎症があり改善しない場合は,本疾患群を常に念頭に入れて,炎症性疾患を鑑別する必要がある.
  • 増本 純也, 長谷川 瑞穂, 猪原 直弘
    2007 年 30 巻 2 号 p. 68-77
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      最近,自然免疫機構に関わる病原体認識受容体に関する研究が急速に進みつつある.特に,細胞膜に存在するToll-like receptor (TLR)が有名であるが,細胞質にも同様の病原体を認識するnucleotide-binding oligomerization-domain protein(NOD)蛋白質とよばれる病原体認識受容体が存在する.NOD蛋白質のひとつであるNod2の変異が,炎症性腸疾患であるクローン病の罹りやすさと関係するという報告後,家族性寒冷蕁麻疹(Familial cold urticaria : FCU)/家族性寒冷自己炎症疾患(Familial cold autoinflammatory syndrome : FCAS), Muckle-Wells syndrome (MWS),新生児発症全身炎症疾患(Neonatal onset multisystem inflammatory disease : NOMID)/慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群(Chronic infantile neurologic cutaneous and articular syndrome : CINCA)とNOD蛋白質の一つであるpypaf1/NALP3/cryopyrinの変異など,NOD蛋白質の変異と自己炎症疾患との関連が報告されている.本稿では,これらNOD蛋白質の発見の歴史,NOD蛋白質の機能を概説し,NOD蛋白質の変異がどのようなメカニズムで自己炎症疾患に関わっているのかを解説する.
  • 斎藤 潤, 西小森 隆太, 神戸 直智
    2007 年 30 巻 2 号 p. 78-85
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever : FMF)は,遺伝性周期熱症候群のひとつであり,地中海沿岸に居住するSephardim(中東および北アフリカ系ユダヤ人),アラブ人,アルメニア人,トルコ人に好発する.日本人ではまれである.周期的な発熱発作が特徴的な症状で,発作時には腹膜炎,胸膜炎,関節炎などの漿膜炎を伴う.繰り返す炎症により,続発性アミロイドーシスとそれによる慢性腎不全を合併することがある.FMFは常染色体劣性遺伝形式をとり,16番染色体に存在するMEFV遺伝子の変異により発症する.MEFV遺伝子はpyrinという蛋白をコードしている.Pyrinは,IL-1β産生やNF-κB活性化を制御する蛋白であり,FMF患者ではpyrinの機能が損なわれることにより,炎症性サイトカインの産生が増強され,制御できない炎症が惹起されると考えられている.治療の第一選択薬はコルヒチンであり,約90-95%の患者に奏功する.コルヒチンは,続発性アミロイドーシスの予防にも有効である.
  • 成戸 卓也
    2007 年 30 巻 2 号 p. 86-89
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      高 IgD 症候群(HIDS;OMIM 260920)は周期的に繰り返される発熱を特徴とする遺伝性疾患群の中のひとつである.HIDSはオランダ人に多く発症し,乳幼期よりの繰り返す発熱を主訴とする疾患である.遺伝形式としては常染色体劣性遺伝をとり,その責任遺伝子はメバロン酸尿症(OMIM 251170)の原因遺伝子でもあるメバロン酸キナーゼ(MK)である.検査データでは有熱期に尿中メバロン酸排泄の上昇を認める.疑わしい例には末梢リンパ球の酵素の測定や遺伝子検索を行うことが一般化してきた.HIDSの本態はMKの活性低下であり,MKの完全欠損症は神経症状を伴うメバロン酸尿症となる.発熱のメカニズムや炎症にメバロン酸もしくはその代謝産物であるイソプレノイドがどのようにかかわりがあるのか現在のところ不明である.治療としてMK上流の酵素阻害剤や,熱発作時に上昇する炎症性サイトカインの抑制を図る試みがある.
