日本臨床免疫学会会誌
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28 巻, 6 号
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総説
  • 山崎 雅英
    2005 年 28 巻 6 号 p. 357-364
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      反復性血栓症と不育症を特徴とする自己免疫性血栓性疾患である抗リン脂質抗体症候群の中に,微小血栓により短期間に多臓器不全をきたす予後不良の一群があり近年注目されている.このような疾患群を「劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)」という.CAPSは感染症や抗血栓療法の変更,手術(抜歯などの小手術を含む)を契機に,SLEや原発性抗リン脂質抗体症候群症例に多く発症し,脳血管系・呼吸器系・腎臓・皮膚などのほか,全身のすべての臓器に微小血栓をきたす.確立した治療法は無いが,強力な抗凝固療法と大量ステロイド療法がおこなわれるほか,血漿交換も併用されることが多い.我々の経験では,抗リン脂質抗体や抗二重鎖DNA抗体(抗ds-DNA抗体),補体などを選択的に吸着する血漿吸着療法を血漿交換の代わりに用いることにより良好な成績が得られている.血漿吸着療法は血漿交換と比較して新鮮凍結血漿などの血液製剤の補充が不要であり,輸血関連合併症もないことからCAPSを含む抗リン脂質抗体症候群に対し考慮すべき治療法の1つと考えられる.
  • 松本 功
    2005 年 28 巻 6 号 p. 365-371
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)は世界で有病率約1%と頻度の高い自己免疫疾患であるが,病因については不明な点が多い.昨今B細胞表面抗原に対する抗体である抗CD20抗体がRAにも効果が強いことが証明され,自己抗体やB細胞の重要性が示唆されている.RAでは30年以上前よりリウマトイド因子(RF)を自己抗体のマーカーとしてとらえてきが,その病原性については明らかでなく,病勢を反映しないことも臨床上しばし見かける.抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体は多くの症例に認められ注目を集めているが,その他にも抗glucose-6-phosphate isomerase (GPI)抗体,抗カルパスタチン抗体,可溶型gp130に対する抗体,II型コラーゲンに対する抗体などがRA患者血清に同定されている.今回の総説ではRAにおける上記自己抗体の病原性と産生機構に焦点をあて,特にそれらを考える上で重要な自己反応性T細胞,免疫複合体やFcガンマ受容体(FcγR)などについて,主にヒトの解析から判明してきた最近の知見を含めて述べさせていただく.
  • 菱川 恭子, 岩井 一宏
    2005 年 28 巻 6 号 p. 372-380
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      鉄は赤血球のみならず生体の全ての細胞に必須な微量金属であると同時に,フリーラジカルの産生源となり,毒性を有するためにその代謝は厳密に制御されている.近年,鉄代謝制御機構研究は急速な進展を見せ,鉄貯蔵量に応じて,鉄吸収を制御するホルモンであるヘプシジンが同定され,ヘプシジンが慢性炎症時の鉄不応性貧血に関与する事が示されるなど新たな展開を見せている.また,これまで明らかでなかった鉄と感染防御の関連なども明らかになり,我々は従来想像していなかった細菌感染防御機構を備えていることが明らかになってきた.本稿で近年急速に理解が進んだ生体レベルでの鉄恒常性維持機構を中心に,筆者らの研究も含め鉄代謝研究の現状を概説し,今後の展望についても簡単に述べてみたい.
  • 山内 清明, Shu-Yan DAI, 中川 竜介, 加塩 裕美子, 安部 博子, 加藤 茂樹, 紺谷 桂一, 平島 光臣
    2005 年 28 巻 6 号 p. 381-388
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      樹状細胞の成熟は免疫反応の初段階で極めて重要で,種々のシグナルにより制御されている.今回我々はガレクチン9の樹状細胞成熟化における役割を検討したので報告する.ガレクチン9とはタンデムリピート構造を有するベータガラクトシド結合蛋白で,リンカー部分の長さの違いにより分子量の異なる3種類のガレクチン9が存在する.ガレクチン9は当初好酸球遊走因子として同定されたが,その後アポトーシス,細胞接着,がんの転移などに関与することが判明した.今回の研究では未熟なヒト樹状細胞の培養系にガレクチン9を添加すると,CD40, CD54, CD80, CD83, CD86, HLA-DRの発現が増加した.しかし,単球を未熟樹状細胞にする作用は僅かであった.またガレクチン9処理した樹状細胞はIL-12を分泌しCD4陽性リンパ球からのTh1サイトカインの産生を誘導した.さらにシグナル伝達経路を検討したところガレクチン9は樹状細胞成熟化機構としてMAPKp38やERK1/2のリン酸化を誘導した.これらからガレクチン9は自然免疫ばかりでなく樹状細胞成熟化やTh1サイトカイン産生誘導など獲得免疫にも重要であることが示唆されたので解説する.
