日本臨床免疫学会会誌
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39 巻, 2 号
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特集:慢性炎症と自己免疫疾患
  • 佐野 元昭, 安西 淳
    2016 年39 巻2 号 p. 91-95
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      急性大動脈解離とは,大動脈の内側に亀裂が入り,その裂け目から血液が大動脈の壁を裂いて壁内に流れ込む病気で,急性心筋梗塞とならんで,すぐに対処が必要な循環器の救急疾患である.著者らは,新規急性大動脈解離モデルマウスを用いて,大動脈解離発症後の血管炎症のしくみを経時的に解析することで,大動脈解離発症後,血管壁の外膜側に浸潤してきた好中球が産生するIL-6を介して大動脈解離発症後に血管壁の構造をさらに傷害し,解離の進展と拡大,破裂を引き起こしていることを発見した.この成果をもとに,好中球表面のCXCR2受容体を介するシグナルをブロックして骨髄からの好中球動員を抑制するか,IL-6のシグナルをブロックすることによって,大動脈解離発症後の生存率が改善できた.急性大動脈解離の急性期に血管の炎症を抑える治療は,予後の改善につながることが期待される.
  • 鈴木 一博
    2016 年39 巻2 号 p. 96-102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      神経系がなんらかの形で免疫系を制御していることは古くから指摘されてきた.しかし,神経系からのインプットが免疫系からのアウトプットに変換されるメカニズムは長らく不明であった.今世紀に入り,自律神経あるいは感覚神経が免疫系を制御するメカニズムが分子レベルで明らかになりつつある.自律神経系の主要な神経伝達物質であるアセチルコリンとノルアドレナリンが,多様な分子機構を介して免疫応答とそれにともなう炎症反応の制御に関与していることが明らかになった.また,自律神経系の活動性の概日リズムが免疫応答の日内変動を生み出すことも明らかになっている.本総説では,自律神経系による免疫応答の制御機構に焦点を当て,その炎症における役割について最新の知見を紹介する.
  • 大木 伸司
    2016 年39 巻2 号 p. 103-113
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症(MS)の難治性病型である二次進行型MS(SPMS)の原因は不明であり,有効な治療法にも乏しいことから,早期の対策が望まれている.筆者等は,以前に再発寛解型MSに関わる病原性Th17細胞の制御分子であることを見出したNR4A2の遺伝子欠損マウスを作製し,同マウスを用いた実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を解析した.その結果,C57BL/6マウスにMOG35-55ペプチドを免疫して誘導するEAE病態の背後に,転写因子Eomesを発現するユニークなTh細胞が関与し,Th17細胞に依存しない後期病態が存在することを新たに見出した.興味深いことに,ヒト末梢血および髄液中のEomes陽性Th細胞の選択的な増加がSPMSのみで認められたことから,SPMSの病態形成過程にEomes陽性Th細胞が関与する可能性が示された.さらに病態形成機序の解析から,刺激を受けたEomes陽性Th細胞が産生するGranzyme Bが,(恐らく神経細胞が発現する)Par-1受容体に作用して後期病態を引き起こすことを明らかにした.神経変性をともなうSPMSの新規動物モデルを得て,同疾患の病態形成メカニズムの解明と治療法の開発が飛躍的に進むことが期待される.
  • 熊谷 仁, 平原 潔, 中山 俊憲
    2016 年39 巻2 号 p. 114-123
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      CD4 T細胞は宿主防御の適切な適応免疫応答に重要である一方,多くの慢性炎症疾患の病態形成に深く関与している.CD4 T細胞は,1980年代に同定されたTヘルパー(Th)1細胞とTh2細胞に加え,近年では,Th17やTh9,濾胞ヘルパーT(Tfh)細胞,制御性T(Treg)細胞など多様なサブセットからなっている.また,ひとつのサブセットの中でも様々な性質を持つT細胞が存在すること(T細胞の多様性)や,ヘルパーT細胞は一度分化した後も周囲の環境で容易にその性質が変化すること(ヘルパーT細胞の可塑性(plasticity))が明らかになった.本総説では,CD4 T細胞サブセットの多様性および可塑性が,どのように免疫関連慢性炎症性疾患に関与しているのかについて,多発性硬化症や乾癬,気管支喘息などを例にあげて概説する.また,近年明らかになってきたCD4 T細胞可塑性の背景にある分子メカニズムについて述べる.近年のCD4 T細胞研究の進歩により,かつて提唱された“Th1/Th2バランス破綻”に基づいた免疫関連慢性炎症性疾患の病態形成モデルは再考が必要である.そこで,われわれが近年提唱した免疫関連慢性炎症性疾患の病態形成における“病原性Th細胞疾患誘導モデル”を最後に紹介する.
  • 菊田 順一, 石井 優
    2016 年39 巻2 号 p. 124-129
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      “百聞は一見に如かず”というように,“見る”ことはヒトの五感のなかでも特別な存在感を示しており,視覚に訴える“ライブイメージング”研究の成果には強い説得力がある.石灰質に囲まれた骨組織は,生体で最も“硬い”組織であるため,従来生きたままでの観察が極めて困難であると考えられていたが,著者らは組織深部の観察が可能な“二光子励起顕微鏡”を駆使して,生体骨・関節組織内の生きた細胞動態をリアルタイムで解析するライブイメージング系を確立した.本技術を用いて,骨表面上での“生きた”破骨細胞による骨破壊過程を観察することに成功し,破骨細胞が骨吸収期と休止期を繰り返すこと,骨粗鬆症や炎症性骨破壊では骨吸収期の破骨細胞が増加すること,さらには関節リウマチの病因に関わるTh17細胞が破骨細胞の骨吸収を制御し得ることを明らかにした.さらに最近,関節組織の生体イメージング系を確立し,関節炎における破骨細胞の動態解析にも取り組んでいる.本稿では,これらの研究成果の解説に加えて,著者らが開発した骨組織の生体イメージングの方法論とその応用について概説する.