  • 井田 弘明, 江口 勝美
    2007 年 30 巻 2 号 p. 90-100
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      TNF-associated periodic syndrome (TRAPS)は,TNFが病態の中心と考えられる遺伝性周期性発熱症候群の一つである.TNFRSF1A(TNFR1)分子が細胞表面に留まり,TNFからの反応が持続するため,発熱などの様々なTRAPS症状が出現すると単純に考えられてきた.ところが,最近,TNFRSF1A分子の切断異常がみられない症例や突然変異のないTRAPS症例もあること,さらに孤発例も存在することが判明し,TRAPSとは大変heterogeneousな症候群であることがわかってきた.最近,細胞表面に発現されないTNFRSF1A分子が,TNFと無関係に細胞内で凝集し,NF-κBの活性化やアポトーシス誘導を生じていることも報告され,TRAPSの病因は混沌としている.本邦において,現在までTNFRSF1A遺伝子に突然変異をもつTRAPS症例は5家系15名と少ないが,突然変異のない孤発例は多い.本稿では,TRAPSについて自験例を提示しながら臨床像を紹介するとともに,TNFRSF1A分子の発現制御機構から考えられるTRAPSの病因,その病因とこれまで経験した症例から検討した診断のためのフローチャート,および,現存の治療法と私たちが試みた新しい治療法などを解説した.
  • 村田 卓士, 岡本 奈美, 清水 俊男, 玉井 浩
    2007 年 30 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      PFAPA症候群とは,周期性発熱,アフタ性口内炎,頸部リンパ節炎,咽頭炎を主症状とし5歳以下の乳幼児期に発症する非遺伝性自己炎症性疾患である.病因,病態は現在不明であるが,サイトカイン調節機能異常は重要な病態の一つと考えられる.発熱発作の周期は規則的で通常3~6日間続くが,間歇期は全く症状を欠き活動性も正常である.その他,扁桃炎,倦怠感,頭痛,関節痛,腹痛,嘔吐,下痢,咳,血尿,発疹など多彩な症状を呈するが,いずれも後遺症は残さない.発熱時の非特異的炎症反応の他は特異的な検査所見はなく,診断にあたっては他の発熱性疾患の鑑別を含めた臨床診断が重要である.特異的な治療法はなく,有熱期間の短縮効果としてステロイド薬,寛解導入が期待できるものとしてシメチジンや扁桃摘出術などが考慮されることもあるが,症例の集積および検討を要する.他のautoinflammatory syndromeに比して予後は良好で,多くの症例では発症後経時的に発作間隔は広がり4~8年程度で治癒,成長および精神運動発達も正常である.口腔内病変をともなう小児期の反復性不明熱においては,本症を常に考慮する必要がある.
  • 杉浦 弘, 松林 正
    2007 年 30 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      CINCA症候群は新生児期に発症する蕁麻疹様皮疹,中枢神経系病変,関節病変を特徴とする自己炎症性症候群である.検査所見は白血球の増加,貧血,CRPの上昇,ESRの亢進を示す.本症候群はCIAS1遺伝子とコードする蛋白cryopyrinが関連している.CIAS1遺伝子は単球,多核白血球,軟骨細胞で発現している.突然変異したcyropyrinはIL-1βの持続的な産生とNF-κBの活性化を導き,その結果慢性的な炎症反応が起こる.抗炎症作用を期待した様々な治療にも関わらず炎症は持続し,病変は進行性である.近年,CINCA症候群とその関連疾患であるMuckele-Wells症候群および家族性寒冷蕁麻疹の患者に遺伝子組換えヒトIL-1受容体アンタゴニスト(rHuIL-1Ra, anakinra)が使用され,臨床症状の著明な改善の報告があり,CINCA症候群の慢性炎症の病態においてIL-1βが重要な役割を果たすことが示唆された.Anakinraによる重大な副作用の報告はない.病変は進行性で不可逆的であるため,CINCA症候群と診断したのであればanakinraによる治療を第一選択として開始するべきである.Anakinraによる治療は始まったばかりであり,副作用や長期予後に関して,更なる検討が必要である.
  • 窪田 哲朗, 小池 竜司
    2007 年 30 巻 2 号 p. 114-122
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      Muckle-Wells症候群(MWS)は,家族性寒冷自己炎症症候群(FCAS)や慢性乳児神経皮膚関節症候群(CINCA)と同様,CIAS1遺伝子の変異によって発症する優性遺伝性疾患である.CIAS1にコードされるNALP3蛋白質は単球に強く発現しており,細胞内に侵入した微生物由来の抗原や有害な代謝産物を識別して活性化し,他の分子群と会合してinflammasomeを形成し,caspase-1を活性化する.これがpro-IL-1βを切断してIL-1βが細胞外に放出され,一連の炎症反応が引き起こされる.MWS患者の変異NALP3分子は,強い刺激がなくとも容易に活性化してしまうために,発熱,蕁麻疹様皮疹,結膜炎,関節炎などの発作が頻繁に繰り返され,一部の症例はアミロイドーシスを来し,腎不全に至る.さらに,感音性難聴が徐々に進行することも特徴である.わが国ではこれまでに数例しか報告されていないが,recombinant IL-1 receptor antagonist (anakinra)の有効性が確認されており,診断未確定のまま適切な治療を受けられていない潜在的な症例も正しく診断して,難聴やアミロイドーシスなどの重篤な合併症を生じる前に適切に治療する必要がある.