原著
  • 長岡 章平, 中村 満行, 瀬沼 昭子, 関口 章子
    2005 年 28 巻 6 号 p. 389-397
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      1998年8月から2003年12月までの期間中当科において初めてMTXを開始した活動性RA460例(男80例,女380例,平均年齢59.3歳)についてカルテベースにて検討した.MTX投与24週後のACR20改善率61.3%,50%改善率30.4%であり,投与48週までの累積投与継続率は0.567であった.観察期間中260例(56.5%),304回に有害事象を認めた.有害事象のため投与中止した症例は52例,11.3%,死亡例は10例,2.2%であった.1%以上の内訳は,肝機能異常31.7%,感染症6.1%,消化器症状5.0%,口内炎3.9%,血球減少3.5%,骨折3.5%,悪性腫瘍2.6%,間質性肺炎2.0%,脳あるいは心血管障害2.0%,頭痛1.7%,皮疹1.3%,脱毛1.1%であった.有害事象例は高齢者,高Stageに多かった.MTXの有用性が再評価されたが,慎重なモニタリングが大切であると思われた.
  • 前田 伸樹, 山路 健, 木村 桂, 金 英俊, 津田 裕士, 廣瀬 俊一, 橋本 博史
    2005 年 28 巻 6 号 p. 398-406
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      シェーグレン症候群は,特定疾患治療研究事業の公費対象45疾患には含まれていないが,東京都は公費治療の指定難病として認定している.こうした試みを行なっている自治体はほとんどなく,東京都の認定基準は1999年の改定診断基準をもとに,合併症その他の要素が加味された独自のものである.今回,われわれはシェーグレン症候群の患者において臨床調査個人票の解析を通し,その認定基準と意義について検討した.その結果,東京都認定基準(平成15年度)の主要な目的は日常生活に障害を来たすほど腺症状が高度なものや臓器合併症のあるもの等の重症シェーグレン症候群を対象に認定することと思われた.しかしながら,生検,唾液腺シンチ,唾液腺造影等の検査はある程度の設備をもった施設でないと施行できない.より公平かつ簡易な認定のため,簡易な複数の検査の組み合わせでも補助項目として代用できるように検討されるべきと考えられた.また,申請書には6ヶ月以内の所見を要求されるため,コストがかかり,侵襲のあるこれらの検査が1年毎に必要であるという点や,認定・非認定の区別が現在の臨床調査個人票で妥当か否かという点等も今後検討を要すると思われた.
  • 川口 里恵, 小澤 真帆, 太田 郁子, 鈴木(唐崎) 美喜, 早川 智, 山本 樹生, 田中 忠夫
    2005 年 28 巻 6 号 p. 407-412
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      トリプトファン代謝酵素であるindoleamine 2,3-dioxygenase (IDO)は,胎児抗原刺激により惹起されたT細胞の増殖を抑制することにより,妊娠維持に関与することが知られている.一方prolactin (PRL)は妊娠初期より漸増し,着床期から妊娠極初期にかけての妊娠現象への関与は報告されているが,妊娠中期以降の乳汁分泌以外の妊娠への影響は明らかでない.今回我々は,IDOの誘導因子であるinterferon-γ (IFN-γ)がPRLと細胞膜上のレセプター構造やシグナル伝達を共有することから,PRLのIDO発現への関与を検討した.承諾を得た12名の健常女性末梢血より単核球を分離し,フローサイトメトリー,RT-PCR法により,非妊娠時,妊娠前期,後期の血清PRL値に相当する濃度下におけるIDO発現の変化を蛋白,mRNAレベルで検討した.その結果,妊娠時の血清PRL値に相当するPRLの存在下で,単独ではIDOを有意に誘導しない生理的濃度のIFN-γ刺激により,IDOがPRLの濃度依存的に有意に誘導された.PRL単独では妊娠後期に相当する濃度でもIDO発現を誘導しなかった.PRLは妊娠期間中,IDOを介して妊娠維持に寄与している可能性が示唆された.
症例報告
  • 小谷 卓矢, 武内 徹, 阪本 倫代, 川崎 善子, 平野 すずえ, 田伏 洋子, 鍵谷 真希, 槇野 茂樹, 寺崎 文生, 花房 俊昭
    2005 年 28 巻 6 号 p. 413-417
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/31
    ジャーナル フリー
      患者は37歳女性.1991年に腎炎を伴う全身性エリテマトーデス(SLE)と診断された.prednisolone(以下PSL),cyclophosphamide,mizoribineの併用にて加療され,蛋白尿が持続したが病勢は安定していた.2002年6月より労作時胸痛が出現し入院となった.胸骨左縁第2肋間に収縮期雑音を聴取した.検査所見では蛋白尿と貧血を認めたが,抗ds-DNA抗体を含め自己抗体は陰性で,補体の低下も認めなかった.BNPは651 pg/mlと高値であった.胸部X線は異常なし.心電図ではstrain patternを伴う左室高電位を呈した.心エコーでは,非対称性中隔肥厚および心尖部の著明な肥厚を認めたが,左室流出路狭窄はみられなかった.心筋生検では心筋細胞の錯綜配列と肥大を認め,肥大型心筋症(HCM)に合致した所見であったが,炎症細胞の浸潤や血管炎などSLEを示唆する所見は認めなかった.β遮断薬の追加投与のみで症状は消失した.SLEのHCM合併はこれまでに7例報告6)~9)されているが,心筋生検が記載されているものはない.本症例は心筋生検を施行しえた初めてのSLEとHCMの合併例の報告である.これまでの報告では,7例中6例でSLEとHCMの病勢や発症時期に関連性が認められず,本症例の経過,心筋病理所見を含めると,SLEとHCMの合併は偶然と考える方が妥当と推察する.
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