原著
  • 國松 淳和, 前田 淳子, 渡邊 梨里, 加藤 温, 岸田 大, 矢崎 正英, 中村 昭則
    2016 年39 巻2 号 p. 130-139
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
    背景:家族性地中海熱(FMF)は不明熱の原因としては稀であるが,近年本邦でも疾患認知が高まり,診断数が増加してきている.著者らは「短期間で終息する発熱エピソードが反復する」という発熱パターンに注目することによって,一般内科外来で多くのFMFを診断してきた.当科FMF30例の臨床データを解析することにより,診断のための注意点について論ずることを本調査研究の目的とした.
    対象:2012年9月02015年8月までの3年間に当科でFMFとして診療された全患者を対象とした.Tel-Hashomer基準を満たさないものは除外した.
    結果:対象となったのは38例で,このうちTel-Hashomer基準を満たしていたのは30例だった.14例でMEFV遺伝子変異が見いだされ,変異の有る例が少ない傾向にあった.平均発症年齢は27.8歳と高かったが,典型発作を有する例は17例(56.7%),コルヒチン抵抗性例は3例(10.7%)と既報とほぼ同等だった.
    結論:FMFは外来に多く潜在し得る.発熱するが数日で自然軽快し,それを周期性に反復する病像に注目すべきである.
  • 安部 武生, 角田 慎一郎, 西岡 亜紀, 東 幸太, 壺井 和幸, 荻田 千愛, 横山 雄一, 古川 哲也, 丸岡 桃, 田村 誠朗, 吉 ...
    2016 年39 巻2 号 p. 140-144
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)の診断,臨床的特徴や内臓合併症を予測する筋炎特異的自己抗体が多く同定されている.5種類の抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体(抗Jo-1抗体,抗PL-7抗体,抗PL-12抗体,抗EJ抗体,抗KS抗体)を一度に検出できる新規ELISAキット「MESACUP anti ARSテスト」が保険収載された.このELISAキットの検査精度を検証するため当科通院中のPM/DM患者75例を対象としRNA免疫沈降法(RNA immunoprecipitation: RNA-IP)で同定した抗ARS抗体,既存の抗Jo-1抗体(ELISA法)と比較検討した.RNA-IP法と新規ELISAキットの判定一致率は95.1%,陽性一致率は90.9%,陰性一致率は96.0%,κ係数は0.841と優れていた.抗Jo-1抗体(ELISA法)と新規ELISAキットの判定一致率は97.3%,陽性一致率は100%,陰性一致率は96.8%,κ係数は0.911と優れていた.間質性肺炎合併例において抗ARS抗体と抗melanoma differentiation associated gene5(MDA5)抗体陽性が全体の70.5%を占めた.急速進行型のILDを伴うDMは,抗ARS抗体陰性であれば抗MDA5抗体陽性の間質性肺炎の可能性を早期に推測することにつながる.
症例報告
  • 伊藤 晴康, 野田 健太郎, 平井 健一郎, 浮地 太郎, 古谷 裕和, 黒坂 大太郎
    2016 年39 巻2 号 p. 145-149
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      症例は15歳の女性.20XX年8月と9月に2価Human papillomavirus(HPV)ワクチンの接種を行った.2回目の接種後から全身の疼痛,顔面の日光過敏と両側肘部に多発する紫斑を認めた.11月頃より持続する37℃台の発熱と全身倦怠が出現した.20XX+1年1月上旬には39℃以上の発熱と全身の疼痛に加えて関節痛が出現した為,精査目的に入院となった.入院後,Systemic Lupus International Collaborative Clinics(SLICC)2012の分類基準のうち,臨床的項目の頬部紅斑,光線過敏症,関節炎,リンパ球減少と免疫学的項目の抗核抗体陽性,抗ds-DNA抗体陽性,抗Sm抗体陽性を認め,SLEと分類した.その他,筋膜炎の合併を認めた.本症例を含め今までに報告されている症例を検討したところHPVワクチン摂取後にSLEを発症する症例は,自己免疫性疾患の既往歴や家族歴のある患者が多かった. また,SLEの症状は2回目の接種後に出現することが多かった.
  • Mineto OTA, Mari KIHARA, Akito TAKAMURA, Hitoshi KOHSAKA
    2016 年39 巻2 号 p. 150-153
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/20
    ジャーナル フリー
      Antisynthetase syndrome is characterized by the presence of anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibodies and characteristic clinical features. We report an anti-EJ antibody-positive case presenting an ILD with slight hyperkeratotic skin changes on the fingertips that appeared simultaneously with respiratory symptoms. We suspected those skin changes of a disease manifestation of antisynthetase syndrome, and thus investigated anti-synthetase antibodies. This case implies that broader spectrum of the patients should fall in antisynthetase syndrome even though the present diagnostic criteria call for mechanic's hand as a skin manifestation. Careful examination of the finger skin and antibody testing should lead to a proper understanding of the pathological processes.
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