  • 金澤 伸雄
    2007 年 30 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      サルコイドーシスは,両側性肺門部リンパ節腫脹を特徴とし,組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫からなる全身性炎症性疾患である.小児例の中に,4歳以下の乳幼児期に発症し,胸部病変を伴わず,関節炎,ブドウ膜炎,皮膚炎を3主徴とする特殊なタイプのあることが知られ,若年発症サルコイドーシスと呼ばれていた.一方,若年発症サルコイドーシスと臨床的に酷似するが,常染色体優性に遺伝する家系が報告され,Blau症候群と呼ばれた.連鎖解析から,原因遺伝子が16番染色体のIBD (Inflammatory Bowel Disease) 1ローカスの近傍に存在することが判明していたが,Crohn病の原因遺伝子として同定されたCARD15 (NOD2)がBlau症候群の原因遺伝子でもあることが明らかとなり,さらに,弧発性の若年発症サルコイドーシスの患者にも同じ遺伝子の変異が見いだされた.Nod2は単球系細胞の細胞質内にあり,細菌細胞壁成分からの情報を感知し,NF-κBを活性化するセンサーとして働く.LRR領域の機能喪失型変異がCrohn病と関連するのに対し,Blau症候群と若年発症サルコイドーシスは,NOD領域の機能獲得型変異により発症する,自己炎症性疾患である.
症例報告
  • 南 留美, 宮村 知也, 渡辺 秀之, 高濱 宗一郎, 山本 政弘, 末松 栄一
    2007 年 30 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は55歳女性.1998年に強膜炎,血管炎による小腸穿孔にてWegener肉芽腫症発症,以後,多発単神経炎,多関節炎,眼窩部肉芽腫,脳梗塞,完全房室ブロック,肺腫瘤性病変,小脳梗塞,咽頭部肉芽腫等の多彩な臨床症状をPR3-ANCA上昇を伴って呈し,免疫吸着療法,cyclophosphamide経口投与,ステロイドパルス療法,IVCY療法,免疫グロブリン大量療法,ciclosporin内服等を行うも,病勢は消長を繰り返していた.2005年4月より咽頭部肉芽腫およびPR3-ANCA上昇にてWegener肉芽腫症が再燃し,ステロイドパルス療法後,rituximab 600 mgの2回投与を4週間隔にて行い上記所見はいずれも改善した.2006年2月にPR3-ANCAの上昇がみられたためにrituximabの追加投与を行った.その後prednisolone 10 mg/日のみで経過をみているが再燃を認めていない.近年,rituximabは関節リウマチ,全身性エリテマトーデスに対する有効性が注目されているが,さらにに血管炎症候群に対する有効例もみられる.本症例のように,難治性再発性のWegener肉芽腫症に対してもrituximabの有効性が示唆された.
  • 小谷 卓矢, 槇野 茂樹, 庄田 武司, 秦 亜有, 田伏 洋子, 鍵谷 真希, 武内 徹, 花房 俊昭
    2007 年 30 巻 2 号 p. 139-143
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/04/30
    ジャーナル フリー
      症例は67歳,女性.眼瞼,両手指伸側に紅斑が出現すると共に,労作時呼吸困難を自覚し,2004年7月21日当院に入院.四肢筋力低下,ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候を呈していたが,CKは194 U/lと正常範囲であった.リウマトイド因子以外の自己抗体は全て陰性,低酸素血症,胸部CTにて間質性肺炎を認め,皮膚筋炎に伴う進行性間質性肺炎と診断した.ステロイドパルス,Cyclosporin-A(以下Cy-A)による治療を開始し著明な改善を得た.その際,Cy-Aのトラフは456.4 ng/mlと著明高値であった.サイトメガロウイルス感染症を契機に,Cy-Aを減量したところ,Cy-Aが有効血中濃度であるにも関わらず,間質性肺炎が急速に再燃進行し死亡した.皮膚筋炎合併間質性肺炎におけるCy-Aの減量には,厳重な注意を必要とすることが示唆されると共に,トラフ値が必ずしも有効血中濃度の指標とならない可能性も示唆された.
feedback
Top